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「日本の小売業者は宝の持ち腐れ」アマゾンにあって楽天にない"決定的な違い"

プレジデントオンライン / 2021年9月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tevarak

ポイントカードや交通系ICカードなど、日本のIT活用はある時期まで世界最先端だった。ベンチャー投資家の山本康正さんは「米国よりもデータを多く集積していた時期があったが、活用できず、もったいない状態が続いていた。その結果、楽天やヤフーといった大手EC事業者とアマゾンでは決定的な違いが生まれてしまった」という――。

※本稿は、山本康正『2030年に勝ち残る日本企業』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■アマゾンがEC事業者からテクノロジー企業に変貌できたワケ

データを解析するデータサイエンティストや、レコメンデーションを行なうためのAIを開発できるエンジニアが少ないのが、日本の小売業界でデータ活用が遅れている理由の一つです。

アマゾンも、もとは単なるEC事業者でしたが、AWSというクラウドサービスを開発したことでテクノロジー企業に変貌しました。現在ではECよりもクラウドサービス、つまりテクノロジー領域での利益が多くなっています。

データの分析や活用はもちろん、アレクサ(Alexa)という自前のAIエンジンも開発しており、AIに強いエンジニアを多く抱えています。その結果、ECにおいても肌理細やかで精緻な分析ができ、最適なサービスを提供できています。

一方で、日本のEC大手である楽天グループやヤフーは、データはある程度持っているのですが、それを料理する「包丁」である自前のAIの開発が急務です。

■独自のAI技術を持たない楽天の打開策

楽天のECは、すべてのショップを自社で管理するアマゾンのようなプラットフォームとは異なり、いわゆるモール型です。楽天が提供するのはあくまで場だけであり、売上や在庫などのデータの管理は、当初は、モールに出店している各事業者が行なうというスタンスでした。楽天カードの購買データは取得できるとはいえ、購入した商品などの詳細なデータは得ることができなかったため、アマゾンのような精緻なレコメンデーションができずにいたのです。

ただし楽天は、最近はデータを積極的に活用していこうという姿勢が見られます。モバイル事業に参入したのは、まさにその証と言えるでしょう。世界初となる、完全仮想化クラウド型のモバイルネットワークの構築がポイントです。クラウドを使うことで、従来のキャリアとは異なり、多くの個人データを安価に取得することが可能になります。

そして注目すべきは、モバイル事業への参入において、インドのコングロマリット企業、リライアンス・インダストリーズ、ならびに同グループ傘下の通信会社、リライアンス・ジオ・インフォコムの取り組みを参考にしていることです。

彼らのビジネスモデルは、モバイルから得たデータを、ECをはじめとする関連ビジネスに展開していくというものです。同じように多様なサービスを展開している楽天にとって大いに参考になるでしょう。同グループから優秀なエンジニアも招いているようですので、今後の動向に注目しています。

■資本の乏しい小売業者はどうするべきか

楽天モバイルが安価で充実したサービスを設定しているのは、モバイル事業自体で収益を上げることよりも、データ活用のエコシステムを作ることが主目的だからでしょう。

一方、ヤフーは、楽天とは異なるアプローチでデータの取得を進めています。それが、PayPayです。PayPayで得た決済データから、個々の顧客に最適なレコメンデーションを、グループ企業となったLINEなどを通して行なっていくと、私は見ています。

楽天やヤフーのように資金が豊富というわけではなく、エンジニアやプラットフォームなども持っていない企業にとっては、これからデータを収集し、活用する体制を整備しようとしたところで、時間もコストもかかります。そうした小売業者は、生き残るために、先進的なテクノロジーベンチャーと手を組むか、買収を通じて、テクノロジーやシステムを取り入れていくことが必要でしょう。

■集積したデータの活用を阻んでいたいくつもの壁

日本企業はデータ活用が遅れているという話をしてきましたが、データの集積自体は最先端だった時期があります。

日本人には馴染み深いポイントカードは世界的に見ると稀なサービスですし、交通系ICカードはソニーが開発したもので、1997年に香港で初めて採用され、日本で採用された2000年代前半頃は世界でも最先端の情報が集まっていました。

しかし、このデータを交通以外のサービスに使うというアイデアはなかなか実現しませんでした。せっかくの技術を現在の本業以外に使えないか考える機会が少なかったのです。

自動改札機を通る人々
写真=iStock.com/Prasit Rodphan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Prasit Rodphan

QRコードは、トヨタ系列のデンソーによって、部品生産の効率化のために作られたのですが、一般的な決済用途での活用は、のちに中国から普及しました。それと似ています。

ポイントカードも、カードだけでなく、デジタル化することによって、データの活用が進むはずだったのですが、加盟企業全社の了承がなければデータを活用することが難しいことや、消費者のプライバシーに関する風評被害、個人情報保護法(今は改正されています)に関する懸念、データを貯蔵するクラウドや解析するAIなどの技術がなかったことから、先端のテクノロジー企業に比べてデータ活用が進んでいませんでした。米国よりもデータが多くあった時期があったのですが、活用できておらず、もったいない状態だったのです。

