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「ワクチン接種は平等に進めるべき」その考えではコロナを抑えることはできない

プレジデントオンライン / 2021年9月30日 9時15分

新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種を受けるイスラエルのベネット首相(左)の母親(中央)=2021年8月3日、イスラエル・ハイファ - 写真=AFP/時事通信フォト

■イスラエルでは3回接種で感染予防効果が11倍に

厚生労働省が新型コロナワクチンの3回目の追加接種の実施を決めた。2回の接種を終えても感染してしまう「ブレイクスルー感染」のリスクに対応するためだ。厚労省は希望するすべての国民に対する2回接種を10月~11月の早い時期に終えた後、年内に3回目の追加接種を医師や看護師ら医療従事者からスタートし、年明けには高齢者の接種を始めるという。

すでにイスラエル、フランス、ドイツが重症化しやすい人を対象に3回目の追加接種を開始している。アメリカも9月22日、FDA(米食品医薬品局)が2回目の接種から6カ月経過した65歳以上の高齢者などに対する3回目の追加接種を許可した。

イスラエルでは3回接種した人が2回接種の人に比べ、感染を防ぐ効果が11倍も高くなったとの調査結果が報告される一方で、データが少なく検証が不十分との指摘もある。

■アフリカ諸国は「ワクチンのアパルトヘイト」と訴える

3回目の追加接種を行うことによってその地域や国の感染の拡大を収束させることはできるが、パンデミック(地球規模の感染)を抑え込むのは不可能だ。

9月23日、ニューヨークの国連本部で行われた国連総会の一般討論演説で、アフリカ・ナミビアの大統領が新型コロナワクチンの先進国への偏りを批判してこう語った。

「3回目の追加接種の人がいる一方で、世界では大勢の人が1回目をずっと待っている。ワクチンのアパルトヘイト(人種隔離)だ。すべての人が安全にならない限り、だれも安全ではない」

ほかのアフリカ諸国の首脳たちも次々と「ワクチンアパルトヘイト」を批判した。1回目の接種を受けた人の割合は、ナミビアでわずか全人口の9.6%に過ぎず、アフリカ全体では6.3%しかいない。

これに対し、イスラエルでは70%近くが1回目の接種を終えている。日本でも50%以上が2回の接種を受け(9月13日の政府発表)、感染者数は8月下旬をピークに急減し、9月30日には全国で緊急事態宣言とまん延防止重点措置が解除された。先進国と途上国のワクチン格差は歴然としている。

大規模接種センター
写真=iStock.com/Yuki MIYAKE
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuki MIYAKE

この格差を減らすため、WHO(世界保健機関)が主導して2020年に発足させたのが、「COVAX(コバックス)」である。先進国が新型コロナワクチンを共同購入して途上国に分配する国際的な枠組みだ。しかし、現状は資金不足などから十分に機能していない。

■世界のできる限り多くの人がワクチンを打つ必要がある

菅義偉首相も9月25日、国連総会で「ワクチンの公平なアクセスの確保が極めて重要だ。これまで各国や地域に供給してきたワクチンを追加し、合わせて6000万回分を供給したい」とのビデオ演説を行った。経済的にも余裕のある日本や欧米諸国がアフリカなどの途上国にワクチンを提供するのは当然のことである。

WHOがパンデミックを宣言したのが、2020年3月11日だった。それ以降、新型コロナの感染拡大は世界中で起きている。このパンデミックを抑え込むには、世界のできる限り多くの人々が感染予防効果のあるワクチンを打つ必要がある。日本や欧米の先進国が追加接種によって感染の収束を目指すことは重要だが、世界のどこかの国で感染が続く限り、収束したはずの国でも感染が再発する。

問題は自分の国さえ助かればいいという考え方である。自国第一主義は感染症には通じない。COVAXなどを通じて途上国へのワクチン供給を進めることは、自分の国を感染から守ることにつながる。

■これは「二者択一」の問題ではない

これまでの不活化ワクチンとは大きく異なり、ウイルスそのものを使わないmRNAワクチンの製造スピードはかなり速く、その分、製造量は多い。さらに感染を予防したり、重症化を防いだりする効果も高い。

経済的に余裕のある日本や欧米の先進国が3回目の追加接種によって感染の収束を目指すことも欠かせない。高い免疫力を維持することができるからだ。時間の経過とともに接種効果が低下する以上、新型コロナのワクチンも今年だけの接種では不十分で、感染状況やワクチンの供給量を見ながら毎年接種することを検討する必要がある。

