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毎日朝礼をして「きょうも頑張ろう」と言い合う…振り込め詐欺の"仕事"をする少年たちの素顔

プレジデントオンライン / 2021年10月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motortion

10代で突然親がいなくなったら、子どもはどうやって生きていけばいいのか。17歳で親と仕事を失ったある少年は、振り込め詐欺のグループに入った。きっかけは「地元の先輩の紹介」だという。NHK報道番組ディレクターの大藪謙介さんと社会部記者の間野まりえさんが取材した――。

※本稿は、大藪謙介・間野まりえ『児童養護施設 施設長 殺害事件』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■「受け子」や「出し子」になる少年たち

家庭環境は常に一定ではなく、両親の離婚、引っ越し、病気、事故など、さまざまな理由で突然変化が訪れることもある。10代で、突然親が目の前からいなくなったとき、その先をどうやって生きていくのか。その重みについて考えさせられる取材もあった。

2018年、振り込め詐欺の「アポ電」(家に現金があるかどうかを確認するために身内を装ってかける電話)から強盗につながるケースが都内を中心に相次いで発生。これまでも、振り込め詐欺グループは少年などをうまく取り込み、「受け子」や「出し子」と呼ばれる現金の受け取り役、いわば最も逮捕されるリスクの高い末端のメンバーとして使っていることがわかっていたが、さらに、SNS上でも「闇バイト」などと称して詐欺や強盗の実行犯を募るようになっていた。私たちは取材班をつくって、これまで詐欺グループとは無縁だった人までとりこまれ始めている実態を調べていた。

実行犯を集める「リクルーター」や、詐欺グループの関係者を取材していたときに出会ったのが、かつて詐欺グループにいたという拓海さん(20代・仮名)だった。拓海さんは10代のころに詐欺や強盗などの容疑で逮捕され、2年間、少年院にいたという。現在は犯罪に関わっておらず、経験談なら話してもいいと待ち合わせ場所に現れた拓海さんは、同級生は大学生という年代にもかかわらず、その口調はあまりに落ち着いていて、達観しているようにも見えた。

■「まっとうに働くという選択肢はなかった」

「最初のころは罪悪感もありましたよ。お年寄りが必死に貯めたお金を根こそぎ持って行くわけですから。お年寄りの中には弁当を作ってくれる人までいるんですよね。そういうときはさすがに悪いなという気持ちになりました。でも僕らとしても生きるため、生活のためにやらざるをえなかった。やらなきゃ食べられなかったんです。どこも雇ってくれるところなんてなかったし、まっとうに働くという選択肢は僕にはなかった」

なぜ振り込め詐欺に加担したのかたずねると、生い立ちを語った。

拓海さんの母親はシングルマザーだったが、拓海さんが幼いころに違法薬物の売買で逮捕され、刑務所に服役することになった。ほかに頼れる親族のいなかった4歳の拓海さんは、児童養護施設に入所することになった。そして拓海さんが中学を卒業するころに、母親が出所。拓海さんは母親の記憶はほとんどなかったものの、施設よりも母親と暮らすことを選択した。母親の恋人も一緒だった。16歳のときに誰も知っている人がいない土地に移り住み、母親の恋人が社長を務める会社に就職した。

■17歳で母親と仕事を同時に失った

しかし、新しい生活が始まったわずか1年後、母親と恋人が再び逮捕されてしまう。17歳だった拓海さんは母親も仕事も同時に失うことになった。暮らしていた施設からは離れてしまって頼ることができない。生活のためにすぐにでも働かなければならないが、つてもない中卒の拓海さんを雇ってくれるところはそう簡単には見つからなかった。家賃すら払うことができないと途方に暮れていたときに、地元の先輩が手を差し伸べてくれた。「お金になる“仕事”がある」。紹介されたのは、詐欺の「受け子」として働くという“仕事”だった。

「とにかく生活のためにお金が必要だったので、抵抗はなかったですね。とりあえずスーツを着て“仕事”に行って、たまたまその日に成功して185万、一気にもらって。でもそれを一気に使ってしまって、なくなったらまたやって、という感じでした」

ネクタイを締めるビジネスマン
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■唯一手を差し伸べてくれたのが「地元の先輩」だった

拓海さんにとって、困っているときに唯一手を差し伸べてくれたのが、地元の先輩だった。払えなかった家賃を代わりに払ってくれて、電気・ガス・水道がとまってしまったときは先輩の家でカレーを食べさせてくれた。たびたび銭湯にも連れて行ってくれた。その存在は親以上で、信頼できる存在であり、詐欺に加担することは、拓海さんにとっては日々の生活のため、当たり前のことでしかなかった。しかし、徐々に金銭感覚が狂っていった。

