「ダメだと言っても集まってくる」未成年の男女が"夜の歌舞伎町"でたむろしているワケ
プレジデントオンライン / 2021年9月2日 15時15分
■「東宝ビル横」の広場に集まる少年少女たち
「トー横キッズ」と呼ばれる未成年たちがこの夏、メディアを賑わせている。東京・歌舞伎町(新宿区)で、コロナ禍にもかかわらず路上飲みなどを繰り返している。中高生も目立つ。8月には、その一人である15歳の少年が、ホームレスの60代の男性への傷害容疑で書類送検された。
日本一の歓楽街にある現場を訪ねるとともに、ある古株メンバーに話を聞いた。飲酒のほか薬物大量摂取や援助交際などの危険と隣り合わせながら、トー横が彼らにとって「避難所」としての役割も持っている側面が見えてきた。
8月下旬、プレジデントオンラインの女性編集者と2人で現場入りした。午後5時半過ぎに、歌舞伎町1丁目にある「新宿東宝ビル」横の路上に着いたが、この日は全くのゼロだった。1~2人、それらしい少年や少女を見かけたが、複数人でたむろしているグループは一つもなかった。
筆者はこの春から定期的にウォッチしており、普段はこの時間でも十~三十数人のトー横キッズを目撃してきた。なぜ、彼らはいなくなったのか。トー横の古株だというヤスアキ君(仮名)に取材を申し込むと、匿名、年齢非公表、写真NGを条件に、この日とは別の機会に話をしてくれた。
■60代男性を暴行した15歳少年の素顔
――ホームレスの60代男性に暴行しけがをさせたとして、傷害容疑で広島市の15歳の少年が書類送検されたと8月23日に報道がありました。彼もトー横キッズと言われています。
それ、ケン(仮名)ですね。友達っす。ケンのタイプは、普段から元気にイキり散らかしてる感じかな。盛り上げ役で、「俺がトー横の王だ!」とかワイワイやっている。15歳が酒を飲むのはダメでしょうけど、僕からするとかわいい奴なんすよ。
トー横に来るようになったのは、今年の春ぐらいかな。ケンの親は構わないから、自由にやっているみたいだった。最初から目立って面白かったけど、カネはなかった。だから、ケンのことを気に入った女の子に「飼われる」ようになったんですよ。
――ん? 「女の子に飼われるようになった」とは?
トー横には、親元を出てきて歌舞伎町でホテル暮らしをしている女の子がいるんですよ。彼女たちは風俗で働くとか、援助交際やパパ活で稼ぐとかしている。一部はお金を自分の推しである、ホストや地下アイドルに使っている。そうじゃない子は、トー横の男の子に貢ぐんだよね。
■ホテルに泊まらせ、ご飯を食べさせて…
ケンは最近になって、トー横のいろいろな女子から貢いでもらえるようになった。けど、最初はできなかった。だから、20歳をちょっと超えたミキ(仮名)が目をかけた。自分のホテルに一緒に泊まらせて、ご飯を食べさせて、とか。2人は別に恋愛感情はない。トー横の女の子たちは、ミキに限らず、みんな寂しい。だから、ペット感覚でケンを手元に置くわけ。
ここんとこのケンは、ミキとは関係ないカップルの元に身を寄せていると聞いているよ。カップルがケンを匿っているみたいだね。
――そもそも、トー横に若者が集まるようになったきっかけは?
ツイッターでは、自撮り写真や映像を上げている「自撮り界隈」というグループがあったんだよ。そこで目立っていた連中が、リアルで会う場所に使い始めた。2018年ごろのこと。
当時は浪人生とか大学生とかが中心だったかな。18歳から20歳前半で、今よりも年齢が高かった。高校生はちょっといたけど、中学生の記憶はないかな。
路上飲みもしたけど、今よりは秩序があった。他の人に迷惑をかけないとかは、ちゃんとしていた。何人かで「でんぐり返し」競争をするのがはやったこともあるけど、まあ、かわいいもんでしょ。
また、居酒屋やカラオケに行くこともあった。トー横が待ち合わせ場所としての機能を持っていたよね。
■薬物で仲の良い友達が自殺してしまった
――変わっていったのは、いつごろですか。
別にしがらみがないから、メンバーは変わっていったよね。トー横ではない別の場所にたむろし始める場合もあるし、そもそも消えちゃうこともある。
僕が仲良くてLINEでしょっちゅうやりとりし、トー横で飲んでいた女の子も自殺しちゃった。彼女の場合は、違法薬物と心の問題が原因。風俗で稼いでいたんだけどね。
全体的な雰囲気が変わったのは、コロナがはやってからで、昨年春から夏にかけて。一時的に来る連中は減ったけど、仕事がなくなった夜職関係の男が増えた気がする。そしてツイッターやTikTokとかで露出が増えて、中学生が出入りするようになった。
![午後6時過ぎ、トー横界隈を見回る警備員たち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/670/img_f16e196b98d8c21e06081a31f87dea4d476722.jpg)
中学生はそんなに夜遅くなる前に、ちゃんと帰っている子もいる。まあ、飲酒している未成年がいることも、また認めるけど。
――飲酒だけでなく、薬物大量摂取、オーバードーズ(OD)問題もあると聞いています。
