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「米中に2周遅れの日本経済」経営コンサルタントが新政権に期待するたった一つのこと

プレジデントオンライン / 2021年9月10日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tanaonte

コロナ禍からの経済回復は業種により明暗がはっきり出る。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「指標で回復ぶりを見ると日本経済は米中に2周遅れ、欧州に1周遅れ。今後、新政権になっても業種によって二極化の“K字”に切り裂かれ分断される可能性が高い」という――。

■新政権はK字回復の弱い景気を回復させられるか

菅義偉首相が自民党総裁選への不出馬を決め、菅内閣が退陣することとなりました。それを機に新政権への期待から株価は上がりました。ただ、日本経済の実態はワクチン接種の遅れもあり、諸外国と比べて景気回復は非常に弱い状態です。

今夏前には、7~9月期や10~12月期には、景気は欧米並みに回復すると見込んでいたエコノミストたちも多かったのですが、今ではその楽観論もしぼみつつあります。そして全体として弱い回復の中でも製造業はまずまずで非製造業は低迷という「K字」回復の状況をどのように克服していくかが注目です。

「K字」で強いところがより強く(上向き)、厳しいところはさらに落ちていく(下向き)二極化の構図を、全体的に急回復する「V字」にしていくことができるか。

■K字回復の日本経済、強くものはより強く、弱いものはより弱く

まず、K字回復から見ていきましょう。

それが一番表れているのが、7月に発表になった日銀短観(6月調査)でしょう。図表1を見てください。

日銀短観業況判断

これは企業経営者などに3カ月に一度景況感を尋ねているものです。「良い」と答えたパーセントから悪いと答えた人のパーセントを引くものですが、その中間的な答えも認めていて、その数字は除外されます。ですから、2019年9月調査の大企業非製造業の「21」はかなり良い数字ということができます。同月の調査は、10月1日に控えた消費税増税の直前でしたが、製造業は当時でも「5」と、米中摩擦などの影響もあって、ふるわない状況でした。

その後の12月調査は消費税増税後ということになりますが、製造業が「0」まで沈んでいるのに対し、非製造業は「20」を維持し、消費税増税の影響がほとんどなかったことがわかります。飲食業などを中心に人手不足が顕著だったのもこの頃です。

ところが、新型コロナウイルスの蔓延で一変します。

コロナの影響が日本でも色濃く出始めた2020年3月調査では、製造業が「-8」、非製造業が「8」ですが、前回調査からの“落差(下落したポイント)”を見ると、製造業が8ポイントであるのに対し、非製造業は12ポイントも落ちています。

その後、コロナの影響が製造業、非製造業ともに大きく出ますが、2021年に入ると、製造業は3月調査で「5」、6月調査では「14」まで回復しています。景況感的には、コロナ前の状況に戻っています。

一方、非製造業は、6月調査でようやく水面下から浮かび上がりましたが、それでもやっと「1」という状況です。コロナ前の景況感がとてもよかっただけに、その落差は非常に大きく、厳しい状況が続いているのです。

とくに旅行業の回復が大幅に遅れています。

本連載でも何度か旅行業の現状を伝えてきましたが、いまだに厳しい状況が続いています。海外旅行やインバウンドが見込めない中、コロナ前に比べて1割程度の売り上げのところも少なくありません。HISは本社ビルを売却しましたし、航空会社もさらなる固定費の削減を進めようとしています。

度重なる緊急事態制限にしびれを切らせた飲食店の中には、自治体の要請を無視して、深夜まで開店したり、酒類の提供を行ったりしているところも見かけます。とくに中小では、このままでは事業が成り立たないところも少なくないのです。

■米中に2周遅れ、欧州に1周遅れの景気回復

製造業はある程度回復、非製造業はまだ全然ダメというのが、現状の日本の状況ですが、世界の中での日本経済全体の回復度合いを見てみると、心もとないと言わざるをえません。

