マンション下落、半導体不足…韓国経済を直撃する「中国・恒大ショック」の本当の怖さ
プレジデントオンライン / 2021年10月4日 11時15分
■中国への依存度が高い韓国にも悪影響が
足許、中国経済の減速が鮮明化している。国家統計局が発表した9月の製造業PMI(購買担当者景況感指数)は、景気の強弱の境目である50を下回った。中国経済減速の主な要因に新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念がある。それに加えて、中国恒大集団(エバーグランデ)の債務問題などの影響も大きい。当面、中国経済の減速はさらに加速する恐れがある。
足許の世界経済を見ると、感染再拡大によって主要国経済の回復ペースが弱まっている。その上に中国経済のさらなる減速が加わるインパクトは大きい。わが国をはじめ欧米諸国にもマイナスの影響が波及することは避けられない。中国への依存度の高い代表例の一つが韓国だ。
今後、中国経済の減速がさらに鮮明となれば、輸出を中心に韓国経済の回復ペースは弱まるだろう。輸出の減少は韓国のGDP成長率の低下要因だ。文在寅政権にとっても、重要な下押し材料になるはずだ。
■感染再拡大、アリババへの締め付け、エバーグランデ…
中国経済の減速懸念が、これまでに増して強まっている。
8月の住宅価格、小売り、工業生産、固定資産投資などの主要指標は前月から悪化した。春先以降の景気減速のトレンドが、ここにきて一段と鮮明化した格好だ。その要因の一つとして、新型コロナウイルスの感染再拡大のインパクトは大きい。感染再拡大によって中国では経済活動に欠かせない動線が絞られた。その結果、8月の飲食店売り上げは前年同月の実績を下回った。感染再拡大によって、港湾施設や鉄道などの物流も停滞している。
感染再拡大に加えて、中国共産党政権がアリババなどIT先端企業への締め付けを強化し、株価が下落したことも景気にマイナスだ。中国本土では個人による株式取引の割合が大きい。株価の下落は負の資産効果を高め消費者心理を圧迫するだろう。夏場の豪雨も中国経済を下押しした。
さらには、大手不動産デベロッパーのエバーグランデの債務問題が深刻化したことも、景気減速の鮮明化を加速している要因だ。同社の今後の展開は、共産党政権の意思決定にかかっている。基本的に共産党政権は、エバーグランデが経営破綻に陥り無秩序なデフォルトが発生することは防ごうとするだろう。しかし、今後、同社をめぐる展開には不透明要素も多い。
■世界経済に影響を与える2つのパターン
エバーグランデの問題が世界経済に与える影響を考えるとき、まず同社の米ドル建て社債の返済について見ておく必要がある。米ドル建て社債の発行残高は195億ドル(約2兆円)だ。その影響の波及経路は、直接的、間接的に分けられる。
直接的な影響は、米ドル建て社債がデフォルトし、それを保有する投資家が損失を被るパターンだ。この場合、楽観はできないが、主要国の金融機関のリスク管理体制等を考えると損失をそれなりに吸収することは可能だろう。
一方、デフォルトの間接的な経路を通じた影響は、世界経済にかなりの負の影響を与えるはずだ。デフォルトが発生すれば、エバーグランデの取引先や他の不動産業者の業況や、中国経済を支えてきた不動産市況が悪化して景気の減速が加速化するだろう。世界第2位の規模を誇る中国経済の一段の減速は、主要国の輸出の減少などの経路を通って世界経済全体にマイナスになることは間違いない。
■8月まで好調だった韓国経済は減速する恐れ
中国経済の減速に大きく影響される国の一つが韓国だ。
韓国経済の成長の源泉に位置付けられる輸出に関して、対中輸出(香港含む)は全体の約32%を占める。基本的に、中国の消費、生産、投資が増加基調で推移する場合、韓国では中国向けを中心に輸出が伸び、景気は回復する。その逆もまた真なりだ。8月まで、韓国の輸出は地域別には中国や米国向けが伸び、品目別には半導体や石油化学製品などが増加した。それが韓国の景気回復を支え8月には利上げも実施された。
