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浜田宏一「夫婦別姓を認めない最高裁判所は男ばかりという大問題」

プレジデントオンライン / 2021年9月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbazon

■トランプ当選は白人の「最後の抵抗」

米国国勢調査によると、黒人、ヒスパニック、アジア人などの非白人の国民に占める人口割合が過半数を超えると推定される。すでに新生児における非白人の比率が50%を超えており、2043年になると全人口比率でも同じことが起こる。共和党の選挙地盤は白人層にあるので、共和党にとっては苦しい見通しである。

トランプ大統領の選挙敗退後、共和党が、政策で民主党と争うよりも、各州の選挙ルールを共和党の都合のいいように変更しようとする不公正な動きが強くなっているのも、このような不安の表れであろう。

その意味で、元国連事務次長の明石康氏が、16年11月にトランプ氏の大統領当選確実の報が東京に伝えられたときに述べた言葉が思い出される。

「これが米国白人の最後の抵抗です」

それにしても、トランプ氏は20年の選挙でも、バイデン大統領の51.3%に対して、46.8%の票を獲得して、底堅い動きを示した。内政、外交でも国民のためというより露骨に自己の利益のために勝手な政策を繰り返したトランプ大統領に対して、これだけの票が集まった理由には、彼のカリスマ的な人気もある。しかし基本的には、これから多数派でなくなる白人など、現在の人種差別で利益を受けている人々が、現状を維持、つまり差別を維持する政権に投票しているのだと考えられる。

アメリカでも一部のトランプ支持の機関を除くテレビ、新聞などでは、歴史は人種平等へと進むものであるかのように説く。しかしその過程は、今までに特権を握っていたものが抵抗するので一直線ではない。

つまり平等への動きが正しく、そうでなければ歴史の巻き戻しであるかのように報道されるが、これから少数派になると予想されるグループは、自己の利益を守るため、この流れを押しとどめるためにあらゆる策を講じ始める。例えば、フォックス・テレビなどの限られた、しかし熱烈なトランプ支持者のいる報道機関を通じて、差別することで受けている利益を守るために、必死で歴史の流れに抵抗しようとする。

そもそもアメリカは移民によって成立した国であり、人種問題とは実は昔到着した移民が、最近来た(ないし将来来る)移民を排斥することにほかならない。

それに比べると、日本は島国で、自然立地がある程度、日本を外国からの侵略から守ってくれてきた。人種的にも比較的斉一な日本人は、外国からかなり独立して生活してきた民族である。そこで日本は、アメリカの人種差別を対岸の火事のように傍観する傾向にある。

しかし、確かに日本には深刻な人種差別問題はないが、男女性差別の問題がある。明石氏からトランプ勝利の意味を伺ったランチの場所は、奇しくも当時男性以外の正会員を認めないクラブであった。

■夫婦別姓を認めない最高裁は男ばかり

ここで、なぜ男女差別問題の解決が必要かをまず考えてみよう。

人間として、女性として生まれてきた本人にとっては、平等な取り扱いを受けるのは生きがいのある人生を送るために当然のことである。

社会全体から見ても、男性一本やりの考え方でなく、物事の判断に異なった、多様性のある見方が必要である。新型コロナウイルスに対する対応で比較的成功している国・地域に見出されるのは、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン、台湾の蔡英文、ドイツのアンゲラ・メルケルなど、女性の指導者が多いことである。女性のほうが面子にこだわらず、きめ細かい配慮が可能で、温かいコミュニケーションが取れると言われている。女性からの視点が加わり、多様性のある女性の指導力によって、社会に対する新しい視点が良い結果を生むことになるであろう。

さて、21年6月23日の最高裁判所の判決によると、夫婦に法的な別姓を認めない現民法等の規定は、「両性の本質的平等」を定めた憲法24条に違反しないという。姓名の規定は日本の伝統や国民感情などの諸要因を踏まえた総合的判断なので、国会の立法判断に委ねられてよい領域だから、憲法の人権問題ではないというのが多数意見である。

しかし、夫婦が別姓を認められないと、活躍する女性にとっては職業上不便であり、経済的損失も伴う。そのために結婚を控えたりすれば、一層の人間的苦痛も加わる。どう考えてもこの判決はおかしいと思う。

米国共和党の人種差別撤廃への抵抗は、大統領選挙での身分証明や郵送投票を厳しくせよとか、あたかも公平な制限のように見せながら、現在の条件の下では実は黒人の投票を制限するように変えようとするものである。

■醇風美俗を保ちたいという一部老人男性の満足感が失われるだけ

夫婦別姓も男女両性に公平に見えながら、現状でほとんどの夫婦が男子の姓を名乗る状況の下では、活躍する女性に夫婦同姓のしわ寄せがいくという実質的性差別が保たれるだろう。

そして、それを制度として保ちたい中高年の男性の声が、この判決の陰にある――15人の最高裁判事には、中高齢者の男性が圧倒的で、うち女性は2人に限られている。

三浦守、宮崎裕子、宇賀克也、草野耕一の各裁判官も、当然の夫婦別姓を認めない民法の規定は違憲だとして反対意見を表している。中でも草野耕一裁判官は次のように説く。

夫婦同姓は当事者にいろいろ迷惑を及ぼすので、別姓にすれば利益を受ける人は多くある。ところで夫婦別姓にして具体的に経済的その他の不利益を受ける人がいるかというとまずいない。日本の家族制度という醇風美俗を保ちたいという一部老人男性の満足感が失われるだけである。このようなイデオロギーを満足させるために多くの当事者に具体的な不便さや費用を押し付けてよいのか、という趣旨である。

法と経済の専門家のはずの私は、はっと教えられた。

21年の世界経済フォーラムによれば、職場参加の平等、教育の機会、政治参加など様々なデータから総合的に作成したジェンダーギャップ(男女格差)の指数で見ると、世界の156カ国の中で、日本は先進国で最低水準の120番目だという。それももっとものような感が強い。

日本の男女格差は先進国最低レベルのまま ジェンダーギャップ指数

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浜田 宏一(はまだ・こういち)
イェール大学名誉教授
1936年、東京都生まれ。東京大学法学部入学後、同大学経済学部に学士入学。イェール大学でPh.D.を取得。81年東京大学経済学部教授。86年イェール大学経済学部教授。専門は国際金融論、ゲーム理論。2012~20年内閣官房参与。現在、アメリカ・コネチカット州在住。近著に『21世紀の経済政策』(講談社)。

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(イェール大学名誉教授 浜田 宏一)

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