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「知性のある人も簡単に洗脳される」ネット上で陰謀論を広める「Qアノン」が使う驚きの戦略

プレジデントオンライン / 2021年9月24日 15時15分

2020年8月22日、ロサンゼルスのハリウッド大通りで行われたデモで、陰謀論者グループ「Qアノン」のデモ参加者が児童の人身売買に抗議している様子 - 写真=AFP/時事通信フォト

ネット上には荒唐無稽な「陰謀論」があふれている。なぜ人は信じてしまうのか。SNSの研究者であるサミュエル・ウーリー氏は「最初は誰もが問題に感じる話題を種にして、徐々に一般化させていく。アメリカ政治に影響を与える『Qアノン』もこの戦略を使っている」という――。

※本稿は、大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■トランプとバイデンのソーシャル・メディアの使い方の違い

——2020年の大統領選挙でトランプに投票した米国人約7500万人の中には、いまもバイデンの正当性を認めない人たちがいるといわれます。トランプ、バイデンはどちらがソーシャル・メディアをうまく使ったと評価しますか。

それはapples and oranges(まったく違う)のようなもので、比べられません。トランプはソーシャル・メディアをbully pulpit(権力の座)、要は公職の権威を利用して、個人の考えを説いて広める道具や自己宣伝の機会にしていました。また嘘をつく場、選挙のプロセスのみならず自分の対戦相手についてディスインフォメーション(事実ではないとわかったうえで流す情報)を拡散する場としても使っていました。

一方でバイデンは、ソーシャル・メディアのフォロワーがトランプと比べるとはるかに少ない。だから単純に比較はできないのですが、バイデンはトランプのように非公式なソーシャル・メディアをまるで自分の公式マウスピース(代弁者)のようには使っていません。トランプに関していえば、彼のツイッターアカウント(現在は永久凍結されている)を見にいけば、しっかり管理している人間がいないので彼の動向や頭の中が何もかも筒抜けでしたが、バイデンはソーシャル・メディアに対してもっと昔ながらのアプローチをとっていたように思えます。

トランプのソーシャル・メディアの使い方は、彼について多くのことを物語っていました。トランプが選挙前に醸し出していた語調は、深い怒りとフラストレーション、心配に満ちていた。彼は当時怯えていたのです。

■アメリカ政治を揺るがす「Qアノン」の正体

——最近、アメリカ政治を揺るがしているといわれる組織「Qアノン」についてお聞きしたい。「Qアノン」の陰謀論に対して支持を表明し、人種差別的な言動でも知られる共和党員のマージョリー・テイラー・グリーンは、2020年11月の選挙で下院議員の席を勝ち取りました。これだけでも日本人にはショッキングなことでした。「Qアノン」は集団ですか? 彼らの目的は何ですか?

よくある陰謀論と同じで、アメリカ政府に内部情報に通じた「Q」という人物がいるとする陰謀論、またその信奉者たちを指します。まさに現実の錯覚というほかありません。少し考えればわかることですが、何の実証にも事実にも基づいておらず、憶測以外の何物でもありませんから。

——さまざまな陰謀論を唱えているようですが、どのようなものなのでしょうか。

この世界には「ディープ・ステート」(闇の国)というものがあり、まったくの自己利益のために国民をコントロールする「大きな政府」を築こうとしている民主党員によって運営されているという。真に恐るべきことに「児童虐待と性的搾取を行なっている国際的なネットワークが存在し、民主党の政治家たちはその一員だ」とか、「民主党員は人喰い人種だ」などと主張しています。2016年の大統領選期間中に広まったピザゲート(民主党のヒラリー・クリントンに関する陰謀論)など、多くの陰謀論と深いかかわりがあります。

これらの陰謀論は民主党の中傷、そしてアメリカ社会の奥底ですでにくすぶっていた猜疑の火種を燃え上がらせる目的で流されたとみられます。アメリカは多くの人の間で二極化しており、また社会の奥底には反知性主義がつねに流れていますが、インターネットがそのような陰謀論を拡散するのに加担した。

