「中古車価格が新車価格を超える」富裕層の心を鷲掴みにした"あるクルマ"
プレジデントオンライン / 2021年9月29日 12時15分
■新型ディフェンダーの人気が止まらない
高級外車市場のなかでもSUVが席捲するなか、現在、このセグメントで君臨するのは、メルセデスベンツGクラスのゲレンデだ。多くの芸能人も所有するこの車、グレードやオプションなどを積み上げれば2000万円以上になるような超高級車であるが、2018年に40年振りにフルモデルチェンジして以降、リセールバリューの高さもあり、人気に拍車がかかっている。ちなみに、国内の正規ディーラーでは来年2022年モデルの受注受付を既に停止している。新車供給が限られるなかで、この先一層プレミアム化し、中古車市場でのさらなる値上がりも想定されよう。
もっとも、全国区的なゲレンデ人気に負けず、いまそれ以上に都内を中心にホットなSUVがある。それは、ランドローバーの新型ディフェンダーだ。新型ディフェンダーの車両本体価格は551万円からながら、さまざまなオプション装備などを加えると1000万円前後の価格帯にまで跳ね上がる。それにもかかわらず、富裕層を中心に人気を集め、現在注文しても納車まで8カ月から1年は待つという状況だ。このため、中古車価格が新車価格を上回るほど上昇しているのだ。一体、何が起こっているのだろうか。
筆者は、国内外の富裕層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントとして高級外車を保有する数多くの富裕層と接しており、また、白金台、広尾、西麻布、南青山といった都内屈指のセレブタウンを貫き高級外車も多い「外苑西通り」を10年以上、ほぼ365日運転して通っている。こうした経験も含め、その背景を紐解いてみたい。
■「世界的な半導体不足」と「世界的なカネ余り」
新型ディフェンダーにみられる中古車価格>新車価格の背景には、世界的な半導体不足に加えて、「世界的なカネ余り」がある。コロナショックにより、日米欧では、史上最大規模の金融緩和策と財政出動策がとられている。このため、世界中で、株式市場や不動産市場にカネが流れ込み、さらに、溢れたおカネが、資産価値の上昇を見込み、高級時計、高級ワイン、装飾品、高額スニーカー、そして高級外車にも流れ込んでいるのだ。
こうした金融緩和の恩恵を最も受けるのは、既に資産・資金を十分に持ち、その資産・資金を元手にさらなる投資や購入ができる富裕層となる。元々販売台数が限定的な高級外車は、カネ余りにより、ますます「希少品を手に入れたい」という富裕層のニーズを掻き立てることになるのだ。
■フルモデルチェンジをした新型ディフェンダー
元祖ラグジュアリーSUVメーカーとして知られるランドローバーは、英国王室御用達の証「ロイヤル・ワラント」の認定を受けており、エリザベス女王のパレードや、ウィリアム王子とキャサリン妃のロイヤル・ウェディングにも使用された高級車だ。
ランドローバーの3つの主要ラインナップには、レンジローバー、ディスカバリー、そしてディフェンダーがある。1948年に誕生し、約70年ぶりにフルモデルチェンジしたのが新型ディフェンダーだ。日本では2020年4月より通常モデルの受注を開始し、順次納車されてきている。その個性的なデザイン、あらゆる地形を走破するオフロード走破能力などが高く評価され、2021年4月には、「ワールド・デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」も受賞している。
![山道を走行する新型ディフェンダー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/9/670/img_196dcadcb4b4f8d3c37d2b46af550fa0398800.jpg)
なお、旧型ディフェンダーも都内ではよくみかけるが、その多くは、正規ディーラー輸入車ではないという。正規ディーラー保証もないのに、中古車市場では、高値を維持し続けている稀有な車なのだ。
■ランドローバーの販売台数は前年比150%
富裕層や高額所得者が主流の高級外車市場において、セダンからSUVに覇権が移ったことで、BMWやアウディなど、セダンが中心だったブランドに頭打ち感がみられる一方、ゲレンデやポルシェ・カイエン、ランドローバーの新型ディフェンダーなど新たなSUVを求める顧客ニーズはやむことがない。
日本自動車輸入組合(JAIA)によると、ランドローバーの今年1月から8月までの累計販売台数は、前年同期の2255台から150.2%の3387台に達している。
なお、ラングラーなどを有し、SUV人気を牽引するジープにおいても、前年同期の7712台から121.3%の9358台に達している。
一方で、同じ時期のBMWの累計販売台数は、前年比115.0%に留まっている。
■スペックよりもデザインや世界観が大事
なぜ、ディフェンダーの中古車価格が新車価格を上回る程、人気が加熱しているのか。理由は4つ考えられる。①雰囲気、②希少性、③価格帯、④年齢層、といった点で、富裕層を中心とした顧客ニーズをうまくつかんでいるのだ。
