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「第4のメガバンクを目指す」SBI北尾社長が新生銀行の買収で狙う"幻のプラン"

プレジデントオンライン / 2021年9月30日 10時15分

インタビューに答えるインターネット金融大手SBIホールディングスの北尾吉孝社長=2020年12月4日、東京都港区(写真=時事通信フォト)

■新生銀の「事実上の買収」に乗り出した

北尾吉孝社長が率いるSBIホールディングス(HD)が新生銀行に対してTOB(株式公開買い付け)に乗り出した。SBIは新生銀行株の20.32%を保有する主要株主だが、9月10日から当初の期限を延長して12月8日までTOB(株式公開買い付け)を実施し、約1100億円を投じて出資比率を48%まで引き上げたい意向だ。買い付け価格は新生銀株の9月9日終値の1440円を39%上回る1株2000円に設定されている。

SBIはTOBによって新生銀株を連結子会社化する意向だ。仮にTOBへの株主の応募が上限の48%に達しない場合でも、残る株式を市場から買い上げるか、追加のTOBが想定されている。さらにSBIは株式を買い増し完全子会社化した後、非上場化する可能性もある。事実上の買収だ。

ただし、50%超の株式を取得する場合、SBIHDが新生銀行の持株会社になるためには銀行法第52条など法令上の許可が必要で、金融庁の認可が前提となる。最後には大株主で新生銀行株の20%程度を有する国(預金保険機構)との交渉が残ることになる。

■北尾氏を激怒させた新生銀の対応

SBIは昨年夏に地方創生を効率的に具現化するための統括会社「地方創生パートナーズ」(東京・港区)を設立し、「第4のメガバンク」を標榜した地銀連合構想を進めている。第二地銀を中心にこれまでに8行に資本出資しており、「当面、10行程度まで広げる」(北尾氏)との意向を表明している。その地銀連合の中核会社的な役割を新生銀行に求めており、北尾氏は以前から「新生銀行を(地方)銀行の銀行にしたい」と周囲に語っていた。TOBはその戦略の延長線にある。

SBIは2019年4月から新生銀株を買い増し、同年夏にはSBIの北尾氏から新生銀の工藤英之社長に資本提携の提案を行っている。しかし、「新生銀内にSBIの連結子会社になることへの反発が強く、資本提携は実現しなかった」(金融庁関係者)。その後、両社は連携に関する協議を継続したが、SBIが求める資本や証券業務分野での提携に新生銀側は首を縦に振らなかった。そればかりか同行は今年3月にSBIとライバル関係にあるマネックス証券と包括提携を行い、SBIを激怒させた。北尾氏は工藤氏を「信義にもとる男だな」と不満をぶちまけたとされる。

■金融庁OBを次々と重要ポストに据えている

今年6月に開催された新生銀の株主総会で、SBIは工藤氏、アーネストM.比嘉氏、槇原純氏、村山利栄氏の4役員の再任決議に反対票を投じた。工藤氏ら役員は再任されたが、SBIは今回のTOBに際してもこの意向を変えておらず、TOB成立後、臨時株主総会の招集請求を行い、役員陣の全部または一部の交代を求める方針だ。「取締役メンバーの中には、ゴールドマン・サックス証券やマネックスグループなど、社外取締役の出身母体に特定の偏りがあるように見受けられる面もある」(SBI)とも指摘している。

そのSBIが新取締役会長候補に推薦しているのが元金融庁長官の五味廣文氏(プライスウォーターハウスクーパース総合研究所理事長)だ。メガバンク幹部によると、「SBIは第4のメガバンク構想と並行して金融庁の有力OBを次々とスカウトし、グループ企業の重要ポストに据えている。

16年に元審議官の乙部辰良氏(現SBIインシュアランスグループ会長兼社長)を招聘(しょうへい)したのを皮切りに、17年に元長官の五味廣文氏を社外取締役に招き、18年に元総括審議官の小野尚氏(現SBI生命保険社長)をスカウトした」という。SBIの北尾氏はその五味氏を新生銀の会長に就けるというのだ。

■五味氏はいったいどんな人物なのか

五味氏は1998年6月に財金分離されたばかりの金融監督庁(金融庁の前身)の検査部長となり、同年12月に日本長期信用銀行(新生銀行の前身)を一時国有化した当事者の一人だ。

その後、五味氏は金融庁検査局長、監督局長を経て2004年に第4代金融庁長官に昇りつめ、小泉、第一次安倍内閣下で足利銀行やりそな銀行の国有化を行い、消費者金融のグレーゾーン金利を是正するなど剛腕を発揮した。一方、戦後初のペイオフ案件となった日本振興銀行や石原慎太郎氏(当時・東京都知事)が提唱した「新銀行東京」の設立にもかかわった。

