BBクリーム、色付きリップ、脱毛…日本男子のK-POP化がジワジワと進んでいる理由
プレジデントオンライン / 2021年9月28日 12時15分
■コロナ禍でも好調な男性化粧品
コロナ禍で外出の機会が減ったことやマスク着用による影響で、女性向け化粧品(メイクアップ)の売り上げが減少している中、メンズコスメとよばれる男性向け化粧品は盛り上がりを見せています。
調査会社インテージの調査によると、2020年の国内市場は9315億円。19年より11%減少しました。コロナ禍で出社をはじめとする外出機会が減り、美容への意識が低下したと考えられます。しかし、男性の化粧品市場を見ると、4%増の373億円となっており、特に化粧水や乳液などの基礎化粧品が好調でした。
化粧品情報専門サイトのアットコスメの調査でも、男性化粧への関心の高まりが示されています。メンバーを対象にした、コロナウイルス感染拡大前との意識を比較した2021年1月の調査で「メイクアップへの関心が増えた」という回答は19.2%、スキンケアとなると44.2%となっています。
これまではスキンケアが中心だった男性化粧品ですが、コロナ禍に入りメイクアップへの需要が拡大しています。男性向け化粧品の中でも売り上げが伸びているのがBBクリームです。男性用BBクリーム市場で初めてTVCMを放映した資生堂によると、2019年3月の発売以来、2021年2月までの累計出荷個数は100万個を突破。背景にコロナ禍における“リモート映え”需要があると分析しています。
そもそもBBクリームという名前は、Blemish(傷)、Balm(軟膏)、Base(下地)などから来ていて、1960年代にドイツの皮膚科医がピーリングや手術後の皮膚を保護するために処方した、肌を保護・修復して赤みなどをカバーするための色付きの医療用
アイメイクやリップのように顔にプラスするものではなく、肌のトラブルをカバーするタイプのものであることも、男性にとってハードルが低かった理由だと考えられます。
■「BBクリームは当たり前」脱毛や歯のホワイトニングも
実際、首都圏の中学に通うわが子や友達をみても、スキンケアに時間をかけるのはごく自然なこととなっています。高校生の先輩たちの話ではBBクリームも日常的に使用しているとのことです。ひと昔前なら「思春期特有」と受け入れていた、髭やすね毛、ニキビや脇の臭いなどの変化に敏感に反応するのが今の10代なのです。まさに「あたりまえ」を見直す世代といえるでしょう。
決して息子や周りが特別なわけでなく、前出のアットコスメの15歳から59歳の男性を対象にした調査でも、「普段使っているベースメイク・メイクアップ化粧品」の項目では、BBクリームや色付きリップクリームを使っているのは、15~29歳の層が最も高くなっています。実際に息子の先輩の大学生には脱毛や歯のホワイトニングにサロンに通う男子もいるそうです。
これは若者に人気のBTSなど、K-POPアーティストの影響も大きいでしょう。韓国では医療用だったBBクリームを美容用に商品開発し、いち早くメンズブランドが立ち上がりました。
また、デジタルネイティブ世代でもある彼らにとって、ジェンダーレスタレントは子どもの頃から身近な存在であり、例えばタレントのMattが美容について紹介するユーチューブなどにも違和感がありません。このように、若い世代は柔軟に多様性を受け入れていることが大きいと感じます。
■40代以上でも、一流ほどメイクは当然視されている
それでも、40代以上の男性にとってはBBクリームであっても抵抗感が大きいようです。
実際、男性向け雑誌やWEB媒体で美容を担当する編集者に話を聞いたところ、20~30代はメイクにも抵抗がない一方で、40、50代のリーダー層になるとメイクよりもスキンケア派が多いといいます。「そのため、どうしてもスキンケアネタを提供することが多いのが現状です」(美容に特化したPR会社・DSプロモーション代表松下令子氏)。
しかし、この状況は今後、変わっていくと考えています。私は経営者や政治家の印象戦略を手がけていますが、特に企業のトップや営業職など人前に出る機会が多い職業の方は、40代以上でもBBクリームをはじめ、目元のシミや毛穴などを部分的にカバーするコンシーラーなどのメイク用品を使用するのが3年ぐらい前から当たり前になっているからです。
特に2020年以降、原宿の化粧品店「@cosme TOKYO」に男性コスメのコーナーができ、伊勢丹新宿店メンズ館にも男性メイクコーナーが充実するようになりました。パッケージも男性好みのモノトーン調のものが増え、店頭で手にとって購入するハードルが低くなったことも大きいでしょう。
■美容に無関心だった40代の男性経営者の変化
「男が化粧⁉」と驚かれるビジネスマンの方が少なくないと思います。経営者や政治家の印象戦略をお手伝いしている私の実感です。しかし、私のクライアントにはメンズコスメを取り入れたことで、ビジネスでいい結果につながったという事例がいくつも存在します。美容に無関心だった40代の男性経営者の事例を、ここで紹介したいと思います。
A氏は高校生の頃からコンピュータマニアで、コンピュータ関連企業に就職。当時からいわゆるオタク的な風貌だったそうです。そんな彼の才能が注目され、アメリカに渡り、シリコンバレーで投資を得てITの分野で起業した経営者です。彼は髪型にもファッションにも無頓着。理髪店にすら行かないため、奥様が髪の毛を切っていたほど美容に無関心な方でした。
