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「友達と仲良くしましょう」そんな"当たり前のひと言"が発達障害の子を苦しめるワケ

プレジデントオンライン / 2021年10月7日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/StockPlanets

「友達と仲良くしましょう」という当たり前のひと言が、子どもを苦しめることがある。発達障害の専門医、本田秀夫さんは「発達障害のある子に『友達と仲良く』と言わないほうがいい。それでは自分のやりたいことをできなくなってしまう可能性がある。友達と仲良くするのは悪いことではないが、目標にしてはいけない」という――。

※本稿は、本田秀夫『子どもの発達障害』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■発達障害の子に「友達と仲良く」と言ってはいけない

発達障害という言葉は、世間での認知度が上がり、理解が深まりつつあります。それは脳機能の発達に関係する障害で、いくつかの種類があります。例えば、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(学習障害)、チック症、吃音などです。

文科省の2012年の調査では、小中学生の6.5%が発達障害の可能性があるといいます。2018年発表の厚労省の推計では、発達障害と診断されている人は約48万1000人に上ります。

「自閉スペクトラム症」の子の場合、「臨機応変な対人関係が苦手」「こだわりが強い」といった特性が見られます。相談についても、対人関係に関するものが非常に多いです。ここでは個別の対応というよりは、対人関係の基本を解説します。

まず、発達障害の子に「友達と仲良く」と言ってはいけません。発達障害の子に友達と仲良くすることを求めるのは、「なによりもまず多数派に合わせることが大事」だと伝えるようなものです。それでは発達障害の子は、自分のやりたいことをできなくなってしまう可能性があります。友達と仲良くやっていくのは悪いことではないのですが、目標にしてはいけません。

発達障害の子にとって、仲良くなるのは目的ではなく結果です。好きなことを楽しんでいるうちに、ふと気がついたらそこに同じ活動を楽しんでいる子を見つけた。そしてなんとなく一緒に活動するうちに、結果として仲良くなった。発達障害の子はそうやって友達をつくることがあります。無理に仲良くなったのではなく、気が合って友達になっているので、一般的な「友達」よりもむしろ仲が良かったりします。

■「仲良く」と言わないで、仲良くできる企画を立てる

最近は家庭でも学校でも「みんなで仲良く」という話をすることが多いようです。しかしそれは昔から大事にされてきた価値観ではなく、最近できた風潮だと思います。私は子どもの頃に、そんなことを言われて育った覚えはありません。

学校などには「和を大切に」と言う人がいますが、和を大切にしたいのなら、子どもたちにそんなことを指示するのではなく、子どもたちが無邪気に遊んでいるうちに、結果として和がとれるような活動を設定すべきです。

例えば、相性の悪いペアがいる場合には、その子たちの席を離したうえで、一方の子だけが興味をもちそうな活動を設定します。もう一方の子には、別に楽しめることを用意します。そうすると、2人は自然に別々の活動をして、それぞれに誰かと親しく遊んだりします。わざわざ「仲良く」などと言わなくても、環境設定を工夫すれば、子どもたちは結果として仲良くやっていきます。無駄な衝突を防ぐこともできます。

学校でも「みんなで仲良く」などと言っていないで、そういう企画を考えればよいのではないでしょうか。私は、子育てや教育は、大人の側がどんな企画をできるか、どんな環境を設定できるかにかかっていると思います。

■「きょうだい関係が難しい」という相談も

また、対人関係については、「きょうだいの関係が難しい」という相談を受けることもあります。よくあるのが、きょうだいのどちらかに発達障害があり、もう一方は「定型発達」という例です。定型発達とは、発達の特性などがない、定型的な発達のことです。例えば、次のようなケースがあります。

Jくんは小学生の男の子です。自閉スペクトラム症の診断を受けています。彼には2歳下の妹がいます。妹は定型発達です。Jくんは会話が苦手で、質問の意図をうまく理解できず、答えに詰まってしまうことがよくあります。一方、妹は言葉が達者です。Jくんが聞かれていることに、代わりに答えてしまうこともあります。

2人は小さい頃は仲良くやっていたのですが、年齢が上がるにつれて、妹がJくんをバカにしたような態度をとることが出てきました。親はそのつど妹を注意するのですが、妹には「自分のほうがよくできる」という実感があるようで、問題がなかなか解消しません。

公園で遊ぶ兄弟
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

■親や先生の能力主義的な考え方が子どもに伝染する

「人をバカにする」というのは、能力的に相手を下に見ているということです。そういう態度が多くなるということは、おそらく事例の妹さんは、能力主義的な考え方をしているのでしょう。

家庭や学校などで能力をほかの子と比較されることが多く、この妹さん自身が能力主義に苦しんでいるから、その苦しさをお兄さんにもぶつけているのだと思います。

親や先生が子どもの能力を重視していると、子どもにもそういう考え方がうつります。

「何歳でこれができたらえらい」「これができなかったら不十分」という考え方が当たり前になり、「あの子はできる」「あの子はできない」とう情報に敏感になり、子どもは「自分もがんばらなければ」とあせります。そして自分よりもできない子を見たら「あの子は自分より下だ」と感じるようになります。

能力競争をあおられる環境にいると、余裕がなくなって、つねに上下関係を意識するようになっていくことがあるのです。その結果として、自分よりも能力が低い相手をバカにしてしまう場合もあります。

■子どもたちを比較しないで、個別にほめていく

そのような事態を防ぐためには、大人が日頃から能力主義的な考え方を見せないことが大切です。子どもをほかの子と比べない。きょうだいと比べない。世の中の平均と比べない。その子自身の成長を見る。そういう姿勢を意識しましょう。

本田秀夫『子どもの発達障害』(SBクリエイティブ)
本田秀夫『子どもの発達障害』(SBクリエイティブ)

お兄さんをサポートするのはもちろん重要ですが、妹さんは妹さんなりにがんばっているということも個別に見て、ほめていきたいところです。お兄さんに比べれば、妹さんは苦もなくやっているように見えるかもしれませんが、妹さんにも「ここはがんばった」「ほめてほしい」というポイントがあります。そういうところを、妹さんが達成感をもっているときにほめれば、妹さんの不満は解消していきます。

自分に見合ったほめられ方をしている子は、自分に自信をもち、ほかの子に優しくなります。自信があって余裕があれば、子どもはほかの子をバカにしません。その子はその子なりによくやっていて、満足していて、ほかの子と競争する必要がないからです。そういう姿をイメージしながら、子どもを一人ひとり、個別にほめていきましょう。

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本田 秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より現職。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事。著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSB新書)などがある。

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(信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長 本田 秀夫)

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