非常に有害な考え方ですが、最初は社会の末端から出てきたものです。それがいまや、私の大学時代の友人でさえも「Qアノン」に関連する内容にハッシュタグをつけて、共有するほど主流になってきました。彼女はとても頭がいい人で、結婚して子どももいますが、そういう人が「Qアノン」に惹かれているのです。

■少量ずつ毒を飲ませて荒唐無稽な陰謀論を信じ込ませる

——そもそも、そうした荒唐無稽な陰謀論がなぜ広まるのでしょうか。

「Qアノン」の裏に誰がいるのか知りませんが、彼らは幅広い分野に当てはまりそうなコンテンツと論説を考えて使います。個人的には、理にかなった戦略だと思います。

たとえば彼らは“Save the Children”(子どもを救え)というハッシュタグを使うのですが、ほとんどの人はそれを見たとき、イギリスの非営利団体「セーブ・ザ・チルドレン」を思い浮かべる。でも「Qアノン」のコンテンツを拡散する人は、往々にして児童誘拐など、誰もが問題にすべきと信じるような大問題を種にして、それをより一般化するように仕向けます。

毒に対する耐性を少しずつ増していくようなものです。1回に少量の毒を飲み、それを続けると、最終的にその毒はあなたにとって毒ではなくなる。耐性ができるからです。「Qアノン」のやり方も同じようなものです。少しずつ陰謀論を信じ込ませていく。

毒を混入している手元
写真=iStock.com/sudok1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sudok1

——とても計算された手法を用いているわけですね。

アメリカでは、制度や教育や医学、ジャーナリズムに対する深い不信感が、ここ数年でさらに高まっています。トランプが大統領になる前からそうした傾向は一つの要素としてありましたが、彼が大統領に就任すると、ジャーナリズムをひどく嫌い、学者たちは本当はバカであるとか「ディープ・ステート」の代弁者であると述べることが、公式に“承認”されたのです。

——「Qアノン」は表面上、真っ当なテーマにハッシュタグをつけ、拡散しているとのことですが、それをアメリカ政府が規制することは可能でしょうか。

それは非常に難しい。アメリカ政府、ひいてはアメリカという国が、「言論の自由」に心酔しているからです。それは正しくもあり、問題でもある。政府は、とりわけオンライン空間の規制には腰が重いように見えます。テレビ、ラジオなどには規制をかけていますが、インターネットの規制には渋ってきた。

自著でも述べましたが、私にはこう思えてなりません。つまり、アメリカ政府はオンライン空間をきちんと理解していないのです。その大きさ、複雑さにおじけづいている。アメリカ政府がオンライン空間を規制することができるとしたら、具体的な危害が生じる場合だと思います。

——たとえば、どんなときでしょうか。

「Qアノン」は反ワクチンや反医療といったディスインフォメーションを拡散していますが、それで実害を受ける人の数は計り知れません。こういう有害な情報拡散への対策を講じるべきでしょう。保護対象グループ(protected groups)への攻撃、たとえば黒人(アフリカ系アメリカ人)やユダヤ人、ムスリムを攻撃する人種差別的内容とか、暴力を駆り立てるような内容にも同じことがいえます。

——かなり特定的なケースの場合ですね。

そうです。でなければ規制できません。ナチスを経験したドイツでは言論規制に積極的ですが、アメリカは違いますから。

■ボットの目的はメディアに情報を再生させること

——2016年の英国民投票や米大統領選では、ロシア政府が関与したとされるボット(自動のプログラム)が、投票行動に影響を与えたと、あなたの著書(『操作される現実』白揚社)で述べられています。そのボットは、技術的にはそれほど複雑ではないとありますが、なぜ多くの人がその単純な仕掛けに影響されてしまうのか。

