「一緒に飲みたくない客は断れ」新橋の焼きとん屋女将が店員にそう指示している理由
プレジデントオンライン / 2021年10月6日 15時15分
※本稿は、藤嶋由香『一緒に飲みたくない客は断れ!』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
■売上げは前年の8割減
はじめまして、藤嶋由香と申します。
私は東京の新橋で「やきとんユカちゃん」というもつ焼き居酒屋を営んでいます。
2020年3月より、新型コロナウィルスの対策として、「3密」の発生する業態のお店が政府により営業自粛を要請されたのは、ご存じの通りです。
そのときに、私たち居酒屋は、「倒産して死ぬか? コロナで死ぬか?」という究極の選択を迫られていました。
コロナの影響で、あれほどサラリーマンやOLで溢れていた新橋の街はがらりと変わりました。
店を開けていても、お客様は来ません。売上げは前年の8割減になってしまいました。でも、店を開けないことには、ゼロになってしまいます。
大家さんに家賃の支払いを待っていただき、店員さんへの給料の支払いに貯金をすべてつぎ込み、政府からの給付金が振り込まれるのを赤字の状態でひたすら待ち続けました。
しかも、なかなか休業給付金は支払われません。
当時の新橋の居酒屋は、本当に地獄を見ていました。
そこで、新橋の居酒屋仲間で話し合い、「営業自粛要請に従わずに店を開けるぞ!」と、「新橋一揆」を起こそうと結託したのです。
■「居酒屋文化」を復興させたい
その「新橋一揆」がニュース番組で取り上げられると、マスコミは取材に殺到しました。
私も多数の取材に応じました。
「生きるために戦うこと」
これは、私の経営哲学でもあります。
「新橋一揆」の「一揆」は、反逆や打ち壊しの意味ではありません。
「心を一つにして危機を乗り越えよう」という思いが込められています。
私は、居酒屋を愛するすべての人と心を1つにし、もちろんコロナ対策をしっかり行った上で、庶民の心を元気にする「居酒屋文化」を復興させたいと心から願っています。
本稿は、「非常識な居酒屋経営術」について書かれたものですが、「不況時に強いビジネス」を構築するための「発想や行動」のヒントにもなるよう構成しました。
コロナの影響で、居酒屋・飲食店オーナーさん、そして世の中の多種多様な業種の方がいま必死で戦っておられます。そんな皆様に向けて、この原稿では、不況時代に生き残る経営術をお伝えします。
■生き延びた居酒屋と潰れた居酒屋の決定的な違い
2020年、コロナ禍により、飲食店の倒産は過去最多を更新し、その中でも居酒屋が最も多いというデータがあります。
本来、居酒屋は不況の味方です。
コストパフォーマンスが抜群にいいのです。
![藤嶋由香さん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/c/250/img_5c376f3a9dd9ebdb30d0776b381c4da2428765.jpg)
毎月のおこづかいが月3万円のサラリーマンでも、ランチを500円で済ませる方でも、週末に3000円~5000円というわずかなポケットマネーで、同僚と飲みに行けるのが居酒屋だからです。
そこで、ストレスを吹き飛ばし、生きる活力を得られるからです。
しかし、コロナが発生し、営業自粛やディスタンス社会への変化、リモートワーク化などの影響で、居酒屋経営は急速に厳しくなりました。
ここで生き延びることができた居酒屋と、潰れてしまった居酒屋には1つの決定的な違いがあります。
それは、「人の心を癒せるお店だったかどうか」です。
不況のときこそ、人は不安を抱えます。
明日解雇されたらどうしよう、お給料の手取りが下がって家族と揉めたらどうしよう、病気になったら医療費を払えるだろうか、家賃を払えず、住む家を追い出されたりしないだろうか……。
これらの不安を抱えていても、居酒屋でグチを言ったり、悩みを聞いてもらったりすることで、「きっと、明日、いいことがある!」と希望を持つことができるのです。
お客様にこのような希望を提供できないお店が、今、苦境に立たされています。
■お客さんの数は100人でいい
たとえば、「安い値段で提供しているのだから多くを求めないでほしい」という店は意外と多いものです。
その結果、店員のサービス精神が低い店……。
お客様が何か簡単なことをリクエストしても、その場で、「それはできません」と拒否するマニュアル店員……。
私は、居酒屋とファミレスの大きな違いは、「店長や店員の顔が見えるか見えないか」だと思います。
つまり、コミュニケーションが取れているかどうかなのです。