一つ目の雰囲気とは、ブランド力ということだ。いまやこうしたハイスペックの車を、性能や品質をメインに選ぶユーザーがどれぐらいいるだろうか。どの自動車メーカーもカラーはあるが、グローバル化が進み、車のコモディティー化が進んだ結果、性能や品質では大差のない時代だ。多くの富裕層にとって、排気量や最高速度や出力などが高級外車を選ぶ一義的な要件ではなくなっているのだ。燃費の差もこのセグメントでは決定打にはならない。その車が醸し出すまさに雰囲気、歴史、イメージが大事なのだ。スペックよりも、デザインや世界観ということだ。
![雪道を走行する新型ディフェンダー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/7/670/img_a7d0111e903ea5ec69b2e727631964c0400773.jpg)
■「人と違うものを、早く手に入れたい」
そして、雰囲気と同様に、希少性も大切な要素だ。いくら雰囲気がよくても、人と同じが嫌いな富裕層は、皆が乗っている車は、極力避けようとするのだ。「東京随一の“セレブ通り”を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ」でも紹介したように、富裕層の特徴として、①人と同じはいや、②面倒くさがり、③でも、構ってほしい、が挙げられる。まさに、人とは違うものを早く手に入れたい、待つのは面倒なので、高値でも中古車で仕入れたいということになるのだろう。
とはいえ、価格も大事だ。富裕層でも、コストパフォーマンスは当然気にするものだ。そして、最後は、自らの年齢にふさわしいかどうかだ。いくら雰囲気があり、希少性と価格帯がマッチしたとしても、余りにもスポーティーだったり、逆に、余りにも保守的だったりしてもダメで、年相応の車に乗りたいのだ。
■「ラングラー以上、ゲレンデ未満」のニーズを捉える
新型ディフェンダーに戻って、この4つの理由を当てはめてみると、雰囲気は申し分ない。ランドローバーの持つSUV専業ブランド、英国王室のイメージ。あらゆる自然に対応するオフロード車でありながら、スタイリッシュで都会にも合う。
![夜の市街地と東京タワー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/5/670/img_750a9d0235e5af8aacaf17e5f17f24f2400882.jpg)
そしてその希少性。約70年ぶりのフルモデルチェンジで、旧型車とは大きくスタイリングも変更し、実質、新型車のリリースに等しい。都内でもまだ限られ、世界的な人気と供給不足で希少性は抜群だ。価格帯は、色々とオプションを付けても1000万円前後だ。
決して安くはないが、王者ゲレンデに比べれば半額近い価格帯だ。ゲレンデはやや高いし数も多いながら、そもそも手に入らない側面もある。カイエンも同様だ。
マセラティのレヴァンテ、ベントレーのベンテイガやアストンマーティンのDBX、ランボルギーニのウルスでは高すぎるし普段使いがしづらかったりする。価格はクリアできても、BMWやアウディ、ボルボやレクサスのSUVやトヨタのランドクルーザーも希少性や雰囲気、年齢層において合わなかったりするのだ。
また、人気が続くジープ・ラングラーであれば、700万円も出せば、相当いいグレードに好きなオプションをつけて新車が手に入るはずだ。しかし、こちらは、やはりアメリカンでワイルド過ぎて、40代50代以降の富裕層には少し勇気のいる選択肢になる。年齢的にも、富裕層の中核をなす、40代50代そして60代には、新型ディフェンダーの方がマッチするのだ。
■中古車価格>新車価格になる外車はそう多くない
なぜランドローバーの新型ディフェンダーは、中古車価格>新車価格なのか。ゲレンデやジープ・ラングラーにはない、選択肢を求める富裕層のニーズを巧みに取り込んでおり、価格帯的にもまさに、ラングラー以上ゲレンデ未満のレンジに収まっているからだ。
もっとも、中古車価格>新車価格になっている高級外車は他にもある。フェラーリやランボルギーニなどは、生産台数が極端に少ないこともあり、プレミアムがつくことで、新車価格よりも中古車価格の方が高くなったりする。足元では、ポルシェ911シリーズの人気も根強く、15年という異例の長さのメーカー保証の存在もあり、中古車市場でも高値で取引されているが、それでも中古車価格が新車価格よりも高くなるのは、911ターボモデルやGT3モデルなど一部の最上位モデルを除けば、稀である。
世界的なSUV人気とカネ余りと半導体不足を背景に、①雰囲気、②希少性、③価格帯、④年齢層、の4つの要素が富裕層ニーズにはまった新型ディフェンダー人気はしばらく続きそうだ。
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マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。
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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)
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