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「胸にバッジを付けるだけで満足している」SDGsがコンサルの儲け話にしかなっていないワケ

プレジデントオンライン / 2021年10月12日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」の象徴として、カラフルなバッジを胸につけている人を見かける。素材メーカーでCSR担当を務める藤枝一也さんは「SDGsの本質は変革であり、バッジを付ければいいというものではない。そうした誤解をコンサルタントが広げているから、たちが悪い」という――。

※本稿は、藤枝一也ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■ビジネスチャンスであれば独占したいはず

SDGsを広めたいコンサルタント等の専門家は「SDGsはビジネスチャンスです」「国や政府だけでなく、市民、企業などあらゆるセクターが取り組まなければなりません」「大企業だけでなく中小企業にも欠かせません」と繰り返す。

しかしながら、ビジネスチャンスとは本来、気がついた人が誰にも言わず秘かに取り組むことで利益を得るものである。したがって、国連が作成し全世界に公開されている17分類169項目の文書がビジネスチャンスになるはずがない。仮にビジネスチャンスであれば、全企業に普及させるのではなく、早く知った企業が独占したいはずだ。「SDGsはビジネスチャンス」と言うコンサルタントや専門家は、ビジネスの鉄則を知らないと公言しているようなものだ。

ビジネスチャンスではないので、日本企業の優秀なビジネスマンたちが「何から手をつければよいのかわからない」と悩むのも当然だ。そこへ「どの目標に貢献しているかを整理しましょう」「御社はすでに3つもSDGsに貢献していることがわかりましたね! 素晴らしい!」とコンサルタントが指導するので、企業側は胸に17色のバッジをつけるだけでSDGsに貢献しているような気分に浸れるのだ。

■本質は「大胆かつ変革的な手段をとる」こと

SDGsの「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」前文には以下の文章がある。

〈すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する。我々は、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒やし安全にすることを決意している。我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。〉

(外務省ウェブサイトより抜粋。太字は筆者)

「誰一人取り残さない」というフレーズがクローズアップされがちだが、むしろ重要なのは「緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとる」だろう。現在の人類の活動は持続可能ではないので、行動を変革することこそ重要――ここがSDGsの本質なのだ。しかしながら、現実には何ら行動変革を伴わず、「我が社はSDGsに貢献しています」と喧伝する事例が再生産されている。

■実効性の伴わないイメージ戦略が蔓延

行動が変わっていないのにウェブサイトで自社の活動と17色のSDGsマークを関連付けて表示したり(以下、「SDGsタグ付け」と呼ぶ)、役員や従業員が胸にSDGsのバッジをつけている企業は「SDGsウォッシュ」と言われても反論ができないはずだ。

SDGsウォッシュとは、SDGsに貢献しているように装っているが実態が伴っていない組織や活動について指摘されるものだ。元来は、企業の環境活動に対して指摘する「グリーンウォッシュ」として広く使われてきた用語である。ただし、このSDGsウォッシュには統一された定義がない。そこで、SDGsウォッシュに関して以下の定義を提案したい。

SDGsに取り組んでいると自称している企業や、胸にSDGsバッジをつけている人は以下の2つの質問に答えてみてほしい。

①その活動は2015年9月以降に開始したものですか。
②2015年9月以降に始めた場合、その活動はSDGsがあったから生まれたものですか。

この両方を満たさなければ、SDGsウォッシュと言われる可能性があるだろう。仮に2015年8月以前から行っていた活動であれば、何も行動が変わっていない。SDGsがなくても生まれた活動であればSDGsによる付加価値は何もないはずである。この①②を満たさない活動は、後付けで上塗りした「SDGsタグ付け」なのだ。

自社の活動がこの①②の両方を満たすのであれば、胸を張ってどんどん進めればよい。一方で、もしも①②の条件を満たさないならば、自社のウェブサイトからSDGsマークを外し、役員や従業員からSDGsバッジを回収したほうがよい。

実効性が伴わない環境広報やイメージ戦略はグリーンウォッシュに当たるのだが、不思議なことに近年、SDGsに関してだけはこのコンプライアンス意識が企業から消え去ってしまっている。国やコンサルタントが推進しているからよいのではなく、地球環境問題や社会課題に対する各社の倫理感が問われているのだ。

■ただのタグ付けはコンサルタントのビジネスに過ぎない

SDGsが2015年9月の国連持続可能なサミットで採択されてから6年が経った。現在でも「今の活動をSDGsの項目に紐付ければOKです」と言い続ける企業コンサルタントで溢れている。

コンサルタントであれば当然、SDGsの前文を読んでいるはずだが、とてもそうとは思えない人間が多い。筆者がコンサルタントの立場であれば、従来の活動を棚卸ししてタグ付けした後に、「現在白地の分野で新たな活動や新規ビジネスを始めましょう。うまくいけばウェブサイトでSDGsマークをつけましょう」と伝える。これならSDGsによる付加価値が発生し、クライアントの行動変革にもつながるはずだ。

