「これぞ腐ったリンゴの大逆襲」なぜ河野、石破、小泉の3氏は古い自民党から毛嫌いされるのか
プレジデントオンライン / 2021年9月25日 15時15分
■森喜朗元首相は、20年前の怒りを忘れていない
「看板を人気のある者にしたい。選挙が危ないから人気のある総裁を選んでその下で選挙をやる。(そういう発想は)大きな間違いだ」
18日、森田健作・前千葉県知事のラジオ番組に出演した森喜朗・元首相は、こう言い放った。名指しこそしていないが、知名度の高い河野氏を総裁選で勝たせて衆院選で有利に戦おうという議員がいる自民党の空気を戒めたもの。河野氏の総裁就任は「許さない」という意思表示でもある。
森氏は政界を引退して10年近くになるが、今も政界では党内に影響力を持つ。森氏自身は高市早苗・前総務相を推しているとされ、子飼いの議員たちも高市氏支持が多い。
森氏の「河野嫌い」は筋金入りだ。森氏は、派閥全盛の昭和の自民党で一歩ずつ力をつけて、2000年に首相にまで上りつめた。しかし、そういう森氏を、河野氏は「古い自民党の象徴」と批判してきた。
■「腐ったリンゴ」「ずさんな計画」と言われ放題
森氏が首相として挑んだ2000年の衆院選で自民党が議席を大幅に減らした時、河野氏は「自民党的なものが負けたのだ」などと森氏の責任論を追及。2009年、政権から転落した時には森氏ら長老たちを「腐ったリンゴ」とまで言い切り、退場を迫ったことがある。
2015年、東京五輪のメイン会場である新国立競技場の総工費がどんどんふくれあがった時も、河野氏は党無駄撲滅PTの座長として「ずさんな計画」などと問題視、結局計画は白紙からやりなおすことになった。当時の五輪組織委員会の会長は森氏。河野氏らの動きを、スタンドプレーとして苦々しく見ていた。
森氏も黙ってはいたわけではない。2009年、野党自民党の総裁選で河野氏が名乗りを上げた時は、同じく若手議員の西村康稔氏を擁立。これは「若手票を分散させて、河野氏を惨敗させる」ための手だったと言われる。今回の総裁選でも「河野だけは……」と思っていることだろう。
■4Aのそれぞれが昔の「恨み」を引きずっている
安倍晋三・前首相、麻生太郎・副総理兼財務相、甘利明・党税調会長の「3A」に、青木幹雄・元党参院議員会長を加えた「4A」が、それぞれの思いから今回の総裁選で「河野落とし」に動いているという話は、「『河野太郎首相だけは絶対に阻止すべし』自民党の実力者4Aが密約を交わした残念すぎる理由」で詳しく書いた。
嫌いな理由はさまざまだが、2010年、自身が引退して息子に後継を譲った際に「仮病」扱いされた青木氏が、今もそのことを忘れていないように、それぞれが昔の「恨み」を引きずっていることが特徴だ。
そもそも河野氏は、森氏ら長老にかみついてメディアで取り上げられて知名度を上げてきた政治家だったのだ。
■小石河連合は「裏切り者」と思われている
今回、河野氏は石破茂元幹事長、小泉進次郎環境相、石破茂元幹事長と「小石河連合」を組んだ。その「小石」の2人も、長老たちから河野氏と似た受け止めをされているのは興味深い。
石破氏に対する「怒り度」では、麻生氏が最右翼だろう。麻生政権末期の2009年夏、農水相として麻生内閣の一員だった石破氏は、今の状態で衆院選になだれ込むと自民党は惨敗するという危機感から「一度身をお引きください」と進言した。麻生氏が「一番つらいときに『辞めろ』とは何だ」と激怒したというのは有名な話だ。
結果として同年の衆院選では自民党は惨敗。政権から転落する。石破氏の言う通りになったのだが、麻生氏としては「言うことを聞いておけばよかった」とは、ならない。今でも石破氏は「裏切り者」なのだ。
安倍氏も石破氏には苦い思いがある。07年、首相として迎えた参院選で民主党に敗北。石破氏は安倍が「自分か、小沢一郎民主党代表(当時)か」と政権選択の選挙を国民に呼びかけて負けた点を指摘。さらに「党則では、国会議員と都道府県連代表の過半数が賛成すれば、総裁選が行われる」と、安倍総裁をリコールする可能性にまで言及した。
安倍氏と石破氏と言えば、安倍氏が2012年に首相復帰した後の不仲が有名だが、第1次政権からの遺恨もあるのだ。
■小泉進次郎環境相は「将来の首相候補」から外された
安倍氏は小泉進次郎環境相に対しては、つい先日まで将来の首相候補として英才教育してきた。しかし、今回の総裁選で評価を180度転換させた。
小泉氏は、総裁選で河野氏側についただけにとどまらず、「派閥の行動は自主投票と言われているが、水面下では、一人ひとりにものすごく強烈な働き掛け、引きはがしがある」と派閥の引き締めを批判。安倍氏は自分への批判と受け止めている。安倍氏は周囲に「(小泉氏の父)純一郎さんが首相になれたのは、清和会(現・細田派)が全力で支えたからなの……」と漏らしている。
安倍氏の言い分は分かるが、父親を世話した話をいまさら持ち出されても、息子は困るだろう。
■「仲間がピンチの時は必ず守る」という浪花節的な風潮
河野氏を中心に、石破、小泉の「小石河連合」が長老たちに嫌われるに至ったエピソードを紹介してきた。列記すると、一連のエピソードは共通点があることに気づく。
森氏や青木氏が河野氏を怒っているのも、麻生氏や安倍氏が石破氏を許さないのも、すべて「自分がピンチの時に後から砂を掛けられた」という記憶から来ている。河野氏らの言動の多くは正論ではあった。しかし、仲間がピンチの時は正論は時として度外視してでも守る、というのが自民党の美しき文化だと長老たちは考えているのだろう。
そして、中堅、若手の中にも河野氏に違和感を持つ議員が少なくなく、河野氏が1回目の投票で過半数を取るのは難しい情勢になっていることを考えると、こういった文化は、長老だけでなく、自民党全体に根強く残っているともいえる。
河野氏らは、今回の総裁選で、過去の言動のツケを払う形になった。ただし、「小石河連合」が古い自民党体質を本気で乗り越えようとしているのなら、義理と人情が最優先される浪花節的な風潮こそ乗り越えなければいけないものともいえる。
(永田町コンフィデンシャル)
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