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「TBSの人間への復讐心は消えてない」僕がそんな物騒なことを公言してしまうワケ

プレジデントオンライン / 2021年9月8日 10時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/fizkes)

ムカつく上司への気持ちはどうおさめればいいのか。バラエティプロデューサーの角田陽一郎さんは「その気持ちを無理に消さなくていい。僕もTBSには3人ぐらい復讐したい人がいる」という。角田さんと作家の加藤昌治さんの対談『仕事人生あんちょこ辞典』(KKベストセラーズ)より一部をお届けする――。

■「自宅がなくなるぐらいのペナルティは与えたい」

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パワハラするあの上司……。何か「手」はないですか?

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【角田】のっけから過激ですが、「あの上司に仕返ししてやる……」ってほど、恨んでいる? っていう上司って、います?

【加藤】うーんとね、恨んでいたのとはちょっと違うけど、昔は「こんのやろ~くそ~」と思っていた人、いた。それで毎日「×○●△□!」ってつぶやいてた。けど、一〇年経った頃から超感謝してる。

【角田】おおー! 感謝まで行ってる?

【加藤】あの人がいなかったら、今こうなってないなあ。……って本人にも云いました。「毎日『×○●△□!』と思ってたんですよねえ」もプラスして。「知ってるよw」って云ってたけど。

【角田】僕はTBSに、上司というかムカつくやつは当然いて、今でも復讐しようかなと思ってる。

【加藤】復讐……!

【角田】でも、今やっちゃうと刑罰になっちゃうじゃないですか。だからやらないだけで、そいつの一戸建ての家がなくなるぐらいのペナルティは与えてあげたいなって思う人が、三人ぐらいいる。その復讐心って多分消えない気がするな。

【加藤】なんで?

■「TBS辞めてからのほうが金はあるんですけど」

【角田】されたことは、事実として消えてないから。「こいつの家がどうやればなくなるか」って、若い頃なら本当に仕掛けてた気がする。今は、正直めんどくさくなったところもあるけど、それでも「あいつは僕にこんな悪いことをしたんだから神様はきっと許さないだろうし、何年後かに家がなくなるようなことになるに違いない」ってマイルドに思い続けてる(笑)。

なんでそんなことを言っているかというと、事実として、それがモチベーションになっているところはちょっとあるんだ。「TBS辞めてから貧乏してるんだろうな」って思ってるようなやつに対して、実際のところはどうであれ「TBS辞めてからのほうが金はあるんですけど」って言ってやりたくなるぐらいの人間の小ささが僕にはあってさ。ややこしいんだけど、そういう人間の小ささが僕は好きなんだよね(笑)。

【加藤】わはは。

【角田】みんな、聖人君子にはなれないじゃんか。なのに聖人君子になろうとするように教えるところに、教育の間違いがあるんじゃないかと思っててさ。悪いことも教えるのが教育だと思うんだよね。

■好き嫌いの感情は誰もが持ってしまうもの

例えば、「明智光秀がなぜ織田信長を殺したのか」って、いろいろそれらしい理由を挙げるけど、信長が嫌いだったんだよ、単純に。だってなんか理由があっても、嫌いじゃなきゃ殺さないでしょ。だから本質的には、とにかく嫌いだったんだよ。それがたまたま「あいつは少人数で本能寺に泊まっているから、やるなら今だ」って気持ちになったからやっちゃった。嫌いじゃなきゃやらないよ。

だから、好き嫌いが表面化して何かを実行するかは置いといて、その思い自体は誰もが持ってしまうものだし、消えないんじゃないかなと思う。それを無理に消そうとすることもないんじゃないかな。

それで本当に殺していいのかっていうと、ダメだよ。捕まっちゃうし、人間としてやってはいけないことだから。それが判断できる“ethical” というか、倫理的な抑制力がちゃんと自分の中にあるんだったら、何を思っててもいいんじゃないかなって思ってるのさ。

【加藤】全員と仲良くはできないからねえ。

■環境がずっと同じなら、仲良くするよう頑張るべき

【角田】平野レミさんや黒柳徹子さんは「嫌いな人とは仕事しない」って公言してる。それでもあの地位までいっているから、本当にそれでいいんだなって思える。だからその言葉は好きなのね。

その一方で、人間の場合は「嫌いな人と付き合わなくていい」と思っているのに、国の場合で考えたら世界の二〇〇近い国全部と仲良くしなきゃいけないのかなって、ちょっと思ったことがあるの。利害関係で付き合う相手を決めるんだから、国だって利害で仲良くするかどうか決めたっていいんじゃないかって。そこで、僕のヒューマニズムは相反するわけよ。