だがそんなコンサルタントに出会うことはまずない。

本当にSDGsが規模や業態を問わずあらゆる企業に関連し、SDGsをまったく知らない企業が一から勉強して世の中に普及させることでビジネスチャンスが広がるのであれば、コンサルタントはクライアントにSDGsの目標へ取り組んでもらったうえで、新規に得られた利益の1%を受け取るなどの成果報酬型にしてはどうだろうか。SDGsを解説したり、タグ付けしただけで報酬を受け取るなんて、筆者ならできない。

SDGsコンサルタントの宿命は、貧困や人権といった社会課題、気候変動や資源枯渇といった地球環境問題が解決に向かえば向かうほど、ビジネスが減ってしまうことだ。つまり、コンサルタントにとっては課題は課題のままで残り続けたほうが都合がよいのである。SDGsコンサルタントはこの自己矛盾に気がついているのだろうか。

コンサルタントにとってSDGsは、社会課題や地球環境問題を解決するための道標でも企業のビジネスチャンスでもなく、コンサルタント自身のビジネスを持続させるためのツールになっているのが現状だ。

■意味も分からずバッジだけ付けている従業員

SDGsへの貢献を表明する企業が増えるにつれ、工場や営業などの担当者から本社のCSR・サステナビリティ部門に対する不満の声を聞く機会が増えてきた。事業戦略や長期目標等を企画・立案する本社サイドと、営業部門や工場、店舗などの現場サイドとの間でさまざまな軋轢が生じているのである。

SDGsを事業戦略に取り入れた企業のウェブサイトには、カラフルで綺麗な図や2030年、2050年などの未来に向けた長期目標が並んでいる。その裏側では、膨大な時間と労力をかけてSDGsそのものと、自社の新事業戦略・長期目標の社内教育が行われている。

ところが、工場や店舗の現場、営業部門の最前線まではブレークダウンされておらず、多くの担当者が理解できていないのが実情である。あまり中身を理解しないままに胸にバッジをつけている従業員や役員に出会うことも少なくない。筆者の自宅へ家電製品の修理に来てくれたある家電メーカーのサービスマンも、「よくわからないが本社からつけろと言われているので、このバッジをつけています」と話していた。

バッジ
写真=iStock.com/butenkow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/butenkow

これは本社サイドの周知不足でもなければ、現場サイドの理解力不足でもない。やはりSDGsはわかりづらいのだ。

雲をつかむような理想や一般論ばかりで具体性がないため、本社サイドが策定する理念や大方針には組み込むことができても、現場サイドの組織目標や担当者の業務へブレークダウンする際に皆悩んでしまうのである。SDGsは、一部の企業にとっては有益な面もあるが、すべての企業や部門に落とし込めるものではなく、なかんずくビジネスチャンスになんてなるわけがないのだ。

本社・工場・店舗などさまざまな部門から選抜された優秀なメンバーが何人も何日もかけて「どうやったら自部門に落とし込めるのだろう」などと悩んでいる時点で、付加価値もメリットもないことが露呈しているのだ。

何十年も前から日本企業の現場で繰り返されている小集団活動やQC(品質管理)活動、省エネ活動などは、自分たちにメリットがあるからこそ地道に継続されているのだ。もしもSDGsに付加価値やメリットがあれば、本社サイドが放っておいても現場サイドでどんどん自主的な活動が展開されるはずである。昨今、現場サイドの理解が進まず悩んでいる本社の事務局担当者向けセミナーが増えていることこそが、SDGsに何の付加価値もメリットもないことの証左と言えるだろう。

外向けにはメリットを発信をする本社サイドに対して、自分たちには何もメリットが見出せず訳のわからないものを押し付けられる現場サイドでは、不満がたまる一方だ。このままでは、こうした不満が顕在化し社内の分断が加速する可能性すらあるだろう。

これからSDGsを経営方針や事業戦略に取り入れようとお考えの企業には、ぜひ慎重に検討されることをお勧めしたい。本社サイドと現場サイドが分断してしまっては元も子もない。

■過ちて改めざる、これを過ちと謂う

すでに経営方針等へ組み込んだものの現場サイドに浸透させることができず悩んでいる事務局担当者は、これまでコンサルタントに支払った費用や社内でSDGs浸透のために割いてきた人員や時間などのリソースが「サンクコスト」(埋没費用)であると認識しよう。どれだけ追加投資しても回収は見込めないと考えていい。

「過ちて改めざる、これを過ちと謂う」といわれる。SDGsを導入したのは仕方がない。人間誰しも間違うものである。今後もSDGsに取り組むために貴重なリソースを割いて、会社の生産性を下げ続けることこそが過ちなのだ。

