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菅首相より厄介なことに…官僚も経済界も「河野太郎首相だけは勘弁してくれ」と口を揃えるワケ

プレジデントオンライン / 2021年9月25日 11時15分

インターネット動画中継サイト「ニコニコ動画」主催の自民党総裁選候補者による討論会を前に、談笑する河野太郎規制改革担当相(左)と岸田文雄前政調会長=2021年9月18日、東京都中央区銀座[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

■具体的な根拠の積み上げがない「いわくつき」の数字

「河野太郎氏のああいう言動は日常茶飯事だ」。9月1日、週刊文春は河野氏と資源エネルギー庁幹部とのやりとりを「パワハラ」として、音声データを公開した。問題のシーンは3年に一度見直され、10月に閣議決定を控える「エネルギー基本計画」を巡るやりとりだ。

エネ庁から出席していたのは山下隆一次長、小澤典明統括調整官だ。経産省・エネ庁が8月に出した素案では、2030年に総発電量のうち、再生可能エネルギーの比率を「36~38%程度」にするとしたものだ。

この数値は4月に米バイデン大統領主催の気候変動に関する首脳会議(サミット)に出席した菅首相が「野心的な目標として30年度に46%削減を目指す」と各国首脳に向けて述べたのを逆算して作ったものだ。欧米諸国に足並みをそろえるために19年度実績(約18%)の2倍にあたる高いもので、具体的な根拠の積み上げがない「いわくつき」の数字だ。

原発の再稼働がままならず、肝心の再エネも太陽光パネルを設置する場所も枯渇。風力発電も大きく引き上げられるめどが立たない中で、「無理筋な目標」として産業界は一様に不安を抱いて10月の閣議決定への成り行きを注視している。

■「再生可能エネルギーの比率」で、なぜそこまで興奮したのか

この「無理筋な目標」に対し、河野氏は「『36~38%以上』と明記しろ」と執拗(しつよう)に迫ったという。エネ庁の小澤氏は「『以上』という文言を入れれば、産業界に『最低でも38%は達成するだろう』と誤ったメッセージを与え、企業の設備投資などにも大きな影響を及ぼしてしまう」と理解を求めたが、河野氏は「積み上げて36~38になるんだったら、以上は36~38を含むじゃないか! 日本語わかるやつ出せよ、じゃあ!」と激しい言葉を浴びせ続けた。そして、エネ庁幹部の言葉を遮るように、「はい、次」「はい、ダメ」と連発され、その“ダメ出し”の回数は13回にも及んだ、生々しい状況が音声データで公開されている。

自民党の「異端児」と呼ばれる河野氏の看板施策の一つに「原発ゼロ」がある。河野氏は東京電力福島第一原発の事故後に超党派の議員連盟「原発ゼロの会」を立ち上げた張本人でもある。

しかし、総裁選をめぐる各候補者との討論会やテレビのインタビューではこの「原発ゼロ」を封印。「耐用年数の切れた原発は順次フェードアウトする。中長期的には原発は減っていく」と発言をトーンダウンするなど、いつもの切れ味はない。「総裁選での地方の党員投票や自民党内の原発維持・推進派を刺激したくないとの判断がある」(自民党中堅幹部)からだ。

再生可能エネルギーの比率をめぐって「パワハラ」ともいえる発言が出たのは、自らの政治信条の一つである「原発ゼロ」に向けて、その道筋を明確にしたいという思いがにじんだからだろう。

伊方原発
写真=iStock.com/paprikaworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paprikaworks

■「防衛大臣から離れてもらってほっとしている」との声も

このやり取りは9月2日の官房長官の記者会見でも取り上げられた。加藤勝信官房長官は記者からの質問に対し、「政府内の非公開のオンライン会議の議論が外部に漏洩した。関係省庁で事実確認し、必要に応じて適切に対応する」として、幕引きを図ったが、官僚たちの河野氏に対する「怨念」は収まらない。

「人の話を聞かない」「独断専行」「根回しをしない」。防衛大臣だった河野氏のことをこう並べ立てて指摘するのは同省の幹部だ。

防衛相だった河野氏は、迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」について安全性に問題があるとして、いきなり配備を断念した。自民党内ではその「独断」ぶりに批判が噴出した。

また、防衛省の施設で使う電力も将来的には「再生可能エネルギー比率100%を目指す」と会見でいきなり発言、防衛省の事務方は度肝を抜かれた。

天候などで電力供給がストップしかねない再生エネに自衛隊が依存するようになれば、それこそ、有事の時に危機的な状況に陥りかねない。「防衛大臣から離れてもらってほっとしている」(防衛省幹部)との声も漏れる。

富士山と日本のソーラーパネル
写真=iStock.com/paprikaworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paprikaworks

■あまり公にされていなかった河野氏の「影」の部分

河野氏のこういう態度に辟易しているのは官僚だけではない。河野氏はSNSを駆使し、ツイッターでは234万人以上のフォロワーを抱えるが、意見の合わない相手は容赦なくブロックしてしまう。会見でこの点を問われると「ブロックするのは問題ない」「通りすがりの人を罵倒するようなことが起きている」と反論、意に介する様子もない。

