「友人との会話が弾まない」そう悩む人が陥る"会話スキルを高めたい"という無限ループ
プレジデントオンライン / 2021年9月16日 10時15分
※本稿は根本裕幸『なぜ、あなたは他人の目が気になるのか?』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■「いい人をやめる」ためには「鬼畜生になりましょう」
「いい人」になってしまうと、自分らしさ、つまり自分の個性が殺されてしまいます。
「最近は便秘気味だから野菜中心の料理を食べたいな」と思っていても、友達が「やっぱ焼肉だよね!」と言い出したら、「いい人」であるあなたはそれに同意してしまいます。しかも笑顔で。そこでは、身体に気をつかっている自分を押し殺しています。
もちろん自分を喪失している状態ですから楽しくありません。メリットといえば、せいぜい嫌われないで1日過ごせてホッとするだけです。
お伝えしたいのは、「いい人をやめる」というのは幸せになる、人間関係に疲れないための近道です。私はより意図を汲み取っていただきたいがゆえに、強い言葉でこんな提案をします。
「鬼畜生になりましょう」
「不義理、非人情で生きましょう」
その言葉をきれいに言い換えれば、「私は私、他人は他人」です。
■自分より相手を優先するあなたは「幽体離脱中」かも
「相手のことを思って○○してあげたが、それで本当に喜んでもらえるか不安だ。なぜなら、もし喜んでもらえなかったら嫌われてしまうかもしれないからだ」
「どうやら喜んでくれたらしい。良かった。ホッとする。これでひとまず嫌われずにすむ」
「でも、本当に喜んでくれているのだろうか? 態度が怪しく見えてくる。表向き喜んでくれているけれど、内心はそうではないのかもしれない。どうしよう、もしそうだとしたら嫌われてしまうかもしれない」
そして、これが強くなっていくと常に自分よりも相手、という意識が根づいてしまいます。その結果「自分」がいなくなります。「自分」よりも「相手」を優先するあまり、自分がいなくなってしまうのです。
その状態を「幽体離脱」と私は呼んでいます。魂が自分を抜け出して、相手のほうに行ってしまった状態です。こうなると何かしていても自分がいないわけですから、自分がどんな状態なのかなんてまったく気が向かなくなります。
■感情を押し殺してでも相手に合わせる必要はない
「すっごく疲れていたとしても、それを無視して仕事をしてしまうので、終わった後にどっと疲れがくる。家に帰ると寝るだけ。週末も起きられない」
「パーティがすごく苦手。いろんな人がいるので終わった後はどっと疲れてしまう。そして、自分が誰と会って、何を話したか、あまり覚えていない」
「一緒にいて楽しいはずなのに、相手の表情や態度がいつも気になってだんだん一緒にいるのがしんどくなってしまう。会いたいはずなのに、早く1人になりたいと考えてしまう」
人といるときは幽体離脱して相手の意識に注目しています。そのとき、自分が疲れていようが、元気であろうが、しんどかろうが無視されます。そして、その人と離れたとき、離脱していた魂が自分に戻ってきます。すると、幽体離脱していた間に感じていた感情がどっと戻ってきます。だからすごく疲れてしまうのです。
幽体離脱をしてしまうのは、相手との距離感がうまくはかれていないことが原因です。
自分の感情を押し殺してでも、無理に相手に合わせる必要はありません。もちろん、頑なに自分の意見を押し通すべきではありません。譲歩できる部分と絶対に譲れない部分の境界線を引き、それを相手によって使い分けるべきなのです。
ところがこの線を引けず、いつも人間関係に疲れている人は驚くほど多くいます。
■あなたをコミュ障にする「正解主義」
「いい人」は自分を殺しながらコミュニケーションを続ける――。そんなしんどい状況にある人がつい向かってしまうものがあります。それはコミュニケーションの「正解」、つまりコミュニケーションスキルです。
私たちは試験勉強などによって、少なからず「正解を求める」癖がついてしまっています。事実、私のもとには正解を求める質問がたくさん寄せられます。
「こういうときはどう答えたらいいんでしょうか?」
「あのとき、こういうふうに言ったんですけど、間違ってましたか?」
「正解主義」と呼ばれるのですが、人は目の前に問題が立ちはだかると、「正解は1つである」という意識を持ちやすくなるのです。
以前、ある女性がご相談にいらっしゃいました。ピシッとスーツを着て、いかにも仕事ができそうで、きっと異性や同性にとって憧れの存在なんだろうなあ、なんて印象の方でした。事実、英語も操れるし、話も上手で、自分の状況を的確に、そしてわかりやすく表現してくださる聡明な方でした。
ところが、ご相談というのが「人とのコミュニケーションがうまくできない」でした。思わず「え? あなたが?」と聞き直してしまいました。
■「プライベートで何を話していいのかわからない」
お仕事では何百人という人の前で自社製品をプレゼンしたり、取引先に営業さんと同行して新製品のアピールをしたり、そのために海外まで出向いたりして、社内でも「成功してる女性」です。そんな方がなぜ? と思ってしまいました。
よくよく話をうかがってみると、「仕事では全然困らないのだけれど、プライベートになると何を話していいのかわからなくなってしまう」とのこと。
仕事では「何を話すべきか」は明確に提示されています。商品の機能や仕組み、そして、その商品を使うことによるメリット、価格やサービスについて。そして、そのプレゼンの方法もビジネスセミナーやコンサルティングサービスを通じて学ぶことができます。
しかし、そうしたスキルはビジネスにおいては有効でも、プライベートなシーンでは必ずしも役立つとは限りません。
「プライベートでは『これ!』という方法ってないですものね。その場の雰囲気や空気を読んでアドリブで会話するんですものね」と伝えると、「あ、ああ、そうですよね」と彼女。
「つまりは、会話のキャッチボールが苦手ということでしょうか? 質疑応答ではなく……」
「は、はい。そうなんです。何をどう話したらいいのかわからなくなっちゃうんです」
そのときの彼女の態度は、最初に自分の状況を説明してくださったときとは打って変わって別人のようでした。質問に対して一生懸命考えて、どう答えようか思案してから返してくれるのです。
■返答のタイミングが遅ければ不正解になる
私はコミュニケーションの正解は無限にあると思っています。また、一般的にはNGですが、ある条件のもとでは大正解とか、さっきまでは正解だった答えが今は大間違いということもあるのです。
たとえば、女性の皆さんなら次のような体験をされたことがあるんじゃないでしょうか?
