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「安倍支配をぶっ壊す」河野太郎が首相になるためにはそう宣言する必要がある

プレジデントオンライン / 2021年9月16日 18時45分

記者会見で自民党総裁選への出馬を表明し、質問を聞く河野太郎規制改革担当相=2021年9月10日午後、東京・永田町の衆院議員会館  - 写真=時事通信フォト

自民党総裁選が9月17日に告示される。石破茂・元幹事長が立候補を断念したことから、岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相、河野太郎行政・規制改革相、野田聖子・幹事長代行の4氏で争う構図が固まった。ジャーナリストの鮫島浩さんは「各社の世論調査では河野氏の支持率が最も高い。しかし2012年の総裁選で石破氏が安倍氏に決選投票で敗れたように、このままでは河野氏も決選投票で敗れる恐れがある」という――。

■河野氏は今の政治を変えることができるのか

河野太郎ワクチン担当相が長老支配や派閥政治の打破に期待する世論の追い風を受けて自民党総裁選の主役に躍り出た。最大派閥を率いるキングメーカーの安倍晋三前首相は世代交代を嫌って河野政権阻止に躍起だ。このまま河野氏が総裁レースを制するのか、それとも岸田文雄前政調会長と高市早苗前総務相の2・3位連合で逆転を目論む安倍氏がさいごに笑うのか。自民党内の権力闘争にマスコミ報道は集中している。

だが、その前に問うておきたいことがある。河野氏は本気で「安倍支配からの脱却」を目指しているのか。それをやり抜く実行力があるのか。

河野氏はテレビ番組で「自分で言うのもなんですけど……言っちゃいますけど、やはり河野太郎でなかったら、ワクチンはここまでこなかっただろうと正直思っています」と自画自賛した。しかし、河野氏はワクチン確保がなぜ諸外国より遅れたのかを明確に説明したことがない。ワクチンが届かず各自治体で予約停止が相次いだ時も納得のいく説明はなかった。

本人は実行力や説明力をアピールしているが、実はイメージ先行なのではないか。自らに批判的なツイッターアカウントを次々にブロックしたのは当然の権利と開き直るように、首相になれば強権を振り回すのではないか。単なる権力志向のポピュリストなのではないか――彼には空疎なリーダー像がどこかで付きまとう。

河野氏の真贋を見極めるには、今から20年前の総裁選で「自民党をぶっ壊す」と叫んで大逆転勝利を収め、長期政権を実現させた小泉純一郎氏(小泉進次郎環境相の父)との対比が有効である。小泉構造改革への賛否は別として、小泉氏がイメージ先行ではなく実際に自民党を大きく変革したのは歴史的事実だ。

河野氏が総裁選を勝ち抜き、安倍支配に終止符を打って自民党を変えるために足りないものを考察してみよう。

■「自民党をぶっ壊す」で大勝した非主流派・小泉純一郎

若い世代には想像できないかもしれないが、安倍氏が率いる最大派閥・清和会(現細田派)は自民党史において長らく非主流派だった。自民党を支配してきたのは武闘派と呼ばれた経世会(現竹下派)とお公家集団と呼ばれた宏池会(現岸田派)だった。

中卒程度の学歴にして首相に上り詰めた田中角栄氏の流れをくむのが経世会だ。最大派閥として自民党の選挙や国会対策を牛耳り、竹下登、橋本龍太郎、小渕恵三ら首相を輩出した。宏池会は池田勇人、大平正芳、宮澤喜一ら大蔵省(現財務省)エリート官僚出身の首相を輩出し、ハト派の政策集団として経世会を支えた。

経世会と宏池会が支配する自民党は、愛国心や排外主義といったイデオロギーを極力抑え込んで経済成長に専念し、その果実を国民に広く分配する政治を追求してきた。この結果、戦後日本は貧富の格差が小さい「一億総中流」と呼ばれる社会になったのである。

これを大転換させたのは今から20年前、非主流派のタカ派・清和会に属してきた小泉純一郎氏が大勝した自民党総裁選である。小泉氏は最大派閥が担ぐ橋本龍太郎氏に党員投票で圧勝し、一挙に首相の座をつかんだ。「小泉劇場」と呼ばれた大逆転劇は日本政治史の重要な転換点だ。

小泉純一郎
小泉純一郎氏(写真=首相官邸ホームページ/CC BY 4.0/Wikimedia Commons)

小泉氏は経世会と宏池会を頂点とする政界・官界・財界の主流派を「抵抗勢力」と名づけ、彼らが独占してきた既得権益を打破する「構造改革」を掲げた。首相就任後は自民党と財務省など有力省庁が主導する政策決定システムを変革。大学教授の竹中平蔵氏を経済政策の司令塔として閣僚に抜擢し、官邸主導で経済政策を推進した。