■顧客の「あったらいいな」を実現している無印良品

国内の小売事業者で参考になるのが、「無印良品」を展開する良品計画です。

同社は、食品、筆記用具、アパレル、住宅、インテリア、最近ではホテル運営など、生活に関するありとあらゆる商品やサービスを扱っています。そして、「MUJI passport」というアプリを使って、オンラインとオフラインの融合、ハイブリッド化をうまく進めています。

例えば、インテリアの相談予約もアプリから簡便に申し込むことができます。アプリで購入した商品を、最寄りの店舗に配送してもらって受け取ることも可能です。

顧客が「あったらいいな」「あると便利だな」と思うサービスを、オンラインとオフラインの壁を気にすることなく展開していくという、明確なビジョンや戦略が伝わってきます。

■海外のトレンドをいち早く日本人向けに提供

アプリを立ち上げるとトップに表示される「from MUJI」にレコメンデーションされている商品は、これまでの閲覧履歴や決済データをもとにしていると思われ、データの活用も進んでいます。さらに、各商品に「いいね」ボタンがあり、「いいね」された回数やこれまでの売上を新たな商品開発につなげていることも推測できます。つまり、データを新商品の開発にもつなげているのです。

無印良品 渋谷西武
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

単にポイントを貯めるだけでなく、ポイントを獲得するにつれて顧客のステージがアップしていく、ロイヤリティの向上につながる仕組みも素晴らしいと思います。

多くの日本企業でデータ活用が進んでいない中、なぜ良品計画はできているのか。

多くの情報を開示していないため、あくまで推測ですが、トップも含めた会社全体のトレンドに対する感度が高いからではないでしょうか。

海外志向も強く、米国や中国などでも積極的に出店していますから、海外で得たトレンドやデータをいち早く分析し、日本人にマッチしたサービスとして提供することもできるのでしょう。そして、そのようなサービスを開発・実装できる体制も、外注に頼り切らずに、できていると思われます。

■アマゾンよりも選ばれているヨドバシカメラのサービス

同じように、多くの情報を開示していませんが、データ活用やオンラインとオフラインの融合をうまく進めている企業に、ヨドバシカメラがあります。

ECで購入した商品の無料配送や店舗での受け取りといったこともそうですが、特筆するべきは、東京23区内と一部の該当エリアであれば、注文したその日に送料無料で商品が届く「ヨドバシエクストリーム」というサービスです。これが理由で、アマゾンよりもヨドバシカメラをよく利用する人も多いと聞きます。

アマゾンへの対抗策だとは思いますが、いくらアイデアがあったとしても、優秀なエンジニアや配送スキームが整備されていなければ実現できないサービスです。

■絶対王者アマゾンも安泰の地位とは言えない

ECにおいて絶対王者の存在感を放つアマゾンですが、今後のトレンドを鑑みると、安泰なポジションにあるとは決して言えません。小売事業者を通すことなく、メーカーが直接エンドユーザーに商品を販売する「D2C(Direct to Consumer)」の動きがあるからです。同じことが楽天やヤフーにも言えます。

山本康正『2030年に勝ち残る日本企業』(PHPビジネス新書)
山本康正『2030年に勝ち残る日本企業』(PHPビジネス新書)

本来であれば、エンドユーザーがメーカーから直接商品を買うことが望ましいことは言うまでもありません。中間マージンが上乗せされることがありませんし、カスタマーサポートも含めた各種のやり取りがダイレクトでスムーズだからです。実際、アップルはほとんどの製品で、自社のECサイトや店舗から直接エンドユーザーに販売する形態を取っています。

一方で、資本の乏しいメーカーがリアル店舗を持ち、営業することは難しい。オンライン上に自社のECサイトを展開して直販する場合でも、その制作費用はもちろん、決済システムの構築など、越えるべきハードルはいくつもありました。そのため、手軽な手数料で利用できるアマゾンや楽天といった大手ECプラットフォームを利用していたわけです。

しかし、このような状況を打破するサービスを提供するベンチャー企業が現れました。誰でも手軽に安価でECサイトを作成・運営できるプラットフォームを提供する、ショッピファイ(Shopify)やBASEなどです。決済においても、ストライプ(Stripe)というベンチャー企業が、プログラミングの高度な知識がなくても数行のコードで行なえる仕組みを開発し、提供しています。

ショッピファイは「アマゾンキラー」とも呼ばれています。「食べチョク」などの産地直送ビジネスが隆盛していることからも、今後もD2Cが小売業界の中で存在感を持つことは間違いないでしょう。

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山本 康正(やまもと・やすまさ)
ベンチャー企業投資家
東京大学で修士号取得後、三菱東京UFJ銀行米州本部にて勤務。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得し、グーグルに入社。新技術を活用したビジネスモデル変革等のDXを支援。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム「US-Japan Leadership program」フェロー。京都大学大学院特任准教授も務める。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『ビジネス新・教養講座 テクノロジーの教科書』(日経文庫)、『2025年を制覇する破壊的企業』(SBクリエイティブ)、『世界を変える5つのテクノロジー SDGs ESGの最前線』(祥伝社)など。

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(ベンチャー企業投資家 山本 康正)

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