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「女性の昇進にイラッとする」そんな器の小さい男性は、実は人生大損している

プレジデントオンライン / 2021年10月13日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

男女平等を推進しようという取り組みに対して「逆差別だ」という意見は少なくありません。男性学の研究者・田中俊之さんは「そのように反発する男性は、自分の生き方を大変だと感じているからではないでしょうか。男は働き続け、勝ち続けねばならないから大変だと。それなら、その生き方から一度降りてみればいいのにと思います」といいます――。

■根本的な勘違い

近年、男女不平等を是正しようと、各企業で女性活躍推進の取り組みが行われています。しかし、こうした議論が行われると必ず「男性への逆差別ではないか」という意見が出てきます。一体なぜなのでしょうか。

以前の記事「妊婦の優先接種に自宅療養…『最悪の事態』が起きないと何も動かない根本原因」でも触れましたが、世の中には現状の男女不平等を「デフォルト(初期設定)」だと思っている男性たちがいます。彼らは、男女間に賃金格差があるのも、家事育児負担が女性に偏っているのも、不平等ではなく普通の状態だと捉えています。

その根底にあるのは、男性と女性は本質的に違うのだという考え方です。だから、それぞれの役割を分けて考えることは区別であって差別ではないというわけです。

■“日常”が揺らぐことへの不安と反発

彼らにとっては男女不平等な現状が日常ですから、これが揺らぐとなると不安や反発を感じます。自分にとっての日常を無理やり変えさせられることに、被害者意識を持ってしまうことさえあります。「女性活躍推進は男性への逆差別」という意見は、こうした意識から出ているのではないかと思います。

男性は女性と比較すると、性別によって生き方が左右される経験が乏しいです。たいていの人は当然のように総合職として採用され、その後は仕事中心の生活をし、このままずっと定年まで働き続けるものだと思っています。そして、競争に勝つために、他人より上を目指して頑張るのが「普通」だと考えています。

■仕事中心の生き方でも子どもが持てる男性

自分はなぜ定年まで働き続けるのか、多くの男性は考えたこともありません。また、そうした仕事中心の生き方をしながらも子どもを持てるのは、女性が家事育児を担ってくれているからなのですが、自分がなぜ仕事中心でいられるのか、これまた多くの男性は考えたこともありません。

対して、女性には妊娠や出産などのライフイベントを経験する人が多くいます。それによって生活を変えたり、キャリアを中断したりせざるを得ないこともあります。職業においても、かつて女性は一般職採用のみという時代がありました。女性は男性よりも、生き方やキャリアが性別によって左右されやすいのです。そして、多くの女性がそのことを知っています。

大半の男性は、性別が人生に影響を与える場合があることを知らず、想像したことすらないでしょう。ですから男性にはまず、この点を想像してみてほしいのです。そうして初めて、女性が性別から受けている影響や、女性活躍推進の意義を考え始めることができるように思います。これは男女不平等の解消に向けて、とても重要な第一歩になります。

■男女とも楽になる方策を探るべき

現状では、「女性は大変」という意見を見ると「いや男だって」と反論する男性がいます。女性の積極登用に「逆差別だ」と反発する男性もいます。これは前述の理由に加えて、実は自分の生き方を大変だと感じているからではないでしょうか。

男は働き続け、勝ち続けねばならないから大変だ──。それなら、その生き方から一度降りてみればいいのにと思います。本来なら、男女のどちらが大変かを論じ合うのではなく、男性も女性も両方が楽になる方策を探るべきでしょう。夫婦でいえば、妻が活躍して稼いでくれれば夫も精神的に楽になるはずなのです。

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写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

家計の面では収入が増えて余裕ができます。支出についても、今は住宅ローンにも夫と妻それぞれで契約できるペアローンがありますから、「俺一人で返さねば」と気負う必要がなくなります。

家事育児も交互に担当すればいいわけですから、それほど無理な話ではありません。また、夫婦の会話が減って家庭がギクシャクする理由のひとつに、男性は仕事、女性は家事育児という完全役割分担がありますが、これの解消にもつながります。

■「男らしい」生き方から降りてみる

つまり男性は、活躍する女性の足を引っ張るような行動をやめて、むしろ活躍を後押しするようにすれば、自分も楽になるはずなのです。「男だから」と仕事中心の生活に固執したり、女性活躍に対して被害者意識を持つようでは、人生はずっと大変なままですからむしろ損だと思います。

男性には、少し価値観をずらして自分の生き方を見つめ直してみることをおすすめします。現状では、「大黒柱であらねば」「競争に勝たねば」がクセになっている人が多いようです。

まずは、こうした「男らしい」生き方から降りることを考えてみてはどうでしょうか。一度立ち止まって仕事中心の生活に疑問を持ってみれば、自分はどんな生活や生き方を楽だと感じるのか、きっと見えてくると思います。

僕は人生の途中で、自分には自分のペースで働くのが向いているのだと気づきました。それまでは成功している人と比べて、同じペースでやろうと頑張ったりもしていました。でも、あるときふと、自分の場合はそのやり方では成果が上がらないと気づいたのです。

考えてみれば、能力も経歴も違う人と自分を比べても意味がありません。この気づき以降、僕は仕事にマイペースで取り組めるようになり、同時に人生を楽に感じられるようになりました。

■男性が“大黒柱の重責”から降りやすい社会へ

女性活躍に被害者意識を持ったり、昇進した人をやっかんだりする人は、他人と比べることで自分の価値を測るクセがついているのではと思います。自分の基準で自分をほめたり、自分で自分を充足させたりすることができない。それは人生にとって大きな損失です。

日本の男性の多くが、働き続け勝ち続けることに疑問を持たないのは、そう育てられてきたからでもあります。だからこそ今、そうした生き方が本当に自分に合っているのかどうか考え、必要なら降りることも検討してみてほしいと思います。

活躍を望む女性がごく普通に活躍でき、働き続けられる社会になれば、男性も大黒柱という重責から降りやすくなるはずです。どうすればどちらも楽になれるかという視点で議論を重ねて、皆が自分に合った生き方を見つけられる社会、望むように生きられる社会を目指したいものです。

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田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部准教授
1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2017年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。

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(大正大学心理社会学部准教授 田中 俊之 構成=辻村洋子)

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