「戦争中と同じ人数が毎年死んでいく」これからの日本を襲う"少産多死社会"の現実
プレジデントオンライン / 2021年9月28日 11時15分
■5年前と比べて人口は約87万人も減った
日本の人口減少は不可避です。
今年6月に2020年国勢調査の速報が発表されましたが、人口は5年前と比べて約87万人も減少しました。国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口(平成29年推計)報告書」によれば、2100年には人口5972万人になります。現在の半分以下になるわけです(出生中位・死亡中位推計)。これはちょうど1925年(大正14年)の人口5974万人(総務省統計局「大正十四年国勢調査結果の概要」)とほぼ同等です。
こう聞くと「一刻も早く少子化を是正して人口減少を回避せねば」と思われるかもしれませんが、たとえどんな政策をとったところで、少子化は改善されませんし、人口減少の歯止めをかけることも叶いません。
今回は、そんな出生と死亡のメカニズムについてお話しします。
勘違いをされている方も多いのですが、人口減少は少子化によってのみ引き起こされるのではありません。人口減少とは、死亡数が出生数を上回る自然減によって生じます。日本はすでに2007年には自然減状態に突入しています。今後、毎年のように日本の人口は確実に減り続けます。
日本は世界1位の高齢化率で、長寿の国ですが、それは、1951年から2011年まで60年間にもわたって人口千対死亡率(※) がわずか10.0未満の状態が続いたことによるものでもあります。しかし、高齢者とて老不死ではありません。現在の高齢者たちがお亡くなりになる時が確実にやってきます。それが「日本の多死社会化」です。そして、それはもう間もなく数年後から始まります。
※1000人の人口集団の中で発生する比率のこと
■戦争中と同等の人数が毎年亡くなっていく
社人研の推計によれば、2023年から年間150万人以上死ぬ時代が到来します。これは、太平洋戦争期間中の年間平均死亡者数に匹敵するといわれます。戦争もしていないのに、戦争中と同等の人数が死ぬ国になるのです。しかも、それが2071年まで約50年間継続するのです。2022年~2071年までの50年間に日本で約7960万人が亡くなる計算です。冒頭述べた2100年人口5972万人が決して誇張ではないとおわかりでしょう。
そもそも戦後の日本の人口増加というものは、戦後2度のベビーブームをはじめとした出生数の増加によるものだけではなく、死亡率が少ないというこの「少死」現象によるものです。そして、今後の日本の人口減少もまた出生数の減少というより高齢者の大量死亡という「多死化」によって引き起こされます。
人口学的には、人類は「多産多死→多産少死→少産少死→少産多死」というサイクルで流れてきています。日本も、明治期~太平洋戦争前まではいずれも人口千対率で出生率25以上、死亡率15以上の「多産多死」時代でした。戦後「多産少死」時代へ入り、現在は「少産少死」のステージに入っていますが、やがて「少産多死」へと移行します。
これは日本に限らず、世界のすべての国が同じ工程を進むことになります。先進国や高所得国から先に進みますが、日本はその先駆けといえます。少子化も人口減少もマクロ視点でみれば、このような人口転換メカニズムの大きな流れの中で推移していくものなのです。
■「少子化=子どもが生まれない」だけではない
「それでも、死亡者数以上の出生数があれば、自然減にならない。出生数を増やせばいい。かつてのベビーブーム期は年間200万人も子どもが生まれたではないか」というご指摘もあるかと思います。しかし、それは到底無理な相談なのです。少子化というものを「子どもが生まれない」という視点だけで見てしまうと見えない部分があります。少子化とは実は「子どもが死なない」という現象によるものでもあるのです。
日本における乳児死亡率(出生千対)と出生率との相関を見ると、見事なほど正の相関にあります。要するに、乳児の死亡数が減れば減るほど出生数も下がります。これも日本に限らず、万国共通です。
1899年からの日本の人口千対出生率と乳児死亡率の相関をみてみましょう。
戦前の乳児死亡率が高いのは、戦争や関東大震災など災害によるものだと思いがちですが、死亡の最大の原因は病気です。1918年は出生千対の乳児死亡率が189もありましたが、これはその時期世界的に猛威をふるったスペイン風邪の影響です。新型コロナウイルスとは違い、スペイン風邪ウイルスは、主に小さな子どもたちの命を奪いました。乳児死亡率が初めて100を切ったのは1940年になってのことです。
戦後、生活環境の改善と医療技術の発展により、乳児死亡率はすさまじい勢いで減少していきます。現代では乳児死亡率は限界まで下がりきっていますが、それでもなお出生率が下がり続けている要因は、未婚化・晩婚化によるものです。これもしばらく続くでしょう。
■多死時代が続けば日本人はやがて絶滅する?
