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「長老議員がすべてを決めてしまう」改革を志しても潰される自民党の旧態依然

プレジデントオンライン / 2021年10月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■派閥の力学で動く国会議員票が優先されてしまう

自民党総裁選は前政調会長の岸田文雄氏(64)が勝った。岸田氏は、10月4日に召集される臨時国会で第100代の日本の首相に指名され、新内閣を発足させる。

総裁選の1回目の投票の党員・党友票を見ると、110票の岸田氏に対し、河野氏が169票と大差をつけていた。しかし、党員・党友に人気があっても派閥の力学で動く国会議員票を多く獲得できなければ、2回目の決選投票では勝てない。

自民党の総裁選は事実上、日本の首相を決める選挙だ。それにもかかわらず、私たち国民の感覚に近い党員・党友票よりも、派閥の力学で動く国会議員票が優先されてしまう。一般の国民が自民党の総裁選に参加できない以上、自民党は党員・党友票をもっと重視し、総裁選のやり方を改革すべきではないか。

■安倍氏の支配から抜け出さない限り、国民の支持を失う

今回、自民党の多くの国会議員が、党内秩序の安定を求めて岸田氏という勝ち馬に乗った。国民人気は河野氏のほうが高い。河野氏が総裁になれば、衆院選は自民党にとって優位になるはずだ。一方で、河野氏が総裁になれば、これまでの派閥の力学が壊されるかもしれない。自民党の国会議員たちは、自民党の議席が増えることよりも、自身の立場が変わらないことを選んだといえる。

振り返ると、前首相の安倍晋三氏の力の強さと派閥の力学を目の当たりにした総裁選だった。自民党は安倍氏の支配と派閥の悪弊から抜け出さない限り、国民の支持を失っていく、と沙鴎一歩は思う。

前日の28日夜に岸田氏と前総務相の高市早苗氏(60)の両陣営の幹部が会談し、どちらかが決選投票で河野氏と対決することになった場合、協力し合うとの申し合わせまで交わしていた。呆れた話である。裏で工作したのは安倍氏だろう。これが安倍氏の力であり、派閥の力学である。自民党の悪しき体質だ。私たち国民の意思などどうでもいいのである。

思い出すのが、安倍氏が勝った2012年9月の総裁選だ。あのときは安倍氏が1回目の投票で、党員・党友票に強い元幹事長の石破茂氏に敗れたが、決選投票では国会議員票を固めて逆転勝利を収めた。安倍氏は引き続き、院政を敷こうと画策している。そのことは9月22日の記事「『これは古い自民党との戦いだ』河野、小泉、石破連合は“安倍支配”を本当に打ち破れるのか」でも触れた。

■「なんでこんな落差が生まれるのか」と石破氏

総裁選の出馬を断念して河野氏支援に回った石破氏は総裁選後、河野氏が敗れたことについて記者団にこう話していた。

「都会とか地方とか関係なく、多くの地方の支持をいただいたにもかかわらず、国会議員票が思うように伸びなかった。自分としてできる限りのことはやって、結果を出せなかったのはとても残念だ」
「なんでこんな落差が生まれるのか。自民党全体としてよく考えなければいけない」

1回目の河野氏の党員・党友票は候補者4人の中でトップの169票だったが、国会議員票は86票で、岸田氏、高市氏に次ぐ3位だった。石破氏が指摘する党員・党友票と国会議員票との「落差」はなぜ生じるのか。自民党はその根底にある安倍氏の支配や派閥の力学を解消すべきである。

■岸田氏は「新しい政治の選択を示していく」と語ったが…

9月30日付の朝日新聞の社説は「自民新総裁に岸田氏 国民の信を取り戻せるか」との見出しを掲げ、まずこう指摘する。

「菅首相の退陣表明前、いち早く名乗りを上げた岸田氏は『政治の根幹である国民の信頼が大きく崩れ、我が国の民主主義が危機に陥っている』との現状認識を示した。7年8カ月に及んだ安倍長期政権と、1年で行き詰まった菅政権の『負の遺産』にけじめをつけ、国民の信を取り戻せるか、その覚悟と実行力が厳しく問われる」

岸田氏が出馬を正式に表明したのは8月26日だった。独断専行の菅義偉首相を標的にして出馬表明の記者会見では「国民の声に耳を澄まし、新しい政治の選択を示していく」と勇ましく語っていた。

しかし、岸田氏が総裁選で勝てたのは、安倍氏ら長老議員がその影響力を使って各派閥に働きかけ、岸田氏に投票させようと動いたからである。中堅・若手の議員もそれに同調した。それだけに岸田氏には朝日社説が指摘するように覚悟と実行力が求められる。

自民党岸田派(宏池会)の会合で発言する岸田文雄総裁(左)=2021年9月30日、東京・永田町[代表撮影]
写真=時事通信フォト
自民党岸田派(宏池会)の会合で発言する岸田文雄総裁(左)=2021年9月30日、東京・永田町[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

