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「自分の親よりYouTuberのほうが頼りになる」性被害に遭った子どもたちの本音

プレジデントオンライン / 2021年10月1日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

いじめや性被害などに遭った子どもたちが著名YouTuberに悩みを打ち明けるケースが相次いでいる。なぜ身近な大人よりも、ネット上の著名人を頼るのだろうか。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「今は大人も匿名性の高いネット上で相談する時代だ。セーフティーネットの一つといってもいいのではないか」という――。

■TikTokの「#悩み相談」動画は1.6億回再生

今年1月に発覚した元YouTuberワタナベマホト氏の児童ポルノ事件で、被害に遭った15歳の女子高生ファンが相談した先は、別のYouTuberコレコレ氏だった。コレコレ氏は視聴者からの相談を生配信で解決する姿が人気となっている。

コレコレ氏いわく、相談者は10~20代が中心。ネットを通じた性被害や詐欺、いじめなどの相談が多く寄せられるという。

他のSNSでも、若者を中心に悩み相談をしている例はとても多い。TikTokでは「#悩み相談」は1億6450万回再生、「#お悩み相談」は5730万回再生、「#悩み相談室」は2590万回再生の人気ぶり。Instagramでも相談アカウントがあり、メッセージや動画で悩みに回答するものをよくみかける。

たとえばTikTokの動画では「悪口を言われてしまうのはなぜか」という質問に対して、ひろゆき氏が「幸せだから陰口を言われている。陰口は自分より上の人に言うもの。陰口は言われる方が幸せ」などと回答している。このようにポジティブになれる回答、考え方や見方が変えられる回答などが人気のようだ。

■小学生から80代まで癒やされるYouTubeチャンネル

ネット上の相手を相談先に選ぶのは、若者だけではない。ある50代女性は「ネット上の人生相談を聞くのが好き」という。「みんな悩んでいるんだなと思うし、どんな悩みも受け入れて答えてくれている姿を見ると気持ちが落ち着く。受け入れてもらえているというか。心が洗われるし、学びもとても多い」

この女性がいつも聞いているのが、チャンネル登録者数39万人のYouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」だ。大愚和尚のもとには、小学生から80代までさまざまな人生相談が寄せられる。コメント欄をみると、多くの視聴者が和尚の説法を癒やしや学びにしていることがうかがえる。

新鮮な緑の中で禅を行う仏教僧
写真=iStock.com/SAND555
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SAND555

このうち158万回再生の人気の相談動画「悪口や嫌がらせに対する正しい心構え」では、39歳女性の悩みを紹介している。「40代女性から職場で聞こえるように悪口を言われたり、バイキン扱いされたりなどの嫌がらせを受けているが、どうすればいいか」という相談だ。

■「悪口を言われても相手の幸せを願う」

それに対して、大愚和尚は「慈悲の瞑想」を説く。自分を嫌っている人であっても、その人の幸せを願ったほうがいい。恨みに対して恨みをもって対処すると自分を傷つけ、悪口を言っても自分に返ってきてしまう。40代女性は幸せではないから悪口を言っているのであり、悪口を言われても相手の幸せを願うことで、周囲に味方が現れるはずだ――というものだ。

筆者も視聴したが、正しい心のあり方や生きる姿勢について考えさせられる内容で、人気があるのも納得できた。

■秘密のアカウントで本音をつぶやく子どもたち

ネット上で悩みを相談するのは、若い女性が多い。2019年にTOKYO FMの番組「Skyrocket Company」で「ネット上で悩み相談をしたことがありますか?」と聞いたところ、31.2%と3割以上が「はい」と回答。その結果を男女別で見てみると、「はい」と答えた人の割合は男性では22.3%、女性では43.8%と、女性は男性のほぼ2倍となった。また、世代別で「はい」と答えた人の割合を見てみると、若いほど相談率が高かった。

ネットで相談する理由を尋ねると、「ネットはいい意味で他人なのでしがらみがなく気楽」「仲が深い相手に相談しづらいことも、ネットだと気兼ねなく聞けるし、多様な意見が集まりやすい」「顔が見えないからこそ、顔色を気にせず本音が言える」などという。信頼できる知人に相談したい人もいる一方で、しがらみがない人に本音が言いたいと考える人たちもいるというわけだ。

リアルの友だちには悩みだけでなく本音も言いづらいという若者は多い。メインで使っているSNSのアカウント「本垢」では本音を投稿できず、秘密で使っている別のアカウント「裏垢」で投稿することが当たり前となっている。