でもある人から「隣同士の国は永遠に隣じゃん」って言われてね。つまり人間同士だと物理的に離れられるんだけど、国同士は離れられないじゃない。ずっと隣同士にいるのは間違いないわけだから、「だったら、仲良くなれるように頑張るのもひとつのやり方なんじゃないの?」って言われた時に、ストンと腑に落ちたのね。

要するに、環境が変わるんだったら「好きなものは好き、嫌いなものは嫌い」でいいんだけど、あなたがその会社に骨を埋めると決めたなら、その相手とも隣同士の国みたいなものになるんだよ、と。あなたが仲良くするように頑張ると、相手も意外と仲良くしようと努めるようになるんじゃないの? と思う。だから判断のポイントとして、その環境が変えられるものかどうかというのはあるよね。

■利害関係のみの付き合いだっていい

【加藤】「全人格的に仲良くなる必要もない」という考え方はありますよね。サードネームじゃないけどさ。

【角田】そうそう。だから「貿易だけやってりゃいいや」とかさ。

【加藤】利害関係のみの付き合いだってあるだろうしね。いい意味での社交っていうものはあるよね。これについては、山崎正和先生の『社交する人間』という名著がありまして。日本の組織が家庭的な性格を残してきたからかもしれないけど、妙に全人格的な付き合い方をしようとする時があるよね。

【角田】僕が教育に不満なのはおそらくそのあたりで、「個性、個性」って言うわりには全部を要求するじゃん。それ無理だとか、「嫌なやつとどうしたら揉めないか」とかを教えてあげたほうがいいんじゃないかな。

【加藤】わざと仲悪くなる必要もないけど、全員とべたべたに仲良くする必要もない説です。

【角田】「サンパウロは治安悪いから行かない」じゃなくて「サンパウロに行っても、治安の悪いところには行かなきゃいい」みたいな感じでさ。初めから「サンパウロには行かないか、行って骨を埋めるか」なんて選択肢だけで考えていたら、そもそも行けないでしょ。

■「感情って対数なんだな」と考える

【加藤】ただ、相手である上司のほうが全人格的にぶつかってくる場合もあるじゃないですか。だからパワハラにもなったりして。それに対して、こっちも全人格でぶつかる必要はあるのかな。

2つの手がお互いを脅かす
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/Marcin Wisnios)

【角田】この前ある取引先と揉めて、その時は結局全部撤収したんだ。その怒りのメールで「一〇〇〇%やりません」って書いて送ったわけ。で、あとで冷静になって考えた時に、「なんで僕、『一〇〇〇%』って書いて送ったんだろう」と思ってさ1986オメガトライブの『君は一〇〇〇%』もそうだけど、一〇〇でいいじゃん。「僕、なんで一〇〇〇って書いたの?」って。

【加藤】それはカルロス・トシキさんのおかげなんじゃないの?

【角田】それで、「これって、単純に一〇の三乗だな」って気付いたの。一回目の粗相をやられた時は一〇の怒りで、まあ小さいわけ。それで、二回目をやられた時には二倍の二〇じゃないんだよね。二乗になって、一〇〇になるわけ。相当ムカついてるけど、それでもまだ金もらえるから我慢するわけよ。

ところが、三回やられて一〇〇〇になると、「もう、一〇倍の金もらわないとやらんわ!!」って気持ちになるから、やめちゃったんだなあと思ったんだ。

音楽の音程も周波数の対数で構成されていて、二倍で一オクターブになるんだけど、調和のとれた音楽ってエンドルフィンの分泌を促すから、感情に影響するでしょう。音圧のdB(デシベル)もそうだけど、人間の体って対数に左右されるようにできているんですよ。

だから意外に、対数的な感覚で考えたほうが世の中の動きに合ってる。例えば平成は三〇年、平安時代は四〇〇年、縄文時代は一万六〇〇〇年だけど、それを「同じ時代」と括って考えたほうが歴史的には合ってる。なぜなら対数だから。そうやって「感情って対数なんだな」って考えるのはすごくいいと思うわけ、好きにせよ嫌いにせよ。

【加藤】燃えてすぐ冷めるわけね。

■その時は分からなかった上司の行動

――最初に加藤さんが触れた、当時「×○●△□!」だったけど今は感謝している上司に対する心境の変化って何だったんですか?

