「アマゾンで買える日も近い」アメリカでなし崩しに広がる合法大麻ビジネスのすごい勢い
プレジデントオンライン / 2021年9月29日 11時15分
■コロナ禍でも急成長する「アメリカの大麻産業」
新型コロナウイルスの世界最大の感染国となった米国ではロックダウンや外出制限などで多くの産業が深刻な打撃を受けている。そんななか、飛躍的な成長を続ける産業がある。かつては非合法薬物として禁止されていた大麻である。
拙著『世界大麻経済戦争』(集英社新書)でも紹介したように、大麻はいま、「有害性(危険性)よりも有用性の方が大きい」と広く認識されて世界中で解禁が進んでいる。病気の治療などに使用する医療用大麻は47カ国で、一般成人が娯楽目的で使用する嗜好用大麻は2カ国で合法化されている。
米国内でも2021年9月現在、36州で医療用が18州で嗜好用が合法化され、大麻関連ビジネスが活況を呈している。その勢いから「グリーンラッシュ」と呼ばれるほどだ。
米国ではコロナ禍で大麻産業は必要不可欠な「エッセンシャルな業種」と見なされた。これは大麻が人々の生活の中に深く入り込んでいることを示す象徴的な出来事となった。
本稿では、若い女性にも大人気となっている大麻成分入りのクッキーやブラウニーなどを生産・販売する「食用大麻」会社の成功の秘訣を明らかにしながら、コロナ禍の逆風下でも過去最高の売上を更新し続ける米国の「合法大麻」ビジネスの実態をレポートし、大麻市場の将来の可能性についても探ってみたい。
■2020年の合法大麻の売上高は過去最高の175億ドルに
米誌『フォーブス』は2021年5月3日号で、「医療用と嗜好用の大麻解禁が進むなか、米国人はかつてないほど多くの大麻を消費している。2020年の米国全体の合法大麻の売上高は前年から46%増加し、175億ドルに達した」と報じた。
これを日本円に換算すると約1兆9250億円となり、日本たばこ産業の2018年度の売上高、2兆2400億円にほぼ匹敵する。合法大麻産業が飛躍的な成長を遂げている要因としては、主に3つあげられる。
1つは新型コロナウイルスの最初の感染拡大が始まった2020年3月、カリフォルニアなど嗜好用大麻を合法化した州の多くで、大麻が食料品や医薬品などと同じように生活に必要な「エッセンシャル」として認められ、生産・販売などの業務が許可されたことである。
米国では厳しい外出制限により、小売店やレストラン、映画館などの多くが営業停止に追い込まれた。そんななか、大麻販売店は店頭での販売に加えて電話やインターネットで注文を受け、顧客宅へ配達するデリバリーサービスを行い、売上を伸ばした。
また、この時期は家でリモートワークをする人が増えてストレスや家庭内暴力などの問題が深刻化した。その結果、大麻の持つ「人をリラックスさせる効果」が売上増加につながったのではないかとの指摘もある。実際にニューヨークのバッファロー大学の研究調査では、「大麻を使用したカップルの間では暴力の報告件数が少なかった」という。
■合法化地域では成人の約4割が大麻を使用している
2つ目の要因は、嗜好用大麻の合法化が進むなかで一般成人の大麻ユーザーが増え、それにつれて消費量も増えていることである。
フォーブスの記事によれば、2020年末時点で嗜好用大麻を合法化した州に住む成人のうち、大麻を使用している人の割合は前年の38%から43%に増えたという。
ちなみに米国全体でお酒を飲む人の割合を示すアルコールの市場浸透率は約60%だが、大麻はそれに迫る勢いとなっている。
3つ目の要因は、大麻の摂取方法において新しいトレンドが現れてきていることだ。
つまり、これまで主流だった大麻草の葉や花を乾燥させた乾燥大麻を吸引する方法に加え、大麻成分を注入して作るクッキーやブラウニーなどの「食用大麻」(エディブルとも呼ばれる)を好む顧客が増え、それが合法大麻全体の売上高を押し上げているのだ。
■若い女性に大人気の大麻成分入りスイーツ
大麻成分入りのスイーツを生産・販売して大成功している食用大麻会社を紹介しよう。
