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「アクセス制限は簡単に抜けられる」学校の配るタブレットでネット中毒に陥る子どもたちの悲劇

プレジデントオンライン / 2021年9月4日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

いま全国の小中学生には、文部科学省の「GIGAスクール構想」でほぼ全員にパソコンやタブレットが配布されている。ネットトラブルを防ぐため、配布端末には制限がかかっているが、実効性を伴うとは限らない。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「YouTubeやゲームで遊びたい子どもたちは制限解除の裏技を探し、共有している。やみくもに機能を制限するより、正しい使い方を教えたほうが有意義なのではないか」という――。

■児童生徒の2割がGIGAスクール端末でトラブルに

GIGAスクール構想は当初、2023年度までの実現を目指していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で20年度に前倒しとなったのだ。文部科学省の「端末利活用状況等の実態調査」(2021年8月)によると、7月末時点で全国の公立の小学校等の96.1%、中学校等の96.5%が、「全学年」または「一部の学年」で端末の利活用を始めたという。

配られた端末は、ChromebookやiPadが目立つ。MM総研の「国内Chromebookの市場規模調査」(2020年10月)によると、GIGAスクール構想における需要増を背景に、2020年のChromebookの出荷台数は157万1000台と、前年比で10倍以上の伸びとなっている。

では、実態はどうなのか。小学校1年生〜中学校3年生の子どもを持つ保護者を対象としたトレンドマイクロの「GIGAスクールにおけるセキュリティ実態調査2021」(2021年7月)を見てみよう。

それによると、2021年6月末時点では、子どもが学校から端末を受け取ったと回答した保護者は41.2%、教員は70.7%と、まだ端末が子どもに十分に行き届いていなかった。自治体からの配布はできていても、学校現場の準備が整わずに使われていない可能性があるのだ。

子どもが端末を受け取ったと回答した保護者に子どもの端末利用におけるトラブル経験を尋ねたところ、なんと約2割が既にトラブルを経験していることがわかった。保護者の22.0%、教員の38.5%が、GIGAスクール構想で配備された端末の利用で、子どもがサイバー犯罪やネット利用等に関するトラブルを経験したと回答している。

■6割の保護者はネットトラブル対策を理解していない

教員の回答によると、主なトラブル内容は「学習以外の用途での端末利用(ゲームや動画視聴など)」が12.8%、「フィッシング詐欺など不正サイトへの接続」が12.0%、「アカウント乗っ取り、不正アクセスの被害者となる」が11.1%、「アカウント乗っ取り、不正アクセスの加害者となる」が11.1%と続いた。

子どもたちは端末をゲームやYouTube視聴など学習以外に利用したり、フィッシング詐欺に遭ったり、アカウント乗っ取りなどのトラブルに巻き込まれているのだ。

インターネットトラブルで悩む子どものイメージ
写真=iStock.com/stefanamer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stefanamer

さらに保護者の58.9%、教員の29.9%が、端末に危険を回避するための設定やツール等の技術的対策が施されているか理解していなかった。保護者と教員は子どもが利用している端末における対策を理解した上で利用させることが必要だろう。なお、子どもの端末利用に関する教育的対策は、保護者、教員ともに全項目が半数に満たず、端末を利用する子どもへの教育が進んでいないのが実態だ。

■「夏期講習に行かず8~12時間も端末で遊んでいた」

執筆現在、オンラインと対面を組み合わせたハイブリット授業が行われているある自治体では、「音が飛び飛びで何を言ってるのか聞き取れない」「画面がフリーズしたままで動かない」など、なかなかスムーズにいっていないようだ。こちらは主に学校回線の問題のようだが、家庭での利用でも問題は起きている。

そもそも、配布端末の制限内容は自治体によって異なっている。たとえば東京都世田谷区は制限が最低限となっており、YouTubeも見られる状態だ。制限が厳しすぎると使う気をなくすと考え、使わせるためにあえて制限は最低限にしたという。使わせることを考えると理想的に見えるが、やはり問題も起きている。

「端末を貸与された直後、子どもが深夜まで使っていたせいで翌日起きられず、学校を休む羽目になった」とある40代主婦は眉をひそめる。「夏休みには勝手に1日8~12時間も使っていて、塾の夏期講習に行かせようとしたのに、結局申し込みはしていたのに何日も行かないで端末で遊んでいたよう」。

一方、問題が起きることを恐れ、あらかじめ厳しい制限をかけている自治体は多い。たとえば筆者の息子は小学校6年生だが、毎日Chromebookを持ち帰り、教材配布・採点などができるツール「クラスルーム」を使って宿題をしている。一方、YouTubeやTikTokなどの動画アプリは制限されて使えないようになっている。でも、「友だちがYouTubeを見ていたのがバレて先生に怒られていた」という。

■裏技を共有し、制限解除をかいくぐる子どもたち

制限した端末で、なぜ自由にゲームやYouTubeが利用できるかというと、ネット上で制限解除法などが共有されているためだ。たとえばYouTubeでは、「GIGAスクール構想端末の制限解除法/YouTube視聴法/ゲームする方法」などが公開されており、裏技が共有されている状態だ。