LINEリサーチの高校生のSNS利用方法に関する調査(2020年11月)を見ると、Twitterのアカウントを複数持つ割合は、女子高生で6割、男子高生で4割強であり、全体では5割を超えた。若者の間では、複数アカウントを使い分けるのが一般的だ。

スマホを使う子どもたち
写真=iStock.com/smartboy10
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/smartboy10

■若者がネットの匿名性を重視するワケ

複数のアカウントを持つ理由は、「趣味によって分けたいから」「見るだけの専用アカウントが必要だから」「リアルでつながっている人に発言を見られたくないから」や、「鍵つき/非公開にしたいから」「本音や愚痴を言いたいから」もそれぞれ上位にランクインしており、匿名性を保ったまま閲覧や投稿をしたいという人が多い。

「クラスで自分の居場所を保つためには、キャラが大事」と、ある高校生に聞いたことがある。「ツッコミ役がいないからツッコミ役になろうと決めた。本当はネガティブな部分とか弱音とかも出したくなるけど、そんなことして居場所がなくなったら困るから」

さらに、「変なこと書くと、SNSで拡散されることもある。グループLINEとかにさらされたり、Twitterにさらされている子も見たことがある。変なことは書けない」とも言う。若者世代における悩みの相談相手で一番多いのは友達だが、今の子どもたちは居場所がなくなるリスクやSNSで拡散されるリスクを抱えているというわけだ。

■「もうSNSは使うな」ではトラブルは解決しない

ではなぜ、親や教員などの周囲の大人や、相談機関などに相談しないのだろうか。

相談機関に行かない理由を高校生に聞いたところ、「言ってもどうせネットのことがわからないから」と言う。同じように話す学生は複数いた。相談員はカウンセリング専門家だが、ネット文化や子どものネットの使い方がまったくわからないことも多い。

たとえば「見られたくない写真を拡散された」と相談しても、それがネット上で不特定多数に見られることとは思わず、口コミでウワサされていると勘違いするなどのことが起きてしまう。

「警察に相談しても、『アカウントを削除しろ、SNSを使わなければいい』というが、自分がアカウントを消しても書き込みは残ることがわかってもらえない。つらいことだと理解してもらえない」という。そして親に相談しない理由は、「言いづらい、怒られるから」だ。

子どもと大人の価値観は違う。大人がSNSトラブルを耳にすると、「SNSなんかやめればいい」と言うが、子どもにSNSは必須のものだ。SNSで仲間はずれにされたら居場所がなくなるほどの大事なものなのだ。周囲の大人は、禁止、わからないではなく、相談に乗る姿勢や理解しようとする姿勢が大切だ。

■面識のない人に相談する最大のメリット

では、子どもだけでなく大人もネット上の相手に相談する理由は何なのか。

たとえば大愚和尚に寄せられたさまざまな悩み相談を見ていて気がつくのは、誰にも言えずに一人で抱えてきた悩みを赤裸々に相談している人が多いということだ。立場やしがらみができたことで相談できる相手がいなくなったり、自分が年上や目上の立場となったりすることで、相談できる相手がいなくなっている面がありそうだ。

年齢が上がったからといって悩みがなくなるわけではなく、苦しみを抱えているからこそ、大愚和尚に聞いてもらうことが救いにつながっているのだろう。

大愚和尚自身、YouTubeで悩み相談を受けることについて、「面識のない僧侶がネットでやっている悩み相談なら、自分の名前を明かさずに相談できるし、直接お寺まで話に来る必要もない。遠方の方からの相談も受けることができる」と語っている。

素性を隠して本音を言えるのがネットのメリットの一つだ。これがセーフティーネットとして機能することもある。もし自分が人に言えない悩みを抱えていたら、ネットの特性を生かして悩みを解決していくことも必要なのかもしれない。同時に、周囲の若者たちが悩みを抱えて困っていたら、話を聞いたり、理解しようという姿勢を示したりすることで、心の支えとなるべきだ。

なお、冒頭で紹介したYouTuberのコレコレ氏は相談内容によって必要な相談機関などにつなげるとしているが、すべての相談が対象になるわけではない。適切な相談機関などの存在を知っている人が相談者に助言するような文化が芽生えれば、ネット上の悩み相談で救われる人がもっと増えるようにも思う。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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