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「9月解散は安倍氏からダメ出し」総裁選の先送りを封じられた菅首相はこのまま負けるのか

プレジデントオンライン / 2021年9月2日 17時15分

衆院本会議場で菅義偉首相(中央左)に声を掛ける安倍晋三前首相(同右)=2021年4月1日、国会内 - 写真=時事通信フォト

■わずか10分で下村氏を断念させた冷徹さ

菅義偉首相が苦しんでいる。新型コロナウイルス対策では後手後手の対応で感染拡大を止められず、内閣支持率は低迷している。さらに9月17日告示、29日投票の自民党総裁選では苦戦を予想する声が日々高まっている。

菅氏は窮地を打開しようと、党内政局では大胆な奇手、奇策を次々に打っている。「政局の菅」でならした強面の顔が垣間見えるが、衆院を解散して総裁選を先送りにしようという策は、党内外で猛反発を受けて撤回。形勢を好転させるには至っていない。

8月29日。菅氏は終日、東京・赤坂の議員宿舎で静養した。新型コロナ対策に奔走していた菅氏にとっては5カ月ぶりの休養となった。そして翌30日から、人が変わったように動き始めた。

同日午前、総裁選出馬に意欲を見せていた下村博文党政調会長を首相官邸に呼び、総裁選に出馬するのなら、ただちに政調会長を辞するよう通告した。あわよくば政調会長として経済対策をとりまとめて総裁選に名乗りを上げようと考えていた下村氏は「熟慮する」と回答。事実上、総裁選出馬断念する考えを伝えた。分かりやすく言えば、菅氏は下村氏に対し「出馬するなら『反菅』と見なす。自分が再選したら徹底的に干す」と脅し、下村氏が軍門に降ったということだ。

会談の時間はわずか10分。菅氏は、目的を達成するには手加減をしない冷徹な一面を見せた。

■二階氏を交代させることで、岸田氏の攻め手を奪った

総裁選で最大のライバルとなった岸田文雄前政調会長への対策も、打った。

岸田氏は8月26日の出馬会見で「国民政党であったはずの自民党に声が届いていないと国民が感じている」と菅体制を批判。「地味なプリンス」という風評を一変させてみせた。さらに「党役員は連続3期3年まで」という党改革案をぶち上げた。5年以上、幹事長に君臨する二階俊博氏に対する当てつけであるのは言うまでもない。

二階氏を中心とした長老支配に辟易とする中堅・若手の中で、岸田提案を歓迎する動きが広がった。二階氏の党運営を面白く思っていない安倍晋三前首相、麻生太郎財務相にとっても、二階氏の交代は、悪い話ではない。一石二鳥とも一石三鳥とも言える改革案だった。

一方、菅氏は30日夕、二階氏に会い、二階氏も含む党役員の刷新を行う考えを表明。二階氏も「私に気にせずやってください」と了承した。菅氏は、二階氏と二人三脚で総裁選、そして衆院選に臨む考えとみられていただけに、大サプライズだった。この奇策の意図は、「岸田提案つぶし」にほかならない。いち早く二階氏を交代させることで、岸田氏の攻め手を奪ったのだ。

■二階氏には金丸信氏と同じ「副総裁」を用意か

菅氏は、幹事長には若手や女性の「見栄えのいい」議員を大抜擢する考えとも言われる。そうすれば低迷する内閣支持は下げ止まるかもしれない。岸田氏になびきつつあった中堅・若手議員の雪崩現象を食い止める効果も期待できる。

二階氏は党副総裁などに起用して一定の配慮を示すとの見方もある。副総裁というと「棚上げポスト」の印象があるが、二階氏の政治の師のひとりでもある金丸信氏は、党副総裁として権勢を振るった。二階氏にとって、決して悪い響きのポストではない。こちらも一石三鳥の効果が期待できる。

31日、都内で行われた自民党と公明党の幹事長、国対委員長会談では、途中で記念撮影を行った。二階氏、森山裕国対委員長ら自民党側出席者は「今日が最後」ということを覚悟し、納得していたのだろう。

