「お風呂にカビ生えてきたなあ」家事に対する主体性ゼロの夫に繰り出す"最後の切り札"
プレジデントオンライン / 2021年10月2日 9時15分
■悲鳴を上げる「共働き夫婦」
緊急事態宣言で保育施設や学校が臨時休園や保育提供の縮小・休校となった2020年3月上旬、私たち「ベアーズ」は、東京23区内に在住する100組のご夫婦に無償の家事代行サービスの提供を決めました。
自社のホームページ上で希望者を募ったところ、わずか4時間半で枠が埋まってしまいました。その後も家事代行の問い合わせは日に日に増え、同年10月には問い合わせ件数が前年比120%増に……。
コロナ禍(か)のテレワークに伴う家事、育児の負担が大幅に増え、日本中の家庭で悲鳴が上がっていることを実感する出来事でした。
男女ともに生涯働き続けることが社会の標準的な姿に変わったいまも、家事・育児の実態は、かつて専業主婦が一身に背負った時代のまま。その矛盾がコロナ禍で一気に噴き出たのだと、私は考えています。
■夫婦の関係悪化度が2倍に…
リクルートワークス研究所の調査で、夫婦ともテレワークをしている場合、夫の1日の家事・育児時間は3.1時間。対して妻は6.3時間と、妻が夫の約2倍であることが明らかになりました。
働く母親たちは1日24時間のうち、通常の勤務時間である8時間に加え、家事・育児が6時間。最低でも1日に合計14時間という超長時間労働をしている実態がわかったのです。
この事実が、夫婦関係に大きく影響を及ぼしています。
内閣府が2021年6月に公開したコロナ禍における生活の変化の調査(第3回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査)によると、家事育児において「夫の役割が増加した」群では「夫婦の関係がやや悪くなった」「夫婦の関係が悪くなった」という回答が合わせて10.4%だったのに対し、「妻の役割が増加した」群では18.9%でした。
夫の家事・育児のかかわりの少なさが、直接的に夫婦関係に亀裂を深めていく様子が見て取れます。
■夫婦が亀裂を深めた「2つの理由」
夫婦関係に亀裂を生むほど「妻の役割が増加した」のはなぜなのでしょうか。理由は2つあります。
【理由1】「担当外は意識外」である夫たち
1つは夫の「無自覚な主体性のなさ」です。
生活の中で何か気づくことがあっても、自らは動かず、妻にそれとなく伝えるだけという夫がたくさんいます。「歯磨き粉がもうなくなりそうだよ」「最近、タオルから生乾きのニオイがするよね」「お風呂にカビ生えてきたなあ」……妻になにげなく告げ、終了。
妻は「それって、私にやれってこと?」「気がついたなら自分でやってよ!」とモヤモヤ、イライラを募らせますが、夫は気づきません。というのも、妻を責めたいわけでも、やってほしいわけでもなく、「自分は担当外」と思っているからなのです。
共働き夫婦の場合、家庭内で家事の分担を決めているケースは多いのですが、「決められたことしかしない」「言われたことしかやらない」と不満を募らせる妻が大勢います。その原因も、夫の「担当外は意識外」にあります。夫たちは、いわゆる「目に見えない家事」「名もなき家事」に意識が向かないことが多いのです。
【理由2】「私がやらなくてはいけない」で自滅する妻たち
夫婦の亀裂が深まるもう1つの理由は、妻たちの「私がやらなくてはいけない」という思い込みです。
昭和の亭主関白とは異なり、いまの子育て世代の夫で、妻に家事や育児を高圧的に強いるタイプは希少でしょう。
ところが妻たちは、「やれ」とは言われなくても、仕事で疲れていても、「手を抜かずにすべてをやらなくてはいけない」という思い込みに追い立てられています。やがて限界に達し、「私だけがこんなにやっているのに……!」と、不満を爆発させて夫を責める事態に。
夫は、何もないところから突然パンチが飛んできたかのような理不尽さを感じ、妻の言葉をネガティブにしか受け取れず、夫婦関係が悪化していく……という構図が透けて見えます。
■「夫婦会議」をしよう
夫としても、妻に対し「もっと家事・育児で苦労をしろ」と言いたいわけではありません。互いにつらい思いをしながら家事や育児をしているのでは、家庭は幸せとはいえません。共働き夫婦に本当に必要なのは、夫婦がともに家事の負担を軽減することです。
事実、先の内閣府の調査では、「夫の役割が増加した」群で「夫婦の関係がよくなった」「ややよくなった」との回答が約40%を占めています。疲弊する妻の負担を減らすと同時に、夫も納得のうえで役割を増やすことができた家庭では、むしろ、コロナ禍で夫婦関係がよくなっているのです。
そのために私が常々ご夫婦におすすめしているのが、理想とする家事と育児についての「夫婦会議」です。
■決定的な亀裂を避ける“切り札”
夫婦間でフラットな話し合いを申し出ることは、夫婦がともに持っている権利です。
