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「一人で車を運転していてもマスクをする」日本人の幸福度が世界62位に沈む本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年9月21日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rossella De Berti

2020年の世界幸福度ランキングで、スイスは3位で日本は62位だった。『Think Clearly』(サンマーク出版)著者でスイス在住の作家、ロルフ・ドベリ氏は「日本人はマスクを着用する必要がない状況でも、周りからの目を気にして誰もがつけている。これが日本人の幸福度が低い原因ではないか」という――。

※本稿は、大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■やみくもに努力するより自分の得意分野を伸ばせ

——日本には「災い転じて福となす」ということわざがあり、「コロナ禍を社会変革のきっかけにしよう」という議論も生まれています。しかし、あなたは『Think Smart』(サンマーク出版)のなかで「危機から無理にプラスの要素を見出さなくてもよい」と述べていますね。

ただやみくもに頑張るべきではありません。ウォーレン・バフェットの例を挙げるならば、我々は「circle of competence(能力の輪:自分がよく理解できている得意な分野)」をもつべきです。能力が世界レベルであれば理想的ですが、そこまでいかなくても、自分の「能力の輪」の内側であればあなたの能力は平均より秀でているわけですから、成功する可能性は格段に高まります。いろいろな分野に手を出すのではなく、輪の規模が小さかろうが大きかろうが、とにかく一つの輪の中に留まるべきです。パンデミックではない常時でも、まったく同じことです。

よく「内なる声に耳を傾けよ」と言われますが、それだけでは駄目です。自分から出てくる声は、往々にして希望的観測を孕んでいるからです。まずあなたの過去10年、20年の実績を見て、平均より優れている分野を探すべきです。それはあなたが楽しんできた分野である可能性が高いでしょう。でなければ、平均より秀でることなどできませんから。

得意分野を見つけたら、能力の向上に集中しなければなりません。パンデミックの真っ只中にある現在でも、できることはいくらでもあります。「能力の輪」を深めに深め、自分の専門性を高めましょう。

——同書ではさらに、「自分の失敗を受け入れて現実を視るべき」と説いています。しかし、自分の失敗を素直に認めるのは非常に難しいことです。私たちはどのようなステップを踏むべきでしょうか。

それはすばらしい質問です。まず言えるのは、我々が学ぶのは成功からではなく、失敗からであること。成功は一見、自分の努力によって得ることができたものと勘違いしがちですが、実際にはたんなる偶然である場合が多い。よって成功から学べることは何もない。でも失敗したときは、どこでどう間違ったのかを具体的に指摘できます。これは他人の経験においてもそうで、誰かの成功物語よりも失敗からのほうがはるかに密度の高い情報を得られます。

我々はまず、失敗はすべての人が人生で経験するもので、それは人生の一部であって何も恥じるべきではないことを認識するべきです。そう捉えるだけでも、気持ちが楽になります。次に自分のこれまでの失敗を書き出し、失敗が起きた原因を細かく分析します。そうすれば、同じ間違いを犯すことはなくなるでしょう。また失敗を一定期間書き留めていると、自分の弱点のパターンがわかってきます。すると弱点をカバーするために長所を磨いたり、他の人の力を借りたりして、失敗を減らすことができると同時に、「自分は自身が思うほど偉大な存在ではない」と謙虚になることができるのです。

■自分が影響を与えられないニュースは見るな

——コロナ禍により、我々が時事的な情報に触れる機会は増えています。しかしあなたは、ニュースを見る量を減らすことを薦めていますね。なぜでしょうか。

一般の人は、ニュースを見ると世界について何かを学ぶことができる、公私ともに人生のより良い決断につながると考えている。しかし、その発想は大きな間違いだといわざるをえない。人はニュースをずっと見ていると、「知識の錯覚」に陥ります。知識を得ているのではなく、不必要な雑音に振り回されているのです。

ではどうすればいいかというと、先ほど述べた「能力の輪」を確立させ、その中に納まる情報だけを集めればいい。どこかの国で飛行機が墜落したとか、ある国の大統領が他国の指導者と握手したところで、率直に言ってあなたには何の関係もありません。すぐ実行に移すのは難しいかもしれませんが、大半のニュースをシャットアウトしたところで、何の問題もないことがやがてわかるでしょう。

寝っ転がりながらテレビをザッピング
写真=iStock.com/urbazon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbazon

西洋には昔から、「自分が影響を与えられないことは気にするべきではない。自分が影響を与えられることだけに集中すべきである」というストア派の哲学があります。アメリカの大統領にドナルド・トランプが再選するか、ジョー・バイデンが勝利するかについて、私が影響を及ぼすことはできない。私はアメリカ人ではなく、選挙権もないからです。ですからアメリカ大統領選の結果に気持ちを乱されることはない。影響力のない人は、皆それくらい距離を置いたほうがいいのです。それよりも、自分の「能力の輪」に関する、非常に長くて内容が深い記事や書物を熟読するほうがはるかに大切です。

——またあなたは「人生では修正が大事である」と述べており、事例として各国の憲法改正を挙げています。しかし日本は、戦後一度も憲法を変えていません。これは異常だといえるでしょうか。

