「孤独死が発見されるまで平均17日」で注目"間髪を入れずに焼かれる"葬送を受け入れられるか
プレジデントオンライン / 2021年9月28日 12時15分
■火葬を先にし、葬儀・告別式は後回しにする「骨葬」が増えている
新型コロナ新規感染者は全国的に減る傾向にあるが、葬式が満足に執り行えない状況は依然続いている。そんななか、広がりをみせているのが「骨葬」と呼ばれる葬送だ。
骨葬とは、まず遺体を火葬して焼骨にした上で葬式をすること。一般的な葬式と異なるのは「お見送り」と「火葬」の順番が逆転していることで、それを忌み嫌う地域もある。だが、コロナに感染して亡くなった方や、孤独死の増加などを背景にして骨葬のメリットが再評価されつつある。
とくに多死社会においては合理的な葬送法であり、今後、さらに広がりをみせる可能性がある。
タレントの志村けんさんが2020年3月29日、新型コロナウイルスに罹患して亡くなったのは衝撃的だった(享年70)。志村さんの遺体は病院から火葬場へと直行し、遺骨となって東京都東村山市の実家に戻った。その時、志村さんの兄は報道陣の前で、「本当は盛大に送ってあげたかったのに、こんなことになって悔しい」と語った。その後、近親者だけで葬式が実施された。
翌4月に亡くなった女優の岡江久美子さんも同様で、遺骨になって自宅に戻った後、家族によって弔いが行われた(享年63)。コロナ死における葬式はいまでも骨葬が多い。
骨葬は一見、イレギュラーな弔いのように思える。仏式の葬式における、一般的な流れはこうだ。
医師から死亡宣告を受けた後、遺体安置場所に僧侶がやってきて枕経を唱える。その後、納棺を済ませて通夜を実施し、その翌日に葬儀・告別式を行う。告別式の後に出棺となり、火葬場で遺骨となって自宅へと戻る。
つまり、火葬は一連の儀式が済んだ最終段階という位置づけだ。だから、順序が逆になることで、タブーを犯したと感じる人もいるのだ。遺族にとっては遺骨になって初めて、「葬式の終了」が告げられ、けじめがつけられるということだろう。
こうした日本人の火葬にたいする強いこだわりを知ったのが2011年3月11日の東日本大震災であった。大震災ではおよそ2万人もの方が亡くなった。
被災地の火葬場は地震による停電と、大量の遺体が搬送されてきたことで限界に達した。そのため、2000体近くの遺体が関東や北海道の火葬場で荼毘に付された。最西では岐阜県の火葬場にまで運ばれたケースもあった。
最も多くの犠牲者を出した宮城県では遺体の他県への運搬も滞り、一部がサッカー場や寺の敷地などに仮埋葬されることになった。
だが、地元の人々にとっては、あくまでも仮埋葬(一部の身元不明遺体はそのまま「土葬」されたようだ)としての位置づけであった。地域の火葬場が機能を取り戻すと、2011年のうちに遺体を掘り起こして、火葬した。
土中から掘り出された棺桶は土の重みで崩れ、遺体が泥にまみれ腐敗もかなり進んでいたが、しかし、被災地の遺族はそれでも早期の火葬にこだわったのだ。仮埋葬された後に掘り起こして火葬された遺体は、宮城県内だけで2000体を超える。日本人の「火葬をもって葬式の終結とする」意識を強く感じた次第である。
■この10年で2倍に増えた東京23区内の孤独死も骨葬増加の要因
しかし、近年、状況が変わってきている。先述のコロナ感染死のケースだけではなく、多くの人々が骨葬にせざるを得ない状況が生まれつつあるからだ。
特に孤独死による骨葬の増加が増えている。
例えば東京23区で孤独死と考えられる数は、2018(平成30)年で3882人。この10年で倍近くにまで増えている。
一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員会が2020(令和2)年に実施した調査では、孤独死の発見平均日数は17日だ。こうした孤独死体は普通の葬式はできず、骨葬になる。
内閣府が実施した「孤独死を身近な問題と感じるものの割合」調査(2018年)では、60代以上の一人暮らし世帯で50%を超える割合が「とても感じる」「まあ感じる」と答えている。大都市圏では葬送の簡素化もあいまって、今後、葬儀社が「骨葬プラン」として広く提供しだすことも十分、考えられる。
骨葬のメリットは確かに、ある。ひとつは、火葬場の予約が比較的取りやすくなることである。
首都圏では多死社会を背景にした火葬場の混雑が社会問題化している。その原因は多くの葬式が午前中に実施されるため、お昼前後に火葬が集中するからである。横浜市などでは死者が増える冬場、お昼前後の火葬を希望すれば1週間待ちもざらだ。
それが朝一番や夕刻の時間帯であれば、比較的、火葬炉が開いていることが多い。このタイミングで先に遺骨にしておけば、遺体の腐敗を心配することなく、ゆっくり葬式の準備ができる。仮にコロナ感染症蔓延で緊急事態宣言が発令されていた場合でも、宣言が明けてから親族知人を呼んで、葬式を実施するということが可能になる。
また、遺体安置施設利用やドライアイス、エンバーミング(遺体に消毒殺菌・防腐・修復・化粧などをする)などにかかるコストも減る。
さらに、東京の病院で亡くなって、故郷の菩提寺で葬式を挙げたいという場合や、海外で亡くなって日本で葬式をしたい場合などでも遺骨の移動は簡単だ。棺桶の長距離移送となれば、莫大なコストがかかる。
葬式の場所も自由度が増す。自宅での葬式はもちろん、ホテルやレストラン、あるいは野外でも可能になる。高級シティホテルでは生身の遺体での葬式はNGだが、骨壺に入った状態であれば葬式(お別れの会)をしてもかまわないとする葬送のプランもすでにある。つまり、遺骨にしておけば、必ずしも葬儀会館で葬式をする必要がなくなるのだ。
■骨葬がスタンダードな葬式として取って代わる可能性もある
とはいえ、遺族心情の問題が残る。先述のように「死亡後数日をかけて最後のお別れをしたい」という遺族は、骨葬に抵抗をもつかもしれない。
しかし、骨葬は必ずしも「タブーの葬送」ではないことを知ってもらいたい。北海道の函館や東北沿岸部、信州や北関東、九州の一部などでは明治中期から骨葬が実施され、それが当たり前の葬式になっている。
それは、職業が影響をしていることが多い。沿岸部などの漁師町では、漁のシーズンになれば船団を組織して海に出る。そこに突発的に葬式が発生すると船が出せなくなり、村の経済を揺るがす事態になってしまう。
また、古くから養蚕が盛んであった長野県松本市などでは、養蚕(ようさん)業は衰退したものの骨葬の風習は今でもしっかりと残っている。これも、蚕(かいこ)の世話を終えてから、ゆっくりと葬式支度をするための合理的な考えに基づくものである。同様に、全国の農村で骨葬が残る地域は少なくない。
さらに、かつて企業で実施されていた社葬は骨葬が基本。大勢の従業員やステークホルダーが参列できるよい時期をみて、大勢で送るのが社葬である。
多死社会や核家族化による孤独死問題、さらにコロナ禍が追い打ちをかける形で従前の葬式が大きく変わる局面にある。骨葬への「慣れ」が広がれば、むしろそれがスタンダードな葬式として取って代わることも十分考えられる。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)。浄土宗正覚寺住職、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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