ワイン好きのベンチャー社長が「気づいたらお酒をやめていた」意外すぎる理由
プレジデントオンライン / 2021年9月16日 9時15分
※本稿は、佐渡島庸平『観察力の鍛え方』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■人の記憶はいい加減なものだと思ったほうがいい
仮説を作るための3つ目の方法は、データに当たる、だ。
「今年は暑いねぇ」と何気なく挨拶をする人がいる。僕は、こういう言葉に出くわすと、立ち止まってしまう。「今日は暑い」は事実としてすぐに確認できるが、「今年は暑い」は、データと照らし合わせないと確認できない。
そもそも人の記憶とは、妄想と変わらないくらいにいい加減なものだと思ったほうがいい。人は、「その場で見たから、覚えている」と考えがちだが、実際に正しく見ていたかはわからない。記憶は、保存しているうちに歪んでいく。仮説を立てるときに、記憶に頼ることはお勧めできない。
そこで、統計データがあるものはデータに当たるのだ。
■データを毎晩見ていたら、お酒を飲むのをやめていた
データから仮説を立てて、実行するプロセスを、僕の日常の一コマから紹介する。
僕はFitbitという心拍数を測るスマートウォッチをここ数年つけている。Fitbitのデータを毎晩見ていて、仮説検証を繰り返していたら、お酒を飲むのを自然とやめていた。「コルク」という社名をつけるくらい、ワインも大好きだったというのに。
どんなプロセスだったのか。
Fitbitでは、安静時心拍数と睡眠スコアが出る。データを見ていると、不規則に安静時心拍数が高くて、睡眠スコアが低い日がある。共通していたのは、飲酒だった。飲酒が、睡眠の質を下げている。
それを知り、食事のはじめだけお酒を飲み、後半は控えるようにしたり、飲んだ日は長めに風呂に入ったり、寝る前にたくさんの水を飲んだり、様々な仮説を実行した。飲酒しても、いい睡眠ができる方法をたくさん試した。だが結局、何を試してもダメだった。最終的にお酒を飲むのがいけないという結論に達し、お酒をやめたら数値が一気に改善した。
■「どうするとより幸せになれるか?」から始まった
それでも、お酒が大好きだったので、東京ではお酒を控えるけれど、地方では好きに飲んでいい、というルールにしていたのだが、気がついたら、お酒に弱い体になり、地方でも飲まなくなり、完全にお酒をやめるようになってしまった。ここにお酒をやめようという意思はどこにも介在せず、気づけば、お酒を体が受けつけなくなっていた。毎日データを見て、試行錯誤していたら、予想もしていなかった、ずいぶん遠いところへやってきた。
データをもとに仮説を立てる中で、もともともっている大きな問いが更新されることもある。仮説づくりの一番はじめは、「どうするとより幸せになれるか?」という「問い」だった。そこから、睡眠のデータを「観察」することを始めた。もともとは、「充実した日中を過ごすと、良い睡眠を得られるのではないか」という仮説をもっていた。だから、日中はやりたいことをたくさん詰め込んでいた。そうすれば、疲れ果てて眠るからだ。
■睡眠を起点に、生活を全て組み直した
しかし、データと毎日向き合っているうちに、僕の中で、真逆の仮説が生まれた。
「良い睡眠があると、日中を充実させられるのではないか?」
今は、この仮説をもとにスケジュールを組んでいる。東京と福岡の2拠点生活を行っているので、朝に飛行機で移動するため、6時に起きる日がある。いい睡眠のためには、起床時間を変更しないほうがいい。これまでは、7時に起きていたのだが、最後の打ち合わせの時間を1時間早め、移動しない日も6時起きにした。そして、午前中に散歩やランニングをして、適度な疲労を感じられるようにした。睡眠を起点に、生活を全て組み直した。
![秋の日の出とともにランニング](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/d/670/img_ad76602d47304e111d646ed7126b8e07443291.jpg)
結果は、長期的にみないとわからないが、今のところ、非常にうまくいっていると感じている。
データから仮説を作ったり、更新したりする方法はとても有効だ。だが、データを客観的に眺めようとしすぎると、仮説が思いつかない。僕の事例のように、「より幸せになるために、睡眠を使いたい!」というような「欲望」をもちながら、データをみると仮説が生まれる。思いついた仮説とデータを見比べるときには、客観的になる必要があるが、仮説を作るときには、思いっきり主観的になるほうがいい。
