「30歳でも実家を離れられない子」と「16歳でも好きなことで稼げる子」を分ける親の"習慣"
プレジデントオンライン / 2021年10月5日 9時15分
※本稿は、荻原博子『親が子供に教える一生お金に苦労しない12の方法』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■「子供が稼ぐことは、悪いことではない」
「僕の娘は、僕よりもお金持ちかもしれない」
そう言うのは、妻がアメリカ人の裕太さん。彼の16歳の娘のメアリーさんは、ネットオークションやネットのフリマにはまっていて、家族や親戚の着なくなった服やアクセサリーを引き取っては自分で洗濯して袋詰めにし、売って小遣い稼ぎをしているそうです。
日本では子供が商売まがいのことをして儲けることには反対という親が多く、「そんな時間があったら勉強しなさい」と言われてしまいそうですが、アメリカ暮らしが長かった裕太さんは、「子供が稼ぐことは、悪いことではない」と言います。
メアリーさんが自分でお金を稼ぐことを始めたのは小学校に入ってすぐ。「お小遣いが欲しい」と言ったら、ママに「じゃあ、お風呂をきれいに洗ってね」と言われました。「お風呂はこうやってスポンジに石鹸をつけて洗うのよ」と教えてもらいながらバスタブを磨き、メアリーさんは20円をもらいました。
それがよほど嬉しかったのか、それ以降、犬小屋の掃除や車の洗車など、自分で仕事を見つけてきては親からお小遣いをもらうようになりました。
メアリーさんの部屋には、自分がいま欲しいもののベスト5がそれぞれの値段付きで張り出されています。あとどれくらい稼げば欲しいものが手に入るかが、一目でわかります。それが働く動機付けになっているようでした。
■古着やアクセサリーをコーディネートして売る
メアリーさんは中学生になると、家のお手伝いよりも効率的に稼げる方法を考え出しました。それは家族や親戚の古着やアクセサリーを引き取り、素敵に見えるよう組み合わせてフリーマーケットで売るという方法でした。
インターネットでフリーマーケットがある場所を探し、日曜祭日には自分でコーディネートした古着やアクセサリーを売る店を出店します。最初のうちは心配なので親が付き添っていましたが、そのうち学校の友達といっしょに出店しはじめました。
今は学校の勉強が忙しくなってきたので、手軽なネットオークションやネットフリマを利用しているようですが、裕太さんは「彼女の貯金通帳を見せてもらうと、月に5万円くらいは稼いでいる。僕の小遣いが4万円だから、すごいよね」と笑いました。
■勉強は大切だけど、食いぶちを稼げることも大切
メアリーさんは、将来、ファッション関係の仕事につくという目標を持っています。服やアクセサリーが好きで、小さな頃からフリマで鍛えているので、目利きには自信があるといいます。学校も服飾系に進む予定。卒業したらメーカーに就職し、流通について学び、その後に自分の店を持つのが夢だそうで、その内容があまりに具体的でしっかりしているので驚きました。
裕太さん曰く、「僕は仕事ができないとすぐにクビになるアメリカで10年も働いていたので、メアリーは仕事ができる子に育てたかった。日本ではまだ結婚が永久就職なんていうケースもあるけど、アメリカでは結婚してもいつ離婚するかわからない。その時、不本意な仕事しかできないと惨めでしょう。だから女の子でも食べていける才覚が必要。勉強も大切だけど、まずは自分の食いぶちくらいは稼げる、それも好きなことで稼げることが大切。メアリーもいずれ親元を離れなくてはならなくなるからね」。
アメリカでは高校を卒業したら家を出て一人暮らしを始めるのが一般的だそうです。ただ、メアリーさんは大学か専門学校を卒業するまでは親と一緒に暮らすとのこと。
「彼女は貯金もあるし、稼ぐ才能もあるから、もういつでも一人で暮らせると思うけれど、学校を卒業するまでは家にいるというのは、僕たちが子離れできる時間をくれるということかな」
■30歳になっても、親元から巣立てない子供
前述のメアリーさんとは対照的に、自信がなく、親元から巣立てない子供もいます。
私の知人の娘さんである知恵さんは、30歳になっても仕事以外で人と関わることを避ける生活をしています。なぜかといえば、自分に自信がないからです。
