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「衝撃的な価格のスポーツカーを共同開発」トヨタとスバル発売直前の"ケンカ"の中身

プレジデントオンライン / 2021年10月12日 9時15分

トヨタ「GR86」(左)とスバル「BRZ」(右) - 画像=筆者撮影

トヨタ「GR86」とスバル「BRZ」は両社協業で作り上げたスポーツカーだ。BRZは7月に発表、GR86も近々の発売を予定している。市場ではコンパクトカーやSUVが根強い人気なのにもかかわらず、両社はなぜスポーツカーを開発したのか。交通コメンテーターの西村直人さんが開発陣に話を聞いた――。

■「トヨタ86」から「GR86」に車名を変更

トヨタ「GR86」とスバル「BRZ」は両社協業で作り上げたスポーツカーだ。初代(2012年発売)から続く協業もこれで2代目。

新型ではトヨタは86の車名を「トヨタ86」からGR86に変更した。狙いはトヨタが進める「GR」ブランドを新型のGR86でも追求することだ。

GRを端的に表現するなら「レースシーンからのフィードバック」だ。さまざまなカテゴリーの自動車レースで活躍する「TOYOTA GAZOO Racing」から得られた知見や技術を、我々が購入できる車両に導入したスポーツカーブランド(トヨタのWebサイトより)がGRである。

現在GRを名乗る車種は、コンパクトカー「ヤリス」からオフローダー「ランドクルーザー」まで多彩で、いずれも世界中から注目を浴びている。

GR各モデルには標準モデルと異なる外観などが与えられた。さらに、見た目だけでなくボディ剛性を高めたり、サスペンションなど走行性能を左右する部品をGR用に換装したりして、走りの質感もGRの名に恥じない仕様に高められた。

トヨタ「GR86」
画像=筆者撮影
トヨタ「GR86」 - 画像=筆者撮影

■同じプラットフォームでも、乗り味はぜんぜん違う

一方のスバル。こちらの車名は変わらずBRZのままだが、GR86とはエンジン特性(出力やトルクなどカタログスペックは同一)、足回り、車体各部の結合方法が異なっている。初代でも乗り味の違いは設けられていたが、新型となってその範囲が拡げられたのだ。

エンジン特性の違いとしては、アクセルペダルを踏み込んだ際の出力特性とエンジントルクの関係がある。GR86ではレスポンスよく反応し駆動力として実感するまでの時間を狭めた。具体的にはペダル操作に対してグンと勢いがついて加速していく、そんなイメージだ。

BRZではアクセルペダル操作に比例するような素直な特性として、じんわり踏み込んでも、一気に深く踏み込んでも、ドライバーが意図した通りに加速する。

足回りでは、前後サスペンションのダンパーとバネのセットアップが2車で異なる。GR86はサーキットのカーブなどで積極的に後輪を滑らせて走るオーバーステア(ドリフト)走行に向いた設定だ。BRZは同じカーブでもドシッと安定した走りを示しつつ、ドリフト走行も許容する。電動パワーステアリングも足回りに合わせ2車それぞれの設定をもつ。

今回、両車のプロトタイプをサーキットで走らせたが、足回りの違いからくる乗り味は大きく違っていた。同じプラットフォーム(車体の土台)を使い、パッと見では相違点が少ない(比較すると相違点は多数ある)スポーツカーでありながらも、異なる乗り味をもつ意義がよくわかった。

スバル「BRZ」
画像提供=スバル
スバル「BRZ」 - 画像提供=スバル

■「若いドライバーにスポーツカーを知って、乗っていただきたい」

筆者を含めてクルマ好きであれば「スポーツカーはいいな!」と思えるものの、国内ではトヨタ「ヤリス」(1位)や日産「ノート」(4位)などのコンパクトカーや、トヨタ「ハリアー」(9位)やホンダ「ヴェゼル」(10位)などのSUVが販売上位10車に名を連ねる。また、トヨタ「ルーミー」(2位)や「アルファード」(6位)などミニバンも根強い人気だ(出典:2021年8月/日本自動車販売協会連合会)。

そうしたなか、あえてトヨタとスバルが再び協業してスポーツカーを作り上げた意義はどこにあるのか、そして狙いは何か? GR86の開発責任者である末沢泰謙氏と、BRZの開発責任者である井上正彦氏をはじめ、開発陣にそれぞれお話を伺った。

【西村】GR86を開発された意義はなんでしょうか?

