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「デルタ株発見後3カ月で国内感染ゼロ」日本とは次元が違うコロナ対策に台湾国民が従うわけ

プレジデントオンライン / 2021年9月26日 12時15分

8月23日、台湾が自主開発したワクチンの接種を受ける蔡英文総統 - 写真=ZUMA Press/アフロ

■「コロナ対策の優等生」台湾が突如直面した危機

2020年、新型コロナウイルスの流入を防ぎ、感染の拡大を見事に抑え込んだ台湾。だが2021年5月、状況は一変した。5月10日の3人を皮切りに、台湾では毎日、市中感染が確認されるようになった。発端は中華航空の国際貨物便パイロットによる輸入感染で、彼らを隔離収容したホテルのミスなど、いろいろな要素が重なったとされている。

その1週間後の5月17日には、過去最高の535人の感染者が確認され、瞬く間に全国に蔓延(まんえん)した。この急転直下の感染拡大に、台湾は一時期パニックになりかけた。さらに6月26日にはデルタ株の市中感染、国内流入も確認され、台湾のコロナ神話も崩壊したと思われた。

しかし、2カ月後の7月11日以降、台湾は市中感染を30人以下に抑えている。この状況をアメリカの「The Diplomat」は7月29日の記事で「Why Taiwan is Beating Covid-19 again」と称賛している。そしてついに8月25日には、3カ月ぶりに国内感染ゼロを達成した。

かたや日本では年明け以来、大都市圏を中心に感染拡大がたびたび発生。東京では8月末までの244日間のうち、まん延防止等重点措置がのべ34日間、緊急事態宣言がのべ181日間(計88.1%)も適用されてきた。しかし、大規模な感染拡大を防ぐことはできず、医療機関が逼迫(ひっぱく)する事態に陥ってしまった。今も19都道府県で、9月30日まで緊急事態宣言が延長されることが決まっている。

昨年と同様、市中感染の拡大を迅速に抑え込んだ台湾と、出口の見えない緊急事態宣言をだらだらと延長し続ける日本。いったいどこがどう違ったのかを、本稿では検証してみたい。

■市中感染7人で警戒レベルを1ランクアップ

台湾の今回の市中感染拡大は、4月中旬頃からその兆候が見えていた。花蓮市在住で日本料理店を経営している溝渕剛氏は、「ぽろぽろと本土感染が出て来て、嫌な感じは漂っていた」と証言している。

台湾の台北で、フェイスマスクを着用した人が交差点を横断している
写真=iStock.com/Travel Wild
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Travel Wild

4月下旬にはコロナ対策を統括する中央感染症指揮センターが、複数の感染者が立ち寄った場所と時間帯を公開。注意喚起を行い、感染者の発見に努めていた。この時点で、同センターは感染爆発の可能性を考えていたのかもしれない。

5月10日に3人、11日には7人の新規感染者が確認された。台湾では1年ぶりの、感染源不明の市中感染例も含まれていた。この段階で、中央感染症指揮センターは全国の警戒レベルを1段階上の「第2級」に強化。三密場所でのマスクの着用の義務化(罰金あり)、室内100人以上、屋外500人以上の集会禁止などの徹底を国民や官民の機関に求めた。

■スマホでQRコードを読み取るだけの追跡アプリ

その後、5月15日には台北市と新北市の警戒レベルを「第3級」に上げ、19日にはそれを全国に適用した。外出時は常にマスク着用が義務付けられ、室内5人以上、室外10人以上の集会は禁止。警察、医療、公的機関、ライフライン関連事業を除く建物・施設は閉鎖を命じられた。

第3級の宣言は昨年のコロナ禍発生以降初めてのことで、さらに国民の緊張は高まった。検査業務の再強化やCOVID-19専用病床の再開、防疫ホテル・隔離施設の拡大に加え、地方自治体が独自の迅速な対応を行えるような権限譲渡も発表された。

