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「本当は中国包囲網のはずだったのに」中国のTPP参加申請に議長国の日本が取るべき態度

プレジデントオンライン / 2021年9月25日 11時15分

閣議後の記者会見で環太平洋連携協定(TPP)加入申請について説明する政府高官(左)=2021年9月23日、台湾・台北の行政院 - 写真=時事通信フォト

■昨年、習近平主席が「前向きに検討する」と発言していた

中国が9月16日に日本やオーストラリアなど11カ国で構成する「TPP(環太平洋パートナーシップ)」への参加を正式に申請した。TPPはもともとアメリカのオバマ政権が推進してきた経済安全保障の枠組みだ。経済成長を武器に覇権主義を強める中国に対し、民主主義の国々が中国包囲網を形成することが目的だった。そのTPPに中国が参加しようというのだ。

昨年11月、習近平(シー・チンピン)国家主席はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議で、TPPへの参加について「前向きに検討する」と表明していた。あの発言は本気だったのだ。中国の習近平政権は、いったい何を企んでいるのだろうか。

■トランプ前大統領の決めた「離脱」が尾を引く

TPPとは多国間の自由貿易協定(FTA)である。2018年12月に発効し、現在、日本とオーストラリアに加え、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、カナダ、チリ、メキシコ、ペルーの計11カ国が参加している。

米国(TPP)後の新しい環太平洋パートナーシップの地図
写真=iStock.com/Main_sail
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Main_sail

多くの物品に対して関税を撤廃し、自由な貿易ができる。その分、電子商取引や知的財産の幅広い分野でルールが定められている。特にデータ管理については、流通の透明性と公平性が確保される。

問題は、当初TPPに参加していたアメリカがトランプ前政権時代の2017年に不参加を決めたところにある。アメリカの復帰は中国への対抗手段になる。日本にとっても最大の輸出相手国であるアメリカが復帰すれば、中国への牽制になる。バイデン政権は早急に参加すべきである。出遅れたイギリスも今年2月に参加申請している。

しかし、アメリカ議会には復帰に慎重な声も多い。高度な貿易自由化を実現させたTPPに参加すると、安い製品の流入によって国内産業がダメージを受ける危険があるからだ。

そんなアメリカを尻目に中国が動いた。習近平政権はアメリカの不参加に目をつけ、TPP参加への可能性を探っていた。その結果、今回の参加申請となった。

中国は経済力を武器にTPPでの主導権を握ろうと考えているのだろう。環太平洋地域での経済的影響力を強化し、アメリカに圧力をかける狙いがある。

■中国の参加を食い止め、台湾の参加を許可すべき

9月22日の深夜、興味深いニュースが飛び込んできた。台湾の行政院(日本の内閣に相当)の報道官が、TPPへの参加を正式に申請したことを明らかにしたというのだ。台湾は今年2月、すでに参加の意向を表明していた。16日に中国が正式申請を行ったことから、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権が正式申請を急いだのだろう。中国が先に参加した場合、台湾の参加が不可能になるからである。

台湾は中国から領空侵犯など軍事的介入を受け、いつ侵略されてもおかしくない緊張状態にある。そんな台湾にとってTPP参加は、国際社会での存在感を高め、台湾を「中国の一部」と主張する中国への大きな対抗手段となる。

台湾の動きに対し、中国共産党系「環球時報」の電子版は22日夜、「台湾の参加申請は攪乱だ」と強く批判した。9月7日には中国外務省の汪文斌(オウ・ブンヒン)報道官が記者会見で「台湾がTPPなどへ参加するときは、必ず『1つの中国』の原則に基づいて対処しなければならない」と台湾に警告していた。

日本の外務省は台湾の参加申請を前向きに評価している。TPPへの参加には参加国(計11カ国)すべての合意が必要だ。ここは日本が音頭を取って中国の参加を食い止め、台湾の参加を許可すべきである。

■中国の国際社会に背く行動は断じて許されない

覇権主義を強める中国には価値観を同じくする民主主義国家がともに力を合わせて対抗していく必要がある。TPPはそのひとつになる。強権的な覇権主義に偏る中国は、さまざまな問題を抱えている。

台湾に軍事的な脅しや圧力をかけ、香港に対しては暴力と言論弾圧で民主派を一掃した。軍事力を背景に東・南シナ海に進出し、沖縄県の尖閣諸島を「中国の領土の不可分の一部」と繰り返し、周辺海域で中国海警船が侵入しては日本漁船を追い回している。

台湾
写真=iStock.com/PeterHermesFurian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeterHermesFurian

新疆(しんきょう)ウイグル自治区ではジェノサイド(集団殺害)が国際問題となり、世界第2位の経済力を駆使して巨大経済圏構想の「一帯一路」を推し進め、暴利を貪っている。

国際社会に背く行動は断じて許されない。しかも中国の繁栄の裏には、大躍進運動、文化大革命、天安門事件と多くの流血や犠牲がある。中国共産党のこの100年間の過ちである。

■TPP参加条件は中国の制度や考え方とは大きく異なる

中国は本当にTPPに参加できるのか。現実的にはハードルは高い。

たとえば、国有企業を優遇する過度の補助金は自由競争を歪めるとの観点から禁止されている。公平性を担保する目的で電子商取引ではソースコードの開示要求を禁止し、データの抜き取りなどを防ぐためにサーバーを自国に置くよう外国企業に規制をかけることも禁じている。知的財産の保護も重視される。国内外企業の差別は認められず、強制労働による物品の輸入もしないよう求めている。