家庭の維持に無理を感じたときには、自分が選んだパートナーを信じて、「夫婦会議をしたい」と申し入れ、自分が理想とする暮らし方、リズム、スタイルを伝え、その実現のために必要なリソースはなにか、どんな方法があるかをお互いに提案し合いたい、と伝えてください。
「今さらそんな話をしてもしょうがないよ」「たかが家事で、おおげさだ」などと、パートナーが夫婦会議に応じないことがあるかもしれません。とくに大きな不満もなく、家事が意識外にあるパートナーは話し合いを面倒に感じるし、提案する側も、自分がわがままを言っているような気持ちになることもあるかもしれません。
切り札は「パートナー解消も考慮に入れている」という言葉を静かに伝えること。ただ、これは“脅し”ではありません。あくまで「真摯(しんし)に話したい」という本気度を感じ取ってもらうために必要となるケースがある、ということです。
私は相談者に対し、「話に応じる気がないパートナーについては、実際に関係性を終わらせることも視野に入れたほうがよい」と、いつもお伝えしています。
夫婦会議は、あくまで家族が幸せになるための話し合いであり、お互いが理想とする暮らしや未来像のすり合わせです。そのための一歩を踏み出すことさえ拒否される場合は、“最後の切り札”を出すしかありません。
■危機を乗り越えたある夫婦のケース
30代のAさんご夫婦は、「夫婦会議をすることで、互いが抱えている思いに気づかされた」と言います。
フルタイムの正社員として働く妻は、家事や育児をワンオペでこなす日々に疲れ切っていました。でも、仕事が忙しく、いつも深夜に帰宅する会社員の夫を頼ることができずにいました。「自分ががんばらなくては」とギリギリの状態でいたそうです。
夫も、妻が疲弊し、イライラを募らせていることは感じていました。徐々に家庭の空気も悪くなり、「家事代行サービスを使ったらどうだろう」と考えるようになったそうです。しかし、実際に言い出すことができません。「妻の家事にダメ出しをするみたいで、言えなかったんです」と当時を振り返ります。
お互いのことを思いながら、気持ちを言葉にして伝えなかったためにすれ違う2人。この状態が続いていたら、いつか関係は破綻(はたん)していたでしょう。
しかし、私がアドバイスしたことをきっかけに夫婦会議を持ち、お互いに初めて本当の気持ちを打ち明けました。妻は「夫にこれ以上無理をさせたくない」、夫は「妻のがんばりを否定したくない」。お互いを想い合いながら、うまくかみ合わなかっただけであったことを知りました。
互いの気持ちを確かめた2人は、やがて家事代行サービスを利用したり、両親の協力を得るなどして、妻の家事負担を減らすことを試みました。それから1年。今では、かつてのすれ違いが嘘のように、良い関係を取り戻して幸せに暮らしています。
■「私は~したい」と自分を主語にして伝えること
日本人は言葉にしなくても察してほしい、感じ取ってほしいと考えがちです。でも今、夫婦の関係性がうまくいっていない場合には、それではどんどん悪い方向へ進むばかりです。
解決のためには、一定の覚悟と真剣さをもって夫婦で話し合いをすることが必要不可欠です。
ただし、愚痴や叱責は厳禁。前へ進むための話し合いが、ただのケンカになってしまいます。「あなたは~」と相手を主語にして話し、責めるような雰囲気になることを避け、「私は~したい」と、自分を主語にして理想や希望を伝えるのがコツです。
あくまで「会議」であり、現状を解決するためのアイデア出しをするのです。感情をぶつけ合う場ではないことは、最初にお互いにしっかり確認しておきましょう。
夫婦会議を有意義なものにするためのポイントは、次の5つです。
■①「家事はチームプロジェクト」とマインドセットする
夫婦会議を感情のぶつけ合いにしないために、まずは「夫婦はチーム」というマインドセットから始めましょう。
「自分がやらなくては」とか「言っても無駄だから」という考えを捨て、自分が選んだパートナーを信じて、頼りになるチームメイトとして相手を見つめ直してみてください。
共働きなら、チーム内で業務分担することは、仕事上当たり前にしていることです。一度「夫婦はチーム」「家事はチームプロジェクト」とマインドセットしてしまえば難しくはないはずです。互いを「助け合うチームメイト」だと認識し直すことで、課題をどう解決すれば一番効率的なのか、建設的に話し合うことができるでしょう。
日々の仕事では、問題が起きたときにも感情をぶつけ合うことなく、課題解決のため、それぞれが持つリソースを提供して協力し合っているはずです。そのスキルをぜひ、夫婦間でも生かしてください。
時に互いの両親やヘルパーさんなどもチームメイトに加えて、一人で負担や不満を抱え込まないようにしてください。チームプロジェクトは、あくまで「チーム」という複数人で取り組むことが大切です。
■②家事を「見える化」する
次に「すべての家事」を洗い出します。
「名もなき家事」は、数えきれないほど存在しています。「気づかない」「やらない」「感謝しない」といった「3ない」を引き起こし、夫の「担当外は意識外」の元凶になっていますから、家事の総量を「見える化」するのです。
