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「これではトランプに勝てない…」次期大統領に最も近い女性カマラ・ハリス副大統領の大失速

プレジデントオンライン / 2021年9月30日 10時15分

シンガポールで演説するカマラ・ハリス米副大統領=2021年8月24日 - 写真=EPA/時事通信フォト

次期アメリカ大統領の最有力として注目されていたカマラ・ハリス副大統領の評判が芳しくない。上智大学の前嶋和弘教授は「『移民に冷たい』『外交音痴』というイメージが定着しつつある。このままだと次期大統領選の候補に選ばれない可能性もある」という――。

■次期大統領最有力への大きな期待はあるが…

「女性初、黒人初、インド系アメリカ人初の副大統領」として新しい時代を象徴する政治家であるアメリカのカマラ・ハリス副大統領に対する評判がいまひとつだ。

バイデン政権発足8カ月を迎えたが、政権の中で与えられている担当政策はどれも複雑であるため、具体的な成果につながっていない。

「まだ、慣れていないだけ」かもしれないが、ここ数代の副大統領に比べると、ハリスの影はまだかなり薄い。

「次期大統領最有力」という期待像とハリスの「現在地」とは雲泥の差がある。

■「移民に冷たい」の印象を世間に与えた“ある失言”

ケチのつきはじめは、最初の外遊として選んだ6月上旬のグアテマラ、メキシコ訪問だった。

初日はグアテマラのジャマテイ大統領と会談し、アメリカの南部国境に中米から押し寄せる移民の根本的な原因である治安や貧困について、経済支援や犯罪組織への対処にアメリカが協力することで意見が一致したところまでは良かった。

しかし、直後の記者会見で「(メキシコ国境には)来ないでください。来ないでください。アメリカは法律を施行し、私たちの国境を守る」とシンプルに訴えた。

この言葉に対して、「不法に入ってくる移民には徹底的に強く出なければならない。弱腰だ」といった共和党からの批判はいつものことだが、身内の民主党からもおそらくハリスの予想以上に強い批判が続いた。

その代表的なものが、31歳と若いが既に左派の顔となっているオカシオ・コルテス下院議員のものだ。

若い世代のアイコンにもなりつつあるオカシオコルテス下院議員
若い世代のアイコンにもなりつつあるオカシオ・コルテス下院議員(写真=Franmarie Metzler; U.S. House Office of Photography/Wikimedia Commons)

オカシオ・コルテス議員は「がっかりした。米国の国境で亡命を求めることは、100%合法的だ。アメリカは何十年もラテンアメリカ諸国の政治に介入し、不安定化させてきた。

誰かの家に放火するのを(アメリカが)助けてきたのに、その家から逃げ出した人を責めることはできない」と辛辣なツイートをした(注1)

オカシオ・コルテス議員に同調する意見は左派を中心に広がっていった。政権の中でハリスに与えられている担当政策の一つが移民問題だが、この一言で、「移民に冷たい」というイメージが広がってしまった。

翌日、ホンジュラスでコロナウイルスワクチン提供などを決めた直後のNBCとの単独インタビューでは、「移民問題の最前線である米墨国境を訪れたかどうか」という質問に対して、「いつかは」と答えた後、「“私たち”は国境にこれから訪れます。“私たち”は国境を訪れたこともある」と主語をあいまいにして、返答をはぐらかした。

これに対して「“あなた”は、国境を訪れたことはないでしょう」とNBC記者に訂正を求められたのだが、ハリスは何と「私は欧州にも行っていない」と頓珍漢な返答をした。

おそらく「米墨国境が重要なので、欧州にもまだ、行っていない」と答えたかったのかもしれないが、墓穴を掘ってしまった。

(注1)https://twitter.com/AOC/status/1402041820096389124

■担当政策は目立つ成果を上げづらい

「外交音痴だ」といった批判が相次ぐ中、急遽日程を調整して6月25日には実際にテキサス州エルパソを訪れ、米墨国境を視察することになる。

メキシコやホンジュラスなどからアメリカ国内に逃げ込んでくる非合法移民問題は政策的に厄介だ。

オカシオ・コルテス議員のように、民主党左派は「逃げるには逃げる理由がある。移民が起こる現状に対応し、アメリカはむしろ積極的に受け入れていくべき」という立場である。

その一方で共和党側は「メキシコ政府やホンジュラス政府が対応をしないのが問題。アメリカの治安が悪くなり、国民の雇用も奪われる」として近年、トランプ政権が行ったような徹底した移民排除を支持する。

