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「お笑い芸人が行政処分を受けた悪徳業者を激推し」YouTubeに怪しい広告が蔓延する根本原因

プレジデントオンライン / 2021年9月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/v777999

いまや著名人はYouTubeで多額の広告料を稼げるようになった。しかしその中には悪質な広告がまぎれている。違法広告の実態に詳しいデトリタスの土橋一夫社長は「業界の構造として、違法性の高い広告が野放しになっている。視聴者を守るために、ユーチューバー側にも悪質な広告案件を排除する責任があるはずだ」という――。(第3回)

■YouTubeには「違法の疑いがある広告」が多い

総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、10代から60代の日本人のYouTube利用率は、2020年時点で85.2%となっている。いまや多くの日本人にとって、YouTubeは日常生活に溶け込んでいる。

一方で、YouTubeには、問題のある広告が大量に流されている。毛髪や体形などを強調したコンプレックス刺激型広告、怪しい投資の広告、副業に関する情報商材の広告……。そこには虚偽広告によって行政処分を受けた事業者の広告も含まれる。

YouTubeは基本的に無料で使えるサービスだ。当然ながら、広告が表示されるのは仕方がない。しかし、あまりにも大量に流れる不快な広告にへきえきとしている人は多いだろう。

筆者は、独自にYouTubeの広告を記録している。YouTubeの「不快な広告」は、不快であるにとどまらず、「違法の疑いがある広告」であることも多い。

コンプレックス刺激型広告のほとんどは、美容や健康に関する商品の広告だ。それらの広告は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称「薬機法」)」という法律で、表現に細かな規制が定められている。

再生回数が数百万回に達しているようなYouTube広告にも、違法性の高い表現がたくさん見つかる。よくある表現は「他社誹謗」「権威表示」「体験談表示」などだ。

■業務停止命令の出た会社をお笑い芸人が宣伝している

YouTube上の広告は、「インストリーム広告」と「企業案件広告」に大別される。前者は動画内に自動的に差し込まれるもの。後者はユーチューバーが広告主から依頼を受け、自身の動画コンテンツとして作成するものだ。

この「企業案件広告」にも、問題企業の広告がはびこっている。登録者数が100万人を超えるようなYouTubeチャンネルでも、そのような企業の広告に協力している。

たとえば、あるお笑い芸人のYouTubeチャンネルでは、化粧品や健康食品を販売する「Libeiro(リベイロ)」の商品について広告動画を作成し、複数回にわたって公開している。ところが、このリベイロには、2021年3月1日に消費者庁から注意喚起が出ている。虚偽・誇大な広告を行っている、と認定されたためだ。

さらに2021年7月8日には、東京都から3カ月間の業務停止命令を受けている。

東京都ウェブサイトのスクリーンショット
出所=東京都報道発表資料
リベイロへの業務停止命令(スクリーンショット) 赤線は筆者加筆 - 出所=東京都報道発表資料

リベイロについては、消費者から行政へ相談が殺到していた。平成28年からの累計で、実に1498件もの相談が寄せられている。この状況も受けて、東京都はリベイロへ業務停止命令の行政処分を出したのだろう。

【図表1】リベイロについて消費者から東京都への相談件数
(出所=東京くらしweb)

消費者から東京都への相談の内容は、解約条件に関するものが多かったようだ。前述の東京都のページ内に、消費者から寄せられた主な相談内容が載っている。「解約方法を容易に認識できるように記述していない」との記述があった。

【図表2】リベイロについて消費者から東京都への具体的相談 抜粋
赤線は筆者加筆(出所=東京くらしweb)

京都消費者契約ネットワークも、リベイロに対して差止請求書を出している。この差止請求書によれば、リベイロは「1箱だけを500円で購入可能」であるように表現しながら、実際には「7箱を2万9900円で購入しなければならない契約」を結んでいたようだ。このような売り方では、行政に相談が殺到するのも当然だ。

【図表3】特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワークからリベイロへの差止請求書 抜粋
赤線は筆者加筆(提供=特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク)

このお笑い芸人は、行政から業務停止命令を受けるような「筋の悪い事業者」の商品を広告したことになる。また、業務停止命令期間中も動画を非公開にせず、いま現在も動画を公開し続けている。

