「おたくの商品、見たことも聞いたこともない」そう言われて喜ぶ社長の納得の理由
プレジデントオンライン / 2021年9月18日 11時15分
※本稿は木下勝寿『売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■「行列のできる店」2つのパターン
ブームという点で、「行列のできる店」を考えてみたい。
行列ができている現実を経営的観点で考えてみると、「機会ロス」だ。需要に対応できない=対応できれば取れる売上を上げられていないことになる。
その際、店舗を拡大したり、人を増やしたりして供給量を上げて行列をなくしたらどうなるだろう?
ここで別れ道が待っている。
一つは機会ロスをなくしたことで売上が上がる店。
もう一つは行列がなくなったことで希少価値が下がり、売上が下がる店だ。
同じ行列でも意味が違う。前者は「品質」でできた行列であり、後者は「話題」でできた行列だ。
「なぜこの商品を買ったのですか」「今すごく人気なので」ということはある。
「人気なので」とは「売れているから買う」ので、「なぜ人気になったか」は誰もわからない。それがブームだ。
■品質維持ができないと結局意味がない
話題でできた行列は、供給量を上げるとすぐにダメになる。だから、まずは品質の行列をつくる。その後、行列がなくなるように、品質を維持・向上しながら徐々に供給量を上げていく。
行列のできるラーメン店が多店舗展開して行列がなくなり、メディアに取り上げられなくなっても味がよければ売れ続ける。
多店舗のチェーン展開をしたほうが利益は増える。
話題になることと利益が出ることは別だ。品質勝負で、店舗数を増やしたときにお客様も増えるなら、店舗数を増やしたほうがいい。
希少価値で勝負するなら、席数は少ないままでいい。行列ができたら成功ではない。行列がなくなった後に本当の成功かどうかが決まる。
■プロモーションは目立たないほうがいい
さて、プロモーションには2種類ある(図表1)。
「目立つプロモーション」と「目立たないプロモーション」だ。
目立つプロモーションは、テレビCMやイベントなど、不特定多数の人を対象に「目立つ」「話題になる」ことが目的だ。
目立つプロモーションで、売上が上がらないケースは、自己満足、内輪受け、消費者不在になっている。
一方、売上が上がると、競合に目をつけられ、競争が激しくなり、利益率は下がる。目立つプロモーションは会社にとってメリットがまったくない。テレビCMをたくさん打っても、売上も利益も出ないケースがある。
それに対し、目立たないプロモーションは、ターゲットのみに認知されることが目的だ。
目立たないプロモーションで売上が上がらないケースは、目立たなすぎてターゲットに認知されていないのだ。一方、目立たないプロモーションで売上が上がると、競合が生まれないので永続的に成長できる。目指すべきはココだ。「北の達人」は目立たないプロモーションを行っている。ネット広告は商品ごとにターゲットを絞って出稿する。だから、ターゲットの外には認知されていない。
■“競合を生み出さない”広告戦略
たとえば、若い人でウェブマーケティングに興味のある人は、「北の達人」は知っていても、「北の快適工房」という健康食品、化粧品のブランドについてはほとんど知らない。
また、株主総会のとき、ある年配の男性株主から、「『北の達人』はのびていると聞くけれど、実感がないな。おたくの商品を見たことも聞いたこともない。まだまだだな」と言われたことがある。
それは「ほめ言葉」だ。なぜなら、その人がターゲット外だからだ。「目の下の加齢」に悩んでいない人が、それを解消するクリームを知っていても意味がない。「便秘」に悩んでいない人が、それを解決してくれる健康食品を知っていても意味がない。オリゴ糖の健康食品を扱い始めた頃、お客様はどんな言葉で検索するかを考えた。その際、妊娠した女性は便秘になりやすいが、便秘薬は飲みたくないという情報を得た。強い便秘薬を大量に服用すると、流産を誘発する可能性があるという。そうしたことから便秘にならない体質になりたいと思っている。オリゴ糖は腸内環境をよくし、便秘になりにくい体質に変える。そこで「妊娠」「便秘」と検索すると、当社の広告がヒットするようにした。でも、ターゲット外の人はその商品の存在すら知らない。それは競合が生まれにくいということでもある。
■広告の目的は“利益”を生み出すこと
広告の目的は目立つことではない。利益を生み出すことだ。目立たないプロモーションが一番利益を生む。スキルの低いマーケッターは、目立つプロモーションをやりたがる。なぜならテレビCMなどを指して、「あれは自分がやった」と言いたいからだ。広告代理店は目立つプロモーションをどんどん提案してくる。一時的な売上を上げることしか考えていないからだ。本当にスキルのある人は、目立たないプロモーションで利益を上げることを考えている。
■知名度がなくても実力があれば売れる
今から30年くらい前、学生援護会の『DODA(デューダ)』のテレビCMが大ヒットし、「転職する」=「デューダする」と言われた。『DODA』は転職情報誌の代名詞だった。
しかし実は、『DODA』よりリクルートの転職情報誌『ビーイング』のほうが売上(求人広告掲載費売上)は高かった。当時は『ビーイング』のほうが営業力でまさっていた。その経験から「知名度がなくても実力があれば売れる」と感じている。当社は知名度には無頓着だ。お客様は「本物」を見抜く目を持っている。「知名度がないのに売れている」が本物の証拠であり、誇るべき事象だ(「知名度は必要ない」というわけではなく、「知名度は必須条件ではない」という意味だ)。周りから有名でカッコいいと思われたいのか、利益を出したいのかによって、やるべきことは変わる。
当社は、知名度を上げるためだけの無駄なことに、お金も時間もかけないから利益が上がっている。極論を言えば、購入者だけに商品の存在を知ってもらえればいい。むやみに知名度を上げようとするとコストがかかるので、買う人以外には認知されないようにしたい。商品を必要とするお客様だけに知ってもらい、そのお客様と長くおつき合いする。少しずつお客様が増え、結果的に知名度が上がるのが理想だ。
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北の達人コーポレーション社長
1968年、神戸生まれ。リクルート勤務後、2000年に北海道特産品販売サイト「北海道・しーおー・じぇいぴー」を立ち上げる。2002年、北海道・シー・オー・ジェイピーを設立(2009年に株式会社北の達人コーポレーションに商号変更)。「びっくりするほどよい商品ができたときにしか発売しない」という高品質の健康食品・化粧品で絶対に利益が出る通販モデルを確立。「北の快適工房」ブランドで、機能性表示食品「カイテキオリゴ」やギネス世界記録認定・世界売上No.1となった化粧品「ディープパッチシリーズ」などヒットを連発。売上の7割が定期購入で18年連続増収。株価上昇率日本一(2017年、1164%)、社長在任期間中の株価上昇率ランキング日本一(2020年、113.7倍、在任期間8.4年)。
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(北の達人コーポレーション社長 木下 勝寿)
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