他の国と比べると、たしかに異常ですね(笑)。ただし私は、日本に憲法改正の「次善策」があるかどうかを知っているほど、日本社会について詳しくはありません。「次善策」というのはつまり、憲法を改正するのではなく、他の手段で社会様式を実質的に変えるということです。

日本は優秀な海上自衛隊を有していますが、憲法には明記されていませんね。個人的には国防のために優秀な部隊をもつことには大賛成ですし、憲法にも明記すれば良いと思いますが、憲法になくても自衛隊が強い力をもっているのは、ある意味で憲法を改正しているようなものです。そのほうがむしろ賢明です。

■政治への大きな発言権と影響力がスイスの幸福の源

——あなたは「日本はすばらしい国」と言いましたが、どこが魅力でしょうか。

決してお世辞ではなく(笑)、日本に対してネガティブなイメージはありません。私は過去に2度、日本を訪れたことがありますが、2度とも「こんなに文化的で落ち着いた国はない」と感じました。人びとは皆フレンドリーで、何よりも、食べ物が世界一美味しい! 日本には、世界から尊敬される点がたくさんあります。

地政学的に見れば、日本は興味深い位置にあります。台頭する中国の脅威につねに晒(さら)されており、尖閣諸島などの領有権を守るなど国防面での課題が山積している。また貿易で他国との交流が盛んな半面、輸入に頼っているので、交易が閉ざされると大きな打撃を受けてしまいます。

——たしかに日本人は基本的にフレンドリーかもしれませんが、一方で社会における同調圧力の強さが指摘されています。心の奥底では反対していても、表向きは賛同しているふりをして、他人と同じような行動をとりがちです。たとえばマスクを着用する必要がない状況でも、周りからの目を気にして誰もがつけています。

同調圧力は日本だけではなく、アジア諸国のほとんどに存在している気がします。ヨーロッパには、17世紀後半に始まった啓蒙時代から今日まで、それまで主流とされていた思想や宗教を自己批判する文化が根づいています。ただ、アジアはそうではありませんよね。ですから、なかなか変えられるものではないでしょう。

ただしそれが合理的である場合、同調するのは必ずしも悪いことではありません。とくにパンデミックのいまは、アジア諸国の同調圧力はいい方向に働いているように思えます。

——スイスで暮らしていて、同調圧力を感じることはありますか?

まったくありませんね。我々が特定の行動をとるのは、他の人全員がしているからではなく、その行動に意味があると思うからです。私の自宅の近くには中国やトルコ、日本などアジア諸国の大使館がありますが、職員たちは車を1人で運転しているときでさえマスクをつけています。まったく意味がなく、正直に言って理解できません。

もちろん私も、屋内にいるときや近距離に人がいるときはマスクを着用します。でもあなたが言うような「必要がない場合でも批判を恐れて行動する」という意味の同調圧力を感じたことはありません。それがヨーロッパの考え方です。

大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)
大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)

——2020年3月(当時)に「世界幸福度ランキング」が発表され、あなたの国スイスは3位、日本は62位でした。日本は「健康寿命」では上位ですが、「人生の選択の自由度」と「他者への寛大さ」では順位が低い。両国の差は何から生まれているのでしょう。

私は幸福についての専門家でもありませんので、スイスの経済学者ブルーノ・フライ(チューリッヒ大学教授。著書に『幸福度をはかる経済学』NTT出版)の研究を参考にしましょう。彼は、幸福度を測る重要な要素の一つは、市民がどれくらい政治や社会に影響をもつことができるかである、と述べています。

スイスでは毎週のように、何かしらの社会問題について住民投票が行なわれます。たとえば市が路上に花を植える際、橋の向こう側に植えるかこちら側に植えるか、といった事項も住民投票で決定する。市民が政治に対して、大きな発言権と影響力をもっているのです。その姿はまるで、「democracy on steroids(ステロイドに依存した民主主義:極端な民主主義)」と言っても過言ではない。面倒にも思えますが、こうした面倒がスイスの幸福度を高めているのでしょう。

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大野 和基(おおの・かずもと)
国際ジャーナリスト
1955年、兵庫県生まれ。大阪府立北野高校、東京外国語大学英米学科卒業。1979~97年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行なう。1997年に帰国後も取材のため、頻繁に渡航。アメリカの最新事情に精通している。

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ロルフ・ドベリ(ろるふ・どべり)
作家、実業家
1966年、スイス生まれ。スイス、ザンクトガレン大学卒業。スイス航空会社の子会社数社にて最高財務責任者、最高経営責任者を歴任後、ビジネス書籍の要約を提供する世界最大規模のオンライン・ライブラリー「getAbstract」を設立。35歳から執筆活動をはじめ、ドイツ、スイスなどのさまざまな新聞、雑誌にてコラムを連載。著書『なぜ、間違えたのか?――誰もがハマる52の思考の落とし穴』(サンマーク出版)はドイツ『シュピーゲル』ベストセラーランキングで1位にランクインし、大きな話題となった。本書はドイツで25万部突破のベストセラーで、世界29カ国で翻訳されている。著者累計売上部数は250万部を超える。小説家、パイロットでもある。スイス、ベルン在住。©Luca Senoner.

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(国際ジャーナリスト 大野 和基、作家、実業家 ロルフ・ドベリ)

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