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「コロナ前は元気だったタイプが相談に来る」産業医が見たメンタルヘルスの異変

プレジデントオンライン / 2021年9月17日 12時15分

2021年8月20日、週末の渋谷を走る「緊急事態宣言発令中」と書かれた東京都の宣伝カー。国内では20日、新たに2万5876人の新型コロナウイルス感染者が確認され、3日連続で過去最多となった。東京都では5405人の感染が判明、年代別では20代が最多 - 写真=時事通信フォト

日本で最初に新型コロナウイルスの患者が確認されてから、1年半以上が経つ。我慢の多い生活のなかでメンタル不調を防ぐにはどうすればいいのか。産業医の池井佑丞さんは「企業側の健康管理が求められるのはもちろんだが、個人個人が対策することも大切だ。ポイントは5つある」という――。

■「対人関係」のストレス反応が減っている

2020年1月に新型コロナウイルス感染症の患者の発生が日本で確認されてから約1年半が経ちました。緊急事態宣言やまん延防止措置などさまざまな対策がとられていますが、感染は第5波となり、留まるところを知りません。コロナ禍により外出・帰省・会食などで自粛が求められ、我慢の多い生活を送っている方もたくさんいらっしゃると思います。

企業においては、前回のお話(「テレワーク→メンタル不調→退職」になる社員が最も恐れていること)のテーマにもなったテレワーク化が進んでおり、これは働く人々に好悪両方の影響を与えています。

例えば、ある企業(従業員数1800名)の2019年と2020年のストレスチェック結果を比較したデータを見てみますと、ストレス反応が全体として「低下した」という結果が出ています。具体的には、ストレス反応項目の変化として「イライラ感」や「疲労感」をもつ人の割合が減少しており、ストレス原因項目の変化としては「対人関係」が大きく減少傾向にあります(リクルートワークス研究所・HRデータラボ共同研究「コロナ下で、仕事のストレスは高まったか―ストレスチェックのデータを分析する―」坂本貴志)。

厚生労働省が全国の労働者を対象に行った調査でも、「強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄」として「職場の人間関係の問題」が最も多く挙げられており(厚生労働省「平成24年 労働者健康状況調査 結果の概要」※平成24年調査をもって廃止)、人間関係がメンタルヘルス不調に大きく影響をもたらすこと、コロナ禍で人と人との接触の機会が減ったことによりストレス要因が減り、多くの人のメンタルヘルスが改善したことが考えられます。

■コロナ以前には相談のなかった人が来る

一方で、私の産業医活動の中では、コロナ以前には特に相談のなかった人との面談の機会が増えた印象があります。今年に入ってから産業医を対象に行われたアンケート(アドバンテッジ リスク マネジメントが実施)でも、コロナ以降「予定外の追加業務が発生した」と答えた産業医は6割以上に上り、その追加業務の内容は、コロナの影響に伴うメンタル・フィジカル対応や休職者対応が多くを占めたといいます。また、訪問先企業における健康課題として最も多いのは、「メンタル不調者等への対応」だという結果となりました。

また、広島市が行ったアンケート調査では、「新型コロナウイルスの流行により憂うつになることが増えた」と回答した方の割合が、男性では39.1%、女性は55.5%という結果も出ています(広島市こころの健康に関するアンケート)。

■セルフケアには5つのポイントがある

テレワーク等の影響で人間関係や業務上のストレスが軽減した人もいますが、一部の人達はこれまでにない不安や憂うつな気分を感じ、結果メンタル不調のリスクを抱えています。企業側での健康管理やケアが求められるのはもちろんですが、個人個人が意識して対策をしていくことも重要です。

コロナ禍において必要なセルフケアには、5つのポイントがあります。

(1)規則正しい生活を心がける。

新しい生活様式やテレワークなどにより生活リズムが乱れた経験がある方もいるかと思います。生活リズムが不規則になると、体内時計が狂い、睡眠の質が低下したり、メンタル不調を起こしたりする原因となります。平日、休日を問わず毎朝決まった時間に起き、日の光を浴びるようにしましょう。朝日を浴びると体内時計がリセットされ、体は活動状態となります。

寝つけない人
写真=iStock.com/yanyong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yanyong

メンタル不調者の中には「夜眠れない」といった症状が出ることがありますが、話を聞いてみると、夜遅くまでゲームをしている方や動画を見ている方も多くいます。スマホやコンピューターが放つブルーライトは、睡眠に不可欠なメラトニンというホルモンを減らしてしまいます。夜しっかり眠るためには、眠る時間前から画面を見ることを避けるようにしましょう。

■週3回、汗ばむ程度の運動をするといい

(2)運動習慣を意識する

男女1000名を対象に行われたある調査では、新型コロナウイルスの流行により「運動不足だと感じるようになった」人は過半数の53.4%にものぼりました(第一生命経済研究所「新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査(後編)」)。

