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「企業が従業員を守るなんて」JALやANAの対応に欧米の人たちが感動するワケ【2021上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2021年10月3日 15時15分

離陸する日本航空(JAL)機(上)。右下は全日本空輸(ANA)機=2020年10月18日、東京・羽田空港 - 写真=時事通信フォト

2021年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。ビジネス部門の第5位は――。(初公開日:2021年2月22日)
海外で日本型経営の再評価が進みつつある。イギリス在住で著述家の谷本真由美氏は「新型コロナ危機の直後、欧米の航空会社は従業員を大量解雇した。一方、JAL、ANAは従業員を解雇しなかった。欧州では『情』がある対応だと話題になった」という——。

※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

■日本は「みなさんへのお願い」だけで絶望的な状態を免れた

外国人観光客の入国をそれほど制限もせず、厳しい都市封鎖を行わず、世界でもっとも高齢化が進んでいて重症化のリスクが高いのにもかかわらず、医療制度をギリギリで守ってきた日本の新型コロナ対策──。

世界有数の超高齢国家という、もっとも厳しい条件であった日本が、政府の「みなさんへのお願い」だけで絶望的な状態を免れたというのは本当に驚くべきことです。

イギリスではロックダウンして一カ月強が経った2020年5月はじめ頃から一気に死者が激増し、政府の場当たり的な対応に不満があちこちで噴出しはじめました。

高齢者や中年以上の人がよく見ている民放、ITVが毎朝放送しているニュース番組「Good Morning Britain」や、その後に放送されるワイドショーは、普段は芸能人のゴシップや料理の話題を放送することも多いのですが、この頃から政府の対策を強く非難する声が目立ちはじめました。

その一方で同時期に増えたのが、日本をはじめ韓国や台湾の新型コロナ対策を評価する番組です。

■Twitterに見る日本称賛の嵐

イギリスでは、民放のチャンネル4でリポーターを務めるキアラン・ジェンキンス氏が5月11日、自身のTwitterで日本とイギリスの死者数を比較したところ、6.3万件もの「いいね!」がつき、たちまち話題となりました。

@C4Ciaran
日本の人口 1億2600万人
コロナ死:624人
イギリスの人口 6600万人
コロナ死:3万1855人
これは、どんな見積もりだったとしても驚くべき結果だ(原文はThis is staggering by any estimation.)。

日本の人口はイギリスの2倍近いのに、死者はたったの624人です。イギリスの死者数は「公式」には3万人強で、しかもこの数字は、自宅や老人ホームでの死者数を含めていません。実際には、死者は6万人を超えるといわれており、そうなると、日本の100倍以上もの数字になります。

ジェンキンス氏の“by any estimation(どんな見積もりだったとしても)”には、「統計の方法の違いや、公式発表以外の死者数を加えたとしても」という意味が含まれています。実際、日本で行われた検査数はイギリスに比べて少なかったという事実はありますが、そうした点を考慮に入れても「日本の対策には一定の効果があり、どうやらうまくいっているようだ」と、大半の人が考えていたのです。

■イギリスの文化は自分、自分、自分ばかり

ちなみに、チャンネル4はイギリスでもっとも左翼色が強いテレビ局で、普段は社会的な多様性や左翼的な価値観の啓蒙に熱心です。日本については、女性差別や排外主義などを指摘することが多く、決して親日的ではありません。そのチャンネル4が日本を絶賛しているのです。私はジェンキンス氏のツイートに対して、同日こう返信しました。

@May_Roma
私は日本出身です。イギリスの人々の行動を見ていれば、この結果は納得です。誰もマスクをつけていないし手洗いもうがいもしない、土足で建物の中に入る、自己チューで個人主義、トイレや公共の場は衛生状態がひどく、(医療機関には)CTスキャンやMRIが少ない。政府の対応も遅い。

すると、イギリスだけでなく、諸外国の人たちからもさまざまな意見が寄せられ、ちょっとした議論の場になりました。大半の意見が日本の習慣や対策をほめていて、イギリス政府やイギリスの人々の行動を批判するものが目立ちました。寄せられた反応から、いくつか抜粋してみます。

・日本文化はお互いのためにふるまうことを大事にする。イギリスの文化は自分、自分、自分ばかり
・日本のほうがイギリスより人口密度がはるかに高いはず。ひどい結果だ。われわれは、人々のために働こうと思っていないリーダーにひどい目に遭わされているんだよ
・日本人はリーダーのいうことを聞くけれど、イギリスの人々は通りで祭りをやって、警官と乱闘するんだよ!
・日本人は常識に耳を傾ける、集団主義的な社会、コミュニティを守ろうという意識が強い。俺、俺、俺という自己チューで未成熟な社会じゃない
・たぶん日本の人たちは“STAY AT HOME”の意味をちゃんと理解している。(われわれの)政府だけを批判することはできない。出歩くほうがいいと思う人だらけなんだよ、ロンドンやパリは!

