「自分は高給取りである」年収800万円の39歳会社員がハマった勘違い【2021上半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2021年9月23日 15時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山氏のもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■年収800万なのに、貯金は200万円
夫 会社員 年収800万円
妻 専業主婦 年収0円
子 10歳 小学生
住まい 分譲マンション(住宅ローン 毎月17万円 ※管理費・修繕積立金込)
「お金持ち」といえる年収っていくらからだと思いますか? ファイナンシャルプランナーとして日々感じるのは、「年収800万円」という数字が皆さんの中でひとつ「稼いでいる」指標になっているのかな、ということです。
日本人なら誰もが知る大手メーカーに勤める柴田拓真さん(仮名/39歳)も年収800万円で、「自分は高給取りである」という意識をハッキリと持っていました。
そんな柴田さんが私のもとにやってきたのは、新型コロナの影響で「高給取り」から転落しつつある危機感と、目減りしていく貯金に焦りを覚えたからでした。後ほど詳しく説明しますが、柴田さんの貯金は200万円。年収の割には少ない額だったため、今の生活を変えないと早晩、破綻してしまう可能性が高いことをキャッシュフロー表で指摘すると、彼はムッとしてこう言ったんです。
「うちがダメなら他の家はどうなるんですか!」
■生活のすみずみまで「ワンランク上」を選ぶ
実は私、このセリフを何度か言われたことがありました。それも柴田さんと同じく一部上場企業に勤める「高給取り男性」で、若干キレ気味な言い方も同じ。「日本の上層部に位置する自分たちがダメなら、その他大勢の下々の者は全員ダメに違いない」という、エリート意識からくる見下し思考……なのでしょうか。
しかもこの特権意識、本人だけでなく妻、そして子どもにまで及んでいる場合もあります。それは私がとやかく言う問題ではないので置いておくとしても、この思考はファイナンス的にも非常に厄介なことが多い。というのも、生活のすみずみに渡って、自然と「ワンランク上」を選んでしまうからなんです。
柴田さんは都内23区で高級マンションを購入し、子どもには最高の教育環境を提供すべく、10歳の今も習い事をかけもちさせており、将来は中学受験をする予定です。スーパーは成城石井を普段使いし、シンプルなデザインであっても洋服はユニクロでなく、ユナイテッドアローズなどのセレクトショップ。お家のダイニングにはウォーターサーバーがあります。どれも、このタイプの「お金を貯められない世帯」に多い傾向です。
収入が増えれば増えるほど支出も膨張するという「パーキンソンの法則」通り、柴田さんの家庭は年収800万円に見合った生活を自然と選んでいるようでした。
■住宅ローン返済額は毎月17万円
……と、ここまでの暮らしぶりでなぜ柴田家の貯金が200万円なのか、もうおわかりでしょう。「だって稼いでるから」という高給取り意識により、ワンランク上のセレクトが積み重なった結果、貯金ができないほど支出が膨れ上がっているためです。
柴田さんは年俸制のため、月にすると手取りは約50万円。都心部の高級マンションですので、毎月のローンの返済額は約17万円。食費も10万円と高額です。お子さんの習い事にはまだ月2、3万くらいしかかかっていないそうですが、中学受験のために塾に通い出せば、あっという間に立ち行かなくなるでしょう。
■稼ぎ手は夫だけ、お金の使い道を取捨選択していない
柴田さんと同じように高給取り意識を持つ年収800万円前後のご家庭には、驚くほど共通点が多く見受けられます。まず、妻が専業主婦であるか、働いていてもパートタイマーであること。
教育にお金をかけたいと思う方が多いこともあり、平日は習い事への送り迎えが必須。夫婦共に正社員で働き、夫も妻も800万円稼いでいるようなバリキャリ同士のご家庭は、送り迎えを完全にアウトソーシング化しているケースが多いですが、夫だけが稼ぎ手として800万円近い収入を得ているご家庭は、妻が一手に子どもの習い事をフォローする。
