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「日本の作品にはもう目もくれない」ドイツ版コミケで感じた"中国ゲーム"のすごい勢い

プレジデントオンライン / 2021年9月3日 15時15分

ドイツ・デュッセルドルフで開催された「ドイツ・コミック・マーケット」の様子 - 写真=川瀬凛さん(仮名)提供

8月7日と8日、ドイツ・デュッセルドルフで「ドイツ・コミック・マーケット」が開催された。愛称は「ドコミ」という日本語で、当初は日本の作品を中心としたアニメやマンガの大型イベントだった。ところが今年の来場者のコスプレは中国のゲームのキャラが大人気に。一体なにが起きているのか――。

■例年5万5000人超が集まるドイツ・コミック・マーケット

2021年8月7日と8日の2日間にわたり、ドイツ最大といわれるアニメコンベンション「ドコミ」がデュッセルドルフで開催された。「ドコミ」はドイツ・コミック・マーケット(Deutscher Comic Markt)の略称で、日本作品を中心にアニメ、マンガ、ゲーム、コスプレなど幅広くカバーする。欧州全域から15歳~30歳代の若い参加者が集まる、日本ファン必見の大型イベントだ。

デュッセルドルフ・コンベンションセンターで行われた「ドコミ」は、事前のPCR検査などが求められ、来場者数も1日1万4000人に限定された。とはいえ、2009年に開催されて以降、「ドコミ」はここ十余年で大きく成長した。2010年はわずか3000人だった参加者が、2019年には5万5000人以上に増えたことからは、欧州でも着実に日本のコンテンツファンが育っていることが伺える。

デュッセルドルフは、欧州ではパリに次いで日本人が多く、最大級の日本人コミュニティーが形成されている。また、デュッセルドルフのあるノルトライン=ヴェストファーレン州は、欧州でも屈指の日系企業の集積地だ。こうした環境で行われるイベントは、日本とドイツの架け橋的な役割を担う性格も持ち合わせている。

ドコミの会場で披露されたセーラームーンの舞台
写真=川瀬さん提供
ドコミの会場で披露された「セーラームーン」の舞台。来場者のコスプレは「原神」のキャラが大人気だった - 写真=川瀬さん提供

■コスプレ来場者の多くは中国の「原神」キャラ

ドイツ在住の日本人女性、川瀬凛さん(仮名、24歳)もこのイベントに参加したひとりだった。ドコミは初参加で、この日が来るのを指折り待っていたというが、会場で目撃したある光景が彼女を驚かせた。それは、圧倒的多数を占める欧州人の参加者が日本ではなく、中国のゲーム「原神(げんしん)」キャラの“コスプレ”で来場していたことだった。

ドイツ語の雑誌に掲載された原神のコスプレ
ドイツ語の雑誌に掲載された「原神」のコスプレ(写真=川瀬さん提供)

「原神」とは、中国のゲーム会社miHoYo(以下ミホヨ、本拠地は上海市)が開発・運営しているオンラインゲームである。川瀬さんは、あくまで自分の感覚だと前置きした上で、「原神キャラの来場者は7~8割を占めていた感じがしました」と話す。ちなみに、日本のコミックマーケット(略称コミケ)では、一般の参加者がコスプレイヤーを撮影して楽しむが、「ドコミ」では参加者自身が思い思いにコスプレを楽しんでいる。

最近では日本以外の作品展示も増えてきたというが、それにしても、「ドイツのコミケ」とも言われる会場を中国のコンテンツである「原神キャラ」のコスプレが闊歩しているというのは“ゆゆしき事態”である。会場のクリエーターブースでは「自作の原神グッズさえ売られていた」(川瀬さん)というから、欧州でも“原神文化”がかなり浸透していることが見てとれる。

■飽き性でもハマるストーリーやサントラへのこだわり

「原神」は、基本プレーを無料とするオープンワールド型のアクションRPGで、2020年9月に世界同時リリースを行った。モバイルアプリのマーケット情報を提供する「センサータワー」(カリフォルニア州)によれば、現在のダウンロード数は1000万回を超えているという。

日本でも昨年から、山手線などの車内広告や渋谷や秋葉原などでの看板広告など、ふんだんに予算を投入して大々的な宣伝が行われてきた。日本でも何かと目立つ「原神」だが、その魅力は一体どこにあるのだろうか。

