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「成長できる職場がいい」そう言ってコンサル業界に行きたがる東大生の"甘い本音"

プレジデントオンライン / 2021年9月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peshkov

いまの若者は何を基準に職場を選んでいるのか。神戸学院大学の中野雅至教授は「最も重視しているのは『成長できるかどうか』。学歴社会から実力社会へのシフトがうかがえるが、その裏には、学校のように企業に成長経験を求めるという甘えもある」という――。

※本稿は、中野雅至『なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■日本の若者が企業のことを信じないワケ

若者にとって「成長する」とは何を意味するのでしょうか。まず、はっきりさせておくべきことは、成長とは、たとえ労働条件に優れた大企業であったとしても、「意味のない」理不尽に耐えることではないということです。

「意味のない」というのがポイントです。たとえ残業を伴う理不尽なものであったとしても、大企業が最後の最後まで雇用を抱え込み、労働者を裏切らないと保証するのであれば、若者は意味のない理不尽さにも耐えると思います。そういうところは強かで計算もできます。

ただ、こんな大企業は皆無に近いでしょう。役立たないと思われると捨てられるし、何の保証もなく過労死寸前まで働かされる。若者はそんなことは百も承知です。

若者が企業を信じ切れないと思っているのは、これだけが理由ではありません。最大の理由は、採用から出世まで人事の基準が極めて不透明なことです。

リンクトインが世界22カ国を対象とした「仕事で実現したい機会に対する意識調査(Opportunity Index 2020)」という調査があります。ここでは、「人生で成功するためには、何が重要だと思いますか?」という問いに対し、日本も世界同様に「一生懸命働くこと」が最上位でした。

ただ、2番目以降の回答が日本とその他の国では違います。諸外国は「変化を喜んで許容すること」「ふさわしい人々とのつながりやネットワーク」と続くのに対し、唯一日本のみが「幸運」が重要であると回答しているのです。

■年功序列の会社で出世するためには「運」が必要

年功序列で流動性が低い労働市場では、結局、社内での出世も決め手がないということです。従来から言われ続けてきたことで、何が仕事の成果かを測れないため、最終学歴と「あいつはできる」という評判が大きくモノを言うし、たまたま大きな仕事に当たって成功した人間、社長などの役員受けのする仕事に巡り合った人間などが出世していきます。

能力を測る物差しがないので、結局、こういう曖昧な基準で会社人生が決まる。若者、中高年を問わず、サラリーマンならみんなこういうことをわかっているからこそ「運」という答えを選ぶのです。

これら三つのことから「成長」の意味するところをひもとくと、それは専門能力を身につけることです。企業からクビを切られそうになっても、次の会社に移っていけるだけの専門能力を積み上げることが成長だと思っているのです。

それは図表1からもわかります。日本生産性本部が新入社員に対して行った調査によると、「自分のキャリアプランに反する仕事を、我慢して続けるのは無意味だ」の質問に対して「そう思う」と回答した者の割合が6年連続増加しており、過去最高を記録しているのです。

「自分のキャリアプランに反する仕事を、我慢して続けるのは無意味だ」の割合

■文科系でも医者以上に成功する可能性がある

文科系の場合、これで食えるという資格は限定されています。弁護士、公認会計士の二つが有力ですが、これら二つでさえ競争が激しくなっているのが現状です。税理士などはもっと大変でしょう。

そのため、成長を実感できる専門能力というと、資格というよりも仕事を通じて形成されていく専門能力と捉える若者が増えているのです。もちろん、専門能力の中に資格を含めて考える人も多いとは思います。まだ社会の実際を知らない学生などはそうですが、社会人になってサラリーマンとして様々な社会経験をする中で、文科系の場合、資格を取得しているというだけでメシが食えるわけではないと実感します。

その一方で、資格に実務経験と人脈が絡めば、これは医者の収入以上に大化けすることを知るのです。社会保険労務士であれ、税理士であれ、ものすごく稼いでいる人はいます。そういう人は経験豊富でサラリーマン時代の人脈で顧客を増やしたりしています。結局、営業力ということになってくるのですが、その基盤は専門性です。