医療用と嗜好用の大麻が全面解禁されているカリフォルニア州サンディエゴにある「カネー(Kaneh Co.)」は、有名レストランでパティシエを務めていた30代の女性(レイチェル・キングさん)と、豊富な大麻ビジネスの経験を持つベテラン経営者によって2015年に設立された。
キングさんはペストリーやスイーツの料理作品で数々の称賛を受け、食品専門誌の「最優秀パティシエ賞」にもノミネートされた。また2人の子供の母親である。そんな彼女が食用大麻会社を共同創業し、大成功しているという話題は、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアで取り上げられた。
筆者も2021年8月12日に放送されたABCテレビのニュース報道番組「ナイトライン」を観て、キングさんの存在を知った。
この番組で彼女は会社のビジネスと自身の役割についてこう語った。
「大麻を使った菓子作りはまったく経験がありませんでしたが、仕事のパートナーが豊富な知識を持っていてビジネスとしてどう成立させるのか、大麻をどう扱うかといった面で助けてくれました。
私はパティシエとしての知識を提供しました。そして大麻入りのバタークッキー、ピスタチオ・チョコキャンディ、トリュフル・チョコブラウニーは大人気になりました」
■大麻成分を1mgまで正確に計測
これらのスイーツは会社のホームページの「製品メニュー」に紹介されているが、他にもグアバとタマリンドのフルーツゼリーは特に若い女性の間で人気になっているという。
食用大麻ビジネスで重要なのは、個々の製品に大麻成分がどのくらい含まれているのかを正確に表示することだ。
大麻には100種類以上の薬効成分(カンナビノイド)が含まれているが、そのなかで最も重要な作用を持つとされるのは、精神活性作用のある「THC(テトラヒドロカンナビノール)」と鎮痛・抗炎症・抗不安など医療作用のある「CBD(カンナビジオール)」である。
カネーの製品メニューにも、チョコクッキーやブラウニーには10mgのTHCが、グアバとタマリンドのゼリーにはTHCとCBDが5mgずつ含まれていると表示されている。
製品の大麻成分量は公的検査機関によって厳しく検査されるため、同社では検査専門の従業員が1mgまで測定可能な機器を使って計測しているという。
■吸引する乾燥大麻より食用大麻が好まれる理由
一般的に食用大麻は乾燥大麻よりも少し割高になっている。
たとえば、カネーの人気製品のチョコチップクッキーは1枚9ドル(約990円)で売られているが、これは平均的な乾燥大麻約1gの値段に相当する。1gあれば通常、紙巻タバコ(ジョイント)を数本作れるので(つまり、数回楽しめる)、コストパフォーマンス的には乾燥大麻のほうがいい。
にもかかわらず、なぜ食用大麻の人気が高まっているのだろうか。
1つはコロナ禍の影響もある。つまり、ウイルス、あるいはそれに似た不衛生なものを極度に恐れる「ジャモフォビア(細菌恐怖症)」の傾向が強まり、仲間とジョイントを回して吸うというかつての「大麻文化」に象徴される方法を避け、安全にかつ控えめに(目立たないように)摂取できる食用大麻を好む人が増えているのではないかということだ。
また、食用大麻のTHCやCBDの含有量が詳細に表示されていることも消費者の安心につながっている。
一方で、食用大麻は胃や腸で消化されて吸収されるため、吸引する乾燥大麻より効き目は遅い。その分、効果は持続するので、ゆっくりと楽しみたい消費者には人気がある
■創業6年で従業員を10倍に拡大
食用大麻の売上高が米国の合法大麻全体に占める割合は数年前に5~6%だったが、2020年には10%を超えた。これは大麻スイーツなど若い女性でも接種しやすい製品が、新規顧客を開拓しているとみられる。
キングさんはABCテレビの番組でほぼ同年代に見える女性記者に「食用大麻の新しいお客さんはどういう人たちですか?」と問われ、「あなたや私のような人、若いママだったり、おじいちゃんやおばあちゃんだったりします」と答えた。
カネーはカリフォルニア州で嗜好用大麻が合法化された2018年1月以降、売上が急増し始め、業務を大幅に拡大した。従業員も2015年創業時の5人から50人に増やし、近いうちに隣のアリゾナ州へ進出するという。
