スーパーカップ、ジャンボモナカ、パピコ…激戦のアイス市場で結局"定番"が選ばれるワケ
プレジデントオンライン / 2021年9月23日 12時15分
■毎週新作が出るのに、売れるのは“定番”ばかり
毎週のように新しい商品が出る「アイスクリーム」――。新商品がいち早く出回るコンビニで、それを探す消費者も目立つ。アイスマニアの中にはSNSで新作アイス情報のアカウントをフォローし、情報収集に余念がない人もいる。
こうした人気も反映し、全国の小売店で買える家庭用アイスの新商品は年間約250種類に上るという。
だが「限定品」で発売され、一定期間が過ぎれば販売終了となる商品も多い。中には人気爆発で、いち早く終売となる商品もある。限定商品は話題性も大きいのだ。
そんな状況も手伝い、売れ筋アイスはロングセラー商品ばかりとなっている。
なぜロングセラーが強いのか。人気ブランドの横顔を紹介し、消費者心理も考えた。
■スーパーカップ、ジャンボモナカ、パピコ…と定番がずらり
同業界の専門メディア「アイスクリームプレス」の調査によれば、2020年度の上位ブランドと年間売上高は別表のとおりだ。市場の拡大を反映し、以前より売上高100億円前後の“メガブランド”も増えた。
ここでは売上高80億円以上のブランドを紹介したが、多くの人が「一度は食べたことがある」名前がずらりと並ぶ。これ以外に別枠1位で「ハーゲンダッツ」(ハーゲンダッツ ジャパン)があり、2020年度のブランド全体の売上高は約480億円となっている。
■ダントツで人気の「超バニラ」
実は上位ブランドの顔ぶれは、長年ほぼ同じ。3ブランドの横顔を簡単に紹介したい。
「エッセルスーパーカップ」(明治)は、ブランド全体(定番3品+シリーズ品)で首位と圧倒的人気を誇る。同ブランドの大黒柱が「明治 エッセルスーパーカップ 超バニラ」だ。ブランド内の2位商品の約4倍、「超バニラ」が売れるという。
「超バニラ」のパッケージで誇らしげなのが、「バニラの王道」の6文字だ。2005年から掲げているが、実は同商品は種類別では「アイスクリーム」(乳成分15%以上、うち乳脂肪分8%以上)ではなく、「ラクトアイス」(乳成分3%以上、乳脂肪分は問わず)なのだ。
その商品が堂々と「王道」を主張するのが面白い。人気の秘密は競合も一目置く“バニラ感”で、発売時から「乳脂肪ではなく植物性脂肪13%と卵黄脂肪で旨みを出した」。当時の基本設計を今でも変えず、「安い・デカイ・ウマイ」を訴求し続けている。
■チョコモナカジャンボ、ハーゲンダッツ好調の要因は?
ジャンボモナカは、「チョコモナカジャンボ」と「バニラモナカジャンボ」(森永製菓)の総称で、同社社内では「ジャンボグループ」と呼ばれる。
「チョコモナカジャンボ」は“単品で売り上げ首位”で、20年連続して販売金額も拡大中。人気の秘密はパリパリの食感で、中に入るチョコは板チョコではなく、液体を流し込み固めるなど、喫食時の口溶けにもこだわる。
「バニラモナカジャンボ」は2013年全国発売の新参だが、コロナ禍の2020年度も対前年比120%を記録し、伸長率では前者を上回った。バニラ味には、ほんの少し発酵乳を使うなど工夫を凝らし「さっぱりしているから毎日でも飽きない」という声も寄せられる。
長年、関ジャニ∞を起用したテレビCMでもおなじみで、「バニラモナカ」単独でも関ジャニのCMで訴求して以来、売れ行きに拍車がかかったという。
別枠1位「ハーゲンダッツ」人気を支えるのは「ミニカップ」と「クリスピーサンド」だ。
ミニカップの売れ行きトップ3は「バニラ」「ストロベリー」「グリーンティー」の順。この順位も長年変わらない。定番以外にさまざまな期間限定品で訴求し、今年の夏は期間限定で「濃苺(こいちご)」を出すなど、新作の味がSNSでも話題を呼ぶ。
今年で発売20年を迎えた「クリスピーサンド」も鉄板だ。こちらの一番人気は「ザ・キャラメル」。クリスピーサンド全体では「20年間で累計販売個数は約5億個」に達した。競合より高価格でも「奮発気分のハーゲンダッツ」と支持を集め、女性からの支持も高い。
■発売40年超のベテランが選ばれる3つの理由
さて、冒頭に記した「ロングセラーが多い」を裏づけるために、発売年も加えてみた。
13ブランドのうち、7ブランドが発売40年を超える。最年少は16年、最年長は58年、平均年数は36年強とベテラン中心なことが分かる。この人気を筆者は次のように考えている。
(1)手頃な価格と、どこでも買える利便性
(2)メーカー各社の創意工夫
(3)ブランドへの安心感とノスタルジー消費
引き続き注目ブランドを紹介し、コロナ禍での(3)の消費者心理を見ていきたい。
■在宅勤務の息抜き、「ちょい食べ」が定着
職種で異なるが、多くの社会人が在宅勤務中心となり、アイスの消費シーンも変わった。
「ピノ」(森永乳業)を愛する30代の会社員(女性)は、こんな喫食ぶりを明かす。
「(一口アイスの)ピノは冷凍庫に必ずストックし、毎日食べているほど大好きです。一気に6個を食べずに1個ずつ食べて、少しの満足感を楽しみます」