敵対的ともいえるSBIのTOBに対して、新生銀はSBIに対抗できるホワイトナイト(白馬の騎士)を招聘できるかが焦点になる。

新生銀行は9月16日に、TOBの経緯をめぐりSBIと見解の相違があると発表。SBIによる資本提携の提案や、新生銀行とマネックス証券の包括提携の経緯について、SBIの認識が不正確だと指摘した。SBIに対して詳細な質問状を送付するとともにTOB期限の延長と買収防衛策を講じることを示唆した。

これに対してSBIは当初、TOBの延長要請は「単なる時間稼ぎで、株主の利益を著しく損なう」と反発したが、その後、株主総会の早期開催に加え3条件を前提に、一定期間のTOB延長を認める構えに転じた。

■新生銀の防衛策はホワイトナイトの獲得だが…

SBIは株主総会の早期開催のほか、①重要性の低い質問はせず、いたずらに検討期間を延長させないこと、②新生銀の株主総会で買収防衛策の発動を審議する場合、TOBが株主の利益を損ねる恐れがあるとする具体的な根拠を示すこと、③総会でのSBIの議決権行使を認めなかったり、新生銀が他社への新たな株式取得を働き掛けたりしないこと――を条件として挙げている。

一方、新生銀行はTOB期限をできる限り延長させる間に、ホワイトナイトを見つけることが最大の眼目で、ソニーグループやセブン&アイ・ホールディングス、企業再生ファンドなどと水面下の交渉を行っている。しかし、本命視されるソニーグループやセブン&アイ・ホールディングスは回答を控えている。

「SBIが提示したTOB価格が高く、仮に敵対的TOB合戦となった場合、価格がつり上がる可能性があり、コスト高が避けられないほか、ホワイトナイトが成功しても、買収後の新生銀行の企業価値を早期に引き上げるのは容易なことではない。明確で実現性の高い成長戦略が描けなければホワイトナイトに手を上げるところがすんなりと見つかるとは思えない」(メガバンク幹部)とみられるためだ。

大きい成功を主張
写真=iStock.com/gradyreese
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gradyreese

■破格の安値で買収された悪夢がよみがえる

また、企業再生ファンドにホワイトナイトを要請した場合、かつて新生銀行の前身である日本長期信用銀行(長銀)が一時国有化後、米国の投資ファンド「リップルウッド」に買収された悪夢がよみがえる。「破格の安値で長銀を買収したリップルウッドは長銀の再上場と高配当で法外な利益を手に入れた」(メガバンク幹部)だけに、市場の評価は得られそうにない。そもそも企業再生ファンドは最終買収者への橋渡し役でしかない。いずれ出口戦略が待ち受けている。

また、SBIはTOB期間延長の条件として、「新生銀が他社への新たな株式取得を働き掛けたりしないこと」を挙げている。ホワイトナイトを捜すこと自体を牽制しているわけだ。これでは新生銀行が条件を受け入れることは難しいだろう。北尾氏は新生銀が買収防衛策を導入することに激怒したと周囲は語っている。

■なぜこれほどまでに新生銀がほしいのか

なぜ北尾氏はこれほどまでに新生銀がほしいのか。北尾氏は8地銀に出資する前から新生銀行を「第4のメガバンク」のプラットフォームとして手に入れる構想を持っていたと関係者は語る。そこには長く金融界に身を置き、銀行の再編をつぶさに見分してきた北尾氏の知見がある。

時計の針を長銀が一時国有化される直前の1990年代央に戻さなければならない。

バブル経済に踊った長銀は、系列ノンバンクや不動産業への貸し付けが不良債権化し、経営危機に瀕していた。日本興業銀行と並ぶ長信銀の雄として日本経済のメインフレーム企業に長期の資金を供給する長銀の経営危機は、日本の金融システムそのものを揺るがせかねなかった。

日本の札束
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■北尾氏は“幻のプラン”を実現させる狙いか

その打開策として構想されたのが、当時の日本輸出入銀行や日本開発銀行などの政府系金融機関との統合だった。だが、これは政府系金融機関の反対で頓挫した。次善の策として考案されたのが、金融債を通じ広範なネットワークを持つ地銀との連携であり、「地銀連合のセントラルバンクとして長銀を位置付けるものだった」(長銀OB)であった。

地銀にない高度な金融スキルとノウハウを持つ人材を有する長銀は、まさに地銀のセントラルバンクとしてうってつけの存在だった。旧大蔵省銀行局もこの案を推していた。

しかし、そこに米国の横やりが入り、国内の政治的な混乱もあり、長銀は一時国有化され、米投資ファンドへ売却された。こうした経緯を知る北尾氏は、まさに時計の針を1990年代央に戻そうとしているように見える。その帰結はまもなく出る。

金融庁が北尾氏の新生銀行買収にNOを突きつけず、長銀の一時国有化に関与した元金融庁長官が会長に就くことはその象徴と見ていい。SBIによる新生銀行へのTOBの背景には、北尾氏の深い歴史観がある。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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