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「私はチームを束ねた」社内公募に何度応募してもお呼びがかからない人の"面接回答"

プレジデントオンライン / 2021年9月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tommaso79

会社の好きな部署に異動できる「社内公募制」が広がりを見せている。各部署が人材を公募し、社員が直接応募する仕組み。ジャーナリストの溝上憲文氏は「社員の自律的なキャリア形成にもなる制度ですが、欲しがられるのは1~2割程度。実際は狭き門で、何度申し込んでもお呼びがかからない人は多い」という――。

■導入する企業増加「社内転職制度」で泣く社員笑う社員

“社内転職”制度を導入する企業が増えている。

これは、普及しつつあるジョブ型人事を受けて、好きな部署に異動できる「社内公募制」。社内の各部署が人材を公募し、社員が応募する仕組みだ。

スキルや知識などの職務を明確にした職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に基づいて処遇や配置が決まるジョブ型人事にとって、本人の自律的なキャリア形成は不可欠。やりたい仕事を選び取る社内公募制度はキャリア自律を促す手法として脚光を浴びている。

社内公募自体はソニーが1966年に最初に導入し、1990年代に一部の大企業にも広がった。公募人数が少ないなどの問題もあったが、最近はジョブ型導入企業の三菱ケミカル、NEC、KDDIを中心に公募枠を拡充する動きが広がっている。

三菱ケミカルは2020年10月から課長以上の管理職を除く約1500のポストを公募しているが、今後は管理職にも対象を拡大する予定だ。

日本CHO協会の調査(2020年9月)によると、社内公募の制度がある企業は53%。制度はないが「今後導入を検討したい」企業が29%もある。また、社内公募や社内FA(フリーエージェント)を通じた「人材の活性化や社員の挑戦意欲喚起が必要」と回答した企業は82%に上っている。

社員は自分の好きな部署に応募できるほか、高いポストに異動すれば給与アップも期待できる。会社も仕事への意欲を引き出し、イノベーションを生み出せるメリットがある社内公募。両者にとってまさにウィンウィンの制度のように見えるが、実はデメリットもある。

■部下が他部署に引き抜かれて悔しい思いをする上司

一般的な仕組みを簡単に説明しよう。人材を公募したい部署は人事部に募集ポジション、人数、職務内容、職務経歴・経験、求める知識・技能・資格などを記載した募集要項を提出。それが社内イントラネット上に掲載される。応募する社員は規定のレジュメに必要事項を記載して人事部に提出し、その後、書類選考と面接を経て合否が決定する。ここまでは普通の転職の流れと同じだ。

特徴的なのは、上司の了解を得る必要はなく、合格後に人事部から部門長と上司に通知される点だ。上司に了解を求めると「お前は、俺を裏切るのか!」と引き留める可能性もあり、それを防止するためだ。そのため募集部署も応募の秘密が漏れないように細心の注意を払い、面接でも所属部門にばれないように同じフロアを避けたり、日時も気を遣って土日に設定したりする企業もある。リモートワークが主流の今ではそうした気遣いも不必要かもしれない。

合格後、1~2カ月後に異動するが、大事な戦力と考えていた上司は当然、ショックを受ける。IT企業の人事部長はこう語る。

「今の部署に残るように説得を試みる上司もいます。もちろん説得されて応募者が今の部署に残ることはできますが、そういうケースはほとんどありません。また、異動によって欠員が出ても人事として補充することはしません。次の人事異動の時期まで派遣社員でつなぐか、逆に社内公募を使って募集するしかない。結局、部下が今の仕事に対してやりがいや魅力を感じてもらえなかった課長の責任ということにもなるでしょう」

信頼していた部下が他部署に引き抜かれて悔しい思いをするのは転職と同じだが、上司にとっては、ただでさえ忙しいときにいなくなるのはまさに踏んだり蹴ったりの心境だろう。