飲むのは、せき・たんに効くやつや睡眠薬。トー横に来るのは、男女ともにやっぱり家庭に問題がある子が多い。親が無関心の場合もあれば、DVとかもある。不登校なんてざら。メンタルが傷つき、「何かに走らないと、やってられない」となることがある。その時に今言った薬をキメる。
■家出し、行く当てがなく仲間で助け合う
普段飲む酒は、アルコール度数の強いストロング系で決まっている。すごく酔いたい奴は、焼酎を1本持ってくる。それと同じように、せき・たんの薬や睡眠薬とかを選んでいる。
酩酊できれば、一時的でも嫌な気持ちを紛らわすことができるから。
――未成年の飲酒、ODは看過できない上、トー横は路上だし目立ちすぎているのでは。
最近は、トー横がアイコンになっちゃって、どんどん中高生が来ているよね。みんな面白いもの見たさに集まるけど、その中心にいるべき面白い奴がいない。僕には物足りなくなっているかな。
確かに人数が増えすぎているし、目立ちすぎてもいる。でも、ここが唯一の居場所って子も多い。あと、僕らは僕らで助け合っている。
家出中の女の子が「ホテル代が払えない」と言う。そしたら誰かが出してやっているし、僕も1万円を渡したことがある。こういうお金の支払いに、自分の価値を見いだしているところはあるよね。
ケンやケンを飼っていたミキだって、トー横以外に行く当てがない。そうした場所であることは、分かってもらいたい。「悪いことやっているから、トー横キッズなんて排除していい」。こんなふうにはなってほしくないかな。
■トー横は「避難所」であり「共助の場」でもある
ヤスアキ君の話を聞くと、トー横は単なるたまり場というより「避難所」としての役割も持っているようだ。家庭や学校に居場所のない若年層による「共助の場」としても機能しているのだろう。
一方、トー横キッズの実態に近づけば近づくほど、危なさを感じる。また、過度の飲酒やODで救急車を呼ぶような事態を起こしていれば、「街の風紀を乱している」と指摘されて当然だ。
ケン君の書類送検の影響だろうか。8月下旬の現場取材の際、かつてない出来事があった。午後6時すぎ、キッズ不在のため、トー横の植え込みに女性編集者と腰をかけ、今後の相談を始めた。すると、後方から「SECURITY」の黄色いベストを着た警備員に声を掛けられた。
![午後6時35分ごろ、トー横の植え込みに腰かけている男性に警備員が声をかけていた](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/7/670/img_c7aa2e819299486f7471791d471577fd493738.jpg)
「すいませんけど、ここに複数人で座るのはダメでして」
「お兄さんたちは違うだろうけど、路上飲みするんですよ。いるとどんどん集まってきちゃうから、遠慮してもらっています」
若い男性警備員いわく、この声掛けは「建物とか(新宿)区からの要請」とのことだ。
春先から、幾度も黄色いベストの警備員は見てきた。しかし、彼らがトー横キッズに声をかけているのを見たことはなかった。まして、一息ついている他の大人たちまで相手にしようとは、全くの想定外だった。歌舞伎町、なかでもトー横の風紀の乱れを指摘する声が一部で高まっているのだろう。
![午後6時10分過ぎには、トー横キッズの姿はなくなっていた](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/670/img_98cedb4d3c11dc18741587df5814bba2443659.jpg)
■大人たちはキッズを排除しようと躍起だが…
古株のヤスアキ君が懸念したように、トー横キッズは排除され消えるのだろうか……。
どうやら、そんな単純な流れにはならなさそうだ。
夜もふけた午後10時20分ごろ、トー横を再訪してみた。すると、黒を基調とした服装にピンク髪と、一目でそれと分かるキッズたちが座り込んでいた。また筆者たちが撤収した2時間半後には、複数のグループがたむろしている様子をテレビが報じていた。
警備員を使って、大人たちはトー横から彼ら彼女を引きはがしたく、斥力を生もうとする。かたや、キッズたちにとってのトー横は、避難所でもあり、あこがれの場所だ。いまや強い引力を生んでいる。
この斥力と引力が勝負すれば、どちらが勝つか。夜が深まるにつれ、キッズが増えたことを考えると、結果は自明だ。
もうしばらくの間、筆者はトー横から目を離せそうもない。
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ジャーナリスト・ライター
オールドメディアからネット世界に執筆活動の場を変更中。低い目線で世の中を見ることを心がけている。繁華街の路上から見える若者の生態、格差社会のほか、学校の問題、ネットの闇、夫婦の溝などに関心を寄せている。
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(ジャーナリスト・ライター 富岡 悠希)
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