総裁選で争うとは言え、身内である岸田文雄氏も「怒鳴ってばかりではチーム力を発揮できない」、高市早苗氏も「(河野氏は)反原発、原発ゼロでしたっけ。たまたま河野先生の地元を車で通りすぎたとき、そのポスターがいっぱい貼ってあり、その印象がある」「声が大きくて、とても元気な方だ」と、総裁選前まであまり公にされていなかった河野氏の「影」の部分をやんわり指摘する。

新聞各紙の世論調査で次期総裁にふさわしい人物として河野氏がトップに上がる。また、衆院選を直前に控える中で、選挙基盤が脆弱な若手議員からの支持も高い。しかし、新型コロナウイルスの問題や、緊迫度を増す北朝鮮情勢、さらには、河野氏の関心の高いエネルギー政策など、課題は山積している。そこで政治を支える官僚からの支持を取り付けられなければ、政策の実効性は乏しくなる恐れがある。

■再エネだけでは製造業が日本に居続けるのは難しい

特にエネルギー政策を巡っては、経済界から「仮に河野氏が総裁選に勝ち、首相になったら、原発ゼロの話を前面に押し出してくる」「(河野氏支持を表明した)同じ意見を持つ小泉進次郎氏を閣僚に招いて原発ゼロを押し進める」といった声が多く聞かれる。その筆頭が、日本自動車工業会の豊田章男会長の「今のカーボンニュートラルの議論はコストの問題が欠落している」との批判だ。

再生エネを河野氏の主張する「36~38%以上」とした場合に、送配電網の整備や電気を貯める蓄電池などの設備に兆円単位の費用がかかる。日本自動車工業会の幹部は「その費用はだれが負担するのか。結局、電力を利用する一般国民や企業が負担することになる。そうなれば、製造業は日本では物を作れない、海外に出ていかざるを得ない。こうした議論をせずにおいて、『環境にやさしいグリーンな社会の実現』といったところで、産業界はだれも支持しない」と話す。

また、経団連の幹部も「原発維持=大手電力の既得権益維持、とすぐ曲解されるが、そんな単純な話ではない。資源のない日本は不安的な再エネだけでは安定的な電力供給はできない。現実的な観点から議論を深める必要がある」と河野氏に注文を付ける。

■決選投票になれば、国会議員票で有利な岸田氏が有力か

コロナで打撃を受ける観光や運輸業界からも河野氏を警戒する声が聞かれる。野田聖子氏が難しいとされた20人の推薦人を確保し、総裁選に立候補した。その陰には二階幹事長の助力があったとみられている。

二階氏は菅氏と並んで、観光や運輸業界に強い影響力を持つ。河野氏は一回目の投票で支持率の高い「党員票」の獲得で岸田氏や高市氏に一気に差をつけ逃げ切るシナリオを描いていたが、野田氏が4人目の候補として参戦することで、その党員票が割れ、決選投票にもつれ込む公算が高まっている。

野田氏への二階派の推薦人は8人と飛びぬけている。二階派は河野氏への推薦人も出しているが、その数は2人。総裁選間際になって河野氏の勢いをそぎ、決選投票になれば、国会議員票で有利な岸田氏に軍配があがる可能性が高い。

二階氏とつながりが強い観光・運輸業界は「独断専行」で物事を進める河野氏への警戒感は強い。特にリニア東海道新幹線では大井川水系への影響から静岡県が県内でも工事中止を求めて、現在、建設がストップしているが、「環境派」を自認する河野氏が首相になった場合、「リニアが吹っ飛ぶ可能性もある」(鉄道業界関係者)との声もある。

■総裁選に勝ったとしても、菅氏と同じ命運をたどる恐れ

その一方で、観光業界をはじめ、経済界にこの総裁選期間中に足しげく通う岸田氏には期待を寄せている。岸田氏は公約として「Go To トラベル」を進化させた「Go To 2.0」を掲げたが、こうした発言も観光・運輸業界に支持を広げる理由となっている。

安倍・菅氏と長く続いた「官邸主導」の政治のなかで、政治を支える官僚機構は人事を抑えられ、「官邸に都合の悪いデータや情報をあげると、クビを切られる危険もある」と、霞が関の官僚は息をひそめてきた。政策の妥当性を議論する場はなくなり、根拠のない政治家の「空手形」に似たむなしい言葉だけが躍った。その象徴が退陣に追い込まれた菅首相だ。

耳当たりのいい言葉しか言わない仲間内の側近を重用する一方で、国のためにと、身を賭して政策を進言する官僚や国民の言葉には耳を傾けない。人事で縛っていた「脅し」だけで成り立っていたもろい組織は、そのトップがその権力を失うとみるや、求心力を失い、一気に人心が離れていった。

「恫喝」で官僚たちを締め上げ、市井の声に耳を傾けない河野氏は菅氏の轍を踏むことはないのか。地盤のもろい自民党の若い議員や無党派層を取り込んでトップに立っても、政策を立案し実行する官僚や行政が背を向けば、また河野氏も菅氏と同じ命運をたどることになる。

(プレジデントオンライン編集部)

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