若者はそういうところを確実に嗅ぎ取っていて、専門性に基づいたキャリアを求めているということであり、それが成長の具体的な姿の一つだと考えているのです。

■なぜ若者は就活で「成長できるかどうか」を求めるのか

若者が成長できるという時のもう一つの意味は、自分の専門能力を築くといった主体的なものではありません。ものすごく受け身的なものです。それは「成長できる職場環境」かどうかということです。

元々、老若男女を問わず、就職する際に職場環境を重視するのは共通しています。人間関係に気遣う社会ですから、誰でも人間関係が悪い職場よりは、和気藹藹としたところで働きたいと思うのは当然です。

今の若者はそれをより強く求めているということです。人間関係だけじゃなくて、その職場にいただけで成長できる。そういう場所で働くことを求めているのです。

この場合の「成長できる」というのは、専門能力といった具体的なものではありません。非常にぼやっとしたものです。おそらく、仕事全般とメンタルを含めた総合的なものを成長と呼んでいると思います。

仕事のやり方を覚えた、仕事を早く処理できるようになった、仕事のスキルや専門知識を身につけることができるようになった、少々のことではへこたれないようになった、打たれ強くなったなどです。

■学歴社会から実力社会にシフトした結果

今の若者が厄介なところは、こういうことを主体的に学ぶのではなく、学べたり体験できたりする場を誰かが整えてくれる、あるいは、整えてくれるべきだと考えているところです。「誰か」が誰かと言えば、企業ということになりますが、もっとも身近なところでいえば、上司ということになります。やたらと怒鳴り散らす上司ではなく、様々なことをきちんと教えてくれて自分を成長させてくれる上司がいれば、そこは若者にとって「成長できる職場」ということになります。

どうして、こういう受け身的な考えが出てきたのか?

これも教育環境と社会環境が大きく変化したのが最大の要因だと思います。ただし、これは良い方向への変化であったと、私は捉えています。

バブル経済が崩壊して一流大学→一流企業というモデルが崩壊しました。学歴が大きくモノをいう側面は根強くある一方で、実力主義も声高に叫ばれるようになり、教育業界では「偏差値お得校」という言葉が生まれました。

入学時に偏差値が低かった子供が、卒業する時には偏差値が高くなっているという意味です。本来、教育とはそういうものです。学校で学ぶことによって力がついた。その力で次のステップに進むのがあるべき姿ですし、それによってこそ教育機関や教師の力量もはっきりするということです。こんな当たり前のことがようやく最近、認められだしたのです。

それも先程と同じ理由です。一流大学→一流企業と進み、終身雇用で守られるという世界が崩れ、実力社会となったからです。入学した時の実力をもってして最終判断する学歴社会の影響力が薄れたということです。

■学校のように「成長経験を提供してもらえる」という甘え

教育内容によって偏差値が変わるということも現実に起こりだしています。もちろん、学歴フィルタリングは依然として健在ですし、東大→京大→旧帝大という強固な序列に変化はない一方で、そこから漏れたところでは教育内容次第で急激に偏差値を上げる大学も出現するようになりましたし、これまでは無名でも教育内容次第で偏差値が変わるようになったのです。

ここから、経験や学びによって成長できる、成長できれば人生が変わるという公式が徐々にですが、少なくとも、若者や保護者の間には浸透しつつあって、企業も同じ範疇でみられるようになったということです。

成長は自分で勝ち取るものではなく、誰かが経験させてくれるもの。こういう考え方が刷り込まれた結果、成長させてくれる職場はどこか、成長させてくれる上司や同僚はいるかと探すようになった。

正直、これについては甘えている部分もあると思います。本来、成長するかどうかは自分次第。どんな環境でも学ぶことができるし、成長することができるはずなんですが、社会人になる前に、学校をはじめとする様々な場所で成長できる経験を提供されてきたこともあって、成長できる経験を提供してもらえると思い込んでいる部分があるのです。

■明るい将来のために企業がやるべき確認作業

戦力になるかどうかさえわからない若者に給料を払って、おまけに成長経験まで提供しなければいけないのか。馬鹿らしい。そう考える中高年はいっぱいいると思います。先述したように、成長できるかどうかは自分の問題です。受け身でやることじゃありません。正論だと思います。