図表2をご覧ください。コロナが蔓延し始めてからの各国の実質GDPの成長率です。「実質」はインフレやデフレを調整したという意味です。

各国の実質GDPの成長率

日本、米国、ユーロ圏(ドイツ、フランス、イタリアなど通貨ユーロを使っている17カ国)、中国、台湾、シンガポールの数字を挙げています。

2020年1~3月期は、各国に少しコロナの影響が出始めた頃です。震源地である中国は、前年比で6.8%のマイナスですが、台湾以外は、マイナスです。とくにユーロ圏や英国が2ケタのマイナスです(中国以外は、全四半期比の年率換算)。

それが4~6月期には、非常に大きなマイナスとなりました。日本と米国は年率で前四半期に比べて30%前後のマイナス、影響の大きかったユーロ圏や英国ではさらに大きなマイナスとなっています。

一方、その時期、台湾はプラス、シンガポールは日本や欧米諸国に比べればマイナス幅は少なく済んでおり、震源地の中国は前年比でプラス成長を確保しています。

そして、注目は、その後の推移です。今年の4-6月期まで、中国は5四半期、米国は4四半期連続のプラス成長、感染対策がうまくいっていた台湾はその前からのプラス成長を維持しました。

一方、苦労したのは、日本やユーロ圏、イギリスです。感染の蔓延が大きな原因で、前四半期との比較ですから、2020年7~9月期こそ4~6月期の大きな落ち込みの反動で、プラスを確保しましたが、その後は、低調な成長となりました。シンガポールも低迷しました。

■2021年4~6月は成長率の差が鮮明に

今見たように、台湾は経済を失速させることがなく、米国、中国はいったん落ち込んだものの比較的力強く回復した一方、日本、欧州、シンガポールは回復が遅れていましたが、今年4~6月期の成長では大きな差がついています。

各国とも、かなりの成長率を確保したものの、日本だけが成長率が1.9%(改定値)と大きく回復が出遅れています。米国は6%台、中国(前年比)、台湾は7%台の成長です。

日本同様、1~3月期までは低迷していたユーロ圏も、プラス8.2%の成長です。表にはありませんが、ドイツ、フランス、イタリアは、それぞれ、6.7%、3.8%、11.1%と高い成長をしています。シンガポールも14.7%の成長です。

日本の低迷は、かなりの部分、ワクチン接種が遅れたことが原因です。そして、接種が十分に進まない中で、デルタ株が蔓延し、日本では第5波が襲い、これまでなかった感染者数を経験しているのが現状です。そして、緊急事態宣言が続いています。

肌感覚の景況感を表す「街角景気」は7月までは何とか回復基調だったのですが、8月は大きく落ち込みました。

周回遅れの日本経済が欧米並みに回復できればいいのですが、米国経済にもピークアウト説が出るなど、予断を許さない状況です。また、デルタ株に代わる変異株も出てくる可能性があり、日本経済が回復しないままの可能性もないわけではありません。こうした中、菅内閣が退陣ということになったわけです。

■日銀が何もできないことが今後はさらに目立つようになる

新政権には、ぜひとも景気対策に期待したいところです。その中では、欧米と同様に、ワクチンを2度接種済みの人たちに対しては、県をまたいだ移動や飲酒をともなう外食を自由にすることなどが盛り込まれることを、経営コンサルタントとして企業を見ている側の人間としては、切に希望したいところです。

もちろん、感染対策は今まで通りに、個人や企業レベルで万全を期さないといけないことは言うまでもありません。

こうした中、期待薄なのが日銀です。効果を期待できるこれ以上の金融緩和はほとんど不可能ななかで、米国は金融緩和の削減、いわゆる「テーパリング」を年内にも始める予定です。

日銀外観
写真=iStock.com/Manakin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Manakin

米国の8月の非農業部門の雇用者増加数がいまひとつだったこともあり、9月からのテーパリング開始は難しいかもしれませんが、11月か12月には始まるのではないでしょうか。

日銀は緩和からの脱却はかなり難しい上に効果的な新しい政策もほとんどとれないので、中央銀行の動きの差がさらに鮮明になることが懸念され、この面での景気への援護射撃は期待薄です。新政権がどのような景気対策を打ち出すのかに注目です。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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