お客様が居酒屋に求めるものは、決して味や量だけではありません。
安いお酒と料理で済ませたいのならば、コンビニやスーパーの惣菜で十分です。
お店の人や飲み仲間とのコミュニケーションによって癒やされたり元気をもらえたりする場であるのかどうか、という点がとても重要になります。
そんな心の安らぎを提供するために、「やきとんユカちゃん」では、まずお客様を選びます。
そして、お店を本当に愛してくれてファンになってくれている良質なお客様を大切にします。
そのお客様の数はたった100人でいいのです。
100人なら顔や名前やどんな仕事をしているのかがわかります。いつもどんな料理を食べるのかもわかりますし、お客様の満足するサービスもできるのです。
ぜひ、あなたのビジネスにおいても「良質な顧客を選ぶ」ことで、不況に強い店創りを目指していただければ幸いです。
■お客として他のお店に行くとき必ず言うこと
「1000円しか使わないお客様はお帰りください」
このセリフをどこで聞いたか、私は思い出すことができません。
しかし、お店を経営するのであれば、客数、客単価、回転率について、当然、戦略を立てる必要があります。
「『やきとんユカちゃん』安くて美味しいね」
と、常連客にはよく褒められます。
やきとんとしては安売りをしていないのですが、コストパフォーマンスがいいと思ってもらえます。
実際の平均客単価も、3000円を切ることがありません。
その理由は、「美味しい、だからお酒が進む」に加えて、「お店の雰囲気がいい」からだと自負しています。
私は、串焼き居酒屋の女将となってから、あることに気がつきました。
それは、お店に対して配慮してくれるお客様とそうではないお客様がいる、ということです。
私も自分がお客として他のお店に行くときは、
「ごちそうさまです!」
「美味しかったです!」
と、必ず、お店の人に言います。
■不況のときこそお客さんを選ぶ
まず、この挨拶をする人と、しない人がいます。
次に、店が混んできたときに、さりげなく切り上げてくれる人と、お酒を注文せずにダラダラと長居する人がいます。
「今日は、お客様が並んでいるから、こんなに長居したら悪いよ」
と言ってくださる常連客。
「今日はお客様少ないね。じゃあいっぱい頼んであげようかな」
と気に掛けてくれる人もいます。
![藤嶋由香『一緒に飲みたくない客は断れ!』(ポプラ社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/5/200/img_05481caf70e907d8ec9e2d2c66f6598c329529.jpg)
そんなお客様には、こちらも感謝の気持ちとして、たくさんサービスしてあげたくなってしまうものです。
私のお店では、「良くしてくれるお客様には良くする」ということを当たり前のようにやっていた結果、自然にお店の雰囲気が良くなり、結果的に良質客だけが集まる状態になったのです。
私自身、お酒は勿論のこと「酒の場」を愛しています。場をしらけさせる暗くてノリの悪い方や、お店に我儘を言い、迷惑をかけても平気でいるような方とは一緒に飲みたくはありません。
店もお客様を選ばせて頂く以上、このように「一緒に飲みたくないお客はお断りしても良い」と従業員にも教育しています。
庶民の味方である大衆居酒屋は、お客様の力で価値を高めていくことが可能です。
ぜひ、あなたのビジネスでも、「心づかいの連鎖反応」を最優先して、結果的に良質なお客様を選んでいる状態を作り上げてほしいのです。
不況になると、値段を下げたり、“誰でもウェルカム状態”でビジネスをしてしまいがちです。しかし、こんなときこそ“大切なお客様”だけを選び、“もっと幸せにする”というスタンスでビジネスに向きあうということが大切になると思います。信念を持ち、このピンチを乗りこえて頂ければ幸いです。
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やきとんユカちゃん店主
1976年生まれ。北海道出身。学生時代に芸能界へ入り、モデル、歌手として活動。その後エステの学校に通い、エステティシャンとして独立する。現在の夫が営む麻布十番の居酒屋で食べた焼きとんの味に衝撃を受け、結婚。自身もその店で働く。2011年から「やきとんユカちゃん」を経営。コロナ禍で「新橋一揆」を発案し話題になる。インスタグラム
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(やきとんユカちゃん店主 藤嶋 由香)
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