■究極のサプライズ「総裁選先送り」は一夜で自爆、撤回

最大のサプライズが31日夜、駆け巡った。「衆院を電撃解散して、自民党総裁選を飛ばす」という話だ。菅氏はもともとも9月上旬に衆院を解散し、党総裁選を衆院選後に後回しにすることを念頭に置いてきた。衆院選で勝てば総裁選は無投票再選となるという計算もあった。しかし、内閣支持の低迷で党内に総裁選を行うべきだという意見が高まり、この構想は消えた、はずだった。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

8月31日夜、菅氏サイドや二階氏側から「菅首相は、衆院を解散する意向で、総裁選は先送りする考えだ」という情報が流され、毎日新聞が電子版で速報すると、読売、朝日、日経、産経の各紙も翌9月1日の朝刊で「首相、衆院解散意向 総裁選先送り」などと一斉に報じた。

しかし、この策は評判が悪かった。当然だ。衆院解散は首相の専権事項ではあるが、総裁選日程は、党が正式に決めたもの。それを特段の理由もないのに飛ばしてしまうという発想は、独断専行と言うしかない。「総裁選で負けそうだから、先送りした」と非難されても仕方がない。

■安倍氏は電話で、小泉進次郎氏はメールで、翻意を迫った

総裁選で菅氏を支持する立場だった安倍氏は電話で、小泉進次郎環境相はメールで、菅氏に翻意を迫った。どちらも「総裁選を先送りして衆院解散したら、自民党に決定的な傷がつく」という内容だった。

結局、菅氏は1日午前、「今のような(コロナ感染の)厳しい状況では解散ができる状況ではない。総裁選の日程も党の方で決められると思う」と発言。解散風を自ら封印した。

下村氏の総裁選の出馬を断念させ、二階氏の交代を含む人事断行を表明するまでは強引な奇策も一定の効果があった。しかし、「総裁選先送り解散」は逆効果だった。自民党の谷垣グループの代表世話人である中谷元・元防衛相は9月1日、グループの会合で「衆院の解散とか、自民党の役員人事とかいう話があった、勝手な個人の都合で変更すれば自民党の信頼を失う。自民党が新しい総裁のもと、政策を実行していくべきだ」と言い切った。平然と「新しい総裁」という言葉が出てくるところから、今の党内の空気が分かる。

■「30年前の海部首相」に似てきた菅氏

第76代内閣総理大臣・海部俊樹氏(写真=首相官邸ウェブサイトより)
第76代内閣総理大臣・海部俊樹氏(写真=首相官邸ウェブサイトより)

党長老議員は「菅氏は30年前の海部さんになるかもしれない」とつぶやく。

1991年、首相だった海部俊樹氏は、成立を目指していた政治改革関連法案が廃案となったのを受け「重大な決意で臨む」と発言。この発言は、衆院解散を意味すると受け止められた。しかし、党内の猛反発を受けて解散を断念。結果として首相辞任に追い込まれた。

衆院解散は首相の専権事項ではあるが、それを行おうとして不発に終わった場合、首相は政治生命を失いかねない。30年前の海部氏と、今の菅氏が似てきているというのだ。

■国民不在のまま、政権復帰後最大の政局モードに

もちろん菅氏も、このまま終わるつもりはない。次なる奇策として、安倍内閣、菅内閣に批判的だった石破茂氏の要職起用を検討しているという観測もある。挙党態勢をアピールして求心力を回復しようという狙いだ。

その一方で、9月6日にも断行するという党役員人事さえも、菅氏は行えないとの見方がある。菅氏が総裁選で勝つことが見通せないなら、そこで執行部や閣内に入るというのは泥舟に乗るようなもの。辞退者が続出するという見立てだ。

いずれにしても自民党は、2012年に政権復帰してから最も激烈な権力闘争に突入した。展開は刻々と変わっていくだろうが、国民としては、喫緊の課題である新型コロナウイルスへの対応が今よりも遅れないことを願うしかない。

(永田町コンフィデンシャル)

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