■安倍氏の「河野氏の当選を阻む」は歪みそのもの

朝日社説は「帰趨を決めたのが結局は、永田町の中の数合わせであり、安倍前首相ら実力者の意向に左右されたというのでは、岸田氏が当選後のあいさつで力を込めた『生まれ変わった自民党』というには程遠い」とも指摘する。

朝日社説の通りだろう。自民党が生まれ変わるとは思えない。岸田氏は安倍・菅政権を継承するだけだろう。

朝日社説は解説する。

「実際、安倍氏は、今回の総裁選の『陰の主役』といってもいい存在だった。当初、立候補も難しいとみられていた高市氏が、河野氏を上回る議員票を獲得できたのも、安倍氏によるてこ入れがあってこそだ」
「最大派閥の細田派内にとどまらず、自身の首相時代に初当選した若手議員らにも影響力を保つ。自らに批判的な石破茂元幹事長とスクラムを組んだ河野氏の当選を阻むため、決選投票を経ての岸田氏勝利に一役買ったというのが専らの見方だ」

「陰の主役」とは安倍氏を嫌う朝日社説らしさが滲み出ている。しかし前首相の安倍氏の「河野氏の当選を阻む」という行為はいただけない。自民党という組織の権力構造が歪んでいることを示している。

■「今回も改革を求める若手らの期待は裏切られた」

9月30日の毎日新聞の社説は「『安倍・菅』路線からの脱却を」との見出しを掲げ、冒頭部分から「論戦では新型コロナウイルス対策の失敗など安倍・菅政治の反省を踏まえ、そこからどのように脱却するかの突っ込んだ議論がなかった」「選出過程でも、最後には派閥力学がものをいった」と総裁選そのものを批判し、問題の党員・党友票と国会議員票の落差についてこう指摘する。

「有権者と距離の近い党員・党友票でトップに立ったのは、世論調査で人気が高かった河野氏だった。一方、国会議員票では岸田氏が多数を占めた。党員票と国会議員票のねじれは、国会議員票の比重が増す仕組みの決選投票でさらに拡大した」

自民党総裁選での党員票と国会議員票はまさしく「ねじれ」そのものである。繰り返すが、総裁選が日本の首相を選ぶ選挙である以上、改革が必要である。

毎日社説も朝日社説と同じく、安倍氏の動きを批判し、次のように指摘する。

「今回も改革を求める若手らの期待は裏切られた」
「裏で影響力を行使するキングメーカーのように振る舞ったのが安倍氏だった」
「決選投票では、1回目に高市早苗前総務相に投票した議員が岸田氏支持に回った。政治信条が近い高市氏を支援した安倍氏が、この流れを作った」

毎日社説は安倍氏を「キングメーカー」とさげすむが、朝日社説の「陰の主役」と並んで言い得て妙である。

毎日社説は「新総裁に選出された岸田氏は『国民の声に耳を澄ます』と語った。問われるのは、選出過程のしがらみにとらわれず国民が求める政策を実行する力量である」とも強調する。沙鴎一歩も「安倍氏ら長老のしがらみにとらわれるな」と主張したい。

■国民の信頼を取り戻す政治を実行してほしい

9月30日付の産経新聞の社説(主張)は「岸田氏は当選後、『生まれ変わった自民党をしっかりと国民に示し、支持を訴えないといけない。総裁選は終わった。ノーサイドだ』と語った」と書いたうえで、こう訴える。

「世論調査で自民の支持率は上昇傾向にあるが、同党や岸田氏が忘れてはならないことがある。菅義偉政権が、新型コロナウイルス対策の不手際から国民の信頼を失ったという点だ」
「岸田氏は『(総裁選の)政策論争を通じて国民の信頼を回復する』と述べていた。これからは政策遂行で信頼を集めてほしい。そこで最も重要となるのは、危機の時代にあって、国民を守り抜く政治を行うことだ」

沙鴎一歩は菅首相の新型コロナ対策のすべてが「不手際」とは言わないが、変異ウイルス大流行の兆しがあるにもかかわらず、東京オリンピック・パラリンピックの開催を強行して感染拡大を招いたと考えている。

産経社説が主張するように岸田氏には国民の信頼を取り戻す政治を実行してほしい。

産経社説は続けてこう主張する。

「世界は今、東西冷戦終結以来30年ぶりの大変動期にある。覇権主義的な中国、核・ミサイル戦力の強化を進める北朝鮮の脅威に日本は直面している」
「嵐が吹き荒れる国際社会で『日本丸』の舵取り役を務めるという自覚が求められる。温厚な人柄で知られる岸田氏だが、外交安全保障は笑顔で握手するだけでは済まないことは分かっているはずだ。国家国民を守るため、時には厳しい言葉や力強い態度で臨むことも必要である」

対中国と対北朝鮮。同盟国であるアメリカと力を合わせてこの難局を乗り切り、国際社会での日本の地位を高めるべきだ。ピンチはチャンスでもある。

それにしても、今回の産経社説は切れ味が鈍かった。朝日社説や毎日社説のように岸田氏の言動や安倍氏の行為を突いてほしかった、と思う。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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