■応募してもお呼びがかかる人は多くて2割程度

しかし部下にとっても決してよいことばかりではない。なぜなら誰もが希望する人気部署は競争率が高く、合格するのは難しいからだ。求めるスキルの持ち主がいなければ採用ゼロもあり得る。結果的に社内での“市場価値”が高い人が採用されることになる。前出の人事部長は言う。

「1人の募集に10人が応募する部署もあります。事業に必要な高いスキルを持ち、どの部署でも欲しがられる社員は全体の1~2割程度です。そのほかの大部分の社員はあえて公募で採るほどの価値はないと見られているようです。人事としては多少経験が不足していても内部で育てることで採用のハードルを下げるように部門長にお願いはしています。とくに新規事業を手がける部門には未経験者を積極的に採るように呼びかけています」

履歴書を見比べる人事担当者
写真=iStock.com/TAGSTOCK1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

応募してもお呼びがかかる人は多くて2割程度というのはかなり狭き門だ。決して誰もが希望する部署に異動できるわけではないのだ。それでもくじけずにスキルを磨きながら何回も挑戦するキャリア志向の強い人はどこかの部署に異動することも可能だろう。

■過去の栄光にすがり今の実績に乏しい人はお呼びがかからない

しかし、いくら門戸を広げてもお呼びがかからない人もいる。

「1つは現在の部署で目立った実績もなく、人事評価も高くない人。いくら職務経歴書に若い頃の華々しい実績を並べても、今の実績や評価が低いと新しい部署に移っても活躍できるとは思えません。面接で『プロジェクトリーダーとしてチームを束ねて成果を上げました』と言っても、今の部署でどういう評価を受けているのか、社内ですからそれとなく調べれば化けの皮がはがれます。

もう1つは上司や職場に不満があるから応募した人です。仕事の幅を広げたい、新たなスキルにチャレンジしたいというのではなく、職場の人間関係が嫌だからという不純な動機で応募する人。こういうタイプは面接でもわかりますし、パスすることはありません」(前出・人事部長)

過去の栄光にすがり今の実績に乏しい人、職場に不満を抱く動機が不純な人はどの部署からもお呼びがかからないということだ。そういう人でも入れる部署があるかもしれないが、ひょっとしたらパワハラ上司が待ち受ける“ブラック部署”かもしれない。

面談のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■社内公募の“裏テクニック”とは

実は社内公募には“裏テクニック”もある。

以前、大手電機メーカーの不採算部署に勤務する40代の男性からこんな話を聞いたことがある。

「今の職場にいてもいずれ事業閉鎖されることはわかっていました。そこで昔から社内の運動サークルでつきあいのあったグループ企業の部長をしている先輩に飲み屋で相談したんです。そうしたら『わかった。今度うちの部署で社内公募を出すから応募しろ』と、言われたのです。『他に応募者がくるかもしれませんが、大丈夫ですか』と聞くと『心配するな、他に応募者がいても本命はお前だ』と言われました」

つまり、社内公募制度を建前に使った情実採用が実際に行われている。これは許されるのか。前出の人事部長は「あり」だと言う。

「公募部署がどういう基準で選んでいるのか、人事部は介入できませんし、介入するつもりもない。あくまでも本人の能力を認めて、受け入れ部署の責任で預かるわけですから。逆に社内の人脈やネットワークを使って採用を勝ち取ることも本人の能力と言えるでしょう。実際に当社でもそうしたケースはあると思います」

本命が決まっているのに知らずに応募する人はかわいそうな気もするが、一般の転職の世界でも起こりうる話だろう。

これまでの人事異動は会社の指示・命令で異動するのが普通だった。社内公募を拡大することで自律的にキャリアを選択する人が増えることはよいことだろう。

しかし一方で、過去には人気部署に優秀な人材が集中し、そうでない部署に人が集まらないという全社最適の人材配置に支障が出る事態も発生している。

そのため社内公募を抑制的に使う企業もある。人事権を手放していない日本企業が多い中で、ブームの社内公募制が本当に定着していくのかわからないが、ひとつの実験であることは間違いないだろう。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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