「菅首相は自民党の救世主だった」総裁選が話題になるほど自民党の支持率が上がるという皮肉
プレジデントオンライン / 2021年9月8日 15時15分
■自民党の支持が飛躍的に伸び、野党は停滞している
自民党総裁の座をめぐり連日サプライズが続く自民党劇場。その中で立憲民主党ら野党は、すっかり霞んでしまっている。1週間前には政権交代を目指して鼻息が荒かったのだが、随分雰囲気は変わってしまった。背景には、テレビを中心としたメディアの報道が、総裁選一色になっていることが原因でもある。
9月5日夜から6日にかけて、マスコミ各社は菅義偉首相の辞任表明を受けて行った緊急世論調査結果を発表した。共同通信社の調査では、次の首相に「誰がふさわしいか」の設問で、河野太郎行革担当相が31.9%で1位、石破茂元幹事長が26.6%で2位、岸田文雄前政調会長が18.8%。他のメディアも、概ね同様の傾向が出ており、テレビ番組ではそのデータをもとに政治記者や評論家が29日に行われる総裁選の行方を語り合っている。
一連の世論調査では、ほとんど報道されないものの「次の首相」に勝るとも劣らない衝撃的なデータが出ていた。それは政党支持率だ。共同通信社のデータでは自民党支持率は46.0%で前月よりも6.5ポイント増えた。立憲民主党は12.3%で、前月比0.7ポイント微増。他の政党は低調だった。自民党の支持が飛躍的に伸び、野党は停滞しているのだ。
■「河野首相なら自民300議席」のささやきも漏れる
「やはり、自民党総裁選に話題を取られて埋没してしまった」
野党各党からは、ため息が漏れる。
立憲民主党は衆院選に向けたポスターのコピーを「変えよう。」と、政権交代を強く意識した内容にした。枝野幸男代表は1日の段階ではメディアの取材に「単独過半数を目指す」と語っている。菅氏が総裁選不出馬を表明した2日前の話だ。自民党が最も迷走していた次期で、立民の「単独過半数」は難しいとしても、相当議席を増やすとの見方が有力だった。
状況は一変した。菅氏が3日、次の総裁選への不出馬を表明すると、メディアは新型コロナウイルスや、東京パラリンピックのニュースを脇に追いやり、自民党報道一色となっている。結果として野党は忘れ去られた存在になってしまっている。立憲民主党内では「最悪の展開。今のままなら自民党の圧勝を許すことになる」という危機感が漏れてくる。
実際、報道各社の中では「国民、特に若者から人気がある河野氏が首相になれば自民党は衆院選で300議席取るのでは」という見方さえ出ている。
■菅氏退陣を想定していなかった野党の戦略ミス
野党は明らかな戦略ミスを犯した。とにかく敵は菅義偉首相と決めつけ、対策を練ってきたからだ。菅氏は、新型コロナ対策は後手後手となり、しかも臨時国会を開かずに衆院解散を模索するなど突っ込みどころ満載だった。立憲民主党ら野党各党は、菅氏を攻めることで浮上するつもりでいた。菅氏が衆院選直前で退場することなど想定していなかったのだ。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/2/670/img_0233cc41b83f66efaed41e5f8604cdda755818.jpg)
野党勢力にとってやっかいなのは、ポスト菅候補に挙がっている顔ぶれだ。今、本命に浮上しつつある河野氏は、政治信条として「脱原発」を掲げ、税金の無駄遣いに切り込む姿勢をみせている。これは野党の政策と、まるかぶりである。
岸田氏は、自民党内ではハト派で、穏やかな性格が売り。安倍政権の時のような強権的な政権運営はとらないだろうから、野党からは攻めづらい。今回は総裁選不出馬となる可能性が高まっている石破氏も、若手時代、野党・新進党などに籍を置いていたことがあり、玄葉光一郎氏ら野党幹部らとは今も親交がある。いずれにしても菅氏と比べて、戦いにくいのだ。
菅氏の突然の退場は予見できなかったとしても、衆院選の前後には自民党総裁選は政治日程に上がっていたのだから、「石破首相なら」「岸田首相なら」ということは想定してある程度戦略を練っておく必要があったのだが、それができていなかった。