観察力を鍛えるには、客観と主観、具体と抽象を、適切なタイミングで行き来する必要があり、その切り替えのタイミングを理解していくのが、観察力を上げる肝とも言える。
■欲望を通してデータを見ることで仮説が生まれる
欲望を通して、主観的にデータをみているときに、仮説が生まれる。
ノンフィクションであり、映画にもなった『マネーボール』の主人公ビリー・ビーンは、データを用いて球団を強くした。貧乏球団だったオークランド・アスレチックスは、彼の手腕でプレーオフ常連の強豪チームに変貌した。データを使ったことが注目されるが、勝ちたいという強い欲望が、データをもとにした仮説と観察のサイクルを生み出したのだ。
どの球団も、同じように勝ちたいと強い欲望をもっていたのかもしれない。しかし、どの球団も同じ問いに向き合っていた。
「どうすれば勝てるのか?」だ。
「たくさんヒットを打つバッターと、点をとられないピッチャーがいるチームを作ればいい」
↓
「どうすればそのようないい選手を揃えられるのか?」
↓
「スカウトか、ドラフトか」
というような感じで、同じ思考サイクルに陥っていた。
![球場のライン上にあるボール](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/7/670/img_6746aa6caf6597d3d99a87c83167ed27286102.jpg)
■野球界の常識にとらわれないデータの見方ができた
一方、ビリーは「どうすれば年俸が安い選手で勝てるのか?」を考えた。そして、野球を「ヒットを打って、点をとられないようにして勝つ競技」ではなく、「27個のアウトをとられるまでは終わらない競技」と定義づけた。
この仮説をもとに、球界にあるデータを見直した。ビリーの主観が、すでにあるデータの見方を変えたのだ。
それまでの球界の常識では、フォアボールよりもヒットのほうが重視されていて、打率の高い選手が高い年俸をもらっていた。だが、点をとるために必要なのは相手にアウトを与えないこと。その視点で見ると、ヒットとフォアボールの価値は同じだ。
こうして、アスレチックスはヒットを打つ選手でなく、出塁率の高い選手を、安い人件費で集めて、強豪へと生まれ変わった。
ビリーはそれまでの野球界の常識にとらわれなかった。「どうすればアウトをとられないか?」という主観からデータを眺めた。だからこそ、独自の仮説を立て、観察をし、データの価値を再発見するというサイクルに入ることができたのだ。自身の会社でもデータを集めることを僕は重視している。売り上げや利益といった指標だけではなく、もっと社員が働きやすくなるための仮説を立てるもとになるデータはなんだろうか、と考えている。
■Slackの行動履歴を分析し、社内の状態を見える化
コルクは、コロナをきっかけに完全リモートワークに切り替えた。オフィスが快適であるために工夫をするように、オンラインの業務を快適にするためにはどうすればいいだろう。オンラインであっても、コミュニケーションを活発にして、社員が仲良くなれる会社にしたい。そんな欲望をもち、データを集めることにした。データの収集は、ベンチャー企業リバネスに依頼をした。
![佐渡島庸平『観察力の鍛え方』(SB新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/9/200/img_49b04549343470657924c5f13fc2e16b144912.jpg)
リモートワークになり、使うツールはZoom、Slack、Notionなど多岐にわたる。その中でも中心的で比較的分析がしやすい、Slackのデータを集めた。Slackへの投稿頻度が下がっていることは、何を意味するのか。Slackへの投稿頻度の高さと、チームの成績には相関があるのか。そんなふうに問いを立てて、Slackの行動履歴を分析し、社内の状態を見える化した。
まず明確になったのは、社員ごとのSlackの利用傾向だ。それぞれが家族の事情で、多様な働き方をしていることを、理解はしていた。でも、はっきりとデータで見ると、誰がどのように働いているか、想像しやすくなった。
■社員のエンゲージメントスコアが改善した