同じような話は、「アイスの実」(江崎グリコ)のマーケティング担当者も話していた。
「コロナ以前の平日は帰宅後に食べることが多かったのが、在宅勤務では、目覚めとして、アイスの実を数粒食べたり、デスク作業やオンライン会議の合間に食べたりするなど、平日の日中に食べられる時間が増えたのも大きい、と考えています」
業界では、最初の緊急事態宣言下の2020年4月から“マルチパック特需”が起きた。同年4月~7月の市場全体は対前年比約102.9%(インテージ調べ)を記録し、巣ごもり用に紙箱や袋に入った複数個数のマルチパックが売れた。
購入時間帯にも変化が出ていた。これまで目立たなかった「9時~11時」「13時~14時」に買う人が増え、逆に19時以降は減ったという。この流れは現在も続く。
職場で同僚と一緒に執務しながらではできなかった、仕事中の息抜きアイスは、在宅勤務で特に進んだ行為だ。その際に選ばれるアイスは、昔から親しんできたブランドが多い。
■大人になった消費者が“出合い”を果たすケースも
「ガリガリ君」(赤城乳業)は、今年で発売40周年。かつてのアイスは子どもが駄菓子屋で買うことも多かった。主力商品のソーダ味は、最も郷愁を感じる商品のひとつだ。
だが、40年のロングセラーとなると、発売時10歳だった人は50歳。同じ消費者でも年齢とともに嗜好が変わることも多い。現在の状況を赤城乳業に聞いた。
「ガリガリ君ソーダは、昔から味は大きく変わっておらず、大人になっていったん商品と離れてしまったお客さまでも、仕事帰りや飲み会帰り、お祭りなどで買われる機会も多いです。食べてみると、懐かしさと変わらないおいしさに気づく。こうした声もよく寄せられます」(開発マーケティング本部 マーケティング部 係長・岡本秀幸さん)
一方で「大人なガリガリ君」も販売している。今年はこんな味を発売した。
「ブランド40周年を記念し、6月1日に『ガリガリ君うめ』を発売しました。『懐かしい駄菓子』『昔食べたお菓子のあの味に似ている』という声が多く、販売も好調です」(同)
同社は企業メッセージに「あそびましょ。AKAGI」を掲げ、コロナ禍でも訴求する。
「当初検討していた『ガリガリ君ダンス』など、リアルな場でのイベントは控えていますが、SNSを中心に、投稿すると毎月1名に“ガリガリ君1年分”をプレゼントしています。また、ほぼ毎月新商品を発売し、アイス売り場で商品を探す楽しさ=昔、駄菓子屋のアイスショーケースの底から商品を探し出すワクワク感に近い、を提供しています」
岡本さんは「これからも新商品を発売しますのでご期待ください」と話していた。
■和菓子屋の味が高齢者に選ばれる「あずきバー」
中高年の人気が高い「あずきバー」(井村屋)は今年で発売48年になる。コロナ禍前の2019年にアイス消費が多い石川県に出張した際は、スーパーの目立つ場所に「たい焼きアイス」(同社)とともに並んでいた。
井村屋の前身は明治時代に創業された和菓子屋。戦後の高度成長期にアイスクリーム事業にも進出し、自社の得意技術だった「あずき」をもとに商品を開発した。支持する層は中高年女性が多いため、時代とともに甘さを抑えるなど工夫を続けた。
「強みは何といっても『あずき』に対するこだわりです。併せてあずきの加工技術があることです。生豆から仕入れ弊社基準の厳しい選別基準を経て商品毎に合わせた『あん』を炊く技術は他社にない強みです」(井村屋広報)
同社は「特色経営(人の真似をしない)」と「不易流行」を掲げる。「あずきバーは『後味がさっぱりしているので好き』という声を多くいただきます。素朴な味わいだからこそ何度でも楽しんでいただけると感じています」(広報)
和菓子特有の技術と、どこかなつかしさを感じさせる点が支持される理由のようだ。ちなみに、最近ではあずきバーを電子レンジで温め、ぜんざいとして楽しむ食べ方も人気だという。
■新商品でも「イメージできる味」が好まれる
これまでの話をまとめると、ロングセラー商品の強さには、消費者の安定志向とメーカーの創意工夫が大きいことが分かる。過去の取材ではこんな声も聞いてきた。
「新商品開発時のフレーバー調査でも、斬新な味は支持されず、イメージできる味が支持されるケースが多いです」(複数のメーカーの声)
「消費者はどんどん変化する」の一方で、「人間の味覚は意外と保守的」という声もある。昭和・平成・令和と年号が変わっても、アイスの一番人気は「バニラ味」だ。
だが、その視点だけに甘んじてはいけないだろう。秋冬は濃厚なアイスが人気だが、メーカー各社も新たな商品開発に余念がない。
市場が好調なうちに、次の一手を考えるのは、ビジネスの常道だ。「ベテランを脅かす若手の出現」にも期待したい。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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