視察をするだけでも党派的な反応を生んでしまうため、ハリスは慎重に対応していたが、その慎重さがあだになってしまった。

中米からの移民問題だけでない。政権内でハリスに与えられた担当政策の多くは、難しく時間がかかるものばかりだ。

たとえばその一つの「選挙制度」については、移民問題と同じくらい党派対立が顕著である。

共和党が優勢な南部や中西部諸州はここ10年程、投票所の数を減らしたり、投票の際の身分証明書提示を厳格にさせるなど。黒人やヒスパニックの投票機会の制限につながりかねない制度改革を進めている。

これに対し、民主党側は必死で連邦政府側の法制度改革でこれを阻止しようとしているが、主戦場は連邦議会であり、ハリスが動ける範囲はせいぜいバイデン政権と民主党議会の調整役くらいしかない。

ハリスの活躍できる範囲は狭く、期待された「新しい時代の女性」のイメージを作り出すまでには程遠い。

■ホワイトハウス内部からも批判が出る

上述のメディア対応などに対し、ホワイトハウス内ではハリスに対する不満の声もくすぶっている。バイデンに近い側近たちが、ハリス批判を続けており、面白おかしく報じられるようになっている。

特にワシントンのインサイダー情報の提供で広く知られている「ポリティコ」には優先的にハリス批判の情報が複数回、リークされている。

頻繁にやり玉に挙がっているのがハリスの首席補佐官であるティナ・フロノイである。

ハリスに担当してほしい仕事をバイデン周辺からフロノイに打診しても、なかなか応じないという(注2)

ハリスの負担を減らすつもりなのか、ハリスのさらなる対応のまずさを露呈させないためなのか、分からないが、フロノイにとってはハリスを守るつもりなのだろう。

これをバイデン周辺は「過保護」とみていて、フロノイのやり方へのいら立ちがある。

大したことがない内輪ネタのようにみえるが、現役の副大統領に対する内部からのいら立ちが表面化するような事態は、近年はあまりなかった。

(注2)https://www.politico.com/news/2021/06/30/kamala-harris-office-dissent-497290

■潜在能力はあるが、政権では「独りぼっち」

ハリスにとって不利なのは、そもそも自分に近い人物を政権に入れることがほとんどできなかったことだ。

カリフォルニア州内では検事総長などとして活躍してきたが、ハリスは上院議員経験も1期目の途中でわずか4年での副大統領転出であり、ワシントン人脈は少ない。

ハリスはカリフォルニア州で自分に近い人々で周りを固めようとしたが、バイデンの長年の政治的な関係者が政権入りしたため、それもかなわなかった。

バイデン政権にはオバマ政権時代のメンバーが再登板しているほか、上述のフロノイも元々はビル・クリントンの部下だった。当然、ハリスにとっては肩身が狭い。

さらに、民主党を長年支えてきたベテランチームの中で「ぽっと出」なのに、次期エースとしてちやほやされているとして、やっかみもあるだろう。

潜在能力は高いが、実績はまだ、少なく「独りぼっち」だ。

残念ながら、これがハリスの「現在地」だろう。

上院議員時代のカマラハリス。このころの笑顔を取り戻せられるか。
写真=Phil Roeder from Des Moines, IA, USA/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons
上院議員時代のカマラ・ハリス。このころの笑顔を取り戻せられるか。 - 写真=Phil Roeder from Des Moines, IA, USA/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

■ここ最近の副大統領と比べると最も目立たない

ロサンゼルスタイムズのまとめによると9月7日現在、ハリス副大統領の支持率は42%、不支持率は50%となっている(注3)

この数字は、同時期のペンス前副大統領よりは良いものの、それよりも3代前の副大統領(バイデン、チェイニー、ゴア)よりも低い。

ハリスにとって、不運といえるのが、ペンスを含む4人の「先輩」たちがいずれも個性的で、国民が副大統領を見る時のハードルが上がっていることだ。

(注3)https://www.latimes.com/projects/kamala-harris-approval-rating-polls-vs-biden-other-vps/

クリントン政権(1993年1月~2001年1月)の副大統領だったゴアは科学に強く、インターネット普及のための規制緩和や気候変動に専心した。

政権を代表して来日し、京都議定書の署名したほか、2000年の大統領選挙での敗北後、気候変動対策を世界各地に訴えノーベル平和賞を受賞した。

G・W・ブッシュ政権(2001年1月~09年1月)の副大統領のチェイニーは、アフガニスタンとイラクという2つの戦争を引っ張り、賛否はあるかもしれないが、ブッシュ政権当時のネオコンといわれるタカ派外交の旗振り役となった。

オバマ政権(2009年1月~17年1月)の副大統領だったバイデンも、上院議員時代を合わせてワシントンで50年近く活躍し、昨年の選挙で長年の悲願だった大統領となった。

