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「総合商社はGAFAに対抗する日本の希望だ」ベンチャー投資家がそう考える理由

プレジデントオンライン / 2021年9月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

多種多様な業界の上流から下流までを手がける総合商社は、日本独特の業態だ。ベンチャー投資家の山本康正さんは「日本の総合商社はGAFAに対抗し得る重要なポテンシャルを持っている。それには、BtoBサービスのデジタル化とそれを実現する人材登用が必要だ」という――。

※本稿は、山本康正『2030年に勝ち残る日本企業』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■総合商社は巨大企業の共通トレンドを押さえ済み

グループ会社同士で集まり、情報交換をする。優秀な人材を、新たに設立した子会社のトップに抜擢する。そういった、一般的な企業では難しい施策や人事がスムーズに行なえることを強みに、総合商社は成長してきました。

ところが、バブルが崩壊して以降、特に重厚長大な事業を手がける部門やグループ会社が足を引っ張る形で、総合商社の時価総額は減少していきました。各事業の価値の合計を企業価値が下回る状態(コングロマリットディスカウント)になり、なかなか投資家の興味を引きづらかったのです。

しかし、GAFAをはじめとする米国のテクノロジー企業や、いずれGAFAのような巨大企業に成長する可能性を秘めたベンチャー企業に共通するメガトレンドの一つ、「コングロマリット化」を、デジタルではない、リアルのほうでは成し遂げているので、あとはデジタルのほうをつなぐことによって大きく変革を果たせる余地があります。すでに果たしている総合商社は、今まさに、その強みを活かして、変わろうとしています。

■商品を右から左に流すビジネスだけではない

総合商社の強みは、多種多様な業界の上流から下流まで、さまざまなビジネスをグループ内で行なっていることです。そして、多くのノウハウを蓄積してきました。

さらに、グループ会社全社でデータを取得し、得たデータをグループ内で共有することで、新たな価値やサービスを生み出していくことができます。このようなスケールの大きなデータ活用が行なえるのは、日本では総合商社をおいて他にはありません。

例えば、グループ内の小売企業のデータを分析した結果、あるアパレル商品の売上が前年に比べて大幅に伸びることが予測できたとします。そのデータを、アパレルを製造しているグループ内のメーカーや、同じくグループ内の素材を扱う部門や子会社に共有すれば、増産がスムーズに行なえるだけではなく、新たなヒット商品を生み出すことにもつながるでしょう。

商社と言うと、右から左に商品を流して稼ぐビジネスだとイメージされがちですが、自社で得たデータを活用したり、自社で新たなサービス、特に法人向けのサービスを生み出していったりするポテンシャルを秘めています。

■データに弱いと自覚した伊藤忠商事が始めたこと

現在、データをうまく活用し、大きく業績を伸ばしているのは、非財閥系の伊藤忠商事です。

同社は、自分たちには総合商社としてのネットワークやノウハウはあるけれども、データの取得や分析は弱いことを真摯に受け止め、外部から取り入れようと、かなり以前から積極的にアクションを起こしていました。

例えば、シリコンバレーにオフィスを構えたのは、今から30年以上も前の1980年代です。2000年には、シリコンバレーのオフィスからの情報を踏まえた上で、実際に投資を行なうVC「伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)」を設立。ITVは、伊藤忠グループで活用が見込めそうなさまざまなドメインのベンチャー企業に積極的に投資しています。

シリコンバレー付近の地図
写真=iStock.com/zimmytws
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zimmytws

■財閥系3社を追い抜き、時価総額トップに

伊藤忠商事は日本のベンチャー企業にも投資をしています。その一つが、後払いのカードレス決済を提供しているPaidy(ペイディ)です。海外ではすでに後払いのサービスが非常に成長していて、そこに投資をしていた海外の投資家も、同じモデルが日本でも通用するだろうと投資しています。

ECでは後払い決済が一般的ですが、Paidyのサービスでは、リアルの場で現金を持っていなくても、カードや事前登録の必要もなく、メールアドレスと携帯電話の番号だけで後払いができます。同じく金融サービスでは、pring(プリン)というスマホアプリを用いた電子決済や送金サービスを手がける日本のベンチャー企業にも出資しています。GAFAと同様に、金融業界への進出にもウエイトを置いていることが窺えます。

その後、2021年7月には、グーグルが日本での金融事業に本格進出するためにpringを買収するとの報道があり、9月には、同様にPayPalがPaidyを買収するという発表がありました。この分野が地殻変動の中心であることがわかります。

このような取り組みは、市場からも評価されています。三菱商事、三井物産、住友商事という財閥系総合商社の後塵を拝していた伊藤忠商事ですが、2020年に、総合商社の中で初めて時価総額トップに躍り出ました。

■3大商社も急ピッチでDX事業に取り組んでいる

もちろん、他の総合商社も改革を進めています。伊藤忠商事の動きに連動するように、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やインキュベーションラボを設立するなど、動きを活発にしています。

三井物産はイノベーションのアイデアを実際にビジネスとして事業化する「Moon Creative Lab(ムーンクリエイティブラボ)」を設立し、すでにいくつかのサービスを立ち上げています。住友商事は、グループ内のSIerやメディア企業、小売業者などを中心に、全社的にBtoB(法人向け)のDXに強い商社であることを打ち出す取り組みやブランディング戦略を行なっています。