【加藤】入社二年目くらいで毎日企画書を書かされてて。ずっと横にいるんですよ。でもタバコ吸ってるだけで何もしてない感じでさ。書いているこっちとしてはムカつくわけ。

それでもしばらく作業したら、企画書が“完成”しちゃう。できた、上司横にいる。そしたらプリントアウトして見せざるを得ないじゃないですか。それで見せたら、いろいろダメ出ししてくるでしょ。「ふっざけんな!!」と思いながらそれを繰り返して、ある程度けりが付いた深夜くらいから飲みに連れて行かれて、あれこれ云われながら飲む、みたいな毎日でしたね。二〇二一年のいまいまだとあり得ないシチュエーションだけど。

今思うとさ、その人は横で待っててくれたんだよね。本当は帰りたかったんだと思うんだけど、自分の時間を投資してくれていたわけ、若かりしかとうに対して。それは……やっぱりその時は分からなかったんだよね。

逆の立場になって、待つのも仕事だな、になってくるじゃないですか。待つのはつらいし嫌なんだけど、「俺がやったほうが早い!」とか云っちゃうとホントはダメで、上司とか先輩は待つのが仕事だと思わないといけない。それが二〇年経ってようやく分かったわけ。

■復讐したいのは「消化できないほど理不尽だった」ことをした人

【角田】今でもその人とは話する?

【加藤】二年に一回くらいは話すね。

【角田】本人は自分でも「そういう意味があってやってた」って言ってるの?

【加藤】答えないでニヤニヤしてる。

【角田】僕が「復讐したい人が三人くらい残っている」っていうのは、たとえ意味が分かっても消化できないほど理不尽だったよなって、やっぱり思ってしまう人だってことなんだよね。逆に言えば、許せなかった人が一〇〇人いたとして、九七人はそれで許してる気がする。その中で最後まで沈殿しているのがその三人。どんなに考えても、「あれは単純に僕へのジェラシーだったんだな」とか、「単純に嫌がらせだったんだな」っていう奴だったら、やっぱり“地獄”に落とさなきゃなって。

加藤くんの話みたいに「すごく厳しかったけど、たくさん勉強させてくれたんだな」って感謝している人もたくさんいるよ。

■云われたことを毎回一〇〇%やる必要はない

【加藤】そもそもみんな、上司に云われたことって一〇〇%やってるのかな。ワタクシ、結構スルーしてるかも。

表紙
角田 陽一郎、加藤 昌治『仕事人生あんちょこ辞典』(ベストセラーズ)

【角田】加藤くん、結構スルーしてるよね。

【加藤】云われたことを毎回一〇〇%やったこと、ほとんどない。一二〇%やってる時もありますよ? 平均したらちゃんとやっているつもりだけど。

【角田】さっきの僕の「怒りが一〇〇〇%」の案件でいうと、僕は多分全部やってるんだ。だからこそ、「こっちが全部やろうとしているのに、そんな態度とるならもう一切やらん」みたいなことになる。仕事に関しては、僕はゼロか一〇〇〇なのかもしれない。やるって決めたら値段じゃなく一〇〇〇ぐらいやろうと思っているのに、そんな変な態度とるなら絶対やらないって。

【加藤】みんな真面目だよねえ。

【角田】そこは真面目だね。

【加藤】受験で云えば「捨てる問題」ってあるでしょ。そのクチだな。

【角田】要は受かりゃいいんだもんね。

【加藤】そう。それは上司との関係も同じで、「お前、これスルーしやがったけど、こっちがこれだけできてるならしょうがねえな」みたいな、「トータルでは合格」っていう塩梅でいいじゃない、と思ったりする。

【角田】仕事もそうだし、人間関係も「どうスルーするか」って大きいよね。恋愛もそうかもしれない。どう相手の嫌なところを説明しないで済ませるかって大事だもんね。

【加藤】それこそ社交の技術だよ。

【角田】僕、社交苦手だから多分ダメなんだね。

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角田 陽一郎(かくた・よういちろう)
バラエティプロデューサー
1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組を担当。2016年にTBSテレビを退社し、独立。著書に『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』(ぴあ)、『「好きなことだけやって生きていく」という提案』(アスコム)などがある。

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加藤 昌治(かとう・まさはる)
作家
広告会社勤務。大阪府出身。千葉県立千葉高等学校卒。1994年大手広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス、2003年)、『発想法の使い方』(日経文庫、2015年)、『チームで考える「アイデア会議」考具応用編』(CCCメディアハウス、2017年)、『アイデアはどこからやってくるのか 考具基礎編』(CCCメディアハウス、2017年)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社、2012年)がある。

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(バラエティプロデューサー 角田 陽一郎、作家 加藤 昌治)

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