3密を避けてのジョギングや散歩が可能であれば、意識的に取り組みましょう。少し汗ばむ位の強度で週に3回程度は行うことをお勧めします。外で運動がしづらい場合には掃除や模様替えなどの家事で体を動かしたり、最近ではインターネットで「自宅でできる運動」などもたくさんアップされていますので、自分に合いそうなものを取り入れてみたりするのも一手でしょう。

■「一人暮らし」「家族と一緒」それぞれに工夫が必要

(3)コミュニケーションを工夫する

序盤で新型コロナウイルスの流行により人間関係のストレスが減少した人もいる、とお伝えしましたように、緊急事態宣言下では人との接触を8割減らすことが重要とされ、実際に人と人との対面接触の機会が減りました。

ストレスが減る方もいる反面、一人暮らしでテレワークをしている方などの場合、ほとんど他人と関わることがなくなるため、心身ともに孤立しやすくなっています。自分の考えや思いを他人に伝え、話すことはストレスの解消に役立ちます。ビデオ通話やチャットツールなどを活用し、支えとなる人とのコミュニケーションを意識して保つようにしましょう。

スマートフォンを操作する人
写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FilippoBacci

一方、家族がいる方の場合には、一緒にいる時間が増えたことで家庭内におけるストレスが溜まっている、といった声もよく聞きます。「コロナ離婚」「コロナ虐待」などの言葉があるように、職場内ではなく家庭内で問題が生じているケースがあります。

人間ですから、自粛や不要不急の程度について、価値観が異なることもあります。大切なのは、相手の言葉に耳を傾け、価値観のずれのすり合わせをするなど相手を思いやることです。距離が必要な場合もありますので、それぞれの楽しみを見つけるなどしてもよいでしょう。

■簡単にリラックスができる「呼吸法」のコツ

(4)ストレスへの対処法を身につける

感染症流⾏下やそれに伴う⽣活の変化が⽣じた際には、恐怖や不安、上述のようなストレスを感じることは⾃然な反応であり、生じたストレスとうまく付き合っていくことが⼤切です。

自分が楽しめる活動を行う時間や、リラックスできる時間を積極的にもつようにしましょう。

簡単なリラックスの方法として、呼吸法があります。腹式呼吸で、全身の筋肉を緩ませることで、副交感神経が優位となり、体はリラックス状態になります。お腹に手を当て、口から息をゆっくりと吐きましょう。息を吐きだしたら、今度は鼻から息をゆっくりと吸います。息を吐くときにはお腹がぺたんこになるまで吐き切ることを意識しましょう。

■「仕事が手につかない」が続くなら無理せず相談

(5)不調が続くときには相談を

メンタル不調で仕事や生活にひどく影響が出てしまってからでは、その修復に時間やエネルギーを要します。ここまでの4つのポイントを試しても、「眠れない」「仕事が手につかない」「よくミスをしてしまう」など心身の不調を感じたら無理をせず、産業医などの会社の窓口に相談をしましょう。会社に窓口がない場合には、厚生労働省が管理している「こころの耳」ポータルサイトにて電話・メールでの相談も可能です。

悩んでいる人
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

ここまでセルフケアについてお伝えしてきましたが、メンタル不調は本人だけでは気づくことができない場合もあります。さらに、ストレスを抱え込みやすい人は真面目で責任感が強いことが多く、自覚していても自分からは相談へつながりづらい傾向が見られます。

■様子がおかしい「同僚・部下」への2つの質問

同僚や部下に関して、「最近元気がないような気がする」とか「何かいつもと違うな」というふうに感じるケースはよくあると思います。そんな時には、あなたから次の2つの質問をしてみてください。

(I)「よく眠れている?」
(II)「休みはどんなことをしていた?」

(I)の「よく眠れている?」については、メンタル不調者のうち90%が睡眠障害を持っていると言われます。質問の際には、睡眠時間が十分に取れているかに加え、日中の眠気がないか、朝起きた際に疲れが残っていないかなどについても聞けるとよいでしょう。

(II)の「休みはどんなことをしていた?」については、メンタルが弱っていると、以前好きだったことに対して興味を無くしてしまうことが多く見られます。「興味の喪失」はうつ病の診断基準の1つであり、これに「憂うつ」がプラスされると、うつ病と診断される確率はかなり高くなります。

上記の2つは日常会話の中で無理なく聞きやすい事柄でもあると思います。会話を通じて不調を察知した場合には、速やかに会社の窓口や医療機関への誘導を行うことを心がけてください。

メンタル不調は早く見つけることによって早期回復できるケースが多くあります。

セルフケアの方法を知り実践することはもちろん、周囲にも目を向け、メンタル不調かな? と思った相手にはぜひ声かけを行ってください。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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