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「むかつく」と判決に反発…懲役4年でも衆院選立候補を目指す秋元司議員の自信はどこから来るのか

プレジデントオンライン / 2021年9月16日 15時15分

記者会見を終え、退室する衆院議員の秋元司被告=2021年9月9日、東京・永田町の衆院議員会館 - 写真=時事通信フォト

■「すべての事件について無罪だ」と主張してきたが…

収賄と組織犯罪処罰法違反(証人等買収)の罪に問われた秋元司衆院議員(49)=東京15区=に、東京地裁は懲役4年、追徴金約760万円(求刑・懲役5年、追徴金約760万円)の実刑判決を言い渡した。執行猶予は認めていない。カジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件に対する司直の厳しい裁きである。

9月7日の判決は「国会議員という重要な公職にありながらワイロを受け取り、露骨な司法妨害にまで及んだ」と糾弾し、「最低限の順法精神すら欠如している」と指摘した。

弁護側によると、判決後、秋元議員は「むかつく」「頭にくる」と語ったという。

これまでの公判でも「すべての事件について無罪だ。事件は東京地検特捜部がでっち上げたフィクションで、政治家を捕まえたい検察の暴走だ」と豪語し、検察側と全面対決してきた。判決の言い渡しも腕組みしたまま聞いていた。「無罪」と言い切る秋元議員のこの自信は一体、どこに由来するのだろうか。

■IR汚職事件での逮捕時は衆院の3期目だった

秋元議員が東京地検特捜部に最初に逮捕されたのが、2019年12月25日。その逮捕を含め、これまでに計4回も逮捕・起訴されている。逮捕される度に3000万円~1億円の保釈保証金を東京地裁に納付し、保釈されると、胸に国会議員のバッジを付け、秋の衆院総選挙に向けた政治活動を続けた。

一部の保釈保証金はすでに没収されているが、多額の保釈保証金はどこから出てくるのだろうか。証人買収の工作資金も半端な額ではない。控訴で弁護士費用もかさむ。打ち出の小槌でも持っているのか。

報道や秋元議員のホームページによれば、秋元議員は大東文化大学在学中の1993年4月に国会議員の秘書となり、2004年の参院選で初当選した。だが、2010年の参院選で落選。その後、2012年の衆院選で国政に返り咲いた。IR汚職事件で逮捕されたときは、衆院の3期目だった。

■安倍前首相や菅義偉首相に支持されていたとの自負心か

経歴を見た限り、いわゆる立派な「地盤・看板・鞄」は持ちわせていないようだ。2世、3世の国会議員でもない。その一方で政治資金集めに長け、自民党内で頭角を現してきたとのうわさもある。自民党内で頭角を現すと、党内の要職のほか、安倍晋三内閣の国土交通省、環境省などの副大臣に抜擢され、安倍政権が成長戦略の柱に位置付けたIR事業担当の内閣府副大臣にも任命された。当然、成り上がっていく過程で、得意の集金力に拍車がかかったはずだ。

自由民主党
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

安倍前首相や菅義偉首相に支持されているとの自負心が「無罪だ」との自信に結び付いているのかもしれない。だが、その自信は明らかに歪んでいる。

さらに秋元議員の弁護人は、「無罪引受人」「カミソリ・ヒロナカ」の異名を持つ弘中淳一郎弁護士である。海外に逃亡した日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の弁護も引き受けていた。弘中氏は9月7日の判決後に記者会見し、「東京地裁は客観証拠ではなく、供述に依拠する誤りを犯した」と批判した。弘中氏の弁護が秋元議員を勇気付けいているに違いない。

■IR担当副大臣の2017年にワイロを受領した

判決によると、秋元議員は収賄罪の共犯として在宅起訴された元政策秘書(懲役2年、執行猶予4年)と共謀し、内閣府のIR担当副大臣だった2017年9月、IRへの参入を希望していた中国企業「500.com」の元顧問2人から議員会館で現金300万円を受領した。中国への視察旅行や北海道旅行の費用なども含め、2018年2月までに計758万円相当のワイロを受け取った。

さらにIR汚職で逮捕・起訴され、1回目の保釈中の昨年6月~7月にかけ、自らの支援者を介して元顧問2人に裁判で偽証するよう働きかけ、その報酬として現金500万円~2000万円の提供を持ちかけた。

判決は「議員会館で現金300万円を渡した」とする中国企業の元顧問2人の証言の信用性を認める一方、スケジュール表をもとに「その日は議員会館へは行っていない」と当日のアリバイを主張して現金の授受を否定した秋元議員の主張を「明らかに証明力に乏しい」と退けた。

■「前代未聞の司法妨害で、執行猶予の道は閉ざされた」

裁判長は「収賄に限れば、執行猶予を選択する余地があった」と述べながらも、秋元議員が元顧問2人の買収行為に及んでいたことを断罪し、「前代未聞の司法妨害だ。ことここに至っては、執行猶予の道は閉ざされた」と実刑判決の理由を述べた。

判決が指摘するように秋元議員の罪は重い。国民の代表である国会議員として許されない。通常、1審判決で有罪を言い渡されると、国会議員はその職を辞職する。

たとえば、2019年夏の参院選で妻を当選させるために現金を配ったとして逮捕・起訴された元法相の河井克行氏(今年6月東京地裁で懲役3年の実刑判決、即日控訴)は、1審公判中に衆院議員を辞職している。