そして、トランプ政権(2017年1月~21年1月)のペンス副大統領は、福音派からの強い支持を集め、トランプ当選の大きな要因となった。

政権発足後も福音派関連の政策を進めたほか、日本にとっては冷徹なまでに中国に強く出る対中強硬姿勢を貫いたイメージも強い。

いずれも政治的な野心にあふれてぎらついている。この4人と比較すると、ハリスはどうしても影が薄い。

■近年変化した、副大統領の役割

「女性初、黒人初、インド系アメリカ人初の副大統領候補」としてハリスが注目されたように、副大統領は選挙では重要な役割を担う。

だが、当選してからは別だ。大統領は大統領が職務を継続できなかった時に代行するのが副大統領の憲法上の役割である。それ以外は具体的に何をすべきかの記載すらない。

あえていえば、副大統領は形上、上院議長を兼ねるが、議会に張り付いているわけではなく、上院での法案投票が同数で賛否が割れた際に最後の1票を投じるだけの存在である。

過去の歴史を見れば、何をしているのか分からないような副大統領の方がむしろ多数派かもしれない。先に述べた、ぎらついた「先輩」たちは副大統領としてはかなり例外的な存在である。

フランクリン・D・ルーズベルト政権で副大統領を2期務めたジョン・N・ガーナーは退任後、副大統領についてこう言った。「バケツ一杯の温かい唾の価値もない」――。

ただ、ゴア副大統領以降の時代は、24時間ニュースチャンネルの普及やインターネットの爆発的普及が重なっている。

各政権が衆人環視の状態に置かれる中、今では副大統領の存在が薄ければ、すぐに叩かれるようになる。

特に、ハリスの場合にはソーシャルメディアの普及と政治的分極化で上述のゴタゴタについて女性蔑視的な書き込みが一気に増えている。このことには怒りを感じざるを得ない。

■「バイデンの次」としてのお膳立て

ハリスはそれでも政権にとっては正統な後継者であるのは間違いない。

すでにバイデンは就任時の今年1月20日の時点で78歳2カ月であり、1989年1月の退任時に77歳11カ月だったレーガンよりも高齢だった。

日々、最高齢の記録を塗り替えており。再選された場合、25年1月20日の2期政権発足時にはバイデンは82歳2カ月となる。全く未知の領域だ。

どう考えても、「バイデン後」を想定しないといけない。

バイデン政権内には、ハリスを「育てる」動きも目立ちつつある。

国内問題の会見などでバイデンが一人ではなく、その横にハリスも立ち並ぶ。

外交問題なら、さらにブリンケン国務長官がこれに加わる。チームで政策を動かしており、その中にはハリス氏が重要な位置を示すことを念押ししているようにもみえる。

過去の政権でも正副大統領が立ち並ぶことは少なくなかったが、バイデン政権での場合、その頻度がより高いようにみえる。

「外交音痴」というハリスについたイメージを断ち切りたいという意図もあり、8月下旬にはシンガポール、ベトナムを歴訪させた。

ハリスの本格的な最初のアジア外遊となったこの2カ国には、事前にシャーマン国務副長官、オースティン国防長官が訪問し、細かな調整を行っていた。「ハリスの手柄をおぜん立てするようだった」とみるのは言い過ぎではないかもしれない。

■2024年の大統領選までに「ハリスの高笑い」が聞こえるか

次の大統領選挙が行われる2024年にはハリスは60歳となり、政治家として最も脂がのった年齢となる。ただ、バイデンが24年には不出馬を選んだとしても、それで「ハリスに禅譲」するわけでは全くない。

共和党側にはドナルド・トランプ再登場の可能性があり、「ハリスでは勝てない」とみられた場合、誰でも出馬できる現行の予備選の制度では候補が乱立するかもしれない。

政治的人物の風刺人形
写真=iStock.com/Roman Tiraspolsky
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Roman Tiraspolsky

同年に35歳になり、大統領選挙の被選挙権を獲得できる、上述の若手の期待の星であるオカシオ・コルテス下院議員の動向も注目されようになるだろう。オカシオ・コルテスはいまのところ、出馬を強く否定しているが、まだ分からない。

移民問題にしろ、選挙制度にしろ、これまでハリスに与えられた複雑な政策的役割がもしうまくいったのなら、目立つため、それこそ一発逆転打となり、ハリスの評価も上がる。そうなれば、民主党を統合する存在にハリスが成長するかもしれない。

ハリスを知った人なら誰でも共通した印象がある。それは実によく高らかに笑うことだ。各種インタビューでは、政治的に苦境に立った時の述懐など、驚くくらいのポジティブな高笑いをする。

ハリスが現状を打開し、この高笑いが聞こえるかどうか。あるいはこの高笑いが空回りするのか。ハリスから引き続き目を離せない。

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前嶋 和弘(まえしま・かずひろ)
上智大学総合グローバル学部教授、学部長
上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。文教大学准教授などを歴任。主な著作は『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)など。

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(上智大学総合グローバル学部教授、学部長 前嶋 和弘)

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