理由はいくつかあります。まず多くの場合、ボットは人間をターゲットにしていません。情報をキュレートしているツイッターやフェイスブックのアルゴリズムをターゲットにして、それらソーシャル・メディアに情報を再生させることを目的としています。

たとえば、何万ものアカウントがある出来事について、ツイートするように仕掛ける。ニュースメディアはツイッターで何が人気なのかをつねにチェックしているので、「これはいま流行っているに違いない」と思って、記事にすることがよくあります。このように、生身の人間が影響を受けるまでにワンステップを経ることが多いのです。

別の状況では、この単純なボットが人の行動を変える効果があります。ジャーナリストや女性、あるいは特定のコミュニティの人を、有害な情報やひどく侮辱するような内容で攻撃し、怖がらせます。攻撃された人はボットの仕業だろうと思うかもしれませんが、それでもボットの後ろには必ず人間がいるものです。だから、この攻撃の裏にはもっと恐ろしく、邪悪で悪辣(あくらつ)なことが隠されているのではないだろうかと思ってしまうのです。

■SNSごとのフェイクニュースへの対応の違い

——現在、フェイスブックやツイッターは、いわゆる「フェイクニュース」といわれる情報について、どのような対応をとっているのですか。

ツイッターは、フェイスブックよりもはるかに執拗(しつよう)なアプローチをとっています。これは、思うにツイッターのオンライン空間での立ち位置が理由でしょう。両者はまったく異なるプラットフォームですから。ツイッターは、たとえば(インタビュー当時の実施日から数えて)この3日間でトランプのツイートの75%近くに偽情報、もしくは誤解を招く情報という警告ラベルを表示しました。これは大きなステップです。トランプが大統領に就任してからの4年間、ツイッターは彼の発言をほとんど野放しにしてきましたから。

大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)
大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)

ツイッターのような企業でも、アメリカ政府や政策の立案者と同じように具体的な危害が加えられそうな場合にのみ、対策を講じようと考えている。言論を過度に規制するのを恐れているからです。言論規制という仕事から逃れるために、企業らは「言論規制なんてことがあってはならない」というアメリカ市民の恐怖心を食い物にしている。それは、企業自身も自覚していると思います。

言論規制は、企業の収益にも影響します。ツイッターのユーザー数は世界で何億人規模、フェイスブックも同じくらいだといわれていますが、それほどのユーザー数、広告クリック数、ページビュー数、その他諸々の数字でできあがった「フェイク」な構造、この構造全体からソーシャルメディア企業は甘い汁を吸っているわけです。フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグは、再三にわたって言論の自由重視のアプローチをとり、言論の自由を奪うくらいなら、過ちを犯してもいいとさえ言っています。

とはいえ、2社とも偽情報と思われる投稿の拡散に対し、以前よりバリアを高くしつつあります。フェイスブックが静かに偽情報の拡散に歯止めをかけようとしているのに対し、ツイッターはもっと公然たる行動をとっています。以前はほぼ何もしていませんでしたから、それと比べるとはるかに有効です。

ただそれは非常に断片的で、私のような専門家でさえ、システマティックに何が起きているかを理解するのは難しい。対策に統一感がないのです。

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大野 和基(おおの・かずもと)
国際ジャーナリスト
1955年、兵庫県生まれ。大阪府立北野高校、東京外国語大学英米学科卒業。1979~97年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行なう。1997年に帰国後も取材のため、頻繁に渡航。アメリカの最新事情に精通している。

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サミュエル・ウーリー 著述家
AIや政治、ソーシャルメディアを専門とする研究者。テキサス大学オースティン校のジャーナリズム・スクール助教およびメディア・エンゲージメント・センターのプログラムディレクターを務める。著書(邦訳)に『操作される現実』(白揚社)など。

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(国際ジャーナリスト 大野 和基、著述家 サミュエル・ウーリー)

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