さらに、クラスター発生時の濃厚接触者の追跡と本人への通知を容易にするため、交通機関や店舗の利用時に連絡先と利用時間を登録する「実聯制」の利用も推奨された(登録した情報は28日間を過ぎると削除される)。もとは備え付けの用紙に書き込む仕組みだったが、その後スマホで店頭のQRコードを読み取り、メッセージを送信するだけで登録が完了する無料アプリだ。

実聯制アプリの利用は個々人の任意で、強制や罰金などの規定はないが、国民のほとんどが応じているとされる。台湾の、ITを駆使した実効性と汎用(はんよう)性のある社会制度インフラ構築力には驚かされる。

■日本はなぜ大きく差をつけられたのか

台湾から日本を見ていて思うことはいろいろある。

まず日本では、緊急事態宣言の発令基準が当初あいまいだったし、その後定められた基準をクリアしても「総合的判断」から宣言期間が延長されることが繰り返された。国の基準に加えて各自治体ごとの基準も乱立しており、その結果国民の間に「まだ発令しないのか」あるいは「いつまで続けるんだ」という戸惑いが生まれているように見える。

さらに宣言下の行動指標も、具体的な人数をあげて集会の規模を制限する台湾に比べれば「不要不急の外出を控える」などの単なる「自己判断による自粛要請」であり、「どういう行動はセーフで、どういう行動がアウトなのか」が分かりにくい。

濃厚接触者の追跡調査用のスマホアプリ(COCOA)や陽性者データベース(HER-SYS)も、台湾の「実聯制」よりはるかに複雑なシステムのわりに、どこまで感染拡大の抑止に役立っているのかはっきりしない。事実今年8月からの第5波の流行では、人力頼りの保健所がパンクし、濃厚接触者の追跡調査は放棄されてしまった。

■可能な限り国民に情報を開示

筆者が注目しているもう一つのポイントは、台湾の保健当局が可能な限りの情報開示を国民に対して行っていることだ。

中央感染症指揮センターは記者会見やインターネットなどで、感染者の基本情報、感染者と濃厚接触したと断定された人数とその検査結果、感染者が感染確定までに立ち寄ったと証言した場所と時間帯、クラスターの発生場所とその原因と被害状況、必要であれば感染者のウイルス量を示す検査数値や感染経路の詳細(不明調査中を含む)までを逐次開示。死亡例の場合は、性別・年齢、基礎疾患の有無やその内容、感染場所、症状、発症日、感染確定日、死亡日なども詳細に公表される。

さらにクラスターが発生した施設や危険度が増している地域を地図で具体的に示し、当該地区の住人や立ち寄った人に対しては、発熱や呼吸器障害、腹痛、味覚障害などの症状が出た場合、速やかに保健所に連絡するよう勧告も行った。

5月13日に公表されたクラスター発生区域の地図。(台湾・中央感染症指揮センターより)
5月13日に公表されたクラスター発生区域の地図。(台湾・中央感染症指揮センターより)

このような徹底した感染状況の「見える化」は、台湾の人々の危機意識の向上と抑止力にもつながっている。実際、警戒レベルを上げた当日などは、繁華街や駅から人が消え、無駄に外出する人はいなかったと報道され、町から人が消えた模様をとらえた多数の写真がメディアやネットで流れた。

■「感染者数」「重症者数」だけで何がわかるというのか

一方、日本では感染者数や重症者数といった抽象的な「数」ばかりが強調され、台湾のように感染の実態がわかる具体的内容はあまり積極的に開示されない。聞こえてくるのは有名人の感染ネタや批判評論・言い訳・愚痴ばかりで、いったいどこが危険で、どういう行動が危ないのかよく分からない。

そんな状況でただやみくもに「危ない」「自粛せよ」と呼びかけられても、実感がわかない。実際に苦しんでいる感染者や重症者の顔、実際に現場で戦っている医療従事者の声は、数字からは見えないし聞こえない。「かけ声ばかりで真実が見えない」、これがコロナをめぐる日本政府のメッセージが国民に通じない、響かない、根本的な原因なのではないだろうか。