JR山手線の車内広告=2021年4月3日
筆者撮影
JR山手線の車内広告=2021年4月3日 - 筆者撮影

事務職として都内の企業に勤務している藤本萌乃さん(仮名、26歳)は、「原神」の影響をもろに受けた。“ゲーマー”というほどのめり込んでいるわけではなく、むしろ「ゲームは数回遊ぶとすぐ飽きてしまう性格だった」という彼女が「私は原神ファン」だと告白するのは、次のような理由からだった。

「このゲームがすごいのは、ディテールへのこだわりです。グラフィックやストーリー性もかなり高水準ですが、ゲーム内サウンドトラックを一流のオーケストラに演奏させているこだわりはスゴいと思いました。中国をテーマにした『璃月』という国のBGMでは古筝や琵琶など中国の古代の楽器が使用されていたり、日本をテーマにした『稲妻』では和太鼓や尺八などが使用されていたりします。

最初は、『中国のゲームなんて、どうせ金の力だけ』と思っていましたが、金の力に見合うセンスが伴ってきていることに衝撃を受けました」

■PCやスマホ、プレステでクロスプレイできる良さ

藤本さんはこれ以外にも「クロスプレイできる点」を評価している。「PC、スマホのみならず、プレイステーションからもクロスプレイできるようになっていて、幅広いユーザーと遊べるのが原神のすごいところ」だという。

ドコミの会場には、原神のペーパークラフトも数多く展示されていた
写真=川瀬さん提供
ドコミの会場には、「原神」のペーパークラフトも数多く展示されていた - 写真=川瀬さん提供

藤本さんによる原神の評価ポイントは、他のユーザーが「グラフィックとかストーリーがもう神」「語ることが多すぎるので、まずは遊んでみてほしい」などと、インターネット上に書き込んでいたコメントと重なる。その一方で「メインプラットフォームはPCなのでスマホ版の評価は高くはできない」など、スマホでゲームをするには「やや重い」といった指摘も目立った。

中国からの留学生で都内に住む呉暁さん(仮名、21歳)は、中国のゲーム市場動向を研究課題にし、熱心にこれを追っている。呉さんの発言からは、中国では必ずしも「原神」が人気のゲームではないことが伺える。

「中国で絶大な人気を集めるのは、テンセントゲームズの『王者栄耀』です。“中国のスマホ版LOL(リーグオブレジェンド)”のようなeスポーツ系で、誰でも楽しめることから中国では圧倒的な支持を集めています。中国における『原神』は、アニメ風の美少女、美男子キャラが多数登場することから、一部の“日本のサブカル文化が好きなゲーマー”に支えられている側面が強いと思います」

■今や韓国に引けを取らないeスポーツ大国に

中国では、10~20代の多くの若者が対戦型のeスポーツを楽しんでおり、eスポーツができるネットカフェが至る所にある。

日本でネットカフェと言えば、シャワーや寝床を確保するための空間だったり、好きな漫画を一気読みしたりする場所として利用される傾向が強いが、中国では最新のデバイスを揃(そろ)えた、本格的な対戦型ゲームを満喫できる空間として発展している。来年、浙江省杭州市で開催される第19回アジア競技大会(アジア版オリンピック)からeスポーツが正式種目になるため、近年、中国ではネットカフェ経営も投資の対象になっている。

また2020年秋、コロナ禍を脱した中国・上海で第10回となる「2020 League of Legends World Championship」大会が開催され、決勝では中国と韓国のチームが熱い戦いを繰り広げた。2013年から2017年にかけては、決勝には韓国勢が必ず残っていたが、2018年以降は中国が頭角を現すようになる。中国政府もeスポーツを戦略的に捉えており、ゲーム産業における国際的な主導権を掌握するために産業育成に力を入れている。

ちなみに最近、中国政府がゲームを「精神的なアヘン」だと捉えている報道が日本でも物議を醸した。事の発端は中国国営メディアが「オンラインゲームは未成年者に看過できない影響を及ぼしている」と報じたことによるものだが、中国政府が懸念しているのは「未成年者への影響」であり、ゲーム産業全体を否定するものではない。

東京・渋谷駅前にある原神の巨大広告=2021年4月6日
筆者撮影
東京・渋谷駅前にある「原神」の巨大広告=2021年4月6日 - 筆者撮影

■中国のゲーム企業が日本を目指す理由

しかし、中国ゲーム産業の拡大は永遠には続かない可能性が出てきた。2021年上半期、中国ではゲーム人口が6億6700万人に達したが、その伸び率は前年比1.4%と微増にとどまった。