その一方で、自分が経営する、働く会社が成長できる場かどうかを、改めて考えてみることは非常に重要なことであるのも確かです。企業は教育機関ではないのですから、わざわざ成長できる機会を与える必要はないかもしれない。ただ、成長できる場所かどうかを自ら確認することは、人材を上手く使うことができているかどうかの再確認にもなりますので、知っておいて損はないと思います。

成長という言葉を、若者が活躍できる余地のある企業かどうかという点で捉えてはどうでしょうか? どれだけ技能があったとしても、いつまでも中高年社員に頼るわけにはいきません。いつかは若手に任せる日が来ます。それを踏まえると、若手が成長を実感できる企業は前途が明るいはずです。

さて、あなたが勤務する組織は若手に成長の機会があるでしょうか? 個別具体的な経験を論じる前に、若者がどういう能力を身につけられるかを考えてみましょう。「御社に入れば、どういう能力が身につくんですか」と質問された時、どう答えるでしょうか? 「出世できます」は回答になっていません。「うちは大企業だから安泰している」も答えではない。安定度を基準に企業を選ぶ学生がいるでしょうが、企業の大きさと成長は互いに異質なものです。

■学生にとってコンサル業界が魅力的に映る当然の理由

この点、最強なのがコンサル業界だと思います。我々バブル世代の頃からそうでしたが、昨今、東大生や京大生にコンサル業界が人気だといいます。色々と理由はあるのでしょう。年収の高さというのはいの一番に来ます。実力主義の世界ですから年齢に関係なく高額報酬が見込める。年功序列の日本企業に比べて魅力的に映るのは当然です。

オフィス ルームでの予算会議で財務計画グラフを手に説明する手元
写真=iStock.com/wutwhanfoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wutwhanfoto

それよりも成長という観点から魅力的なのは、能力が身につくということです。情報収集能力、資料作成能力、プレゼン能力など、これこそ若者にとっては成長できる機会が沢山あるということです。しかも、専門能力を基盤にして転職しやすいというのも魅力です。仕事を通じて幅広い人脈ができますので、たとえ厳しいコンサル業界に残れなくても悲観することはない。

それどころか、コンサル出身の経営者や起業家の存在を考えると、転職することでさらなる高みを目指すことができる。

こう考えると、コンサル業界は成長の宝庫のように映る。これが若者には大きな魅力だということです。

■一方、成長アピールに大失敗している業界は…

このように具体的に成長の機会があるかどうかを最も説明してこなかった業界はどこかと言うと、それは役所です。中央官庁のキャリア官僚の場合、キャリア官僚は社会的地位が高い、明治時代以来のエリートだという伝統に胡座をかいてきたのです。

中野雅至『なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか』(扶桑社新書)
中野雅至『なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか』(扶桑社新書)

その結果、現状は惨憺たるものです。政治家に首根っこを押さえつけられ、マスコミからは叩かれ、長時間労働に追われるだけで、官僚を続けたところで何もいいことはない。それにもかかわらず、自分達の職場の魅力を説明しきれていない。もしかしたら、大々的に言えるような成長機会がもはやないのかもしれませんが。

これは都道府県や市町村などの地方公務員についても言えます。公務員は安定している、身分が保障されている。これが公務員の魅力であり、これだけで人材が集まると思い込んでいるのです。転職先が豊富にある今の若者にとって、これだけでは魅力的に映りません。優秀な人材が本当に欲しいというのであれば、公務員になると身につく能力を真摯に宣伝する必要があると思います。

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中野 雅至(なかの・まさし)
神戸学院大学現代社会学部 教授
1964年奈良県大和郡山市生まれ。同志社大学卒業後、国家公務員1種試験合格。90年旧労働省に入省し厚生労働省大臣官房国際課課長補佐(ILO条約担当)等を経て、兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科教授。2014年から現職。関西のテレビでコメンテーターとしても活躍中。経済学博士。著書に『キャリア官僚の仕事力』(SB新書)、『食える学歴』(扶桑社)、『日本資本主義の正体』(幻冬舎新書)など多数。

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(神戸学院大学現代社会学部 教授 中野 雅至)

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