日々発生するルーティンのような家事、季節ごとの衣替えや網戸掃除など、頻度の低いものまですべて書き出します。子どもがいるご家庭なら、学校からの手紙のチェック、PTA関連の仕事、学用品の調達、各種のワクチン接種のスケジュール管理といったタスクも洗い出します。
どれだけの量をだれがどのくらい負担してきたのか、夫婦で認識を共有します。
■③担当する家事を決める
「見える化」した家事内容を、夫・妻がそれぞれ得意な分野に振り分けて担当を決めます。
その際に、このタスクをどこまでやればOKなのか「ゴール基準」も確認しておくと、のちのちトラブルを予防できます。たとえば「洗面台の掃除はしたけれど、排水溝のゴミがそのまま」といった問題への対処です。
ただし、ゴール基準は甘めにして、担当を決めたら「任せ切る」ほうがうまくいく場合が多いといえます。
■④「やらない家事」を決めれば負担は激減する
夫婦双方の負担軽減に効果的なのが、「やらない家事」を決めることです。
よく相談を受けるのが、「頑張ればできるのにしないなんて、サボっているように感じてしまう」という妻たちの罪悪感についてです。私はいつも「家事を軽減させるのは、妻のためだけではないのですよ」とお伝えしています。
世界一の女性労働力を誇るノルウェーでは、男性の育休制度をはじめ、家庭・育児をサポートする社会の仕組みが充実しています。家事代行や調理済みの料理を家庭に配達する「ミールデリバリー」など、家事をアウトソーシングする習慣が当たり前に根づいています。
そんなノルウェーのデータを見ると、家庭の家事の負担を軽減することと、幸福度の高まりは明らかに連動しています。ですから、家事負担の軽減は、妻だけでなく、夫や子どもたちも含めた家庭全体の幸せの底上げにつながっている、と考えてほしいのです。
試しに、月曜日から金曜日までの夕食をデリバリーやテイクアウトで楽しんでみてください。余裕があったら、お気に入りの食器に盛り付け直してもいいでしょう。
仕事後の夕食作りは、後片づけまで含めると思いのほか重労働ですから、軽減できると驚くほど余裕が生まれ、家庭の雰囲気もゆるみます。ぜひ試してみてください。
また、苦手な家事、時間の融通が利かない家事については、自分たちがやる以外の方法を模索してみてください。各種サービスを利用するほか、いまは便利な生活家電がたくさんあるので、それらに頼るのもありでしょう。
夫婦それぞれに「ゆずりたくないポイント」もあるでしょう。やらなくてもよいこと、やりたいことのすり合わせは丁寧に進めましょう。とはいえ、「人生で最も忙しい時期だけのアウトソーシング」「限定期間の手抜き」と、互いにある程度“割り切る”ことも大切です。
■⑤楽しむ工夫をプラスする
家事は面倒でやりたくないもの——このイメージが、夫婦関係悪化の最たる原因だと私は感じています。夫婦間で「面倒の押し付け合い」の構造を生まないために、ぜひ家事を楽しむ工夫を取り入れてください。
「好きな音楽をかけて歌いながら料理をするのが楽しみ」「オーディオブックで好きな小説を聴きながら掃除をしていると、無心で作業に没頭できる」という方がいます。また「夫婦2人でキッチンに立って、おしゃべりしながら料理をするのが楽しみ」というご夫婦もいました。
おいしいスイーツを用意して、「掃除が終わったら食べよう!」と夫婦や親子で掃除&ごほうびをゲーム感覚で楽しむのもよいでしょう。
■夫婦関係をよりよく変えるチャンスに
家事は、日々の生活において重要なイシューです。突然訪れたコロナ禍で、家庭内での家事のあり方がフォーカスされるようになりましたが、見方を変えれば、これはよい変化をたらすチャンスでもあります。
仕事・家事・育児に悩める日本の夫婦が少しでも楽になるようにとの思いから、今回『暮らしが本当にラクになる! ベアーズ式家事事典』を上梓しました。
家事が楽になったり、上手にできるようになるためのさまざまな知恵と工夫を網羅していますので、「夫婦会議」の一助に活用いただき、笑顔溢れる夫婦関係を築いていただきたいと切に願っています。
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株式会社ベアーズ取締役副社長、家事研究家
家事代行サービス「ベアーズ」取締役副社長を務めるかたわら、家事のスペシャリストとしてテレビや新聞、雑誌などで幅広く活躍中。2015年には世界初の家事大学を設立し、学長に就任。2016年に大ヒットしたTBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、日テレ系ドラマ「極主夫道」では家事監修を行う。
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(株式会社ベアーズ取締役副社長、家事研究家 高橋 ゆき)
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