国有企業の優遇、外国企業への規制、(新疆ウイグル自治区での)強制労働などいずれも中国の制度や考え方とは大きく異なる。

だが、そこはしたたかな習近平政権だ。アメとムチを使ったあらゆる手段で参加を求めてくるはずだ。日本を含むTPP参加各国は中国の本性を見抜き、決して参加を許してはならない。とくに日本は議長国である。加藤官房長官は9月17日の記者会見で「中国がTPPの高いレベルを満たす用意があるか、しっかり見極める必要がある」と述べた。議長国としてのリーダーシップを発揮し、民主主義の砦をしっかり守る責任がある。

■中国経済のバブルが弾けつつあるとの見方もある

中国のTPP参加のための手続きには、全参加国の合意が必要だ。中国が前述した自国の制度と異なるTPPルールを受け入れられるのか。

ところで、中国の大手不動産グループ「恒大集団」の資金繰りが悪化し、世界的に株安が続いている。恒大集団以外にも負債に喘ぐ企業は多いという。中国経済のバブルが弾けたとの見方も出ている。中国の経済が崩壊すると、間違いなく世界各国の経済や社会に深刻な影響を及ぼす。

「恒大集団」の傾きは、習近平政権が打ち出した「共同富裕」(貧富の格差是正を目指す政策)をもろに受けた結果である。今後、中国の社会と経済が大きく変化する可能性がある。

習近平主席はTPP参加をもくろむことは止め、国内の市場をしっかりと立て直すべきである。

■「中国の加盟を認めるべきでないのは当然だ」と産経社説

9月20日付の産経新聞の社説は「中国のTPP申請 交渉できる状況にはない」との見出しを付け、「中国が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟を正式に申請した。TPPへの新たな加盟申請は2月の英国に続く2カ国目である」と書き出した後、こう指摘する。

「本来ならば、新規加盟が相次ぎ、TPP経済圏が広がることには意義がある。しかし、中国を英国などと同列に論じるわけにはいかない」

「同列に論じるわけにはいかない」。これが今回の中国参加の問題の根底にある。中国は1国2制度を適用して香港を国際金融都市として成長させた。しかし、結局は自由と民主主義を否定して民主派を排斥した。TPPに参加したとしても、最初は小利口に振る舞うだろうが、他の参加国の弱みを握って最後は覇権主義を振り回すことになるはずだ。

■「交渉すること自体にも慎重であるべき」

産経社説は「TPPが実現させた貿易・投資の高度な自由化は、習近平政権下で一段と強まった経済の国家統制とは対極に位置する。しかも中国にはこれを改める気配もない」とも指摘し、「中国には、米国のTPP離脱を好機と捉えアジア太平洋地域での存在感を高めようとする狙いもあろう。それが覇権の追求を後押しすることを、中国による安全保障上の脅威に直面する日本は特に認識しておく必要がある」と訴える。

そのうえで産経社説はこう主張する。

「いずれにおいても、中国の加盟を認めるべきでないのは当然である。それ以前に、交渉すること自体にも慎重であるべきだ。交渉の事実をもって、中国の変化の証左とみなす誤ったメッセージを発しかねないからである」

自国に有利なように情報を何度も流して理解の薄い国から懐柔を図ろうとするのは、中国の常套手段である。TPPに参加する11カ国は気を付けなければならない。

■「米国の圧力に対抗する狙いがある」と毎日社説

9月20日付の毎日新聞の社説は冒頭部分からこう指摘する。

「中国は当初、米国主導の対中包囲網と見なし、警戒していた。だが、トランプ前米政権が離脱を表明したことで態度を一変させ、習近平国家主席の肝煎りで申請準備を加速した」

まさに「鬼のいぬ間(ま)の洗濯」である。泰然自若の風貌とは逆に、習近平氏は実にずる賢い。

毎日社説も「米中対立が深まる中、多国間の経済枠組みに参加する姿勢をアピールし、米国の圧力に対抗する狙いがあるとみられる。国際的なルール作りで主導権を握り、影響力を高める意図もあるだろう」と分析する。

習近平氏は経済力と軍事面でアメリカを世界トップの座から引きずり落として中国をその地位に立たせたいのである。世界一の中国を目指すことで、自分は名実ともに毛沢東と同じ中国共産党の「党主席」の地位に付ける、と考えているのだろう。

■「日本は中国の真意を慎重に見極める必要がある」

毎日社説は「習指導部は自由貿易を支える理念と逆行する行動が目立ち、安全保障を理由にむしろ経済統制を強めている。こうした姿勢を改めない限り、加盟国の理解は得られないだろう」と書き、最後に次のように訴える。

「日本は中国の真意を慎重に見極める必要がある。全ての要件を満たすことが加入の大前提であり、例外を許してはならない」
「トランプ政治を否定したバイデン政権だが、国内産業の保護を重視し、TPP復帰に後ろ向きのままだ。国際協調を掲げながら、自由貿易体制を守る責務を果たさないようでは、アジア太平洋地域の経済秩序が揺らぎかねない」

繰り返すが、議長国である日本の責任は大きい。中国のTPP参加を認めてはならない。そのためには参加するための条件、つまりTPPルールをすべての参加国の前で中国政府に示し、その場で明確な回答を得るべきである。

さらに日本はアメリカにTPP参加を呼びかける努力も怠ってはならない。中国が参加申請を行ったことで、バイデン政権の出方も変わってくるはずである。日本はその変化をテコにアメリカをTPPに組み入れるべきだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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