付き合った男性もいました。彼は知恵さんの控えめなところが好きだと言ってくれたのですが、「どこに遊びに行きたい」と聞いても「何を食べたい」と聞いても、自分からこうしたいと言えずに言葉に詰まる知恵さんに最後は物足りなさを感じたのか、離れていきました。それ以降、男性から声をかけられても、後ずさりするようになってしまいました。
知恵さんの母親は彼女と正反対の自己主張が強いタイプで、「私はこうしたい」ということをはっきり言う人です。人柄は良いのですが、思い通りにならないと気が済まない。いっぽう父親は、物静かなタイプで何でも受け流す。
■「何を食べるか」まで決めてしまう母親の存在
知恵さんが中学生の頃、みんなで中華料理を食べに行ったことがありました。
私が知恵さんにメニューを渡して「何が食べたいの」と聞くと、彼女は「ラーメン」と答えました。そこでラーメンを注文しようとすると、母親が遮って、「ラーメンなんていつでも食べられるでしょう。せっかく中華料理を食べにきたのだから、酢豚とエビチリと春巻きにしようね」と、先回りして注文してしまいました。
あとで知恵さんに「ホントは、ラーメンが食べたかったんじゃない?」と聞くと、「いいんです。確かにお母さんが言うように、せっかく中華料理を食べにきてラーメンはないですから」と、ニコッと笑いました。
知恵さんは、母親にとっては自慢の娘。けっして逆らわず、素直に親の言うことを聞く子で、我が家の子供が反抗期で大変だった頃にも、同じ年頃の知恵さんは親に反抗することなどなく、うらやましく思ったものでした。母親との関係も良好で、母親が探してきた塾に通い、母親が進める学校に進学し、勤め先も母親と一緒に決めました。
あまりにも良い子なので心配になり、「お母さんの言うことばかり聞いていて、大丈夫?」と聞くと、彼女は「私のことを一番に考えてくれるし、母の選択はだいたい正しいので大丈夫です」と答えました。本当に彼女は優等生だなと感心しました。
■「子供が選んで、責任を持つ」その繰り返しが自立心を育てる
そんなある日、彼女にこんな個人的な相談をされました。
「おばさん、私、家を出ようと思うんだけど、一人暮らしって大変でしょうか」
「大変だけど、絶対に一度は一人で暮らした方がいい。おばさんも若い頃一人暮らしをして、最初は自分でやらなければいけないことが多くて大変だったけど、慣れれば不便さよりも自分の思い通りにできる充実感の方が大きいよ」
けれど、いまだに知恵さんはそのことを母親には話せていないようです。
なぜかと聞くと、「母は私といるのが幸せみたいなので、母を悲しませたくないから」という答えが返ってきました。
「お母さんのせいにしているけど、自分が親元を離れるのが怖いからじゃないの」と意地悪な質問をすると、ちょっと考えて、「そうかも」と小さくうなずきました。
心配なのは、最近知恵さんが笑顔をあまり見せなくなっていること。会社では、言われたことはちゃんとやるけれど、自分からは提案しない指示待ち人間。30歳になるまで自分の人生を選んでこなかった知恵さんには、母親から独立して新たに人生を選ぶということは、とても難しいことになってしまっているのではないかと思います。
人生は「選択」の連続です。大人になったら、「選択」して自分が選んだものに責任を持たなくてはなりません。自分の「選択」に責任が持てなかったら、それは無責任ということになるからです。
子供の人生を親が選ぶことはできません。子供が選んで、責任を持つ。その繰り返しが、子供の自立心を育てる訓練になります。知恵さんの場合、その第一歩が親から離れることではないかと思えて仕方ありません。
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経済ジャーナリスト
大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。家計経済のパイオニアとして、経済の仕組みを生活に根ざして平易に解説して活躍中。著書多数。
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(経済ジャーナリスト 荻原 博子)
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