【末沢】GR86は4人乗り(BRZ含めて乗車定員は4名)で、軽量なFR(後輪駆動)方式とし、なおかつ車両価格を抑えました。本格的なスポーツカーがリーズナブルな価格帯で手に入るわけですから、若いドライバーにもっとスポーツカーを知って、そして乗っていただきたい、そんな想いで作り上げました。

【西村】BRZはいかがですか?

【井上】スバルは4輪駆動である4WD技術において自信をもっていますが、BRZではFR方式でいくことを今回も貫きました。搭載エンジンはスバルが新規に開発した水平対向4気筒2.4l(235PS/25.5kgf.m)で、世界トップレベルの軽量化と低重心化を達成しています。毎日手洗い洗車したくなる、そんな愛着が持てるクルマに仕上げました。

■「王道をいく、大人のスポーツカーを狙った」デザイン

【西村】国内市場では、コンパクトカーやSUV、そしてミニバンの販売台数が多い状態が続いていますが、スポーツカーをどのようにアピールなさるのでしょうか?

【末沢】そうしたなかでも「スポーツカーが欲しい!」と仰るファンの方は一定数いらっしゃいます。しかも購入されるだけでなく、たとえば自分好みのデザインをもつホイールに交換されたり、ボディ各部にパーツを装着したりしてドレスアップをされる方や、タイヤやサスペンションを交換して走りの性能を特化させる方、さらにはサーキット走行をなさる方など多岐にわたります。ただ、そうしたユーザー層はミドルシニアの方々が多い。そこは理解しています。そのため、GR86では若いドライバーにも注目していただくアプローチやプロモーションを行う予定です。

【西村】デザイナーから見て新型はいかがでしょうか?

【GRデザイン松本宏一氏】スポーツカーだから、そして若いドライバーにも振り向いてもらいたからと、いわゆるヤンチャな(筆者注/派手さばかりが目立つ)デザインにはしたくなかった。王道をいく大人のスポーツカーを狙いました。具体的にはキャラクターライン(ボディに折り目をつけたようなアクセント)に頼らないシャープでグラマラスな造形として、年齢に関係なく見る人をハッとさせるようなデザインとなるようまとめています。

【スバル佐藤正哉氏】BRZにはスバルのアイデンティティであるヘキサゴン型グリルを初代に引き続き採用しました。ヘキサゴン(六角形)は自然界で安定したデザインであると同時にスバルの六連星をイメージしています。また、スーパーGT300クラスで活躍するレーシングマシンとのつながりを強調しています。

スーパーGT300クラスで活躍する、スバルのレーシングマシン
画像=筆者撮影
スーパーGT300クラスで活躍する、スバルのレーシングマシン - 画像=筆者撮影

■開発完了直前に、走行性能の違いをつけた

【西村】走行性能における新型のこだわりはどこでしょうか?

【トヨタ凄腕技能養成部 平田泰男氏】GR86ではまずステアリング、次にエンジンの反応をよくすることに注力しました。

【スバル車両開発統括部 塩川貴彦氏】BRZでは初代の美点である安定した楽しい走行性能をレベルアップさせることを目標に開発しています。

【西村】開発完了直前まで、GR86とBRZでは走行性能にここまで大きな違いはなかったと伺いましたが……。

【塩川】じつはそうなんです。当初、ダンパーなどいくつかの相違だけでした。2車の開発は、足回りや走行性能のセッティングはGR86含めてスバルが行い、トヨタ側からは完成途中の開発車両で評価してもらいました。スバルのテストコース上で「○○の性能は良くなったけど、□□の性能がまだ良くない」とトヨタ側とは率直なやりとりを行いました。GR86のセッティングがなかなか決まらず苦労の連続でしたが、なんとか期日内に完成! ただホッとしたのも束の間、その数日後、「もっとGRらしさを出したい!」と仕様変更依頼の連絡が入りました……。

後方座席は従来型と同じく前倒し可能
画像=筆者撮影
後方座席は従来型と同じく前倒し可能 - 画像=筆者撮影

■「仲良くケンカする」開発プロセス締めの共同作業

【西村】開発が終了し市販へのカウントダウンがはじまった段階での仕様変更、さらには協業ともなるとご苦労も多かったのではないですか?