先進国は国内で感染の火が上るのを防ぐとともに外の火事も消火する必要がある。ワクチン援助を受ける途上国は、国内の配送システムや保管設備を整えるなど準備に力を注ぎたい。

もはや、ワクチンの「3回目の追加接種」か、「途上国への供給か」という二者択一の問題ではない。片方だけではパンデミックは決して抑制できない。

■「感染をどこまで社会が許容するか」と日経社説

全国紙のなかで唯一、ストレートに3回目の追加接種の問題を取り上げていたのが、9月16日付の日経新聞の社説である。その社説は「追加接種に向け万全の準備を」との見出しを付けてこう書き出す。

「政府は新型コロナウイルスワクチンの追加接種に向けた検討を始める。国内外の知見を吟味した上で必要になるとの前提で、準備に万全を期してもらいたい」

先進国の欧米が先に踏み切っている以上、国際的にも日本だけが実施しないわけにもいかない事情もある。だからこそ、万全の準備は怠ってはならない。

日経社説はこう指摘する。

「厚生労働省は17日、導入に向け専門家を交えた議論を始める。まず検討すべきは対象者をどうするかである」
「1回目、2回目に続く必須の3回目接種とするか、年齢や基礎疾患などで対象者を絞る追加的な接種にとどめるかの判断が要る」

「必須」か「対象の限定」か。これまでの厚労省の説明だと、まだその辺りが見えてこない。3回目の追加接種は年内に始まる。厚労省は走りながら検討するつもりなのか。

■感染に対する許容範囲を一律に定めることは難しい

日経社説は「追加接種の是非では米食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)の専門家らが13日、否定的見解を示した」とも指摘するが、WHOはともかく、最終的にFDAは3回目の追加接種を認めている。

さらに日経社説は「追加接種の判断は感染をどこまで社会が許容するかの議論にもつながるだろう」とも書く。

社会にはゼロリスクを求める人もいれば、軽症で済むならある程度の感染は仕方がないと考える人もいる。高齢者や基礎疾患のある健康弱者の存在を考慮する必要もある。感染に対する許容範囲を一律に定めることは難しい。それゆえ議論が求められるのだ。

最後に日経社説は「追加接種を急ぐあまり、2回接種を終えていない人たちが取り残されることがあってはならない」と主張する。厚労省や自治体は希望するすべての国民が2回の接種を終了していることをしっかり確認してほしい。

■「接種証明の実用化を急げ」と産経社説

9月15日付の産経新聞の社説(主張)はその書き出しから「新型コロナウイルスの流行が世界的に収束しない中で社会経済活動を再開するには、ワクチンの接種率を高めて、新たな生活様式を作っていくしかない」と訴え、こう指摘する。

「行動制限緩和の鍵となるのは、ワクチンの接種や、PCR検査で陰性だったことを示す『証明』の発行である」

見出しも「ワクチン完了5割 接種証明の実用化を急げ」だが、産経社説はどんな接種証明が適当だと考えるのか。

「国内でワクチンの2回接種を完了した人が50.9%と対象者の半数を超えた。これを好機と捉え、取得しやすく、携帯しやすい全国共通の証明の仕組みを、早急に整えるべきだ」

そうした証明の仕組みについて、具体的な議論は行われていない。そんな状況で接種証明を導入すれば混乱が予想される。接種証明ありきとするのは拙速ではないだろうか。

デジタルグリーンパス
写真=iStock.com/rarrarorro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rarrarorro

■半年から1年ほど経過すると、免疫力は落ちてしまう

産経社説はこうも訴える。

「健康上の理由でワクチンを打てない人もいる。証明がワクチン接種の強制や、打たない人への罰則につながることを避けるのは当然だ。一方で不平等の批判を恐れるあまり、特典を設けることに躊躇してもならない」

接種から半年から1年ほど経過すると、ワクチンで獲得できた免疫力は落ちることがわかっている。接種証明を接種からどのくらいの期間有効とするのか。3回目の追加接種をこの接種証明にどう組み入れるのか。ある程度は海外の例を参考にできるが、日本と欧米では習慣も考え方も生活様式も異なる。頼りになるデータも少ない。

接種証明に前向きな産経社説はこうした点をどう考えるのだろうか。その辺りまで突っ込んで主張する必要があるだろう。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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