実は、中国のゲーム市場におけるユーザー規模は鈍化が続いている。中国音楽デジタル出版協会がまとめた「2021年1~6月中国ゲーム産業報告」は、「人口構造の変化に伴い市場競争が激化し、企業や製品に対する要求が高まる」と楽観を許していない。

これに対し、ビッグデータ分析の神策データ(北京市)がまとめた報告書(「中国のゲーム市場における課題と機会の分析」)は、「2018年~2020年までの3年間で、中国の自社開発ゲーム企業の海外での売上高が年々増加し、2020年には155億米ドルと33.3%の急成長を遂げた」と伝えている。

「原神」を運営するミホヨが市場を海外に求め、限りなく精度の高い作品をそこにぶつけたのも、来年から減り始めると言われている中国の人口問題と無関係ではない。クロスプレイを可能にしたことからは、家庭用ゲーム機の利用が根強い日本の、「伝統的なゲームプレーヤー」を取り込もうとしていることが見てとれる。ミホヨは世界市場に打って出るため、実に1億ドルもの研究開発費を「原神」に注いでいる。

■「日本人は日本製のゲームしか遊ばない」と思われていたが…

オンラインゲームの世界三大市場は「1位中国、2位米国、3位日本」だと言われている。中国でも日本はゲーム大国として知られていたが、中国のゲーム企業は「日本人は日本製のゲームしか遊ばない」と思い込んでいた。

ところが、ネットイース・ゲームズ(広州市)が2017年にリリースした「荒野行動」が、意外にも日本でヒットしてしまう。「これがきっかけで、中国ゲーム企業の日本市場に対する見方が大きく変わった」(デジタルコンテンツに強い上海のコンサルタント)。ミホヨにとって主戦場は日本、その市場開拓における積極的な動きも、「優れたゲームであれば、日本においても開発国の国籍は問われない」ことに自信を持ったためだと言えるだろう。

ドイツでの「原神」人気も、若い世代にとって「ゲーム会社の国籍はあまり問われない」ということを示唆した。前出の川瀬さんが「ドコミ」の会場で知り合ったベルギー国籍の男性は、「プレーヤーからすれば、面白いかどうか。国際情勢とゲームに求める面白さは関係ない」と話していたという。

ドコミの会場で展示された「痛車」。原神のキャラクターがデコレーションされている
写真=川瀬さん提供
ドコミの会場で展示された「痛車」。「原神」のキャラクターがデコレーションされている - 写真=川瀬さん提供

■ゲーム市場はこのまま中国にのまれてしまうのか?

ちなみに、「このまま放置すれば世界のコンテンツ市場は中国にのまれてしまうのではないか」という筆者の懸念をドイツ在住の川瀬さんに伝えると、次のようなコメントが返ってきた。

「日本のゲームは、ゼルダの伝説、ファイナルファンタジー、ポケットモンスター、スーパーマリオなど、息の長い“シリーズ”ものが強みで、ドイツでもそれへの評価が高いです。中国のゲーム企業は確かに流行をつかむのがうまかったのかもしれませんが、果たしてロングランのヒットを出せるかは未知数です」

もっとも、こうした質問自体がそもそも“時代遅れ”なのかもしれない。今のゲーミングの世界は10~30代半ばの“若者世代”が主流であり、「中国のゲームだから」と色を付けたがる旧世代とはまったく異なる価値観で受け止めているところがある。

名画や名曲が政治や国境を越えて評価されるように、ゲームやアニメも国境を越える。若者を中心としたゲーム、アニメ、ファッションも“サブカル”とはいえ、これもまたれっきとした文化に違いないのだ。

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姫田 小夏(ひめだ・こなつ)
フリージャーナリスト
東京都出身。フリージャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・公共経営修士(MPA)。1990年代初頭から中国との往来を開始。上海と北京で日本人向けビジネス情報誌を創刊し、10年にわたり初代編集長を務める。約15年を上海で過ごしたのち帰国、現在は日中のビジネス環境の変化や中国とアジア周辺国の関わりを独自の視点で取材、著書に『インバウンドの罠』(時事出版)『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)など、近著に『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)がある。

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(フリージャーナリスト 姫田 小夏)

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