小泉政権の5年半で経世会と宏池会は弱体化し、自民党は清和会支配に突入した。それに伴って弱者を支えてきた「富の再分配」は縮小され、規制緩和が進んで「強い者がより豊かになる」競争主義が加速し、貧富の格差が急拡大した。

■安倍・菅政権の系譜と総裁選の構図

小泉氏から後継指名されたのが同じ清和会の安倍氏だった。

2006年に誕生した第一次安倍内閣は短命に終わったものの、12年発足の第二次安倍内閣は官邸主導の政治を確立し、日本史上最長の7年8カ月も続いた。経済政策「アベノミクス」は株価を飛躍的に押し上げて大企業や富裕層を潤わせる一方、労働者の実質賃金は一向に上がらず、貧富の格差はどんどん拡大していったのである。

菅義偉内閣もこの路線を受け継いだ。菅氏は安倍内閣を官房長官として支えてきたのだから当然だろう。安倍氏は菅内閣でも隠然たる影響力を残した。菅内閣の支持率が続落して今秋の衆院選で自民党苦戦が予想されると、安倍氏は総裁選で対抗馬に名乗りをあげた岸田氏に加勢し、菅首相を不出馬に追い込んだ。岸田氏は安倍氏の後ろ盾を得て一時は総裁レースのトップに躍り出たのである。

岸田氏は伝統的に「富の再分配」を重視してきた宏池会の会長だ。しかし現在の宏池会はかつての威光を失い、清和会に屈している。しかも岸田氏は安倍氏に極めて従順だ。岸田政権なら安倍路線が継続されるのは間違いない。安倍氏のキングメーカーの座も安泰だ。

そこへ参戦したのが、各種世論調査で「新総裁にふさわしい人」のトップに立つ河野氏だった。「安倍支配からの脱却」を鮮明に打ち出している石破茂元幹事長は出馬を見送り、河野氏支持を表明。「安倍氏が支援する岸田・高市陣営」vs「安倍氏が警戒する河野・石破陣営」という対決構図が見えてきた。

■決選投票になれば“河野優位”はあやうい

ここで今回の総裁選のルールをおさらいしよう。国会議員票383票(1人1票)と党員票383票(約113万人の党員票を比例配分)の計766票のうち過半数を取れば勝ちだ。誰も過半数に届かなければ上位2人による決選投票となる。国会議員票383票と各1票ずつの都道府県連票47票の計430票で争う形式だ。決選投票にもつれ込めば「派閥の力」がモノを言う。

写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

朝日新聞が9月11、12日に実施した世論調査によると、自民党支持層が新総裁にふさわしいと考えるのは①河野氏 42% ②岸田氏 19% ③石破氏 13% ④高市氏 12%の順だった。河野氏は党員投票でトップに立つ可能性が高い。

一方、最大派閥の細田派と第二派閥の麻生派には河野氏への抵抗感が強く、河野氏は国会議員票で圧勝するのは難しそうだ。最初の投票で過半数に届かなければ、決選投票で2・3位連合に逆転される可能性が十分にある。

安倍氏も河野氏と岸田氏の一騎打ちなら河野氏に軍配が上がると考えた。そこで国家観や歴史観などの右派的な政治信条が極めて近い高市氏を擁立し、左右両方から党員票を取り込んで分散させ、決選投票に持ち込む戦略を描いた。

河野氏も当初は安倍氏を敵に回して勝つのは難しいと考えたのだろう。

正式な出馬表明に先立って安倍氏を訪ねて出馬の意向を伝え、安倍氏が警戒する「脱原発」や「女系天皇賛成」の持論を封印して歩み寄る姿勢を見せた。さらに安倍氏が最も恐れる「森友学園事件の再調査」も「必要ない」と明言し、安倍氏の支持を獲得する意欲を示したのだ。

■「石破型」で逆転負けか、「小泉型」で圧勝か

それでも安倍氏が河野支持に転じることはなかった。主要派閥が河野氏に雪崩を打つ展開にはならなかったのである。

これを受けて河野氏は安倍氏の天敵である石破氏を訪ねて支援を要請した。この結果、細田派や麻生派で一挙に河野警戒論が高まった。候補者をさらに増やして党員投票を分散させることを狙って、推薦人確保に苦労していた野田聖子幹事長代行に推薦人を貸す動きまで出始めたのである。

以上がこれまでの経緯である。安倍支配を容認するのか、否定するのか、実は河野氏は明確な姿勢を示していない。それを曖昧にしたまま「イメージ先行」で逃げ切れるのか。長老支配や派閥政治を打破する河野氏への期待がしぼめば、最初の投票で過半数を獲得するのは困難となり、石破氏が決選投票で安倍氏に逆転された2012年総裁選の構図が再現される可能性が高まる。