みなさん、驚きましたか?

これは決して左翼の人々が批判する「ネトウヨ本」や、日本を絶賛しまくる右翼系のテレビの話ではありません。イギリスや他の欧州各国、ナイジェリアやポーランドなどに住んでいて、実名でTwitterをやっている一般の人たちの書き込みです。

日本は世界でもっとも高齢者人口が多いということは、新型コロナ以前から世界的に知られています。イギリスでも、ニュースやドキュメンタリー番組が高齢化問題を取り上げるときには必ず日本が事例として取り上げられます。

それだけ高齢者が多いのにもかかわらず、今回の新型コロナの死者数は桁違いに少なく、かつてのように経済も上向きではないなかで、自粛による経済打撃もかなり小さく抑えている。イギリスや欧州では日本のそんなところに驚いている人たちが多いのです。

■JAL、ANAの対応に見る「情」

他の先進国と違って、日本では企業による大規模解雇も行われていません。イギリスやアメリカは外出禁止令が発令された前後に大規模な解雇を行った企業が多く、街は失業者だらけです。

十分な体力があるはずの大企業に勤務していた私の知人にも解雇になった人がいます。養うべき家族がいるなど、一切状況は考慮してもらえません。欧州やアメリカの大企業は日本と違い、実にドライで利益重視型です。

夕暮れ時のイギリスの高速道路
写真=iStock.com/yevtony
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yevtony

イギリスをはじめとする欧州やアメリカの航空会社は、新型コロナ危機の直後、従業員を数万人単位で解雇しました。パイロットや整備士もバッサリです。ひどい会社では、半数以上の従業員が解雇されました。

ところが日本の場合、2020年夏の時点ではJALもANAも従業員を解雇せず、ANAでは防護服を製造する仕事にクルーをあてがいました。この話題は欧州でも報道され、「なんと情があって、柔軟な対応なんだ!」と驚かれました。

いま、「従業員を守る」という日本式の経営が評価されています。日本に比べて転職のハードルが低く、雇用流動性がある欧州でも、やはり解雇はショックです。多くの人は住宅ローンやカードローンなどの借金だらけのなか、なんとか生活を切り盛りしていますし、貯蓄率も低いため、一旦解雇になったら生活が成り立ちません。イギリスだと失業手当は雀の涙で、中年以上だと次の仕事も簡単には見つかりません。

■欧州で報道された「国民一律10万円」のニュース

日本では、イギリス政府が打ち出した「雇用されている人に対して最大で月2500ポンド(1ポンド135円として約33万7500円)までの賃金を保障する」という対策が話題になりましたが、実際はその人が「雇用中」であり、「一時解雇になった」という証明がなければ保障してもらえません。それを知ったうえで一時解雇にした企業もたくさんあります。さらに、解雇は一時的であったとしても、その後ふたたび雇用されるという保証もありません。

また、自営業なら経費を除いた年収が5万ポンド(約675万円)を超えれば、まったく保障をしてもらえません。だから企業から解雇をされず、一定の基準を満たした自営業者やフリーランスにも保障が与えられる日本の温情措置をうらやましく思うイギリス人が多いのです。

赤ん坊から受刑者、認知症のお年寄り、さらに日本に住んでいる外国人にまで、資産や収入の審査もせず、一律で10万円を配った国は日本だけです。他の国は収入が減少したことの証明審査や納税実績など、さまざまな制限を設けています。

ちなみに「国民一律10万円」のニュースは欧州でも報道されており、イギリス人で大学教員をしている私の家人や、友人たちは毎日「10万円! 10万円! ミスターアベはナイスガイ! 私は日本に移住したい!」と言っています。

■アメリカでは病気やケガで破産する人も

アメリカやカナダは比較的寛容に給付金を配りましたが、その一方、日本ではありえないレベルの残酷かつドライな解雇もやっています。しかも、ウイルス検査は無料でも、治療は日本と違って有料なところも多い。

谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)
谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)

そもそもアメリカには高齢者などを除いて、日本のように公的な国民皆保険の制度がないため、医療保険を持っていない人が大勢います。会社勤めの場合は、会社が提供する民間の医療保険に入り、医療費は自己負担分を支払うことが多いのですが、そう簡単に全額払ってもらえるわけでもなく、毎回保険会社と交渉をしなければなりません。

しかも、自己負担の最低金額が数万円など、保険があっても医療費の負担は高額です。病気やケガによっては数百万円の治療費を請求され、破産する人もいるほどです。

さらに保険料も高く、自営業者の場合、家族4人で健康保険に加入すれば保険代が日本円にして毎月15万円を超えることもめずらしくありません。しかも解雇されたり無職だったりすると保険には入れません。総合的にみると、日本のほうがはるかに恵まれているのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)

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