三菱商事は「エムシーデジタル(MC Digital)」というデジタルテクノロジーカンパニーを2019年に設立。同社を通じて、三菱グループ全体のDXを進めています。欧米のカーナビゲーション市場でトップシェアを誇る、ヒアテクノロジーズ(HERE Technologies)という企業にNTTと共同で出資したりもしています。三菱商事はグループにローソンや成城石井といった小売事業を持っており、そのネットワークが強みですから、そこに地図データを掛け合わせることで、物流などのシナジーを生み出そうとしている戦略が窺えます。最近ではアマゾン向けに太陽光などの再生エネルギーの供給を発表しています。

さらに補足すれば、三菱商事はPontaというポイントネットワークを持っています。Pontaで得たデータを掛け合わせ、データを活用した商品のレコメンデーションなどができれば、さらに大きなデジタルの価値を生み出す可能性は十分にあるでしょう。

■総合商社がGAFAに対抗するための狙いどころ

ただし、総合商社がGAFAに対抗する上では、大きく不利な点もあります。GAFAのビジネスの中心が、人件費がさほどかからないオンライン中心なのに対し、総合商社の事業の中心はリアルです。つまり、人件費や不動産などの費用が圧倒的にかかっているのです。

もう一つは、クラウドやAIを、グーグルやアマゾンは自前で持っているのに対し、総合商社は現在、同等のものを持っていないことです(ただ、住友商事は量子コンピュータに力を入れるなど、次のスタンダードを見据える動きをしています)。総合商社は、今から自前でデータセンターを作るか、彼らと協業する必要が出てきます。もし両者が同じサービスを展開するとしたら、コストの面で敵わないことは明らかです。

クラウドコンピューティングの概念
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

では、どう戦えばよいのか。

もともとの商社の強みであるBtoBのサービス、それも上流から下流までを一気通貫で行なうサービスに成長の余地があります。できるならば、ソフトウエアやAIで可能な限り自動化し、国内外問わず提供できるサービスです。

例えば、アパレルを扱う小売業者に対して、先述したような商社ならではのデータをもとに管理ソフトウエアやアプリの提案をしたり、調達から配送までを最適化したスマートファクトリーを実現したりできるでしょう。

総合商社は自らビジネスを手がけて得たリアルな経験を持っています。その経験を、属人的なところからデジタルに移植し、ベテランが辞めても同等の質の業務を回せる体制を実現すべきです。

■旧態依然の人事制度のままでは世界と闘えない

多くの総合商社はDXに取り組んでいます。そのために、CDO(Chief Digital Officer)やCIO(Chief Information Officer)といったポジションを設けていますが、形だけのケースも存在します。

山本康正『2030年に勝ち残る日本企業』(PHPビジネス新書)
山本康正『2030年に勝ち残る日本企業』(PHPビジネス新書)

総合商社に限ったことではなく、日本の大企業に多く見られる特徴ですが、生え抜きの人材や派閥人事を重視するために、どうしても外部の優秀な人材を重要なポジションに就ける体制が整っていないケースもあります。

このような旧態依然の人事ではなく、外部も含めた、若くて優秀でやる気のある人材を、思い切って抜擢するべきです。どうしても給与制度に問題があるのなら、肩書きはCDOだけれども、給与は一般社員と同等に近い額に設定し、成果報酬にしてもいいでしょう。ただし、権限は与える。そのような人事制度の改革こそが重要です。

特に、AIやクラウドなどのプロジェクトの実装経験は、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏が40歳であるように、おそらく40代以下のほうが先端を経験している可能性が高い。デジタルのヘッドにおいてだけは、年齢制限を設けてもいいかもしれません。

■40代女性を執行役員に据えた伊藤忠は結果が出た

実際、伊藤忠商事を見ていると、人事に関しても旧態依然の総合商社とは異なる動きが見られます。2000年には、米国のコーネル大学で法学を学んだあと、法律事務所で弁護士としてキャリアを積んでいた、茅野みつるクレア氏を招きました。2013年には大手総合商社としては初めてとなる女性の執行役員に46歳で抜擢。さらに、2017年には米国法人の経営陣の一人となりました。

多くの総合商社では、ダイバーシティやジェンダー平等というキーワードが必須になっているため、以前と比べると多くの女性やユニークな人材を採用するようにはなっています。しかし、彼女のような重要なポジションを任せたり、昇進させたりするまでにはなかなか至っていません。伊藤忠商事が、業界の中でも先駆けて何が必要なのかを考えている表れと言えます。

彼女を抜擢する際には、社内、社外、どちらからも相応の反発があったことは容易に想像できます。しかし、そのような反対意見を押さえてまで改革を進めた伊藤忠商事の経営判断が、今の成長につながっています。

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山本 康正(やまもと・やすまさ)
ベンチャー企業投資家
東京大学で修士号取得後、三菱東京UFJ銀行米州本部にて勤務。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得し、グーグルに入社。新技術を活用したビジネスモデル変革等のDXを支援。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム「US-Japan Leadership program」フェロー。京都大学大学院特任准教授も務める。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『ビジネス新・教養講座 テクノロジーの教科書』(日経文庫)、『2025年を制覇する破壊的企業』(SBクリエイティブ)、『世界を変える5つのテクノロジー SDGs ESGの最前線』(祥伝社)など。

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(ベンチャー企業投資家 山本 康正)

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