たとえば、子育て中のあるメンバーは、夜の18時〜21時の時間帯はSlackを一切触らない。一方で、土日も深夜もおかまいなしに投稿するメンバーもいる。データを見ることで、メンバー間で話し合いが発生した。そして、ある部署では、Slackのデータをもとに、どういう働き方をしたいかを改めて各自が考え、「自分のコアタイムはこの時間」と互いに宣言することにした。コアタイム以外の時間は、相手からの返信をそもそも期待しないようにする。
そのような工夫によって、毎月測っている社員のエンゲージメントスコアが改善した。働きやすくなったと感じたメンバーが増えた。リアルなオフィスであれば、社員と接しながら、今の会社の状況を推測して、施策を決める。だが、リモートワークだとデータしか見られない。全ての社員同士のやりとりを確認することは物理的に無理なので、データから仮説を立てて、施策を決める。データという抽象から具体を観察して、仮説を立てるのだ。
----------
コルク社長、編集者
1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、灘高校に進学。2002年に東京大学文学部を卒業後、講談社に入社し、「モーニング」編集部で井上雄彦『バガボンド』、 安野モヨコ『さくらん』のサブ担当を務める。03年に三田紀房『ドラゴン桜』を立ち上げ。 小山宙哉『宇宙兄弟』もTVアニメ、映画実写化を実現する。伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など小説も担当。12年10月、講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社・コルクを創業。『宇宙兄弟』『インベスターZ』『テンプリズム』『修羅の都』『オチビサン』『マチネの終わりに』『本心』などを担当。インターネット時代のエンターテインメントのあり方を模索し続けている。コルクスタジオで、新人マンガ家たちと縦スクロールで、全世界で読まれるマンガの制作に挑戦中。
----------
(コルク社長、編集者 佐渡島 庸平)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
安いけど“使える”「スマートウォッチ」おすすめ4選 1万円台以内の高コスパモデルをチェック!【2024年6月版】
Fav-Log by ITmedia / 2024年6月22日 18時15分
-
ベルシステム24、気圧予報に基づく体調管理アプリ「頭痛ーる」へ「Fitbit」のヘルスケアデータ連携による新機能を追加
PR TIMES / 2024年6月11日 12時15分
-
会議でいきなり「どうしたらいいと思う?」と聞かれたら…即答できない質問へのうまい切り返しフレーズ
プレジデントオンライン / 2024年6月10日 10時15分
-
「無職の父は廃棄された原付バイクの廃油を飲んだ」母は不倫、兄は万引き補導され…中1弟が見た"本当の地獄"
プレジデントオンライン / 2024年6月1日 10時15分
-
「座らない経営」を展開する運動機会創造企業の株式会社リィ、ヘルステックを活用した新サービス「DOKIDOKIポイント(β版)」リリース
PR TIMES / 2024年5月30日 11時45分
ランキング
-
1なぜワークマンは「ランドセル」市場に参入したのか こだわりは「8800円」と「防弾チョッキ」
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年6月22日 8時10分
-
2空港の作業車両をEV化で実証実験…国交省「脱炭素化遅れると就航地に選ばれない」
読売新聞 / 2024年6月22日 22時30分
-
3セブン‐イレブンの接客コンテストで頂点に立ったのはベトナムの外国人従業員
食品新聞 / 2024年6月22日 16時40分
-
4「あえて非正規」増加 ウラに潜む“由々しき問題”とは?
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年6月23日 7時30分
-
5AIだけじゃない!予告された「iPhone」進化の中身 秋からもっと「自由」に、来年はもっと「便利」になる
東洋経済オンライン / 2024年6月22日 12時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)