そうなれば当然、女性側がフルタイムで働くことは難しく、自然と月3~5万円程度のパートタイムジョブになります(しかもこのお金の大半が妻のランチ代やお小遣いに消えてしまい、またしても貯蓄には回らないという……)。
次のあるあるは、高給取り意識はあるにもかかわらず、自分たちが毎月どの費目にいくら使っているかをまったく把握していないということ。
たとえば子どもの塾代ひとつとっても、塾に言われるがままなんでもかんでもやってしまう。算数と国語はわかるとしても、本当に「理科実験教室」が必要か。夏期講習は絶対に通わせなければいけないのか。一度立ち止まって子どもの学力や方向性を見極めながら取捨選択する作業が足りていないように見えます。
■携帯代と電気料金を見直す気がない
同様に、稼いでいる意識のある方ほど、いまだに大手携帯キャリアをプランの見直しもせずに使っているケースも多い。今は大手キャリアでも格安プランがありますが、少し前までは「夫婦で格安スマホにすると1万円は違いますよ」とアドバイスしていました。それを聞いても「ですよね~(ニッコリ)」で終わり。電力自由化も同じです。かといって彼らがそういった情報を知らないわけではなく、「だって稼いでるんだからいいじゃない。数千円の差くらい」という、ある意味の思考停止が起きているのです。
人の習慣はなかなか変えられないもの。コロナで柴田さんの収入に陰りが見え、しかもステイホームの続く今こそ貯金がしやすそうに思えますが、妻の陽子さん(仮名)は「お家時間をいいものにしたくて」と、「シルクのこだわりパジャマ」を3万円で購入。いわゆる「ごほうび消費」です。同じタイプのご家庭では、香水のサブスクを始めた人もいました。旅行や外食に使っていたお金を他で使うだけで、結局、消費の方向に動いてしまうんです。
■「給料は右肩上がり」の前提を捨てる
私がお客さまのキャッシュフロー表を作る時は、柴田さんのような大企業にお勤めの方であっても、「この先の給与は右肩上がりではない」想定で、収入は平行線で作成しています。企業に体力がない現状、一律に全員が昇給する年功序列賃金はあまりに現実味に欠けると思うからです。
それでも高給取り意識を持つ方は、いまだに「俺はいけるっしょ」と、楽観的な見方をしている方が多い。だから私の“給料平行線キャッシュフロー表”を見た途端、カッとなる。このギャップを少しでも埋めていきたいんです。
実際、社内研修で企業を訪問すると、経営陣の口から「これからは能力や結果の有無で給与がかなり変わってくる」という話を聞きます。
また、このコロナ危機で昔のお客さまからご相談をいただくことも増えたのですが、一流企業の技術職についていた男性からは、福利厚生の変化を聞きました。10年前に羨ましく聞いた熱海の保養所は売り払われ、上場企業が受けられた超低金利の住宅ローンは廃止。さらに家賃補助がなくなって……と、大企業ならではの手厚い福利厚生がすでに過去のものとなっていた現実を知りました。
■実は貯金を増やしやすいタイプでもある
柴田さんには、「だって稼いでるんだから」という、考えを放棄している今の姿勢を見つめ直すところからお願いしました。怖がらせるようなことを書いてしまったかもしれませんが、そもそも彼らは「年収800万円」という高額な収入があり、都心の高級マンションという高い資産価値を持つ不動産もあります。
その強みを、思考停止による意思なき散財で失ってしまうのはあまりにもったいない。携帯料金の見直しをはじめ、日常で抑えられる出費はたくさんあります。メリハリある出費ができれば、貯金を大きくすることはむしろたやすいでしょう。
貯金金額の目安としては、最低半年分の生活費を現金で持っておくことからはじめましょう。柴田さんのようにお子さんがいるご家庭はもう少し余裕を持って1年分くらいはほしいところ。なので彼にはまず、500万円の現金を貯めるところからはじめましょうとアドバイスしました。
最後にもう一度。「稼いでるからいいっしょ」は、思考停止です。ワンランク上のものを選ぶ時は一度、立ち止まってみてくださいね。
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Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 聞き手・構成=小泉なつみ)
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