■過去にも衆院選直前で急失速した「民主党」の詰めの甘さ
これまでの歴史をみると、選挙直前は野党が政権交代する可能性が十分あるとみられながら、結果として大敗した例は何度もある。
最近で言えば2017年の衆院選。9月に安倍晋三首相が衆院解散を決断するのを待つように小池百合子都知事が希望の党を結党。28日に解散したころ、安倍氏らは「小池旋風」に青ざめ、政権転落も覚悟した。ところがその後、小池氏の「排除」発言などで希望の党は急失速。結果として自民党が勝ったことは記憶に新しい。
2005年の「郵政選挙」では、小泉純一郎首相が解散に踏み切った直後は、自民党が事実上の分裂選挙となったこともあって、野党民主党内には政権奪取も可能との見方が広がった。当時、民主党で選挙を実質的に仕切っていた小沢一郎氏は「解散に追い込んだ」と上機嫌に語っていたものだ。ところが、その後、郵政民営化の是非を「国民に聞いてみたい」と呼びかけた小泉氏が圧倒的な支持を受けて自民党は大勝する。
党がピンチとなった時、なりふり構わず権力を死守しようとする自民党の執念を感じるが、言い換えれば野党側の経験不足、詰めの甘さが露呈したともいえる。
■舛添要一氏「やはり菅義偉は、自民党の救世主である」
テレビを中心としたマスコミが総裁選報道をながし続けることにも責任はある。自民党総裁選は、首相を決める選挙ではあるが、形式的には1政党の党首選だ。だから公職選挙法の縛りが事実上ないため、政党、候補者の公平性に配慮する必要がない。つまり「面白い」ものに集中して報道すればいいのだ。
![報道カメラ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/b/670/img_fb0a2eec50710bc6b7408fd9fd0ff4ea453758.jpg)
自民党に批判的な論調が多いことで知られるTBS系の「サンデーモーニング」では5日、コメンテーターの青木理氏が「コロナの状況は全然よくなっていないのに。テレビメディア中心にメディアも報道も政局一色になってしまっている」と指摘。テレビの報道が、自民党を利していることに警鐘を鳴らした。
また元東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏は6日、ツイッターで「菅首相の退陣表明で、マスコミや世間は自民党総裁選一色になり、野党の存在感はなくなった。やはり菅義偉は、自民党の救世主である」との見方を示した。皮肉なことに、国民の支持を得られなかった菅首相が退陣したことで、自民党は勢いを取り戻しつつある。
■野党は政権交代どころか、想定外の大苦戦を強いられそう
立憲民主などの野党は8日、市民グループと国会内で会合を開き、消費税減税や、原発のない脱炭素社会の追求などを盛り込んだ次期衆院選に向けた「共通政策」に合意した。
また枝野氏は7日の記者会見で、政権交代を達成した時の政権公約を発表した。コロナ対応に加えて、①日本学術会議会員への任命を拒否された学者の任命、②出入国在留管理局の施設で亡くなったスリランカ人の監視カメラ映像を公開、③森友学園、加計学園、「桜を見る会」などの真相解明チームの設置、④「赤木ファイル」関連文書の開示―など7項目。立憲民主党が昨年来訴え続けてきた安倍・菅政権下の問題点を羅列しただけの印象で、新味は乏しい。何よりも「政権交代」の現実味が心許なくなる中、「政権公約」と言われても国民に届きにくいちうのが実情だ。
野党が次々に政策を発表していくのは、与党との違いを鮮明にして選挙協力をさらに強化するのが狙いだが、少しでもニュースを発信し、報道で取り上げられようという思いも透けてみえる。しかし提言する政策にインパクトがなければ、決して大きなニュースにはならない。
このまま総選挙に突入すれば、野党は政権交代どころか、想定外の大苦戦を強いられることになりそうだ。
(永田町コンフィデンシャル)
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