繰り返すが、秋元議員がIR汚職事件で最初に逮捕されたのは衆院3期目の2019年12月25日だった。この逮捕で自民党を離党しているが、衆院議員は辞職していない。

安倍政権下で、要職に就かせるなど自民党が前途を嘱望した政治家だ。離党したから「関係ない」では済まされない。党として秋元議員に国会議員を辞職するよう求めるのが筋である。そうでなければ、国民は納得しない。

■「IR政策の転換に踏み切ることだ」と朝日社説

秋元議員に実刑判決が下った翌日の9月8日付で新聞各紙がこの判決を一斉に社説のテーマに取り上げている。

「カジノの是非 再考の時」との見出しを付けた朝日新聞の社説は、皮肉を込めて「証人買収罪は組織犯罪の取り締まりなどを目的に17年に新設されたもので、法案を提出した政府与党の一員だった秋元被告が最初の適用例となった」と指摘した後、こう主張する。

「職務を汚し司法の機能をゆがめることを狙った人物が、今も議員バッジをつけ、自民党も傍観している。一審とはいえ裁判所の判断が示された以上、党としても登用した責任を踏まえ、本人にけじめを求めるとともに、経緯を総括して国民に示すのが務めではないか」

所属していた党が秋元議員に辞職を勧告するのは当然のことである。そこに踏み切ろうとしない自民党は社会常識からも逸脱している。総裁選に夢中になる余り、政党としての責任を忘れてしまったのか。

さらに朝日社説は「IRは安倍前政権が『成長戦略の目玉』として推し進めたものだ。だが、国際会議場やホテルを併設し、外国人客に金を落としてもらおうという考えは、コロナ禍で説得力を著しく失った。先の横浜市長選で、菅首相がIRに反対する候補者の応援に回ったことは、構想の破綻を自ら認めたようなものだ」と自民党政権を批判し、次のように訴える。

横浜
写真=iStock.com/Liyao Xie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liyao Xie

「予定では、来月から誘致をめざす自治体の申請受け付けが始まる。政府に求められるのは、状況の変化を直視し、政策の転換に踏み切ることだ」

しかながら、政府はすでに政策の軌道修正をしようと動いている。朝日社説は「構想の破綻」と言い切るが、IRの旗振り役を務めてきた菅首相がIR反対の小此木八郎氏を応援したこと自体が、横浜への誘致計画を白紙に戻すことにつながる。ただ、横浜市長選はいくつもの政治的思惑が交雑した選挙であり、概観すること自体が難しい。

■毎日社説の見出しは「根深い政治腐敗への断罪」

毎日新聞の社説は「秋元議員は全面的に無罪を主張している。しかし、贈賄側や証人買収に関与した人がいずれも起訴内容を認めた。資金を用意した証拠も見つかっており、言い分は説得力に乏しかった」と批判し、こう主張する。

「即日控訴し、今後も政治活動を続ける意向という。だが、有権者の信頼は大きく損なわれている。有罪判決が出た事実を重く受け止め、直ちに議員辞職すべきだ」

秋元議員は秋の衆院総選挙で当選はしないだろう。有権者は秋元議員が事実を押し曲げておのれの正当性を訴えるヤカラだと理解している。せめての罪滅ぼしとして言い渡された実刑判決を素直に認め、早々に議員辞職をするべきである。

毎日社説は「今年に入り、『政治とカネ』の問題で有罪の司法判断を受けた国会議員は、辞職した人を含め4人目だ。ゆゆしき事態である」と指摘し、最後にこう訴える。

「全員が自民党の所属だった。党は真摯に反省し、問題の根絶と信頼回復に向け、総裁選できちんと議論しなければならない」

見出しも「根深い政治腐敗への断罪」である。

有罪判決を受けた国会議員は、安倍政権下の「アベ1強」が生んだ負の落とし子である。安倍政権を支え、そして引き継いだ菅首相にも大きな責任がある。

自民党総裁選(9月29日投開票)で選ばれ、首相となる人物は強く反省し、負の落とし子を一掃してもらいたい。

■「自民党のけじめのない姿勢が批判を招いている」と読売社説

読売新聞の社説は「秋元被告は収賄事件で保釈された後、自分の裁判で証人になりそうな贈賄側の被告を買収しようとした組織犯罪処罰法違反にも問われた」などと指摘したうえで、こう主張する。

「汚職事件の刑事責任を問われた国会議員が、主張の対立する相手にうその証言を持ちかけて報酬を約束するなど、前代未聞である。裁判の公正さをゆがめる行為であり、到底許されない」

秋元議員の証人を買収しようとした行為はだれがどう考えても情状酌量の余地はなく、「到底許されない」行為なのである。それにもかかわらず、議員辞職を拒んでいるのは甚だ遺憾である。

読売社説は「逮捕後に自民党を離党したが、議員辞職は拒み、今秋の衆院選には出馬する意向を示している」「このような状況で、有権者に支持を訴えるなど、常軌を逸している。判決の指摘を謙虚に受け止めることが必要だ」と訴えた後、こう指摘する。

「自民党に所属した議員の不祥事が続いている。先の参院選で地元議員らに現金を配った河井克行元法相は実刑判決を受けて控訴し、菅原一秀前経済産業相は選挙違反で罰金刑が確定した。吉川貴盛元農相も収賄罪で公判中だ」

毎日社説と同じく、安倍政権とその後の菅政権へと続く中で起きた政治腐敗、自民党政治の歪みを問題視している。

最後に読売社説は「これらの刑事事件について、政治家本人や党が十分な説明を尽くしたとは言い難い。自民党は、けじめのない姿勢が国民の厳しい批判を招いていることを、改めて自覚しなければならない」と訴える。

自民党と政府は、言論界で保守を代表する読売社説に矛先を突き付けられていることを自覚してほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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