そこで、事務局担当者はSDGsの導入から現在までの棚卸しを行い、導入当初に期待していた成果とこれまでの成果(あればだが)や、今後期待される効果(あればだが)などを整理したほうがよい。その際に、成果を無理にひねり出すのではまったく意味がない。虚心坦懐に棚卸しを行い、過去を整理することが何よりも重要だ。

ここで、とくに大企業になればなるほど、導入時に経営会議まで通したものなので見直すのが難しい、といった事態に陥るのは想像に難くない。企業経営に限らず、先の大戦での大本営や昨今のコロナ対応など政治の世界でも見られるように、日本社会には「決めるのが遅く、一度決めたことをやめる・変更することができない」という悪弊が蔓延している。

経営層やCSR・サステナビリティ部門にとっては自己否定につながる大変難しい判断だが、もしも実現することができれば、これこそがSDGsに取り組んでよかった最大の成果となるだろう。日本企業の悪弊を打破した前例となり、今後の柔軟な意思決定につながるはずだ。

■目標が未達に終わってもすぐにまた別の目標が生まれる

SDGsの前身は2000年に国連ミレニアム・サミットで採択されたMDGs(Millennium Development Goals、ミレニアム開発目標)である。2015年を最終年とし、貧困の撲滅や乳幼児死亡率の削減、環境問題など8分類21項目を掲げた世界目標だった。

藤枝一也ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)
藤枝一也ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)

当時、筆者も必死にMDGsを勉強して自社で貢献できることを考えていた。このMDGsが未達に終わったことを受けて、ポストMDGsとして今をときめくSDGsが誕生したのである。今度は17分類169項目もある。読むだけで大変な分量だ。

さて、SDGsの目標達成年とされる2030年の未来を想像してみよう。SDGsは必ず未達に終わる(ここだけは想像ではなく、断言する)。すると2031年以降にポストSDGsが生まれるはずだ。企業のサステナビリティ担当者や学生は、また勉強し直さなければならない。企業では、自社の活動とのSDGsタグ付けもポストSDGsタグ付けとしてやり直しだ。

ポストSDGsコンサルタント(元CSRコンサルタント、元SDGsコンサルタント、元ESGコンサルタント)は「新たな世界目標ができました!」「日本企業は遅れています! バスに乗り遅れるな!」と言って企業を煽っているだろう。

ポストSDGsの目標は果たして何項目になっているだろうか。200項目? 300項目? 分量が多いほど、内容が難解なほど、そしてクライアントに成果や付加価値が現れないほど、ポストSDGsコンサルタントは儲かり、サステナブルなビジネスになるのだ。

さらにその先の未来である2045年、もしくは2050年にポストSDGsの最終年を迎え、また未達に終わる(ここだけは想像ではなく、断言する)。するとその翌年にはポストポストSDGsが現れ、ポストポストSDGsコンサルタントはまた日本企業に対して……以下略。

■真のサステナビリティ経営とは何かを追究すべき

6年以上CSR・サステナビリティ部門に携わっている方であれば、この「MDGs(未達)→SDGs」の流れはよくご存じだろう。では他にも思い浮かぶものはないだろうか。

「京都議定書(未達)→パリ協定」は有名だ。「生物多様性2010年目標(未達)→愛知目標(未達)→ポスト愛知目標(2021年現在議論中)」をご存じの方は生物多様性の分野について詳しい方だろう。

「環境報告書→CSR報告書↓統合報告書・サステナビリティ報告書」は情報開示の変遷だ。では「SRIとESG投資」「環境会計と自然資本会計」「SDGsとESDとESG」「A4SとGRIとIIRCとSASBとTCFD」等の違いや関係を説明できる人が果たして何人いるだろうか?(略語の説明は省略する。詳しくはSDGsコンサルにお問い合わせいただきたい)

事程左様に、CSR分野の活動は手を変え品を変え目先を変えることが繰り返されてきた。企業自身が取り組んでよかったと振り返れるものが、いくつあっただろうか。歴史は繰り返すのだ。

コンサルタント発の喧騒に対して右顧左眄のCSR・サステナビリティ経営はそろそろやめる時期だ。CSR担当者としては、自社にとって、日本企業にとって、真のサステナビリティ経営とは何かを追究したいものである。

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藤枝 一也(ふじえだ・かずや)
素材メーカー CSR担当
横浜国立大学経営学部卒、法政大学大学院環境マネジメント研究科修了。大手電機メーカーで半導体の研究開発部門、資材調達部門を経て本社環境部門で環境経営施策の企画・立案を担当。素材メーカーへ転職し本社CSR部門で主に環境関連業務に従事。

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(素材メーカー CSR担当 藤枝 一也)

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