彼とのデートの前に髪を切り、イメチェンして待ち合わせ場所に向かいました。けれど、彼は全然気づいてくれません。だんだんイライラしてきて「なんか変わったところない? 気づかないの?」と言ってからようやく「あっ! もしかして髪切った? なんかすっきりしてかわいいね」と彼が気づいたとします。
このとき、あなたは素直に「ありがとう! そうなの! かわいいでしょ!」と言えますか? 彼は一応、正解を出しているんですよね。でも、タイミングが遅かったので不正解です(そもそも彼女が髪を切ったことに気づける男は美容師以外存在しない、という説もありますので、女性の皆さん、あまり期待しないでくださいね)。
■コミュニケーションはケースバイケース
私はよくセミナーで「客イジリ」をすることがあります。それは何度もお会いしている常連様に限るのはもちろんですが、「あれ? こんな天気のいい日にセミナーに来てるの? あ、そうか、日の当たる時間に彼とは会えないんだもんね(笑)」なんてことを言ったりします。
すると彼女は「えー、ひどい! 彼、ドラキュラとかじゃないですからね! このあと会うんですよ!」なんて笑って返してくれたりするんです。
でも、そんな失礼なことを信頼関係がないのに言ってしまったら、バカにしてるだの、嫌味だの、意地悪してるだの、傷ついただの、いろんなことを言われてしまうはずです。
つまりコミュニケーションはケースバイケース。失礼な話やセクハラなテーマも時と場合、相手によってOKになったりします。しかし、いえ、だからこそ、と言うべきかもしれません。
「この場合の正解は?」「相手は自分をどう思っている?」などと、「正解」を求めてしまうのが人間の性。やはりコミュニケーションは難しいものです。
■プレゼンは攻守がはっきりしている野球みたいなもの
コミュニケーションのテクニックは巷に溢れています。中には「こういうときはこうしろ」的なマニュアルもあります。
間違えたくない、失敗したくない、利益を得たい、思いどおりにしたい……、そんな思いがマニュアルに走らせるのでしょう。もちろん、中には本当に役立つケースもあるのですが、そうしたスキルは「1つの基準」に過ぎません。
冒頭の仕事ができる女性の話に戻りましょう。
彼女が身につけたプレゼンの手法というのはいわば、攻守がはっきりしている野球みたいなもの。攻める側と守る側がきちんと区別されてるわけです。まずは一方的に自分の話をし、相手はそれを聞いてくれるという状況にあります。その後、先方から質疑や意見があって、それに応えていくわけです。
そこでは、いかに自分の意見を自分たちに利があるように伝えていくかがポイントになります。つまり、相手ピッチャーの投げるボールをいかに打ち返すか、そしていかにランナーを進めてホームに返すか、ということを攻撃時では考えればいいのです。
■正解やスキルを学ぶ前にまずは自分に自信を
ところが、プライベートのやり取りというのは攻守が目まぐるしく入れ替わるサッカーみたいなもの。攻めていたと思ったら何かのはずみですぐに守りに転じるわけです。
「先日の買い物で得た戦利品」について話していたと思ったら、ある瞬間には「会社の気になる後輩」について話題が変わっていますし、次にどんな話が出てくるかは誰にも予測できません。
野球の技術は野球では通用しますが、サッカーで使おうと思えばおかしなことになってしまいます。同様に、スキルにこだわってしまうと、仕事をするときは役立つけど、プライベートでは話をしても面白くない人になってしまうのですね。たとえある種のスキルを身につけ、成功したとしても、それに執着しないでください。
ビジネスシーンで身につけたスキルをプライベートでも使おうとしたら、人間関係が疎遠になってしまう場合も考えられます。
また、もともと自分に自信がない人の言葉は、それがどんな前向きな言葉であろうと、やはり相手には自信なさげに伝わるものです。正解やスキルを学ぶ前に、まずは自分に自信を持たせることを優先すべきということは、ご理解いただけるはずです。
スキルはあくまで数ある模範解答の1つ。汎用性の低いテンプレートくらいに思っておくのがコミュニケーションの悩みを深くしないためには大切です。
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心理カウンセラー
1972年静岡県浜松市出身。2000年にプロカウンセラーとしてデビューし、延べ1万5000本以上のカウンセリングをこなす。01年、カウンセリングサービス設立に寄与。以来、14年間企画・運営に従事し、03年からは年間100本以上の講座やセミナーをこなす。15年3月に独立。フリーのカウンセラー、講師、作家として活動を始める。著書に『人のために頑張りすぎて疲れた時に読む本』(大和書房)、『敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』『つい「他人軸」になるあなたが7日間で自分らしい生き方を見つける方法』(あさ出版)など著書多数。
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(心理カウンセラー 根本 裕幸)
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