むしろ小泉氏が「抵抗勢力」との対決姿勢を前面に打ち出して地滑り的に勝利した2001年総裁選に習って安倍氏との対決姿勢を明確に掲げたほうが、党員投票で圧勝的な支持を得て一気に過半数を制することができるのではないか。「石破型」で逆転負けか、「小泉型」で圧勝か。河野氏は重大な岐路に立っている。小泉型を目指すなら、安倍氏と決別する覚悟が不可欠だ。

■切れ味を鈍らせる安倍氏への接近

小泉型の特徴は、最大派閥が受け入れ難い公約を高らかに掲げたことだった。小泉氏の長年の持論である郵政民営化である。当時の派閥政治を牛耳っていたのは郵政族の重鎮・野中広務元幹事長だった。小泉氏は野中氏を「抵抗勢力のドン」と位置付け、全面対決を挑んだ。ここから「小泉劇場」が幕を開ける。

現代に置き換えると、安倍氏が受け入れ難い河野氏の持論は「脱原発」である。安倍最側近として官邸で菅官房長官以上に権勢を振るった今井尚哉元首相補佐官は経産省出身で強烈な原発推進論者だ。今回の総裁選では岸田陣営に出入りし「安倍氏の本命は岸田氏」とささやかれる根拠となった。

河野氏は安倍氏に遠慮して原発再稼働を容認する姿勢を見せたが、小泉型を目指すのなら「脱原発」に立ち戻り、再生エネルギーへの大胆な変革を最大の争点に掲げ、原発推進派を「抵抗勢力」に仕立てる真っ向対決を挑むべきだろう。

■河野氏に残された唯一の“勝ちパターン”

小泉氏は経済政策の転換を実行するため、抵抗勢力と全面対決する強力な布陣をしいた。まずは毒舌で国民的人気の高かった田中角栄氏の娘・田中真紀子氏を応援団に引き入れ、外相に抜擢。この人事は内閣支持率を大きく上昇させた。

そのうえで長年の盟友である山崎派会長の山崎拓氏を幹事長に、清和会を旗揚げした福田赳夫元首相の長男・福田康夫氏を官房長官に起用して脇を固めた。さらに前任の首相で清和会会長の森喜朗氏との関係を維持し、野中氏ら抵抗勢力に政敵を絞り込んだ。

現代の河野氏に置き換えると、世論喚起の起爆剤である田中真紀子役になりうるのは小泉進次郎環境相であろう。党運営の要である山崎拓役は石破氏をおいて他にない。河野氏は石破氏と盟友関係ではないが、安倍氏に最も干された石破氏の幹事長起用は「安倍支配からの脱却」のシンボルとなる。

官房長官の福田康夫役は息子の福田達夫氏(清和会)でどうか。達夫氏は父の内閣で首相秘書官を務め、官邸の事情に精通。当選3回以下の衆院議員90人が参加する「党風一新の会」を立ち上げ派閥政治の打破に動いている。父の康夫氏は安倍氏に批判的なことで知られ、達夫氏の抜擢も「安倍支配からの脱却」のシンボルとなろう。

森喜朗役にあてはまるのは現首相の菅氏と河野氏の派閥の親分である麻生太郎氏だ。小泉氏が森氏に一定の配慮を示して野中氏ら抵抗勢力と分断したように、河野氏は菅・麻生両氏と安倍氏の分断を図ればよい。

安倍支配からの脱却は掛け声だけは実行できない。それを象徴する強力な「目玉政策」と「布陣」が不可欠だ。小泉政権から学ぶべき点である。

■安倍・菅政権からの路線転換こそ河野氏に求められる役割だ

最後に大切なことを指摘しておきたい。河野氏が「安倍支配からの脱却」に成功したところで、肝心の経済政策が安倍路線を踏襲すれば、河野政権誕生の歴史的意義は消失するだろう。

原発政策にとどまらず、小泉政権から安倍・菅政権にかけて長期にわたる清和会支配がもたらした格差社会からの転換を打ち出すことが、河野氏に求められる歴史的役割ではないか。

石破氏はかつて小泉構造改革の信奉者だった。安倍氏に干され続ける間に「富の再分配」を重視する経済政策に軸足を移した。安倍・菅政権で要職にありつづけた河野氏は、小泉政権以来の清和会が主導した競争重視の立場を取り続けている。河野政権が誕生しても、貧富の格差を拡大させる自民党政治の潮流が受け継がれるのならば、今回の総裁選は単なる「コップの中の権力闘争」でしかない。

その場合、総裁選後の衆院選は、格差是正を掲げる野党と政権をかけた戦いという構図が強まる。私たち有権者はこの総裁選を単なる「首相レース」に終わらせることなく、自民党が志向する社会像が変わるか否かをしっかりと見極め、衆院選に備えたい。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部デスク、特別報道部デスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2014年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。2021年5月31日、49歳で新聞社を退社し、独立。SAMEJIMA TIMES主宰。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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