お金やキャッシュカードを受け取る「受け子」の次は、だまし取ったキャッシュカードを使ってATMでお金を引き出す「出し子」を半年ほど務めた。出し子の“給料”は毎月60万円。そこでの実績が認められて、次は、「受け子」や「出し子」を集める「リクルーター」に昇進。このころには、詐欺だけでなく、銀行口座の売買の“仕事”も始めた。1枚2万円で仕入れて、10万円から12万円で販売。差額が利益となり、毎月30枚ほど取引をして数百万円の"売り上げ"があったという。当初は生活のために始めた“仕事”だったが、そのお金で豪遊するという楽しさを覚えると、抜け出せなくなっていった。

■「アルバイトでは食べていけない、生活するために始める」

詐欺グループには100人ほどのメンバーがいて、入れ替わりも激しかった。新たにメンバーが加わる際には、“採用面接”も実施していた。拓海さんも“面接官”を務めたことがある。面接で事情を聞くと、親が捕まっただけの自分はまだいい方だと感じることもあった。

大藪謙介・間野まりえ『児童養護施設 施設長 殺害事件』(中公新書ラクレ)
大藪謙介・間野まりえ『児童養護施設 施設長 殺害事件』(中公新書ラクレ)

「親がいなくなった子、そもそも家がない子、あとは、もめ事を起こしたら不良が出てきてお金を請求された子とかいろんなパターンがいましたね。普通に暮らしてる人からしたらわからないかもしれないけど、それができない子からしたら、ただ普通の生活を手に入れたいだけなんですよ。結局若いと雇ってくれるところがない。アルバイトだけでは食べていけない。生きるため、生活するために始めるんです」

拓海さんは最終的に詐欺グループの上層部である指示役へと昇進。20人くらいの少年の管理を任されるようになり、毎朝起床確認のための電話をしたり、“給料”の管理をしたり、時には飲みに連れ出したりして面倒を見ていた。逮捕されるリスクと常に背中合わせだったため、「自分の身柄をかけて“仕事”をしている」という緊張感を常に持ち、一生懸命働いていた。

■毎日朝礼をやって「きょうも頑張ろう」

「笑われるかもしれないけど、毎日朝礼とかやって、『きょうも頑張ろう』って言いながらみんな死ぬ気でやっていました。確かに悪いことかもしれないけど、『自分の家族を食わせたい』とか、『大切な人に美味しいものを食べさせたい』とか、ゴールは一緒なんですよね。まじめにやればいいっていうものでもないし、まじめって一体なんなんだろうっていうのが自分にとって疑問に思っていたことです」

拓海さんはその後、強盗事件にもかかわり、逮捕された。

一番困っていたとき、頼ることができる親や親族がいなかった。学歴もツテもなく、働く場所が見つからなかった。社会から見放され、生活が脅かされそうになったとき、唯一手を差し伸べてくれた人がいて、信頼関係を築くことができたとしたら。犯罪に手を染め、罪のない被害者の財産を奪い、苦しめたことは決して許されることではないが、生きるためにそれしか選択肢がなかったという、拓海さんをそこまで追い詰めた社会の側の責任も見過ごしてはならないと感じた。

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大藪 謙介(おおやぶ・けんすけ)
NHK報道番組ディレクター
1985年、京都府生まれ。2008年、NHK入局。名古屋放送局を経て、2013年から報道局政経・国際番組部で政治番組の取材・制作を担当。日曜討論、国会中継のほか、クローズアップ現代「“政治を変えたい”女性たちの闘い」、目撃!にっぽん「政治家 野中広務の遺言」、NHKスペシャル「永田町権力の興亡・最長政権その光と影」、「パンデミック激動の世界・問われるリーダーたちの決断」などの制作を担当。

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間野 まりえ(まの・まりえ)
NHK社会部記者
1988年、愛知県生まれ。2011年、NHK入局。京都放送局・甲府放送局を経て、2018年、報道局社会部へ。警視庁クラブや厚生労働省クラブで事件・社会福祉を取材。NHKスペシャル「#失踪 若者行方不明3万人 座間9人遺体事件」、クローズアップ現代+「徹底追跡! “アポ電強盗”本当の怖さ」、「幼保無償化 現場で何が」、「“新たな日常”取り残される女性たち」などの制作を担当。

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(NHK報道番組ディレクター 大藪 謙介、NHK社会部記者 間野 まりえ)

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