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学校での"SNSいじめ"に対して「もう生徒にネットは使わせない」では何の解決にもならない

プレジデントオンライン / 2021年9月30日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SolStock

SNSでのいじめや誹謗中傷にはどう対応すればいいのか。“日本のインターネットの父”とうたわれる慶應義塾大学の村井純教授は「例えば『あるクラスでいじめが起きた』『それはネットを介して起こった』『だから、ネットを使うのをやめよう』では答えにならない。その答えは『いじめが起きないクラスを作る』こと。もっと全体を見なくてはいけない」という——。

※本稿は、村井純、竹中直純『DX時代に考えるシン・インターネット』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

■悪貨の後には良貨が出てくる

【竹中】今、SNSでの誹謗中傷で自殺する人が出てきたり、フェイク情報が発信されたり、インターネットの負の面も大きく取り上げられるようになりましたが、村井さんはこういう状況を予想していたんですか?

【村井】1984年10月に日本で「JUNET(Japan University Network/ジェーユーネット)」というコンピュータのネットワークにつないで電子メールをやりとりするということを始めたんだよ。

【竹中】村井さんがデータのやりとりをするために慶應義塾大学と東京工業大学を個人的につないだんですよね。これが日本におけるインターネットの実質的な起源といわれている。

【村井】そうしたら、あっという間に多くの大学や企業の研究機関が参加してきた。で、JUNETでは電子メールと電子ニュースのやりとりをしていた。電子ニュースは基本的にはバルク(一括)転送で、アメリカのネットワークから時々ドカンとまとめてニュースを持ってきて日本で配る。日本のニュースもまとめてアメリカに送る。アメリカで日本のニュースは「fj(From Japan)」というカテゴリーで分けられていた。その他にもいろいろなカテゴリーがあって、みんな勝手なことを書き込む「掲示板」という感じのソフトウェアだった。実は、この時にも掲示板で他人の悪口や誹謗中傷をいうやつがいたんだよ。普段はおとなしいのにオンラインになると人格が変わってしまう。それで知り合いが説得しようとするけど上手くいかない。逆に反論されて負かされてしまう。普通のコミュニケーションとオンラインのコミュニケーションでは何か違いがある。

【竹中】そうですね。当時の様子がありありと記憶に残っています。

【村井】他に「不幸のメール」とかもあるよね。「このメールを5人に送らないと不幸になる」とか。これは俺が小さい頃からあった「不幸の手紙」のメール版。あと、JUNETでは「ネズミ講(無限連鎖講)」が流行ったこともあった。夜中の2時頃に新聞記者さんから電話がかかってきて「ネズミ講の温床になっているようですが、JUNETは何のために作ったんですか?」って質問されたんだよ。だからすぐに調べたら、流通している情報は「これはネズミ講だから気をつけろ」というものだった。

【竹中】すでに注意喚起の情報が回っていた。

【村井】それでわかったのが、悪い犯罪みたいなのが流通すると、その後から「気をつけろ」という情報も流通する。悪貨の後に良貨が出てくるんだ。だから、悪口とか誹謗中傷があっても、「悪口とか誹謗中傷とかやめろよ」という動きも出てくるはずだから、インターネットの中ではバランスが取れていくんじゃないか、最後にはみんなの力で落ち着くんじゃないかと思った。ただ、インターネットは現実社会と比べて広がる速度が速いし、規模が大きい。実は、そういうことは80年代にはすでにわかっていたんだよ。

【竹中】実社会でも、我々の知らないところでもっと陰湿なことが起こっているかもしれませんからね。

【村井】だから「作る時から、悪口や誹謗中傷で傷つく人が出ることはわかっていたのか?」って、よく質問されるんだけど、作っている時には「コンピュータとコンピュータをつないでデジタル情報を流通させよう」というところから始まって、それを「みんなに使ってもらうためには、喜ばれるものでなければいけない」から「ユーザーが満足するものを作ろう」ということになるわけ。我々の使命感は「デジタル情報を伝えるグローバルネットワークを作ろう」ということにあったんだよね。

■ネットいじめの解決策としてネットを使わせないのは誤り

【竹中】ネズミ講のことで僕が覚えていることがあって、JUNETでネズミ講が流行っていた時に、「ネズミ講とは何か?」という解説がまず流れてくるんですよ。そして次に「今、こういうことが流行っているから気をつけろ」というのも流れてくる。まさに村井さんが言った通りです。悪いことをしようとする人たちがいる一方で、それに対抗しようという人も出てくる。しかも、その対抗しようとする人の情報は、ウィキペディアのようにエビデンスが示されたものなんです。だから、その両方の情報を受け止めたうえで、普通の人だったら当然、ネズミ講なんてやめた方がいいと思うのでその面をきちんと捉えると安心できるんですけど、「加入者を100人作ったら、メッチャ儲かるじゃん」みたいな側面にひかれる人はそっちに行っちゃうわけです。

