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「帝国の墓場」アフガニスタンからの米軍撤退がバイデン政権にピンチをもたらすこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2021年9月29日 13時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/guvendemir)

2021年8月、約20年の米軍アフガニスタン駐留を終結させたバイデン政権。タリバン政権の復権を許したことで米国内外から批判が高まっている。地政学者で戦略学者の奥山真司氏は「アメリカにはプラスだけど、バイデン政権にはピンチ」だという――。

■損切りで国力を温存できる!?

米軍のアフガニスタン撤退については、さまざまな意見がありますが、僕の今のスタンスは「アメリカにとってはプラス、バイデン政権にとってはピンチ」です。

なぜアメリカにはプラスなのか。そこから説明していきましょう。

そもそもアメリカのアフガニスタン侵攻のきっかけとなったのは2001年に起きた9.11米同時テロ。ニューヨークにあるワールドトレードセンターのツインタワービルに飛行機が衝突する映像は、記憶に残っている人も多いでしょう。僕は当時、カナダの大学に留学していましたが、そのときのアメリカ人の怒りはすさまじいものでした。

当時のブッシュ米大統領は、すぐに首謀者を国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンと断定し、彼をかくまうアフガニスタンのタリバン政権に身柄の引き渡しを要求しました。しかし、タリバン政権が要求にこたえなかったことから、米英両軍はアフガニスタン空爆を開始。反タリバン勢力の「北部同盟」と結びつき、アフガニスタンの首都・カブールを制圧しました。

2009年、米軍はウサマ・ビンラディンを殺害しましたが、その後も、ここがテロの温床になってはいけないと支配し続けました。しかし、それから約20年、アメリカがやってきたことは無駄だったということが、今回明らかになったわけです。

アメリカが投じた軍事費は、公式には220兆円といわれていますが、実際は800兆円(米国ブラウン大学の研究チームによる報告)にものぼると言われています。これだけ投じてテロ掃討戦をやろうとして負けたわけですが、僕はこのアメリカの「負け」に関して、ポジティブにとらえています。バイデン政権がこれ以上損を出さない“損切り”をしたことで、アメリカは国力を温存できたからです。

■カーター政権を思い起こさせるバイデン政権

そもそも陸に囲まれたアフガニスタンは、情勢が常に不安定で「帝国の墓場」といわれる場所。紀元前からペルシャ帝国やアレキサンダー大王など、どこの帝国が入ってきても、結局は統治できずに逃げてしまうほど。アフガニスタンは国家としてまとまっている建前ですが、実態としては部族同士がずっと群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)して、いつまでもまとまりません。陸の奥地なので、テロリストが出入りしやすく、麻薬の成分を含むケシの栽培も盛ん。とにかく何をやっても統治の及ばない地域がアフガニスタンなのです。

カブール-アフガニスタン
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/meshaphoto)

そんなアフガニスタンに、1979年から1989年まで侵攻していたのがソ連です。1988年に『ランボー3/怒りのアフガン』というシルヴェスター・スタローン主演の映画が大ヒットしましたが、まさにこの映画の舞台がアフガニスタン。スタローン扮(ふん) するランボーがアフガニスタンに入っていき、ソ連軍と戦うというストーリーでした。

当時、カーター米大統領はソ連のアフガニスタン侵攻を批判し、経済制裁の発動やアフガニスタンの反政府勢力への武器提供、また西側諸国にモスクワ・オリンピックのボイコットを呼びかけました。

しかしカーター政権は、イラン革命やイランのアメリカ大使館人質事件などを防ぐことができず、中東から撤退。その後、非常に不安定化し、たった1期でレーガン大統領に政権を譲りわたすことになりました。

レーガン政権が誕生したあとのアメリカは非常に強くなりました。ブルース・スプリングスティーンの“Born in the U.S.A”が大ヒットしたように、アメリカは突然元気になって復活。そして数年後、アメリカは冷戦に勝って、ソ連は崩壊しました。

この歴史上の流れを今回、同じようにたどるのではないかというのが、僕の考えです。つまりカーター政権の中東撤退により、アメリカがソ連に勝つことができたように、バイデン政権がアフガニスタン撤退をすることで、今の主敵である中国との戦いに勝つことができるのではないかということです。

この20年、アメリカが中東で争っている間、世界で何が起こっていたかというと、中国が非常に伸びてきました。もともと地政学では「西ヨーロッパ」「中東」「東アジア」は三大戦略地域といわれ、この三大エリアでは常に衝突が起こっています。

本来であれば、アメリカは「東アジア」で対中政策をしなければいけないのに、「中東」にリソースを引っ張られすぎていました。それが今回、損切りできたおかげで、「東アジア」対策に取り組むことができるようになったのは、アメリカにとってプラスですし、日本にとってもプラスです。

では「バイデン政権にとってはピンチ」とはどういうことでしょうか。バイデン政権の功績は大きいですが、撤退時に同盟国とのすり合わせもなく、関係者間の残留問題もあって、アメリカの当事者が深い傷を負っていることは間違いありません。おそらくバイデン政権は、かつてのカーター政権のように、これから不安定化するでしょう。

アメリカ国民からの支持を失い、もしかしたら2024年の大統領選挙では、民主党が負けてバイデン政権は1期4年間だけで退陣になるかもしれない。まさにカーター政権のように失敗したという汚名を着せられて、あまり幸せな感じに終わらないんじゃないかなと予想されます。これが「バイデン政権にとってのピンチ」です。

■タリバンに近づく中国の思惑とは

アメリカの主敵である中国は、アメリカのアフガニスタン撤退後、アフガニスタンに友好的なスタンスを取っています。食料や新型コロナウイルスワクチンなど34億円相当の支援を行うと、タリバン政権に接近しています。

中国の狙いのひとつは、カブール近郊のアイナク銅山。ここに豊富な鉱物資源が眠っているのです。しかし残念なことに、アフガニスタン内部には、まともな道路がなく、開発の技術も徹底的に遅れているので、そこに資源があっても開発できない。開発するのにものすごくお金がかかるので、投資してもそれだけの回収ができるのかという大きな問題があります。

鉱業
※写真はイメージです。(写真=iStock.com/erlucho)

また現状、中国はそれなりに外交資源を投入しなければいけないのに、アフガニスタン政権が崩壊したおかげで、ウズベキスタンを通ってのほうからテロを起こす勢力が入ってくる恐れが出てきました。内陸に懸念が出てくると「太平洋のほうに空母をつくっている場合じゃないよね」「今までアメリカが裏のほうにいたのは気に食わなかったけれど、いざいなくなると大変じゃないか」と感じているでしょう。ですから、しょうがなく中国はタリバン政権ともうまくやりつつ、ウズベキスタンのほうで問題を起こしそうな勢力を支援しないでほしいと頼んでいるのです。

こうした中国の動きからも、東アジアに戻り、海をしっかりとおさえるというアメリカの戦略は、まあまあよかったのではないかと思います。

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奥山 真司(おくやま・まさし)
地政学・戦略学者
戦略学Ph.D.(Strategic Studies)。国際地政学研究所上席研究員。カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学卒業後、英国レディング大学院で、戦略学の第一人者コリン・グレイ博士に師事。近著に『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)がある。

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(地政学・戦略学者 奥山 真司)

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