彼女は「まもなくですし、ワクワクします。最終的にはすべての州に進出したいですね」と話す。
■アマゾンが連邦レベルでの大麻合法化を支持
このように米国の合法大麻市場は州レベルで急成長しているが、連邦レベル(連邦法)ではまだ合法化されていない。しかし、大麻に対して寛容な姿勢を示すバイデン政権が誕生したことで、連邦合法化に向けた動きが一気に進んでいる。
2020年12月4日、議会下院が大麻を禁止した連邦法を改正し、大麻の生産・流通・所持などに対する刑事罰を廃止する「マリファナ機会・再投資・抹消法(MORE法)」の法案を可決した。
これには過去の大麻犯罪記録の抹消、大麻の取締りで打撃を受けた地域社会への再投資、合法的に生産・販売される大麻製品への課税などの条項が含まれるが、大麻を連邦法で合法化する法案が下院で可決されたのは米国史上初めてである。
下院での可決を受けて、上院民主党は7月14日、MORE法とほぼ同じ内容の法案(CAOA)の討議草案を提案したが、両党の議席が50対50と勢力が拮抗している上院での審議は難航している。
そんななか、合法化の賛成派に「強力な援軍」が現れた。
GAFAの一角でインターネット通販最大手のアマゾンが、「MORE法を積極的に支持する」と表明したのである(政治ニュースサイト“ポリティコ”、2021年7月20日より)。
アマゾンは大麻に比較的ゆるやかなスタンスを取っており、従業員や応募者の大麻使用の有無を調べる薬物検査も実施していない。
大麻の連邦合法化を求める活動をしている団体「マリファナ規制法の改正を求める全米組織(NORML)」などはアマゾンの支持表明を大いに歓迎し、同社が上院での法案可決のためのロビー活動をしてくれることを期待していると述べた。
■2026年までに現在の2倍以上の市場に
するとアマゾンは9月21日、自社サイトで、法案可決に向けて議会へのロビー活動を開始したことを明らかにした。豊富な資金力と多大な影響力を駆使した同社のワシントンでのロビー活動には定評があり、これは法案賛成派にとって大きな助けになるだろう。
多くの米国人に身近な存在のアマゾンがそうしたことで、大麻に対する否定的なイメージが改善される可能性がある。将来的には、アマゾンが大麻スイーツなどを販売することも十分に考えられる。
大麻産業の市場調査や分析を行っている「BDSA」は、米国の大麻の年間売上高は2026年までに410億ドル(約4兆5100億円)に達すると予測している。2020年の売上高の約2.3倍である。
上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務らは現在、連邦合法化に否定的な共和党議員との話し合いや説得を積極的に行っている。この法案が上院で可決されれば、大麻に寛容なバイデン大統領によって署名される可能性は高い。
そうなれば、米国の合法大麻市場はこれまで以上の水準で成長を続けるだろう。
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国際ジャーナリスト
1954年生まれ。埼玉県出身。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。人種差別、銃社会、麻薬など米国深部に潜むテーマを抉り出す一方、政治・社会問題などを比較文化的に分析し、解決策を探る。著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)、『大統領を裁く国 アメリカ』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)、『大麻解禁の真実』(宝島社)、『医療マリファナの奇跡』(亜紀書房)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)などがある。
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(国際ジャーナリスト 矢部 武)
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