「まずはポイント投資で投資の勉強を」そう考える初心者の根本的な勘違い
プレジデントオンライン / 2021年9月23日 11時15分
■投資のハードルが下がってきている
最近は投資することに対するハードルがどんどん下がってきているようです。金融庁も「貯蓄から資産形成へ」というかけ声の下、「つみたてNISA」を中心に投資を勧めていますし、金融機関は言うまでもなく、積極的に勧誘しています。金額も定額でできるようになり、投資信託の積み立てなどでは毎月最低金額が100円からできるようになっています。さらに最近では現金だけではなく、
また一方では、難しいことは考えなくてもいいからAIを使ったロボアドバイザーとか○○ナビといったサービスに任せれば全部自動でやってくれる、といったサービスが増えつつあり、金額の面だけではなく手段も簡便化してきたことでますます投資が気軽にできるようになってきました。
私は投資そのものがやりやすくなること自体、決して悪いことだと思いませんが、投資を簡単なものだと考えたり、何かに任せれば良いと思ったりする考え方は大反対です。ではなぜそうなのかということについてお話したいと思います。
■ポイント投資は本格的な資産形成にはならない
まず、最近増えてきている「ポイント投資」について考えてみましょう。そもそもポイントというのは買い物をした時に付与されるものですから、いわばおまけです。したがって、ごく一部のポイントマニアみたいな人を除けば日常生活で買い物をしたからといってそれほど貯まるものではありません。まあせいぜい数万円程度でしょう。数十万円分もポイントを持っている人は少ないと思います。
仮に3万円分のポイントを持っていたとして、それで株式や投資信託を買えても金額はたいしたことはありません。1割上昇しても3000円、倍になっても3万円です。ゲーム的な感覚でやるのであれば良いでしょうが、本格的に資産形成をするのであれば、元手が数万円しかないのにそれで資産形成ができるなどと考えないほうがいいでしょう。
■ポイント投資はいくらやっても投資の勉強にならない
「いや、ポイント投資は投資の勉強をするためにやるのだ」という人もいるかもしれません。ところがポイント投資はいくらやっても投資の勉強にはなりません。この理由は投資の本質的な部分を考えてみるとわかります。そもそも投資というのは自分が一生懸命働いて稼いだお金を投入しますが、自分には何の責任もない、あるいは自分でコントロールできない理由でそのお金が増えたり減ったりする、それが投資というものです。
短期的な株価の動きは誰も的確に読めるわけではありませんから、訳がわからないうちに下がって損をしてしまうこともあり得ます。言い換えると投資というのは理不尽なものなのです。でも、そういう体験を重ねることで投資の持っている本質に触れることができますし、短期的な値動きに一喜一憂することにはあまり意味がないことを理解できるようになります。
ところがポイント投資の場合、自分のお金を直接投資するわけではありません。言わばおまけで付いたポイントを使って投資するわけですから、多少は上がり下がりに伴う喜びや悔しさはあるものの、働いて稼いだ自分のお金を投入することで体験できる感情とはかなりかけ離れたものになるでしょう。しょせんはおまけ投資ですから、ゲーム感覚で遊びとしてやるならともかく、ちゃんと投資の勉強をしようということであればポイント投資は恐らく何の役にも立たないでしょう。これは金額の多寡ではありません。いくら少額でも自分で稼いだお金を投資するのであれば良いですが、おまけであるポイントは投資などには使わず、消費に使ってしまった方が良いと私は考えます。
■お任せ投資がダメな理由
次に最近急速に増えてきているロボアドバイザーや○○ナビといった類いのサービスですが、これも私は利用すべきではないと思っています。投資をやったことがない人からすると「投資をやってみたいという気持ちはあるけどよくわからないし、面倒なことを勉強するのは嫌だ」という気持ちがあるのでしょう。だから「誰でも簡単におまかせ」というサービスがあるとついそちらの方向に行ってしまうのだと思います。
でも投資を甘く考えてはいけません。「普通の人が普通にやればできる」とか「長期・積み立て・分散さえしていれば大丈夫」と安易に考えるのは禁物です。投資というのはある意味、とても知的な仕事です。よく「投資で儲かったお金は不労所得だ」という人がいますが、これはとんでもない勘違いです。確かに投資は、額に汗して働くことではありませんが、言わば『“脳”に汗して働くこと』なのです。
本当にきちんと投資しようと思ったら、株式投資の場合は個別の企業の財務諸表が読める程度の勉強はしなければなりません。投資信託についても、自分が購入しようと思っている投資信託について①運用のスタイル、②株式や債券の価格変動メカニズム、③自分が負担するコストの種類と水準、④評価基準、⑤交付目論見書の内容確認、といった事柄については少なくとも自分で理解し、判断して買うべきなのです。「AIにおまかせ」などという文言につられて投資すべきではありません。
■AIやロボットが上手に運用してくれるわけではない
たしかにこの10年ほどの間、市場は非常に好調でした。でもいずれどこかで必ず暴落したり下落が続いたりする事態は起こってきます。そんな時、AIやロボットだから上手に運用してくれるわけでも何でもありません。相場が下がればいくらAIが運用していようが、下がります。そんな暴落の時、自分がよく理解していないままに買ったものの価格がどんどん下落していくという状況に果たして耐えられるでしょうか?
もちろんそういうサービスを提供しているところは一様に「価格の上下は投資している限り起きることですから、短期的な値動きを気にせず長期的な構えで考えるべきです」と言いますし、それ自体は正しい考え方です。でも問題は人間というのはそう簡単に割り切ることができないということです。上がればうれしくなって買い増しをし、下がれば見るのも嫌になって売ってしまう。私は証券市場で40年以上仕事をし、多くの投資家を見てきましたが、暴落に遭って市場から去って行った人は数限りなく見てきました。過去にもマーケットが良かった時代には、1人でも多くの人を投資に呼び込もうとして似たようなサービスを提供するところはたくさんありましたので、昨今の状況を見るにつけ、強い既視感を覚えるのです。これはまさにいつか来た道であると。
投資は自己責任だと言いますが、自分で責任を取れるのは自分で考えて考え抜いた揚げ句に投資をするからです。業者に任せてうまくいかなくて、そこに文句を言っても仕方ありません。おそらく「投資は自己責任ですから」と言われておしまいです。でもそれではなかなか納得できないでしょう。それは自分で考えずに任せてしまったからです。投資で一番大事なことは「自分の頭で考える」ことだということを忘れてはいけません。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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