【塩川】青天の霹靂でしたが、両社のエンジニアやテストドライバーたちが底力を発揮し、最終的には2車でしっかりとしたキャラクター分けができました。もっとも時間に余裕のない状況でしたから、議論の場では言葉が荒くなり、それまでのムードとは一転。ただ、険悪さはなく、ここに至るまでさまざまな言葉を交わしてきたので、お互いに言いたいことがいえる、いわば「仲良くケンカする」状態のなか、開発プロセスにおける締めの共同作業が行えました。

【平田】土壇場での仕様変更にはリスクが伴います。でもスバル側となら確実に行えると信じていました。このタイミングで申し出た理由は、GRらしさとは何かという気持ちを大切にしたかったからです。加えて、仕様変更前に豊田章男社長に確認試乗を依頼したのですが、その結果、「GRらしさが欠けている」との評価があり、その一言も仕様変更につながりました。

【塩川】若いドライバーからミドルシニア層に至るまで「GR86もBRZも新型は良いよね!」という市場評価を頂けると信じています。

■スポーツカーの走りを、コンパクトカー並みの価格で手に入れられる

販売台数の上では逆風が吹く国内のスポーツカー市場だが、クルマ作りのプロフェッショナルがメーカーの垣根を越えて作り上げたGR86とBRZには、スポーツカーにとって大切な、乗って楽しい要素がたくさんつまっている。これはプロトタイプ試乗でも体感できた。

車両価格にしてもがんばっている。今やコンパクトカーのハイブリッドモデルで必要な安全装備など追加していくと300万円の大台は超えてくるが、本格的なスポーツカーであるBRZは308万円から用意がある。まもなく発売を開始するGR86では200万円台のエントリーグレードも用意されるとの噂もある。

2車ともトランスミッションには初代と同じく6MTと6速ATを用意するが、MTの高い操作性能はもとより、新型となってATは大幅に性能を向上させた。走行モードを変更すると、スポーツ走行に最適な自動的なシフトダウンやギヤ段維持機能が働き爽快だ。

現時点、筆者はサーキット試乗のみなので公道でのフィーリングは別途レポートしたいが、少なくともトランスミッション違いでは走行性能に大きな違いはなく、どちらもれっきとしたスポーツカーの走り。筆者の愛車はND型のマツダ「ロードスター」なのでスポーツカー贔屓のところはあるかもしれないが、まずは読者の皆さんにも試乗いただきたい。

「BRZ」運転席の様子。視界が広く安全に走れる
画像=筆者撮影
「BRZ」運転席の様子。視界が広く安全に走れる - 画像=筆者撮影

■先代よりも進化した「先進安全技術」

また、先進安全技術も進化した。現時点ではATモデルのみとなるが、「衝突被害軽減ブレーキ」をはじめとした先進安全技術群である「アイサイト コアテクノロジー」がBRZには標準で装備される。おそらくGR86にも、名称は別として、ATモデルには同様の先進安全技術が装備されるだろう。2021年11月以降に発売される新型車には衝突被害軽減ブレーキの義務化が適応されるが、2車における早期の標準装備化は歓迎すべきだ。

もっとも「スポーツカーに先進安全技術?」と疑問符をつけたくなる気持ちは理解できるものの、混合交通となる公道を走る上でのリスクは皆同じ。スポーツカーだろうが、SUVやコンパクトカーであっても変わりはない。リスクヘッジを大切に考える若いドライバーが多いと聞くが、その意味でも訴求力は高まる。

人間には移動の欲求があり、移動することで喜びを感じるという。コロナ禍で一転した世の中だが、その移動を楽しくする新型スポーツカーGR86とBRZの登場は、まさしく前向きで上向きな出来事であると思う。

「BRZ」のメーター内にある運転支援機能の設定画面
画像=筆者撮影
「BRZ」のメーター内にある運転支援機能の設定画面 - 画像=筆者撮影

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西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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(交通コメンテーター 西村 直人)

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