A氏にはまず日本での事業を展開するタイミングで宣材用の写真撮影を勧め、撮影の際はヘアメイクを入れることを提案。意外にも快く受け入れてくれました。後で聞くと撮影のためのヘアメイクには抵抗がなかったとのことです。
撮影当日、朝起きてすぐに駆けつけたかのような髪が整えられただけでなく、目元のクマや肌荒れも隠れ、均一に整えられた肌の美しさに、彼はとても満足な様子でした。いざ撮影になると、メイク前の控えめな印象から一転。始終、晴れ晴れとした表情で、ポージングも堂々としていました。
この日を境に、彼は会見や撮影にヘアメイクを伴うのはもちろん、普段もBBクリームを使用するようになりました。彼のビジュアルは奥様や身近なスタッフにはもちろん、その後、取材などで関わったメディアの担当者からも「かっこいい」「イケメン」などという声が聞かれました。
■見た目の自信が、仕事のパフォーマンス向上につながる
メンズコスメの影響は、一目瞭然でした。その後、アメリカの経済誌で日本を代表するスタートアップ企業の社長として紹介されただけでなく、日本の大手企業の資本が入り、運輸会社、製造業など大手企業と業務提携しました。
何よりも彼自身の内面の変化は非常に大きかったと言えます。
ニューヨークのファッション、ビューティー、ウェルネス分野のクリエイティブエージェンシーDecode Creative Inc.代表で、クリエイティブディレクターのカツア・ワタナベ氏によると、アメリカでは意識の高い人はBBや肌の色味をコントロールするCCクリームが出た頃から使っているそうです。
そして、高学歴、高収入の人ほど美意識が高く、セルフケア、セルフブランディングをしっかり行っており、そのような人たちほど社会的に成功している傾向が強いことから、日本のビジネスマンが見た目のケアをしていない場合、海外では当然ビジネスで不利になると警告しています。
A氏もこのようにアメリカでは見た目で思考力や経済力まで判断され、区別されることを理解しながらもこれまで美容は手付かずでした。だからこそ、アメリカの経済誌で認められたということが、自信のあるパフォーマンスにつながったのです。
■「サイレントメイク」はビジネスマンの強い味方になる
誰かに指摘されるよりも、自身で気づくこと以上の大きな効果はありません。自身の見た目の変わりぶりを目の当たりにし、ビジネスへの影響の大きさも実感したからこそ意識も変化したといえます。
もう1つは「ナチュラルさ」です。いかにも肌に塗っていると分かる「やりすぎメイク」ではなく、肌のトラブルをカバーして「整える」レベルだったことで抵抗感が薄れたのでしょう。
この夏、弊社のクライアントや講義を聞いてくださった方、20代から50代の方に色つき日焼け止めを勧めました。色つき日焼け止めはブラウンやベージュの色がついていて、BBクリームやファンデーションのように肌の色を均一に仕上げます。職業は営業職、会社経営者、政治家と多岐にわたりますが、「目元のクマや髭剃りの跡の黒ずみを消すことができて、自信が持てた」というのが共通の反応でした。
あるクライアントは、コロナ禍で急速に進んだ会議や飲み会のオンライン化で、ディスプレーに映る自分の顔をまざまざと見つめる時間が増えたことで、普段気にも留めていなかった、シミやシワなどの老化にも気付いたそうです。
そして色つき日焼け止めはクレンジング剤で顔を洗うことから、洗顔後、保湿のために化粧水やクリームを塗るなどスキンケアもきちんとするようになり肌もどんどんきれいになりました。このように自分の新たな可能性も見いだすことができ、会議にも積極的に参加できるようになったとのことです。
オンライン会議が当たり前になった今、印象の面はもちろん、自信につながるツールとしてもメイクは重要なツールとなっていくと考えています。
ただ、女性がメイクをしても印象が悪くなることはないのに対して、男性の場合、程度次第では悪印象になりかねません。そのため、主張しない「サイレントメイク」のセンスが問われるのです。
どんなメイク用品を使えばいいか分からない方は、メイクの先輩である身近な女性にアドバイスを求めることをお勧めします。自身の印象の戦略を立てるには、第三者の目線が何よりも重要だからです。今後、「美容」は男女のコミュニケーションツールとしての役割も担っていくでしょう。
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印象戦略コンサルタント
大阪府出身。航空会社退職後、英国ロンドンシティーリットでコミュニケーションを学ぶ。帰国後、印象戦略コンサルティング会社キャステージを起業。危機管理の観点から、行政や大手企業で演説トレーニングや服装戦略を手掛ける。また、日本政策学校講師、上智大学グリーフケア研究所認定臨床傾聴師、麹町中学校「制服等検討委員会」アドバイザー、ラジオ日本「ラジオ時事対談」レギュラーも務める。
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(印象戦略コンサルタント 乳原 佳代)
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