感染症との戦いは、ある種の「有事」対応である。正確な情報を国民に開示し、先手を打って感染拡大を防いでいく姿勢を見せることこそ、国民の危機意識を醸成し、国民の安全を守る初歩の初歩ではないだろうか。台湾と比べると日本の対応は常に後手後手で、手法もその目的もひどくあいまいに見える。

■デルタ株初流入に台湾が見せた「鬼対応」

世界中で新たな感染拡大の元凶となったデルタ株への対応でも、台湾は際立った動きを見せた。台湾中央感染症指揮センターが、台湾で初めてデルタ株の感染者を確認したと発表したのは6月26日。ペルーからの帰国者を起点にしたクラスターであることも同時に報告された。

台湾当局はすぐに接触者の特定を急いだ。最終的には「濃厚接触者との接触者」まで隔離範囲を拡大し、この案件での接触者隔離は700人あまりに及んだ。さらに、感染者や濃厚接触者が立ち寄ったとされる箇所の該当者すべてに徹底した検査を行い、その検査数は延べ1万5000件近くに達したとされる。

国内感染ゼロを続けていた台湾では、一般国民向けの大規模なPCR検査の必要がなく、市中感染が拡大する前の今年4月下旬の数字では、1日あたりのPCR検査数は750件程度にすぎなかった。だが感染拡大の傾向を把握した途端、検査規模を一気に拡大。6月中には人口比でみれば日本の3倍近くまで検査数を増やしている。

■デルタ株の拡大抑止にほぼ成功

徹底したクラスター調査と厳格な隔離処置、機動的に拡大した圧倒的な検査量、さらに水際対策の一層の強化によって、台湾の保健当局はデルタ株の市中への再流出を防いだ。最終的に17人のデルタ株感染者が発見されたが、そのほとんどは隔離者の中からで、国内での感染拡大はほぼ防げている状況だ。

5月末から6月はじめにかけてのピーク時には600人を超えた1日の新規感染者数は、ひと月ほどで急減。9月に入ってからは6日の16人を除けば、ひと桁代にとどまっている。8月23日には、台湾自前の国産ワクチンの接種が始まり、蔡英文総統も自ら率先して接種を受けている。

政治的指導力、行政能力、有事対応能力、経済力、技術開発力などを遺憾なく発揮して、台湾は昨年からのコロナ禍というピンチを見事にチャンスに変えている。欧米のメディアでは、台湾が人権や自由を奪わない形で、民主的な法治国家としてコロナを制圧していることへの賛辞が多い。欧米諸国の多くは台湾が独裁国家・共産国家と対峙(たいじ)してくれたことをしっかり認めており、昨年からの各国の台湾への対応にもそれが明らかに表れている。

■国民の健康、安全、生活を守る意志があるのか

スピード、事実の開示、公開報道、的確かつ厳格な対応、そして国民への結果の報告。どれを取っても台湾の感染症対策には隙がない。なぜ、日本にそれができないのか。

海外からの変異株の流入に無頓着で、公開される情報は断片的。デマや虚報を放置し、国民は正確な情報がどこにあるかも分からない状態だ。いつも後手後手の対応に、もはやイジメにも近い終わりの見えない自粛要請。緊急事態宣言のゴール設定もなく、日本の政府当局はただただ嵐が過ぎ去るのを待っているだけのようにすら見える。国民の健康、安全、生活を守っていこうとする意志より、政治闘争ばかりが見え隠れする。

冷静な読者であれば、日本が残念な国に成り果てていること、台湾や世界から学ぶ点が多々あることに気付くのではないだろうか。

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藤 重太(ふじ・じゅうた)
アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司 代表
1967年、東京都生まれ。国立台湾大学卒業、経営学士、日台交流・国際経営アドバイザー。92年香港でアジア市場開発設立。台湾経済部政府系シンクタンク 顧問、台湾講談社メディアGM 総経理などを経て、現在は日本・台湾で企業顧問、相談指導のほか、「台湾から日本の在り方を考える」「日本人としての生き方」などのツアー・講演活動を展開。

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(アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司 代表 藤 重太)

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