【村井】さっきの新聞記者さんの話に戻ると、新聞記者さんに言われて自分で調べたら、目につくのが「気をつけろ」という情報ばかりだったので、俺は少し楽観的になった。たぶん、新聞記者さんはJUNETでネズミ講が流行っていて、これを問題視しようとして俺のところに連絡してきたんだと思う。でも、連絡してきた時には、すごいスピードで「気をつけろ」に変わっていた。だから、悪い情報の広がり方は速いけれども、良い情報の広がり方も速いんだということ。これはサイバーセキュリティの分野でも有効だと思うんだよね。世界中で助け合えるし、多くの人が応援してくれる。そして今は、そういう仕組みがすでにできあがっていると思う。

ロックがかかっているPC
写真=iStock.com/koya79
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koya79

【竹中】SNSでの誹謗中傷が原因で自殺者が出てしまった事件など、今はインターネットのデメリットが目立っていますけど、それはメリットを忘れてデメリットばかりを受け止めてしまうからだと思うんです。本当はメリットとデメリットをきちんと理解して、判断してもらえればもっと違った捉え方ができるんじゃないでしょうか。

【村井】この問題でいちばんいけないのは、例えば「あるクラスでいじめが起きた」「それはネットを介して起こった」「だから、ネットを使うのをやめよう」という流れ。ここで「ネットを使うのをやめよう」というのは答えじゃないんだよね。答えは「いじめが起きないクラスを作る」こと。もっと全体を見なくてはいけない。

【竹中】現在のSNSは超先鋭的な人が何十人かいるんです。その人たちの声がすごく大きい。そして、いろいろなレトリックを使って攻撃するのがとても上手い。だから、攻撃された人はすごく深刻に受け止めてしまうけれども、実は約1億2000万人いるにほんのなかで、数百人とか数十人に言われているだけなんです。本当に少数。だから、気にする必要はない。そして、もし気になるようだったら、自分の周りにいる人に聞いてみればいい。「SNSでこう言われているんだけど、大丈夫かな?」って。それで、だいぶ変わります。周りの人に聞くことによって、全体の構造やそもそもの意味が見えるようになるから。

■正しいネット利用の音頭を取るのは日本

【村井】WWW(World Wide Web/ワールドワイドウェブ)ができて約30年。これまではデメリットを取り上げられることも多かったけど、さっきのネズミ講の話と一緒で、人間って最終的には自分たちにとって“良いこと”“豊かにすること”に向かっていくんじゃないかと思っているんだ。そして、その「リーダーシップをとるのは日本じゃないか」という期待がある。というのも、例えば、海外で大地震やハリケーンなどの災害が起きると、お店の品物を略奪したり暴動が起きたりすることが多いよね。

【竹中】お店のガラスを割って店内に入ったり、メチャクチャになってますよね。

【村井】でも、2011年の東日本大震災の時の日本は略奪や暴動がほとんどなく、支援物資の配給をきちんと整列して待ったり、助け合いの精神が発揮されたりしていた。あと、俺、この間、経済産業省の前で財布を落としたんだよ。そうしたら、ちゃんと交番に届いていたの。もっとすごいのが、これは10年ぐらい前の話なんだけど、ドイツから来た教授が自転車で恵比寿を走っていたら20万円くらいの札束を落としちゃったの。

【竹中】20万円の札束ですか?

【村井】そう。それで彼女は大泣きしちゃってさ。でも、近くの交番にその20万円の札束がちゃんと届けられていた。それですっかり感動して「私はもう日本から離れない」「これからは、日本のために私は働く」って宣言していた。まあ、これは極端な例だけど、インターネットのこれまでの30年は、通信速度がどうとか、効率がどうとか、それこそ誹謗中傷がどうとか言っていたけど、これからの30年は「良いことに使おうよ」という流れになれるんじゃないのかな。

【竹中】日本文化の影響で、それが起こるかもしれない、と。

【村井】だとしたら、日本の責任は大きいよね。逆にいうと「これからはインターネットを使って良いことをして生きようよ」というのを日本がリーダーシップをとってやれれば気持ちいいじゃん。「他人のことなんか考えずガツガツやろうぜ」って世界を引っ張るより全然、格好いいと思うだよ。なぜかというと、今、インターネットアブユーズ(internet abuse)が問題になっていてね。