YouTubeページのクローズアップ
写真=iStock.com/TARIK KIZILKAYA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TARIK KIZILKAYA

コメント欄には「YouTube見れる方法あったら教えてください」「これってiPadでもできますか」「やってみたのにこのサイトもブロックされていて開けない。別の方法は?」「フォトナ(筆者注、フォートナイトのこと)の入り方は?」など、子どものユーザーからのコメントであふれている。

ある小学生は、「Scratchでならゲームができるよ」という。プログラミングアプリであるScratchの上では、他のユーザーが作ったプログラミングで遊べるのだが、そこでゲームを探してはプレーするのがはやっているのだ。その他、教育用に許可されたあるアプリの上でならYouTubeが視聴できたりと、制限をかいくぐって利用できることは少なくない。このような裏技は、子どもたちの間でまたたく間に共有されて広がっている。

■制限をかけすぎて「Wikipediaが見られない」

一方、自治体により制限しすぎの例も少なくない。アプリインストールができないとか、YouTubeなどが見られないところは多い。それだけでなくある自治体は、カメラアプリやメールの送受信などもできなくなっている。

ある時、筆者の息子が調べ学習で「庄内平野」を検索していたが、良い資料が見つからずに困っていた。「Wikipediaで庄内平野の基本的なことを調べて、リンクから関係するサイトを見るというのは?」とアドバイスしたところ、「見られないよ」と言われてしまった。確かめたところ、確かにWikipediaがアクセス制限対象となっていて驚いた。コピペなどを恐れたものだろうが、制限に意味があるのだろうか。

また、学校の端末で写真を撮って提出しなければいけない宿題があったのに、誤って保護者のスマホで撮影してしまっていた。そこでUSBメモリを使ってデータを移そうとしたが、使えないようになっていた。ウイルス感染や個人情報流出を恐れたものだろうが、そんな状態だったのでデータの移行に苦労してしまった。

このようにまったく制限しないところは子どもが使いすぎるトラブルにつながっているが、一方、使いすぎを恐れるあまりに学習にも使いづらいほど制限しすぎている自治体も少なくない。「GIGAスクール構想は単なるデジタルの置き換えで、真の意味のICT教育はできていないのでは」と言われるが、この意見に同意したくなる。

ただ、導入初年度で自治体も試行錯誤中のはずだ。子どもの学習利用上で問題があると感じた場合は、学校を通して意見を伝えて改善していくことも大切ではないだろうか。

■仕事をさぼってネットに興じる大人も多いが…

では、GIGAスクール構想端末とどのように付き合えばいいのか。

息子がパソコンに向かっていても、学習しているとは限らないことにはすぐに気づいた。宿題をしているときはキーボードを使っているが、ただ見ているときはネットサーフィンをしてサボっていたり、Googleのゲームで遊んでいることが多かった。

本人に、「ただネットを使ってサボっているだけのときはすぐにわかるよ」と言ったら、自覚があったようで「しまった」という顔をしていた。「大人でも仕事をサボりたい時にネットを見てしまうことはあるよ。でもそれでは宿題はずっと終わらないままだし、宿題は早めに終わらせて遊ぶときは遊ぶほうがいいよね」と伝えてからは、多少改善されたようだ。

スマホを自由に触れるようになった時にゲームやSNSにハマるのは一般的なことだ。一方、GIGAスクール端末はフィルタリングされており、多くの子どもがハマりやすいSNSや動画、ゲームなどは使いづらくなっている。スマホの前にパソコンやタブレットを利用することは、インターネットとの付き合い方を学ぶ良い準備段階となるのではないか。

■やみくもに禁止するのではなく一緒に活用法を考える

大人でもSNSやゲームにハマることは少なくないので、付き合い方を学ぶのも勉強のうちと考えて管理の仕方を学ばせてみてはどうか。子どもと利用時間についての約束を取り決めたり、夜間や学習時間などは保護者が管理して使わせないようにすることも必要になる。

また保護者は、利用上で起きているさまざまなトラブルやリスクについて知っておくこと、子どもが利用している端末における対策を理解した上で利用させることも重要だ。トラブルやリスクについては、学校からの連絡や関連するニュースなどに目を配っておくことである程度把握できるだろう。同時に、子どもの端末や環境についても、あらかじめ基本的な使い方や特徴などをネットで調べておくことで対策できるのではないか。

笑顔でタブレットを見る家族
写真=iStock.com/SunnyVMD
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SunnyVMD

また、子どもだけでいきなり端末を学習に活用するのは難しいので、たとえば無料でプログラミングを学べるwebサービスを紹介するなど、活用の仕方をアドバイスしてはどうか。調べ学習についても子どもだけで自分が理解できる有用なサイトを見つけるのは難しいので、「小学生 調べ学習」などでAND検索し、おすすめのサイトを見つけて教えてあげるのもいいだろう。

ネットや端末を禁止する時代は終わり、既に活用したり付き合い方について考える段階にきている。子どもだけに任せるのではなく、保護者が見守りながら、親子で端末の活用法やネットとの向き合い方について学んでいってほしい。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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