ただ、今後、中国経済の減速スピードによって、輸出を中心に韓国の経済にはマイナスの影響が波及し、回復ペースが追加的に鈍化する恐れがある。8月のように中国の消費などの減少基調が強まれば、対中輸出の増加ペースは弱まるだろう。感染の再拡大によって中国から韓国への旅行需要の回復に時間がかかることも経済成長にマイナスだ。
また、足許の中国では石炭不足を背景に電力の不足が深刻化している。電力不足によって中国では生産活動が停止、あるいは制限され始めている。中国での生産活動がさらに鈍化すれば、韓国が中国に輸出してきた石油化学製品や機械などへの需要は落ち込むだろう。
■マンション下落、飲食、半導体不足…中国以外のリスクも
それに加えて、もし、エバーグランデのデフォルトが発生すれば、中国経済の減速の勢いは一段と強まるはずだ。その展開が現実のものとなれば、韓国の輸出だけでなく、消費、企業の設備投資にもかなりのマイナスの影響が波及するだろう。中国不動産市況の悪化はソウル周辺のマンション市況を悪化させ、韓国家計の債務リスクが高まる展開も想定される。
9月上旬以降、韓国総合株価指数(KOSPI)の上値は重い。その背景には、エバーグランデのデフォルトリスクの高まりなどによって中国経済の減退が加速し、対中依存度の高い韓国経済に負の影響が及ぶという主要投資家の懸念がある。
韓国は中国以外の景気下振れリスクにも直面している。感染再拡大による動線寸断によって、韓国の飲食、宿泊、交通などの景況感は下押しされやすい。それに半導体不足の影響が加わり、自動車の生産が減少している。
■日本経済にとっても他人事ではない
中国経済のさらなる減速リスクは、わが国経済にとって他人事ではない。
昨年5月ごろから、わが国の工作機械受注は、主に中国の需要に支えられて増加した。感染再拡大によって動線が寸断され飲食、宿泊、交通などサービス業の業況が強く下押しされる状況下、それは不安定ながらも緩やかな景気持ち直しを支えた要素の一つだ。見方を変えれば、わが国の経済は自力で回復することが難しい。なぜなら、わが国には世界の需要を獲得できるアップルのiPhoneのような完成品が見当たらない。
そのため、主要投資家は日本株を世界の景気敏感株とみなしている。その意味は、世界経済が良くなれば、それが支えとなってわが国の経済が上向くということだ。今後、中国経済の減速の加速化が鮮明となれば、わが国の自動車、工作機械、半導体部材などへの需要は低下するだろう。
■経済と社会の両面で閉塞感が高まってしまう
中国経済以外にも、わが国経済を取り巻く不確定要素は多い。まず、さらなる感染再拡大のリスクがある。例えば韓国ではワクチンの接種が急速に進んでいるにもかかわらず、新規感染者が増加している。ウイルス変異も含め、わが国でも再び感染が再拡大し動線が絞られて経済に下押し圧力がかかる展開は否定できない。
早ければ11月にFRBがテーパリングを開始し、2022年には利上げを実施する可能性も浮上した。目先、米金利には上昇圧力がかかりやすい。それは、中国など新興国からの資金流出圧力を高め、世界経済の成長下振れ懸念は増す可能性がある。世界的な供給制約の深刻化などによりわが国の物価上昇圧力も増すだろう。
今後、政府に求められることは、世界の主要投資家が日本経済の中長期的な成長を期待できる成長戦略を立案し、しっかりと実行することだ。具体的には、企業の生産性向上、および素材や機械分野で米中の双方から必要とされる企業を増やさなければならない。そのためには、労働市場などの規制改革が欠かせない。それが難しければ、中国経済の減速などによってわが国の株価は調整し、経済と社会の両面で閉塞感が高まる恐れがある。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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