こう書くと、そのまま「少産多死時代」が延々と続けば日本人はやがて絶滅するのではないかと危機感を抱くかもしれませんが、決してそうはなりませんのでご安心ください。大量の高齢者群が多死時代を経て縮小した段階で、多死時代は終わります。そして、それは現在の中高年者偏重型のいびつな人口ピラミッドが、全年代均等型に補正されるからです。
すると、人口が増えもせず減りもしないという静止人口に落ち着くことでしょう。歴史人口学的にはこうした事態が日本では過去3度あったと言われています。直近では、江戸時代享保期以降、幕末安政期までの約130年間がそれにあたります。
さて、これからは死亡者が増える多死社会が来るというお話をしてきましたが、実は2020年は死亡者が前年より減るという結果となりました。9月10日に発表された2020年人口動態調査確定値によれば、2020年の死亡者数は137万2755人で、前年より8338人も減少したのです。死亡者数が前年より減ったのは11年ぶりです。新型コロナウイルスの影響であれほど命の危機が叫ばれた中、結果として死亡者が減ったということはよいことだと思いますが、年齢別の状況を見ると決してそうともいえません。
■現役世代全部の自殺が増えている深刻さ
全体死亡者数が減っているにもかかわらず、全体の前年比で増えているのが70~74歳など一部の高齢者を除けば、15~29歳の若年層であるということです。しかも、死因分類で見ると、高齢者で特に増えている原因は老衰等であるのに対し、若者の死亡が増えているのは病気というよりほぼ自殺です。自殺に関していえば、64歳までの現役世代全部が前年比で増えています。そうした若者を中心とした年齢層の自殺が増えたことは由々しい問題だと思います。
コロナ禍で外出の自粛などが叫ばれ、この1年半というもの、特に若者は、学校へも遊びにも行けず、大きな不自由を強いられました。いつも対面でコミュニケーションをとれていた友達との接触機会の喪失は、彼らに大きな孤独感を与えたのではないかとも思います。
2020年に大学に進学した新入生などは、入学してから一度も同級生と対面したことすらない状況が続いたとも聞きます。地方から出てきて、誰も知り合いのいない都会の真ん中で、ただひたすら部屋に閉じこもってパソコンの画面だけを見つめる。それは想像を絶する「社会からの疎外感」だったろうと思います。かといって、バイトなど別の手段で人との接触ができるわけでもない。友達も恋愛もできない。そもそも誰とも知り合えない、話もできない。これは、まさに彼らにとって「人とのつながり」の断絶そのものなのです。
■「子どもたちが死なない社会」のはずなのに
多死社会・人口減少は確かに社会的な問題でしょう。ただし、それは視点を変えれば「少子化であっても、以前の多産多死時代のように、未来のある子どもたちが大勢死ぬ社会ではなく、少なくともこの世に生まれてきた子どもたちは死なない社会」とも呼べるものであったはずです。にもかかわらず、子どもたちが病気や災害などではなく、自殺というかたちで命を自ら断ってしまう社会が今起きているんだとしたら、そんな社会は社会そのものが病んでいると言わざるを得ません。
国全体のコロナ対策はもちろん重要ですが、それは若者たちの犠牲の上に成り立つものではないはずです。若者を死に至る檻に閉じ込めず、せめて彼らの日常の人とつながる機会を阻害しない方向を模索してほしいと切に願います。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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