■問題のある事業者がユーチューバーに群がるワケ

さきほど例に挙げたお笑い芸人は、問題のある事業者の広告に協力した。では、この人物はとんでもない悪人なのだろうか。筆者はそうではないと考えている。

個人のユーチューバーは、取引先相手の信用度を調べる知識が無いことが多い。規模の大きい会社であれば、取引先の信用度を定期的に調べる。具体的には、外部の調査会社のリポートを購入する。代表的な調査会社としては、帝国データバンクや東京商工リサーチ、リスクモンスターなどが挙げられる。

ただ、そのようなリポートが販売されていることを知っている人は、多くはないだろう。会社の中で働き、総務部や経営企画室などの部署の仕事に触れないと、そのような知識を得る機会はほとんどない。こうした事情を前提としたうえで、筆者はさきほどの例も含めた「企業案件広告」を扱うユーチューバーには同情する。

しかし一方で、この状況を利用し、問題のある事業者は知識が乏しいユーチューバーに群がっている。きちんと信用度を調査する広告事業者には相手にされないような事業者でも、ユーチューバーは広告を請け負ってしまう可能性が高いからだ。

そのような事業者の広告を請け負ってしまう原因は、事業者の信頼性を判断する知識がなく、またその知識不足を埋める仕組みがないことにある。これは、ユーチューバーの人格に起因する問題ではない。業界構造としての問題だ。

■ユーチューバーが勧める商品を買うべきではない

登録者数100万人を超える有名ユーチューバーでも、問題のある事業者のカモとなってしまっている。消費者はどう備えればいいのか。筆者としては、ユーチューバーが勧める商品は一切買わないことを勧める。

ユーチューバーが宣伝する商品はすべて悪いものだ、と主張したいわけではない。しかし前述のとおり、問題のある事業者はユーチューバーに群がる。なので、大手ECサイトやドラッグストアなどで購入する商品と比べて、ユーチューバーが紹介している商品は問題のある商品である可能性が高い。

事業者側も、問題のある事業をしているからといって、悪い顔で近づいてくるわけではない。善人の顔をして近づくのだろう。だから、ユーチューバーが善人であったとしても、知識がなければ、問題のある事業者を見抜くことは難しい。

消費者が自分の身を守るためには、ユーチューバーが勧めている商品を買うべきではない。信頼しているユーチューバーであってもだ。

■大きな利益に比例した社会的責任が求められる

筆者は前述のとおり、ユーチューバー自身が企業の信用度を判断できないことは無理もないことだ、と考えている。とはいえ、彼らに責任がないわけではない。大きな金額を稼ぐ有名ユーチューバーは、金額に比例した社会的責任が求められるだろう。

ユーチューバー事務所や広告代理店などが公開している資料を見ると、企業案件で稼げる金額は、チャンネル登録者数の1.5倍程度が相場のようだ。チャンネル登録者数が100万人であれば、ひとつの企業案件動画で約150万円を稼げる、ということだ。

また、著名ユーチューバーが自らの企業案件収入を公表することもある。筆者の知る範囲内では、チャンネル登録者数80万人で1動画150万円、チャンネル登録者数160万人で1動画500万円、といった事例がある。

多額の広告料を稼いでいるのであれば、広告を依頼してきた企業の信用度を調べることは可能であるはずだ。ユーチューバー自身に知識がなくても、コストを負担すれば問題の有無を有識者に確認できる。違法行為をしている事業者の広告塔にならないため、必要なチェックをすることは難しくない。業界構造に問題があるとはいえ、大きな金額を稼ぐ彼らには、そうした責任がともなうだろう。

そうした負担を回避し、漫然と動画をアップし続けるユーチューバーは、自身の利益を優先し、社会にコストを押し付けている、と言える。

著名ユーチューバーが健全な業者と取引し、視聴者への被害を防ぐことを期待する。

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土橋 一夫(どばし・かずお)
デトリタス社長
1977年生まれ。埼玉県出身。東北大学大学院理学研究科物理学専攻卒。日鉄ソリューションズ、NEXCOシステムズなどを経てデトリタスを設立。インターネット広告業界の不正対策事業を行っている。薬事法管理者・コスメ薬事法管理者、ソフトウェア開発技術者。NHKクローズアップ現代プラス「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」など、テレビや新聞の取材に応じて違法広告のデータ提供を行っている。

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(デトリタス社長 土橋 一夫)

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