【竹中】インターネットの悪用、濫用ですね。

【村井】「インターネットを使って悪いことをしてやれ!」っていうので、今、病院が困っているらしいんだよ。「ワナクライ(WannaCry)」をぶつけちゃえって。

【竹中】ワナクライって「ワーム型のランサムウェア(身代金を要求する不正プログラム)」ですよね。

【村井】うん。コンピュータに侵入して、システムやデータなどをロックして、ロックを解除したければビットコインで身代金を払えっていうやつ。2017年にイギリスの病院がやられたんだ。

【竹中】2020年11月にはゲーム会社大手の「カプコン」がランサムウェアで攻撃されて、身代金を要求されたというニュースもありましたよね。

【村井】ただね、日本の病院は幸か不幸かインターネットの導入がすごく遅れている。だから、攻撃されても被害が少ないらしい。

村井純、竹中直純『DX時代に考えるシン・インターネット』(インターナショナル新書)
村井純、竹中直純『DX時代に考えるシン・インターネット』(インターナショナル新書)

【竹中】それは……ちょっと面白い(笑)。

【村井】「コンピュータウイルス」っていうのは、そのコンピュータを勝手に動かしたり、最近は個人情報を抜いたりするのが多い。それに対してランサムウェアの「ワーム」はミミズみたいにコンピュータを渡り歩いて、データをロックしたり、暗号化したりする。それで、ロックや暗号化を解きたかったらトレース(追跡)できないビットコインを払えと要求してくる。昔のウイルスはコンピュータを壊したり、情報を流出させたりしていたんだけど、最近では「あなたのコンピュータはもう使えません。使いたかったら対価を払いなさい」って変わってきた。

【竹中】アブユーズのビジネスモデルにも革命が起こったんですね。

【村井】そう。もともと「濫用」の意味は、海外の大統領のようにツイッター(Twitter)で発言しまくって世間を混乱させたりすることとかだね。ツイッターを作ったのは、あなたのためではないんですよって。

【竹中】そうですね。

【村井】アブユーズの反対は「プロパーユーズ(proper use=正しい使い方)」。でも、今の時代なら「エシカルユーズ(ethical use=倫理的な使い方)」かな。ユーザー(user)はそもそも「使う人」で、今は「正しく使う」ことを求められるようになってきた。だから、SNSも良いことに使ってほしい。例えば民主主義を支えるためとか、何か事件が起こったらインスタグラム(Instagram)に真っ黒な写真をアップするとか。

【竹中】レディー・ガガのキュレーションで、2020年4月にオンラインチャリティコンサート「One World:Together at Home」が開催されたんですよ(ポール・マッカートニー、ザ・ローリング・ストーンズ、スティーヴィー・ワンダー、セリーヌ・ディオン、エルトン・ジョンらが出演)。それで約137億円の寄付金が集まり、新型コロナ対策のために充てられたそうです。あのコンサートはインターネット発で全世界が一体化したような感じで、1985年の「ライブエイド(Live Aid/アフリカの難民救済を目的に開催されたチャリティコンサート。世界中から有名アーティストが参加した)」以来の歴史的なチャリティコンサートになりました。これって、まさにプロパーユーズだし、既存メディアに頼らなくてもそういうことが普通に可能だということの良い例ですよね。

【村井】勇気づけられる話だよな。

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村井 純(むらい・じゅん)
慶應義塾大学教授
1955年、東京生まれ。79年、慶應義塾大学理工学部数理工学科卒。84年、同大学理工学研究科博士課程修了。工学博士 (慶應義塾大学、87年)。東京大学大型計算機センター助手、京工業大学総合情報処理センター助手を経て、90年より慶應義塾大学環境情報学部助教授。97年、同学部教授。09年、同学部長。84年にJUNETを設立し、日本初の大学間ネットワークを接続。88年、情報技術研究ネットワーク「WIDEプロジェクト」を設立し、日本のインターネット環境づくりに黎明期から携わる。

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竹中 直純(たけなか・なおずみ)
実業家
1968年、福井県生まれ。「ディジティ・ミニミ」代表。タワーレコードCTOなどを歴任。坂本龍一のライブツアー、村上龍の小説に政策協力し、以来、様々な「ネット化」を続けている。

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(慶應義塾大学教授 村井 純、実業家 竹中 直純)

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